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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

太華の蕾は知らぬ間に刈れていく

作者: 由宇良

初短編



とある日、とある町に一人の青年がたどり着いた。

その街で怪物の討伐依頼が出たという話を討伐ギルドから貰い、他の街から馬車を乗り換えながら3日かけてついたところだった。


門で行われている検問にギルド所属を示すカードを掲示し通過する。そしてそのままの足ですぐこの街にある討伐ギルドへと向かう。

ギルドにたどり着くまでに多くの人を見かけたが、ほとんどが体格のいい男性ばかりで、女性でも魔法師とわかるような恰好をしたパーティを組んであろう人ばかりだった。



「ここに住んでいる人は避難しているってことはそれなりの規模なのかな…」


ソロ活動していると独り言が増える。なんと悲しい。


ギルドに入ると、一瞥された感覚。

ただでさえソロ活動で浮くというのにホント悲しい。視線がイタイ。

残念ながらぱっと見では討伐者には見えない青年、俺である。アウェイ感がする。


「こんにちは。討伐参加でしょうか」

「はい」


そう言ってギルドカードを提出する。

ここで、俺の討伐履歴やらランクやらを見てもらうことで、ほかの人と比較して今回の討伐での俺の立ち位置を決めてもらう。


理由としては、前線に意志だけ強い実力の弱いやつを連れて行くわけにいかないし、逆に強いやつを後ろにまわすわけにいかないからだ。

もちろん、討伐履歴がないと判断基準がないため後方スタートになるが、後方にも討伐対象が来る可能性はある。

特に今回のように街の住民が避難しているほどということは、規模がそれなりに大きいということ。

規模が大きければ、前線以外でも戦闘は起きる可能性が高い。そうして前へ前へとすぐに行く人もいるらしい。







そして、討伐日、俺の立ち位置は。



「こっち薬草少し分けてもらえませんか」

「名前とか効果とかおしえてくれれば」

「直接傷口に塗るものです」

「じゃあこれかな」


そう言って俺は自分の魔法によって成長させた薬のもととなる草を薬師の使いに渡す。


「ありがとうございます」

「これが仕事なんでね」


俺の仕事は前線と後方のちょうど真ん中、討伐者の間に挟まれていてある意味で安全地帯の、医務室にいた。


俺の使う魔法は特殊で、植物魔法。

他の人と同じように生活魔法は少し使える程度で、討伐に使用できるほどではない。

しかし、この特殊な魔法を使えるということで、魔法塔に所属し自分の魔法をきちんと理解したことで、こうやって討伐の手助けをしている。

討伐に参加したのはこれで5回目。まだまだ新人である。


植物魔法では先ほどみたいに薬草にあたるものを育てたり、安全地域の作成に少し手伝えるかといったところ。それでも自分の身を守る方法もきちんと学んだおかげで、こうして完全な後方部ではなく中間域にいる。


前線の戦闘は直接は見ることはないが、医務室の近くにいることも多いので、けが人を見ることも多い。

そうしてみていると、今回は傷を負う人が少し多いかなといった様子。

後方からのけが人もいることから、それなりの規模ということはわかる。



話は変わるが、討伐の規模はあらかじめある程度ならば把握できる。

それは、討伐対象である"怪物"は、地上に出現するゲートからしか出現しない。

そしてそのゲートはある日突然、出現する。しかし、ゲートが出現してからすぐに"怪物"が現れるわけではない。

ゲートは出現した直後は黄色のオーラを放つ、"イエローゲート"というものでその時点では無害である。そしてその後、橙色の"オレンジゲート"、赤色の"レッドゲート"へと進化していく。

進化していく過程でゲートは大きくなり、最終的なゲートの大きさがそのゲートから出てくる"怪物"のボスの大きさ、また、ゲートの複製である"転移ゲート"の出現する範囲を示す。


最終的には、ゲートの出現から集められた討伐者はゲートに攻撃することでゲート内の"怪物"を出し、ゲートの大きさを同じ大きさの"ボス"を討伐することで、ゲートの収縮、消滅を行う。


その間、先ほど言った転移ゲートからのボス以外の怪物の相手をしたりしなければいけなく、その範囲はゲートの大きさに依存するため、それに対応できるほどの討伐者が集まるまで攻撃してはいけないというルールも存在する。


