第五夜 『 呪詛共鳴 後編 』
「 肝試しの時、なにかあった? 」
宿泊の消灯時間、布団の中。
隣で寝る、 重野みき が小声で話しかけてきた。
んー、どうしよう……。
怖がりな彼女に、ありのままを話していいものか、どうか……。
悩み、躊躇していると……。
「 あ、肝試し、本当は怖かったでしょ…… 」
と、ニヤニヤとした表情を浮かべる。
人の気も知らないで……。
少し腹が立つ……。
しかし、流石にあの時、視たアレを云うわけもできず……。
「 ねぇねぇ!……どうなの? 」
と、茶化してくる、 みきちゃん の布団を軽く蹴とばし……。
「 うっさい、早く、寝ろ! 」
と、ごまかした。
「 わかりましたよー 」
微笑を浮かべながら布団を被る――みきちゃん。
その姿を横目に確認した後、私もすぐに眠りへと付くのであった。
その翌日。修学旅行最終日。
「 はぁー、おはよう! 」
「 おはようー! 」
「 早く起きないと、集合時間遅れるよ! 」
私たちの班はすっかりと仲良くなっていた。
その後も、修学旅行は何事もなく――進む。
昨晩の肝試しで何か悪いものでも憑いて来てなければいいんだけど……。
という、私の考えは全くの杞憂だった。
私の意識から昨晩のアレは薄れていき、忘れかけ……。
束の間の休日を大いに満喫した。
こうして、私達の修学旅行は終わっていったのだった。
その2週間後……。
修学旅行の写真が廊下に張り出される。
私はどこかに心霊写真が取れているのではないか、と心配したが……。
そこには、班の笑顔。
どれも楽しそうな写真ばかりだった。
修学旅行が終わり、6年2組は通常の学校生活へと戻った。
相変わらず、教室の中は殺伐とした空気感がある。
まるで、あの日の修学旅行が噓みたいだった。
その間、担任の後藤先生はまだ――復帰していない。
そんな学校生活が続く中、唯一の救いは みきちゃん を含め、残りものグループとすっかり仲良くなり、短い休み時間も一緒に過ごすことが多くなたことだ。
それが、彼女らには、レジスタンスか、何かに視えたのだろう。
報復のような、その攻撃は水面下で、みきちゃん だけを狙い撃ちしていた。
度重なる嫌がらせの数々。
そして、それは……。
昼休み時間中に、とうとう――爆発する。
「 どうして、こういう事するの! 」
突如、教室から みきちゃん の叫び声が聞こえた。
廊下から教室を覗く、と。
教室の中央に みきちゃん と 薄井 が真正面 に向かい合い、対峙していたのだった。
そして、クラス全体の視線はその一点へと注がれている。
「 はぁ、なに言ってんの? 」
「 こそこそ、しないで!面と向かって言って! 」
それは みきちゃん の溜まりに溜まった――不満の声だった。
「 だから、……何? 」
「 嫌がらせしないで! 」
私はその雄姿を廊下で静かに見守る。
そんな中。一人の男子が声を掛ける。
「 いいから、本返してやれよ! 」
その声は……。
「 そうよ!重野さんが可哀想よ! 」
広がり……。
班で同室だった子までが、みきちゃん の味方をした。
「 そうだ、そうだ! 」
次第に みきちゃん に人が集まり……。
共鳴していく。
私は黙って、みきちゃんのそばへと寄り添った。
そして、クラスは……。
みきちゃん 側と 薄井 派で真っ二つに別れていた。
まさにこのクラスに溜まっていた膿が吐き出された瞬間だったと――思う。
二つの派閥が言い争い、口喧嘩になる。
そんな……最中……。
「 「 もう!!!!! いいわよ!!!!!!!! 」 」
突如、 薄井 が大声で叫んだのだった。
「 ちょっと、薄井、どうしたの? 」
その突拍子のない声に、取り巻きの子が心配そうに声を掛けた。
「 みんなして、なんなの? 」
薄井は激しく動揺していて、机にフラフラと、もたれ掛かる。
「……そんなに全員で!」
脈絡がない。
意味が分からないと云うのだろうか……。
「 そんなに言うだったら…… 」
それはまるで、クラス全員が薄井を責め立ているような……。
錯覚、被害妄想の類いなのだろうか?
