黎明の時 五
「そいつは返せ。お前には不要だろ?」
「……」
天幕の中に入って来た青年はペローネへ、まずもって威圧的に言葉を放った。
「というか、なんつ―姿だ。欺瞞工作の類として理解できるが、お前がすべきはそんな恰好じゃないだろうが」
「あ、あの」
「で、どうだった?」
青年の右手がペローネの胸倉を掴んだ瞬間、制止しようと動いた者達は青年の風魔法の牢獄に囚われた。
「黒狂徒とやりあったんだろ?」
「はい」
「【千軍】は?」
「つ、使えませんでした」
青年の舌打ちは強いものだった。
「それで聖銀の鈍に負けておめおめ逃げて来たってか。リクスが助けなきゃ死んでたって、マジおもしれ―な」
「う!?」
右手の力が強まる。
「ためらってんじゃねえ!! 技量不足だってんなら手前の怠慢の懺悔は後にしろ!! 大言壮語を吐いたなら覚悟はしてんだろうが!! それで飛燕王ってんならふざけんなバカ野郎!!」
「っ」
青年は至近で怒声を放ち、ペローネの顔色は窒息で赤く染まっていく。スキーラは怯え、立ち上がることさえできない様子で震えていた。
「もうその辺にして頂けませんか?」
「外野は黙ってろ」
青年は声の方を見ずに風魔法を放つが、しかしすぐ、手応えが無かったことに気付いた。
「あなたとペローネの事情は存じません。しかしあなたとペローネの様子から、重大な出来事があったのだと推察できます。あなたがこのように振舞うのも、相応の理由があることなのかもしれません。ですが」
「お前!?」
ルルヴァの触れた右手を押さえ、ペローネを放した青年が後ろへ下がった。
「これ以上妹を乱暴に扱うようならば、僕が相手になります」
ペローネを抱えたルルヴァが朱の目を細め、青年へ殺気を放つ。
「……?」
剣呑な空気、には何故かならなかった。
青年は険の取れた呆け顔となり、ルルヴァの顔を見て、またペローネの顔を見るということを繰り返した。
「妹? 姉がいたのか?」
「……よく言われますが、僕は兄です」
「兄、男。え、男? じゃあ何か? お前が【ルルヴァ・パム】?」
「そうですが?」
青年がペローネを見た。
ペローネがこくりと頷いた。
「何だと――――――――!?」