もちろん、イエローゲートの段階で攻撃をしてもいけない。

その後のゲートが成長する速度と規模が上昇するかららしい。規模に関しては調査中らしいが。

また、イエローゲートそのものを成長前に消滅させることも考えられたが、何を試しても現状でその方法は見つかっていない。新しい魔法、属性が出ないとほぼ不可能なのだと、他の魔法塔の所属員が言っていた。



とまあ、そんなこんなで、今回はゲートの大きさが大きいため、転移ゲートの範囲も広く後方でもけが人がちょっとばかり出ていたというわけだ。


今回はボスが出現するまでに時間がかかったのか、3日後に討伐終了の知らせが届いた。

ボスが出るまでのけが人はそれなりの人数ではあったが、ほとんどが軽傷にあたるもので、重傷者は3名。前線でのボス戦で今回前線に昇格した人と、その人のカバーに入った人たちらしい。俺は見ていないので、話を聞いただけだ。

やっぱ前線こえーわ。



討伐が終わると、次の日の夜に打ち上げをするのが慣例と言われてからは参加している。

はじめの討伐で帰ってしまってタダ飯を逃したのは痛い思い出だ。


前線に近い医務にいる俺を見ていた人はそこそこいたようで、薬草関係も把握していてそれなりに人にお礼を言われたりで話しかけられた。

来た当初の不審な視線とは大違いの反応に毎回苦笑してしまう。


でもこの反応は仕方ないもので、そこまで気にしていない。

ソロで、ぱっと見で討伐者に見えないのだ、命を預ける可能性のあるのだから、その不信感はあってしあって然るべきなのだから。

次会う時は、少し反応変えてほしいけどな。毎回はツライ。





そうして、数日後にはゲートの出現で避難していた住民も戻って元の街の様子に戻っていったようだ。

討伐中の盗賊紛いの出来事は数件あったらしいが、討伐者は怪物のいないときはそういったものの討伐が主になっているため、大きな被害はなかったという。残念ながら俺は自分の身のことで精一杯である。もう、ソロはツライ。


そして数週間後には、別の討伐依頼の場所に移動することになるのだろう。





そうして数回の討伐に参加したのち。


「今回は前線組をお願いいたします」


ついに前線組へとなった。

しかし、俺は使う魔法の関係で攻撃要員ではない。では何故か。

それはけが人の輸送担当である。

基本今までは中間域で薬草の補充要員であったが、ある討伐の際に植物を使ってけが人を運ぶのを手伝ったところ、前線でも生身ではなく、植物を使って助けられるという判断になり、前線組に入ることになったのだ。これもある意味で中間なのだが、まぁ、いいか。



