オヌルス・アムン 二
赤土の大森林と砂礫の大地が広がる土地にはかつて十九の国が存在した。
南方の交易で栄華を極めたこれらの国々には、しかし余人には決して明かしてはならない闇が存在した。
神殿が禁じた奴隷狩りを始めとした、暗黒の享楽の数々。
内五つの国は、人の世への介入を好まない魔女【魔月】が鉄槌を下したというのだから、相当なものであったことが窺える。
―― 時空断層突入。
また十の国々の内側に存在した三つの小国は彼らの食い物にされており、相当に悲惨な内情であったそうだ。
まあだからこそ、悪邪の誘惑に堕ちる愚かな弱者など吐いて捨てる程いたのだろう。
それが国王であったのは必然かと考えられはするのだが、しかし下層に生きる者でなかったというのは、何とも皮肉の利いた話だとは思えないだろうか。
―― 多層空間突破。
第十二魔王【緑樹の杖 ノルタ・フラレント】。
勇者達に討たれてもなお、これ程の護りをこの地に遺したその技量。
「賞賛しよう。貴様は紛れもない天才だった」
だからこそ、魔王になることでしか世界の悪意に立ち向かうことができなかったこの男の卑小さもまた、嫌という程に理解できてしまう。
「戦い疲れて眠る者の手を握ろう。あなたの暖かさが彼の安らぎとなるだろう」
祈る。
これから滅び、消え逝く者達へ。
目的の座標に到達した瞬間、戦闘ゴーレムの群れが襲い来た。
それぞれの機動性と攻撃能力は、平均的な軍用ゴーレムの性能を大きく上回っている。
流石はベルパスパ王国といった所だが、このロー・アトラスの前ではゴミだ。
「ヘカトンケイル・オーダー」
自由の黒套より伸ばした千の黒手が掴んだ瞬間、ゴーレムは塵となって風の中に散っていった。
ついでに水面雲も引き千切り、方々へと散らす。
(さて)
一拍置いて地上から魔導砲の攻撃が連続する。
ロー・アトラスの防御障壁に当たると瞬時に消滅していくのだが、まあ鬱陶しい。
仮に千億発をこの装甲に受けたとしても傷一つ付きはしないだろうが、俺の不快感は増していく。
『痴れ者が!!』
地上より向かい来る、翼広げた炎の巨人は誰かの天顕魔法だろう。
先陣を切るそれに、異形と機兵が十数体続く。
敬意を表すべき実力者達ではあるのだが、同時に魔族に与する無知で汚らわしい蝿どもでもある。
そしておあつらえ向きに。
こいつらの先には宿営があり、そこに魔族どもの魔力反応が纏まっていた。
「これぞ聖霊の御導き」
赤の炎沼盾を砲撃形態へ変形。
「正義も悪もあなたと私の手の中に」
巨人の炎の大剣の切先がロー・アトラスまであと十mという所にあるのが物悲しい。
―― まあ消えてくれたまえ。
「発射」
砲撃形態が浄化の白き光を解き放った。