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(旧)ブルーナイト・ストーリーズ  作者: 大根入道
第一章 白の巨人
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黎明の時 六

~ リーシェルト公爵家宿営・要人用天幕一 ~


―― 九月二十二日十六時五十六分。


 天幕の中央にテーブルが置かれた。


「ルルヴァ・パムです」

「……パーナクだ」


 そしてテーブルの天板の上に置かれた飛燕王を挟み、ルルヴァとパーナクが向き合い、座った。


 ルルヴァは背筋を伸ばして両手を脚の上に置き、朱い瞳はしっかりとパーナクの顔を向く。


 パーナクは左手で頬杖を突き、視線は天井へ向け、右手の人差し指でトントントンと天板を打ち続けている。


「おい」

「はい」


「こいつを抜いてみろ」


 不機嫌を隠さぬパーナクの声に応えて、ルルヴァが飛燕王の鞘を左手で、柄を右手に握る。


 あっさりと。


 陽の光を照り返す水面のように輝く翡翠色の刀身が、鯉口よりその姿を現した。


「………………………………ちっ」


「空気が悪いわ!」

「エ、エトパシア様~」


 腕を組み、威風堂々とパーナクへ言い放つエトパシアの裾を引き、空気読んでくださいよ~、と涙目のゼブが注意する。


 ルルヴァは丁寧に、飛燕王を鞘に納めた。


「兄さん」

「……」


「兄様」

「…………………………何だ?」


「この刀。頂きます」


「「!!」」


 目を見開いたのは二人を囲む者達だった。

 口に手を当て、肩を掴もうとし、動かず、見据え、笑う、各々(おのおの)


「はっ、それはもうお前の物だ。母ちゃんが渡し、鞘から抜くことができた以上、もう俺が何かを言っても意味ねえよ」

「……」


「ちっ、そう睨むな。何が不満だってんだ」

「前に一度だけ。遠くからでしたが、ペローネの大剣を見ました」


 パーナクの蒼い目が細まる。


 マックスが半歩左足を前に出し、エトパシアから手を放したゼブが右手の袖で口元を隠す。


 ペローネが彼らの方を向き、口を開こうとした瞬間。


「だっせえな!!」


 声を発したのは赤毛の少年であった。


「いい大人が一度誰かにやったもんを後からごちゃごちゃと! 見てらんねえよ!!」

「ちょっとジルルク!?」


 制止するペローネを振り切って、エトパシアの前に立つ。


「ルルヴァの父ちゃんの別れた奥さんってあんただろ」

「そうよ」


「自分の息子使って、手の込んだ嫌がらせしてんじゃねえよ!!」


 ペローネともう一人の友人に引っ張られながら、それでもなおジルルクはエトパシアの蒼い目を睨み付ける。


「一人前の大人なら恰好付かっこうつけやがれ!!」

「そうね。あなたの言う通りだわ」


 エトパシアの繊手せんしゅがジルルクの頬に触れた。


「でもね、私は王族なの。道理をくならば、その私に無礼を働いたあなたを罰しなくてはならなくなるのだけど?」


 殺気がエトパシアから放たれる。

 しかしジルルクは目を逸らさず、蒼い瞳と対峙し続けた。


「ふっ」


 エトパシアの唇から吹いた風を受けて、ジルルクが膝から崩れ落ちた。


 頬を赤くして自分を睨み付ける少年に大人の女が微笑む。


「まあ子供のあなたに無礼を問うのは十年早いか。大人になってまだ」


 ジルルクが動いた。

 誰もが油断していた。


「っ!?」


 エトパシアの桜唇おうしんから、ジルルクが唇を放す。


「どうだ? これで俺も大人だぜ?」


「「ぷっ」」


 誰もが固まる中で、二人、吹き出し笑い声を上げた。


「あはははっ、ジルルクらしいっ」

「はっはっは、何だよ母ちゃん、そんなガキにつば付けられてんじゃねえよっ」


 涙目のエトパシアがパーナクとルルヴァをにらむが、二人の笑い声は止まらない。


「あ~、何かすっきりしたわ。つーかまあ、仕方ねえ。飛燕王はお前にやる」

「はい。ありがたく頂戴します」


「ったく、可愛い顔して、肝が据わってやがる」


「あら? 何でみんなここにいるの?」


「リクスさん」

「おう、リクスか」


 法衣姿のリクスが天幕の中に入って来る。


「エトパシアも、って、何で涙目なの?」

「うっさい」


 反射的に放られた固焼きビスケットを受け取り、リクスは噛み砕いて呑み込む。


「あ、そうだ。ちょっとパーナク」

「何だよ?」


「私ルルヴァ君と結婚することにしたから。ごめんだけど婚約解消してくれない?」

「はあ!?」


 パーナクが立ち上がった瞬間、空より轟音が響き、天幕が揺れた。


「「!」」


 ゼブとマックスが防御結界を展開し、リクスが蛇腹太君を構える。


「伏せろ!!」


 パーナクの絶叫と同時、天幕は空より襲い来た白い光の中に包まれた。


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