そうして参加した討伐だったが、始まる前に以前医務室で知り合った前線組の人の一人に会ったが様子がおかしい。


「どうしたんですか」

「聞いていた規模と違う気がする。これではマズいかもしれない」


それを聞いた瞬間、ゲートへの攻撃が始まってしまった。


始まってすぐに他の人も気づいたようで、やはり事前の情報とは違った規模だったようだ。


「今回の偵察隊は新人研修も兼ねていると言っていたが、これは問題ありだぞ」


前線の人は積極的な攻撃より、防御に回ることにしたようで、防御壁の代わりの俺の植物魔法も多用していく。



けが人が一人二人と増えて防御の怪しくなって、1日目の夜の時点で、街への被害が出そうだと連絡を受けたとき。


目の前が、闇に包まれ、真っ暗になった。


それは、自分だけかと思ったが、周囲もその現象に見舞われていたようで、戸惑う声が聞こえた。

闇は一瞬でその場を包んだと思ったら、討伐者からは離れていき、怪物のみを対象として飲み込んでいく。

それを離れた位置から呆然と眺めていた。


ベテランと呼ばれる人の指示で、前線組が下がってきた。

その間も闇は怪物を次々と飲み込んでいく。


「…何、アレ」

「……今は味方さ」


いつの間にか隣にいた始まる前に話していた人が答えた。

味方。そうつぶやく。


しばらくすると、戦いなんてものではない一方的な闇による蹂躙で、討伐は夜のうちに終了した。

それを見ている周囲の前線組は、いま何が起こっているか知っているようだった。

助けてもらった、そのはずなのに。前線組の表情はなぜか苦しげで、嬉しそうではなかった。



討伐終了後、前線組のだれもが無言でギルドに戻ると、リーダーをしていた人が大声で告げた。




「影使いが、ボスを倒した」



と。








討伐ごのいつもの打ち上げは、成功の喜びと何とも言えない空気に包まれていた。



何故なのか。それをきちんと知りたくて。

後日、たまたま街で会った討伐の前線組の異変に気づいていた人から話を聞いた。


そこで分かったことは、あの夜の闇を操る"影使い"と呼ばれている人は、上位の前線組の中では有名らしかった。

なんでも、討伐には基本参加しない、世界最強の、討伐ギルド未所属者だと。


その人は討伐ギルドに所属せず、基本討伐には参加することはない。

しかし、今回の討伐のような、通常あり得ない危険が降りかかったときに、何処からともなく現れると討伐対象を倒し、その姿を一度も見せることなく消える。

戦闘中にその姿を見た者はほぼなく、対面したことがあるのも討伐ギルドのトップに近いものばかりで、前線組にだけ有名な情報のない人だった。


それをきいた俺は、助けてくれる優しい人だと、そう思っていた。





影使いの存在を知ってもその人の出現するような危険はほぼなく、順調に回数をこなしていった。

2年経ち、そろそろ前線で攻撃の手段も持ったほうがいいかと考えるようにもなった時期。


そのときは、討伐に問題はなく、けが人も多くなく順調に進んでおり、けが人を対処しながらボス戦が繰り広げられていた時。


前線で突然、魔法使いが暴走した。



魔法を使う際に使用するもの、それは願いだ。

祈り、願い、想い、そういった強い感情が魔法というものを現実にする。使える属性に制限はあれど、実際に強く願うと魔法は強くなる。

願いの内容はなんでもいいといわれており、討伐をする者の中には、怪物に対する怒り、憎しみを力にするものもいるという。


だたし願いと使える魔法は、その簡単な発動条件ゆえに危険を伴う。


それは、感情の制御が難しいというもの。

大きければ大きいほど強い魔法となって使うことができるが、その感情に飲まれるといったこともあるのだ。


感情に飲まれると、帰ってくることは不可能に近い。


外傷などではない、心の問題であり、外部からの手助けは難しく、飲み込まれないためには心を強くしなければいけない。

飲まれた心は元には戻らず、その姿は闇に落ちるといわれている。


ただでさえ飲まれた心を。自分自身で元に戻す、克服するなど、不可能だと。

一年の間に、戦闘で高まった思いに飲まれた強者や、成長期の子供が飲まれるといった事件が数件あるくらいだ。




そして今回、魔法使いの暴走は、その感情の暴走と同義だ。


前線で戦うものは討伐ギルド内でも俺みたいな例外を除けば、戦闘面で強いひとが多い。

しかも暴走している魔法使いは、広範囲魔法使いとして有名な人で、その魔法がボス討伐後に討伐者の方へと、街へと向く可能性は大いにある。


戦闘で高ぶった感情を、戦闘後に沈める人もいるという。周囲の人、俺も含めて、その可能性にかけるしかなかった。






戦闘が終わったその瞬間。


俺たちの願いはむなしく、その魔法使いは魔法を練るのを止めず、怪物へと向けていた目を俺たちに向けてきた。


悲しくて、やるせなくて、仲間を止められなかった思いに包まれたとき。



「悲しいね」



声が聞こえた。


ぇ、と声にならない音がこぼれたとき。

暴走している魔法使いの足元から、闇が、滲んだ。


その闇は、魔法使いを足から徐々に包み込んでいく。

叫び、魔法を行使しようとするその人は、しかし一度も魔法を放つことはなかった。

ある時と同じように俺は呆然とそれを見ていることしか出来なかった。


そして、顔が闇へと隠れるその直前。叫び声はなくなり、その表情は元の俺の見たことある穏やかな表情へと戻っていた。

この討伐前に、お世話にならないように頑張ると告げていた、その微笑んだ時と同じ。


それを最後に、その人は闇と共に姿を消した。





討伐終了後。自然と俺は数年前の影使いを思い出した。


暴走者の討伐も行われたと報告がなされたときの空気は、あの時を思い出されたからだ。

そして、あの闇は、きっと影使いだと。そう思ったから。



「しけた面してんな」


話しかけてきたのは、あの時の初めての前線組で影使いのことを教えてくれた人だった。


「飲まれた人は初めてか」


はい、と答えた声は、自分でも力がなかった。

直前までともに前線組として笑っていた人が、その事実がつらかった。


「戦闘でな、気の狂ってしまうやつはいるんだよ。声掛けで戻ってきたり、戦闘終了後に戻ってくるやつもいる。だが、それでも戻ってこない奴は、戻ってこないんだよ」


そう言ってその人はグラスを傾ける。それは聞いたことがある。魔法塔でも、魔法使いは願いを込めて魔法を使うから。それでも、その中で暴走なんてないに等しい。強い魔法を使う機会なんてほとんどないからだ。


