「ブルークリスマス」
死んでいたのはサンタクロースだった。
「サンタクロースの格好をした男」ではなかった。その白いヒゲはまぎれもなく本物だった。赤い服には確かにネームが「黒須三太」と縫い込まれていた。日本人ではなかった。どこか遠い国から来たようであった。なぜなら財布には日本のお金は入ってはいなかった。
免許証を持っていた。ただし普通の車の免許証ではなかった。ソリの免許証である。こんなものをどこで発行していたのだろうか。
男は全身打撲で死んでいた。高所からの墜落であろう。しかしマンションの立ち並ぶ一帯とはいえ、距離を考えれば不自然である。どこかの部屋の窓や屋上から落ちたにしては遠すぎた。まるで空中を飛ぶ乗り物から墜落したかのような状況だった。
そばには白い袋が落ちていた。中にはケン玉やタケトンボ、メンコや手作りの人形などが入っていた。すべてがいかにも手作りであり、かといってそんなに値打ちのあるものとは思われなかった。
少し離れた海上で、ばらばらになった破片が発見された。木製の何かの乗り物のようだった。原型をとどめることなく壊れ尽くしていた。もはや再現は不可能だった。あたりに何かほ乳類らしき骨も見つかった。シャチか何かの魚に襲われたようであり、これも確認はできなかった。どうしてそんな動物が海上にいるのか疑問だった。まるで空から墜落したかのように。
サンタクロースにとっては住みにくい時代になったのかもしれない。高層のビルには煙突もなく、彼が家庭に入り込む場所はなかった。さらには子供達が望むプレゼントも彼が与えようとするものとではあまりにも違いがありすぎた。家々を尋ね求めるサンタクロースにとってあまりにも失望が大きすぎたのかもしれない。舵をとりそこねての墜落死なのかもしれない。
「そういうわけでね、今年からもうサンタさんはプレゼントを持って来れなくなってしまったんだよ」
「パパのうそつき!」
完