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(旧)ブルーナイト・ストーリーズ  作者: 大根入道
第一章 白の巨人
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エピローグ

~ ベルパスパ王国・ロカーナ州・ニルカ ~


―― 統合暦二三〇一年十二月十二日。


―― 六時五分。


 その日、ベルパスパ王国南東の端にあるニルカの町はいつも通りの朝を迎えた。


 空は晴れ渡り、鳥達の声で住民は夢の中から目を覚ました。


「おはよう」

「ああ、おはよう。しかし積もったな」


 道は雪が積もり白く、屋根にもまた厚く雪が積もっていた。


「そうだな。さて、納屋のゴーレムを出すとするか」

「あれ? 爺さん魔法は使わないのか?」

「年だよ年」


 そう言って老魔法士は笑う。


 男達は銘々でスコップを持ち、雪掻きを始める。

 錆の浮いた民生用ゴーレムが納屋から姿を現して、魔導機関の重低音を響かせながら雪を抉り、溶かしていった。


「あ、おはようございます!」


 宿屋の三階の窓が開き、学生服の少女が手を振った。


 男達は顔を上げ、少女へ「おはよう」を返し手を振った。

 

 青い大きなリボンを付け、肩口で揃えられたピンクブラウンの髪が柔らかく揺れる。


「積もりましたね!」


 感情豊かな茶色の瞳は明るい光を湛えている。


「ああ。ここは山に近いからな。ま、こんなもんだ」

「私もお手伝いしますね!」


「あ、おい嬢ちゃん!」


 窓から飛び降りた少女は、しかしふわりと雪の上に降り立った。


「驚いた。お前さん、かなりの魔法の腕だな」

「えへへ。まあ伊達にD級開拓者じゃないって感じです」


「え、スキーラちゃんって王都の学院の学生さんなんだろ?」

「苦学生でして。奨学金だけじゃ足りなかったんです。ですから空いた時間に開拓者をして稼いでまして」

「は~、偉いもんだ。うちのバカ娘にも見習わせたいよ」


「それでは片付けますんで、ちょっと避けててくださいね」


 スキーラは魔導杖を出し、無詠唱で魔法を発動させた。

 熱風が通りを吹き抜けると、四十cmの高さまで積もっていた街路の雪が、跡形も無く消え去っていた。


「ほえ~。すっげ」

「だな。俺の息子も軍に入って二年になるんだが、それでも中級魔法が難しいって嘆いていたな」

「ばっか。嬢ちゃんは無詠唱でこれだぞ。中級魔法が難しいって、そんなレベルじゃねえよ!」


 喧々囂々《けんけんごうごう》とする大人の男達。


「ほれほれ静かにせんか。嬢ちゃんも困ってるだろ」


「あ、すいません町長」

「ちょっと熱くなり過ぎました」


 男達は謝罪し、そして改めてスキーラの魔法を称えた。


「スキーラちゃんは学校の用事でここへ? それとも開拓者の用事で?」


 悪気なく問いを発した男を老魔法士が睨み、スキーラへ小さく頭を下げて謝罪する。

 学生としての話はともかく、開拓者の仕事内容を問うのは、普通にマナーに反するものだった。


 だがスキーラは首を横に振り、男の問いに答えた。


「私がここに来たのは」


 遠くの空を見詰める。

 あの山の向こうに国境があり、その向こうに広がる国はベルパスパ王国に友好的とされていた。


―― 少なくとも、ジャーナリスト達はそう報じていた。


 ズドオオオオオン!!


