私刑執行人
「た、助けてくれ」
小汚い男のおびえて引きつった顔が表の通りから洩れる電灯に照らされた。
「殺人罪でお前を処刑する」
俺は男の眉間に引き金を引いた。
俺の住んでいた町の夜景は遠くから見る分にはこの上なく綺麗だった。
しかし、その燃えるような夜景の飛び交うにぎやかな路地も一歩裏手に回れば犯罪がはびこっていた。
もともと正義感の強い親の下で育ち、その影響をもろに受けて育った俺は決められたルートだと言わんばかりに警察に入った。
しかし、俺が人生の目標だと考えていた警察は腐敗しきっていた。
地元のギャングと癒着していた警察は犯罪を黙認するだけでなくクスリまで売りさばいていたのだ。そして新人の俺に回される業務はほぼ死体の撤去作業のみ。それだけでも俺が警察を辞める理由は十分だと思った。
次の日には私腹を肥やしていた上司のどでっぱらに退職届を巻き込んだ拳を叩きつけていた。
職を失った俺は自分の正義感だけを掲げ、街の犯罪者を裁いていった。金で判決の左右をされない俺だけの裁判所で。
そう、この犯罪がはびこる裏路地こそが俺の裁判所、そして私刑台なのだ。
そんな生活を続けていた晩だった。眉間に風穴を開けた男の処理を考えていると後ろから物音が聞こえた。
とっさに振り向いたが一瞬遅れた俺は後頭部に銃を突き付けられた。
「何の用だ」
俺はゆっくり両手を上げながら後ろの奴に質問した。
すると背後の奴は鼻で息を吸うと冷たく俺に質問を返した。
「殺人罪の現行犯だ。ここまで言えば分るよな?」
後ろで聞こえた銃声は脳天を突き抜けると力が抜けた。
キーンと響く耳に奴の言葉がぼやけて届いた。
「そう、死刑だ」