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第二話     慟哭

 B6格納庫。


 それは地下六階にある様々な武器が収納されている巨大空間であった。


 少年は白川の元を離れると、十分ほどで格納庫に到着した。


 本当は五分ほどで到着する予定だったのだが、来る途中に動く死体に遭遇し交戦するはめになったのだ。


「くそ……まさかサブマシンガンで狙われるなんて」


 右手からボタボタと血を滴らせながら、少年は奥歯をぎりりと軋ませた。


 さすがに軽機関銃で狙われては無傷とはいかなかった。


 何とか倒すことはできたが、一発だけ右肩に被弾してしまった。


 お陰でしばらく右手は使い物にならない。


 少年は広々とした格納庫の中を進んでいく。


 場所は分かっている。


 白川はマスターキーを使ってアレを再起動させろと言った。


 ということは、格納庫の一番奥の部屋へ行く必要がある。


 まさにアレはそこにあるのだ。


 しばらく行くと少年の眼前に巨大な扉が見えてきた。


 その横にはパスコードを入力するスロットルが取り付けられており、この部屋がいかに重要な場所なのかを示していた。


 少年はパスコードに手を伸ばして暗証番号を打ち込んだ。


 すでに暗証番号は白川から聞いていたので、扉は滑らかに左右に開いていく。


「こんな形で動かすことになるなんてな」


 部屋の奥に進んだ少年は、呟きながら顔を見上げた。


 少年が見上げた先には大小無数のケーブルが昆虫の繭のようにひしめき合い、その中心には巨大な鋼の塊が存在していた。


 それは正面から見るとよくわからないが、横から見るとはっきりと分かるかもしれない。


 鋼の塊は人型をしており、今は母の胎内で眠る赤子のように丸まっている、と。


 少年は部屋の奥にあった操作盤に辿り着くと、ポケットから鍵を取り出して鍵穴に差し込んだ。


 すぐに電力が配給され、一斉に眠っていた機械たちが目を覚ます。


「よし、いいぞ」


 手前の小型ディスプレイにも電源が配給されると、少年は左手に持っていたオートマチック拳銃をショルダーホルスターに仕舞った。


 片手だけでキーを打ち込んでいく。


 小型ディスプレイに数字や記号の羅列が埋め尽くされていくと、最後に少年は再起動に必要なパスワードを打ち込んでエンターキーを叩いた。


 少年は静かに長い呼気を吐いた。これでやるべきことは終了した。後はアレが再起動するまでしばらく待てばいい。

 と一息ついたときだった。


 少年は瞬時に床を蹴ってその場から離れた。


 次の瞬間、ダララララララララ、という連続した銃声が鳴り響いた。


 少年が数秒前にいた場所が銃撃された。


「くそ、誰だ!」


 近くの鉄骨の裏に身を隠した少年は、ショルダーホルスターからオートマチック拳銃を引き抜いた。


 本当はベルトに差していた日本刀も抜きたかったが、右手が負傷している状態では抜きたくても抜けない。


 鉄骨の裏から顔を出した少年は、襲撃者の顔を確かめようと目を細めた。


(まさか……そんな)


 少年は我が目を疑った。


 視界に入ってきたのは、フルオート射撃が可能なベレッタM93Rを手にした白衣を着た女性であった。


 少年と同じ黒髪を背中まで伸ばし、とても理知的な顔をしていた。


 だが、今ではその顔の半分が血で真っ赤に染まって目の焦点も完全に合っていない。


 それだけですべてを物語っていた。この女性がすでに人間ではないということに。


「嘘だあああああああ――――ッ!」


 少年が吼えると同時に、女性は少年に向かってベレッタを連射してきた。


 一度に何十発も放たれる弾丸が、鉄骨に命中するたびに目が眩むほどの火花を散らしていく。


 嘘だ。


 嘘だ。


 嘘だ。


 嘘だ。


 嘘だ。


 嘘だ。


 嘘だ。


 頭の中に同じ言葉を反芻させていた少年だったが、女性の姿を見た瞬間に分かってしまった。


 最早、女性は人間として生きられない。


 それどころか、このままでは女性の魂は永遠に報われず、動く死体として永遠に彷徨うはめになる。


 そう考えているうちにも、女性はつかつかと歩み寄りながらベレッタを撃ってくる。


 迷っている暇はなかった。


 少年は手にしていたオートマチック拳銃を捨てると、ベルトに差していた日本刀を抜いた。


 怪しい輝きを放つ刀身に映る自分の顔を見据えながら、少年は覚悟を決めた。


 鉄骨の裏から影のような速度で飛び出した少年は、床を滑るような足法を駆使して女性に近づいていく。


 女性は飛び出てきた少年にベレッタを向けるが、その銃口から弾丸が発射されることはなかった。


 弾切れである。


 少年は女性が放った弾数を驚異的な聴覚によりすべて数えていた。


 だからこそ飛び出した。


 弾切れを起こした瞬間こそが、攻撃を仕掛ける唯一の好機だったからだ。


 ずぶり、と少年の手に肉を突き刺した異様な感触が伝わってきた。


 少年が片手で放った突きは、寸分の狂いもなく女性の心臓に突き刺さっていた。


 それどころか勢い余って貫通し、女性の背中から角のように切っ先が生え出ていた。


 直後、がくりと女性の身体が圧し掛かってきた。少年は優しく抱き止める。


「ありが……とう……殺して……くれて」


 掠れるような声で礼を言った後、女性は事切れた。少年は力一杯女性を抱き締める。


「う……うう……」


 少年は泣いた。


 目から大粒の涙を流しながら、いつまでも少年は泣き叫んだ。


 そんな少年の後方では、無事だった小型ディスプレイに煌々と文字が表示されていく。




 ………………アクセスコード正常認識完了しました。


       パスワード〈**********〉。


 ・半永久稼動リチエイムリアクタ………………起動確認。


 ・起動OS〈テラトメント〉……………………起動確認。

     

 ………………第二フェイズに移行します。


 ・メインフレームから関連ジェネレーターへの照合確認。


 ・最新ドライバをインストール中……二十五%……五十%……七十五%……百%……完了。


 ………………再起動完了しました。

 

 〈製造番号〉0028………………機体名・KONGOUMARU 起動開始。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


読んでみて「面白そう!」「続きがきになる!」と思っていただけましたら、ブックマークや広告の下にある★★★★★の評価を入れていただけますと嬉しいです!


どうか応援のほど宜しくお願い致します。

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