「戦闘で、前線で終了しても、心の戻ってこなかったとき、そいつの魔法の対象は怪物から仲間に代わるんだよ。そうなってしまうと、そいつは、俺たちの討伐対象に成り代わる」


初めて聞いた話に驚いて、座っても背の高いその人を見上げる。

グラスを眺めて、そのまま話し続ける。


「俺たちが止めるしかないんだよ。前線組だ。生半可な力では抑えられないし、暴走している相手を、抑えるなんて手加減して戦えない。街に被害が出る前に、止めるしかないんだよ」


「しかし暴走ってのは、強い奴ほど、強い願いを持っている人間ほど飲まれやすい。それ以前に、いつも頼っていた、直前まで仲間だったやつを、討伐するなんて辛すぎる」


「それは、そうですね」


目線が自然と手元へと下がった。


しかし耳に入ったのは、ハハっと乾いた笑いだった。

驚いてまた顔を上げると空を眺めるその人は告げた。



「でもな、俺たち討伐ギルドの所属員は、誰一人として、その暴走者を討伐したことはない」


「…それは」






「影、あの影使いが、全員、消したからだ」




その時気づいた。

語るその人の表情が、嫌悪と悲しみと、そして深い罪悪感に包まれていることに。





影使いは、戦闘には基本参加しない。危険な時にしか。


そう、怪物が強く討伐困難になるか、強者が飲まれたときにしか。






---------------------------------------------------------



首都で情報は力だ。


南の方で、討伐中、強者が飲まれ、影が討伐したと。




明かりもないある一室で、その会話は行われていた。


「また、一人減ってしまったか」


独り言に思えたその声に返答する声が一つ。しかし姿を見ることはできない程の闇から聞こえた。


「もともと強くはなかったからね、今回頑張りすぎたみたいだ」



「それで、感情は」

「'怒り'だったよ。怪物に対してかな。僕にはない感情だね」


一部で有名な影使いは、人ひとり消した後も変わらない。

ただでさえ、強者を飲み込むほどの影魔法を使っているのに、感情の揺らぎがない。

それは。



「お前はほとんどの感情を持っていないだろうが」

「んー、抱えてはいるよ?ただ共感できないだけで」


そう、通常強くなるには感情の大きさ、また、深さが関係する。

しかし、影使いはその感情を自身のものとしていない。


では何故、大きな影魔法を行使することができるのか。


「僕は乖離型だからね」


一般的に、抱える感情と、自身の心は同調する。

当たり前だ。自分の中にある感情なのだから。

しかし、影使いは違う。それはひとえに、影魔法が、そしてその使い手が特殊だからだ。


影魔法は感情にある影をそのまま映したもの。つまり負の感情そのものだ。そして、それを使うのが影使い。


通常の魔法使いより、抱えるべき感情の種類も大きさも深さも桁違いになる。

そこで、影使いは、心を捨てた。

自分の感情ではないと、完全に分離、乖離することで多種多様の負の感情を抱えることを可能とした。もちろん、代償もあったが。


「強くなりたいなら、自分の抱える感情くらい把握できなきゃ無理だよ。いつ飲まれるか分からないのに強くなんてなれないさ」


「自分のことだからこそ、分からないし知るのが怖いんだろ」


「ふーん、怖いんだ」


恐怖、恨み、焦燥、後悔、悲しみ、不安、困惑、怒り、嫌悪、憎悪、軽蔑、煩悩、苦悩、恥、諦念、劣等感、罪悪感、と負の感情は様々だ。


「僕が感じられるのは、悲しみと愛情かな」

「お前に愛する感情なんてあったのか」

「あるよ」

「お前の心の中はどうなってんだか」


影使いは微笑む。




「いつか見せてあげる」


「断る。聞くだけで気分が悪くなるものなど見るべきじゃねぇ」



フフフと笑う影使いは、廻る自分の情報など気にもせず、影から伝わる、負の感情に従って動くのだった。










怪物はゲートを使って、この世界を壊しにくる。


それは、まるで、この世界への憎しみの塊のように。



誰かは言った。


ゲートは誰かの心の闇への門だと。


人名、地名等一切ありません。

今後つける予定もありません。


見づらい点あると思います。

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