「「!?」」


 爆炎が空を覆った。

 それは都市結界を直撃した、何処からかの攻撃だった。


「な、何だ!?」


 町はパニックに包まれた。

 続く二回目の攻撃まで数分を要したが、その直撃を受けた都市結界は異常な振れを起こし、火の粉が町の中に降り注いだ。


「いかん!!」


 老魔法士が叫ぶ。

 従軍経験もある彼は、四世代前の都市結界では現代の戦略兵器に耐えられない事を知っていた。


 二回耐えられたのは奇跡。

 だが三回目は。


 目を瞑り、聖霊へ祈った。


「大丈夫」


 応えたのは少女の声。

 老魔法士が目を開けると、スキーラがその右手にペンダントを掲げていた。


「出番だよ【マレモート】」


 亜空間から巨大な影が姿を現した。

 それが極大の閃光を放つと国境の上空で巨大な爆発が起こり、その風と熱を受けた都市結果は破れ、塔はより一層の白煙を上げて沈黙した。


「じょ、嬢ちゃん」

「二回は耐えられると解かってたから。私の予見ではこれが最良だったんだ」


 一回目、二回目で迎撃したら彼らは逃げた。

 そして今度は街道で盗賊を装った略奪を繰り返し、工作員をこの町に送る。

 刃で肉をそぎ落とすように活動し、一番対応が難しい形でニルカの息の根を止めただろう。


「な!? じゃああんた、予見師なのか?」

「うん」


 運命の適性を持ち、過去・現在・未来の因果を覗く者。


「……」


 老魔法士は絶句した。


 運命魔法の使い手は少ない。

 適性の希少性もさる事ながら、訓練の最中に心を壊す者が少なくないからだ。


 今を見失い、現在の自分が分らなくなって廃人となった者達の姿が、老魔法士の脳裡を過った。


「ありがとな。この恩は忘れない」

「うん」


 辺境では忌避する者がいる。

 だから真摯な眼で頭を下げた老魔法士に、スキーラは笑顔で頷いた。


「じゃあ行ってくるね」


 スキーラは飛翔し、全環境対応戦闘艦(マレモート)へ搭乗する。

 半液体の保護液の中で、柩のような操縦席に着座する。


「行こうマレモート。誰に喧嘩を売ったか教えてあげよう」


* * *


「いざ国境を越えてみると、特に感慨深いという事もなかったな」


 コリドアデリゲ王国の軍を率いるヤンセン伯爵は誰に聞かせる事も無く呟いた。


「果ての辺境の村みたいな町ですからね。侵略する旨味は無いですし、おまけに次の町までが谷あり川ありですから」


 人と機兵の群れが進み往く。


 山間の細い道を魔法や機械で切り開き、踏み潰して。


「そんなもの取って付けた理由に過ぎん。上層部が恐れたのは将狩り(ミカゲ)であり、闇の勇者(イスカル)だった」


 特に年齢を重ねた者程将狩りを恐れた。

 傍から窺うヤンセン伯爵には、それはある種の狂信のように見えた。


「だが英雄の偶像は倒れた。ようやく老人どもも目を覚ましたという訳だ」

「はい」


「狂信は何も生まない。栄えある我が祖国を導く一員として、老人どもには狡猾であって欲しいものだ」

「此度の我らに影から援助を申し出たタニスン連邦のようにですか?」


「例えは悪いが、まあそうだな」


 爆音が一回、二回と響く。


「さあ戦争の時間だ」


 ヤンセン伯爵はベルパスパ王国の空を睨んだ。


 彼方から何かが、高速で近付いて来る。 

 爆炎を切り裂くそれはやじりの鎧通しを思わせる形をしていて。


「何だ?」


 その呟きを最後に、コリドアデリゲ王国第十二魔導機兵旅団は蒸発した。

 

* * *


―― 統合暦二三〇一年十二月十三日。


 歴史に『十二月十二日戦争』と記されたベルパスパ王国と二つの国の戦争は、その正午には全てが決着した。


 ベルパスパ王国が圧勝したこの戦争で、二つの国は首都の大半を焦土に変えられ、王はその命を絶たれるに至った。


 殲滅の予見師。

 青鮫の狂戦士。

 黒と白の道化師。


 そして青騎士。


 この時から。


 ベルパスパ王国の青き怪物達が、表にその姿を現すようになった。



お読みありがとうございます。

これにて第一章白き巨人は完結です。


お楽しみいただけましたでしょうか?

特に第一章はルルヴァ達のバックボーンを描く事に注力しました。

次章からは今の時間軸に戻ります。序章の続きですね。


掲載時期は未定ですが、またお読み頂ければ幸いです。

それでは良い夢を。

おやすみなさい。


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