『あなたは資格が無い』
あの時、母さんから渡された緑の鍵で扉を開きました。
次の瞬間、眩い光に包まれたのを覚えています。
とっさに目を閉じて、けれどすぐに眩しさは収まったので、恐る恐る目を開けました。
そうしたら開けたはずの扉は閉まっていて、僕の手の中にあった緑の鍵は、砂の様にサラサラと崩れ落ちていったんです。
母さんは何があったのかを聞いてきて、僕は何も覚えていないと答えたんです。
一瞬だと感じたのは僕だけで、まる一日が過ぎていたと父さんは言いました。
母さんは本当に何も覚えていないのかと、何度も僕に尋ねてきました。
その度に僕は覚えていないと、何度も答えました。
そして母は ―― 初めて見る表情を浮かべて ―― 口を閉ざしました。
それからいつも通りに、父さんから剣を学び、母さんから魔法を学ぶ日々が続きました。
多分、その頃からだったと思います。
父さんと母さんの期待が、僕よりもペローネの方を向くようになったのが。
『あなたは資格が無い』
あの扉を開けた瞬間に、光の中で聞こえた誰かの声。
少し後になってから思い出して、けれども、父さんと母さんには言えませんでした。
伝えたとしても、だから結局それがどうした、という話なんです。
だから僕も忘れて、いえ、忙しさの中で忘れようとしました。
父さんと母さんが、もう一度僕を期待してくれるのを願いながら努力を重ねました。
その結果、僕は天才と呼ばれるようになり、またあの日の前の、普通の日々を取り戻したんです。
『あなたは資格が無い』
でも心に影が差す時、ふとあの光景が頭を過ることがあります。
けれどもそれはあの時の父さんと母さんの表情であり。
『あなたは資格が無い』
僕を拒絶する言葉を並べていたのに、何故かとても嬉しそうだったその声を。
僕をまるで祝福するように照らしたあの光を。
強い恐れを抱いても
僕は。