「 「 ……、死んでやる 」 」
クラス全体が、「 はぁ!? 」となった。
どうしてそんなこと、結論にいたったのか?
誰一人として理解できない。
そうこうしているうちに……。
薄井 は突然、駆け出し……。
――ベランダへと飛び出す。
そして、この教室。
そう――四階の教室。その……。
手摺りから。
飛び降りようとしていた。
――――!!!!!!!?
それからは、私を含む数人が……。
考えるより先に、身体が動いたのだと――思う。
気が付くとクラスの数人で 薄井 の身体を、服を掴んでいた。
しかし、凄い力で飛び降りようとする、 薄井 。
それをなんとかして止めようと、私達は必死に彼女の身体を抑えた。
次の瞬間、私の視線は下を向く。
地上、四階のグランドの風景が眼に飛び込んできたのだ。
そう、私の足はベランダから離れていて、身体は宙吊りとなっていた。
グランドにいる子が、なにか叫んでいる。
私は彼女を掴み。
クラスの数人か――が、私を掴む。
――死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ね、死ぬ――。
彼女の抵抗が、意識が腕を伝って、私に流れ込む。
掴んでいる彼女の胴は。
徐々に下へと引きずられていく。
それを必死に抑えるクラスメイトの腕も限界に達していた。
――その時。
誰かが呟いた言葉。
――――!!!!!!!!?
私はその声に激しい怒りを感じた。
ふざけんな!
死んでもこの手を離さない!
そう――強く、強く否定した――。
その刹那――。
「 「 何やっているんだ! お前達 !!!!! 」 」
野太い声と共に、物凄い力でベランダへと戻される。
それは 薄井 の身体ごと持ち上げられ……。
私はベランダの下で力なく座りこんだ。
腕は痺れて、上手く上がらない。
ふと、振り向くと――。
体育教師の上田先生が物凄い形相、剣幕で睨んでいたのだった。
その後、 薄井 はすぐさま、保護者同伴で病院に運ばれた。
私を含む、クラス全員はこっぴどく叱られ、こってりと事情聴取され……。
その日の授業は自習となった。
結果、この事がきっかけでクラスの妙なわだかまりは消えていった。
何故か?それは……わからない。
お互いに直接、謝ることは――しなかったと思う。
元凶がいなくなったからなのか?
それとも一致団結したというか……。
仲間意識というものが芽生えたんだろうか?
あの日以来、クラス内のイジメはなくなっていったのだった。
二週間後。
ずっと休んでいた 薄井 が帰って来る。
そして、朝一の朝礼でクラスの皆に謝ってきた。
皆、最初は戸惑っていたが……。
その謝罪を素直に受け止めたんだと思う。
全てが何事もなかった。
そう――錯覚してしまう程に……。
丸く治まり――雲散していったのだった。
後に上田先生から知らされたのだが、 薄井 は担任だった後藤先生の元にも直接謝りに行ったらしい……。
だが、結局、後藤先生は最後までこのクラスに戻ってくることはなかった。
それも。
時間と共に。
徐々に薄れていく。
記憶。
そのはずだった。
私にはどうにも、忘れられない事がある。
なぜ? あの時、薄井は自殺未遂したのか? とのことだ。
それは本人にも分からないと云う。
何故か、そうしてしまったのだ――と。
それが嘘か、真か、は――わからない。
――だが。
あの時。
そう、薄井が転落しそうになった時――。
聞こえてきた。
声。
それが今でもはっきりと耳に残っている。
――「 早く、死ねよ 」――。
と。
それは――。
一体――。
――誰の声だったのだろうか……?
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