悪魔はアウルサの町に着く
サビザの町を出て12日後、首都の東に位置するアウルサの町に着いた。
道中はやっぱり魔物や盗賊がわんさか馬車を襲ってきて、魔物は俺も倒したが盗賊はマスティフたちにお任せした。
もちろん、剥ぎ取り小屋で売れそうな食用で流通している魔物は倒したそばからアイテムに放り込んでいっている。
1週間目くらいに1回村に立ち寄ったが、そこでサビザの町の西の道が土砂崩れが起きたらしいと噂を村長から聞いた。
あれから1週間だから、土砂崩れの除去作業は終わったけどテレファの戦いには間に合わないと引き返したくらいかな。
明日辺りには地割れは埋まってるだろうな。
とか思いつつ、何食わぬ顔で「へえ、そうなんですか。」と微笑んで聞いていたらマスティフに変な目で見られた。
「お前ホント、知らんぷりうますぎて引くわ。」
なんで引かれるんだよ。
アウルサの町は港町ということもあって、内紛が激化しているとは思えないくらいのどかな町だった。
町の大きさは他の町とあまり変わらず、円形の塀に北東から南東までが港となっていた。
もちろん、名物は魚料理で町のいたるところに飲食店が並んでいて、それ以上に気になったのが町中に猫がいて、様々な柄の野良猫がいたるところで寝ていた。
それらを見る限り、やはり俺のいた世界の猫と比べて体格が少し小さめでしっぽが長かった。
「たくさん猫がいますねえ。」
「ここは猫が多いことで国内でも有名なんだよ。船の厄介者のネズミを退治するために飼ってたのが増えたらしいぞ。」
カルディルがにこやかに教えてくれた。
なるほど。俺のいた世界でも昔は船にネズミ対策で猫を乗せていたなんて話を聞いたことがある。
それと同じことをここではやっているようだ。
「クロ助、あなたの仲間がたくさんいますよ。」
「ミャー」
クロ助は他の猫には興味ないようで、ぷいっとそっぽを向いた。
とりあえず、俺たちは宿屋をとってカルディルの部屋で作戦会議をした。
因みに部屋は2人ずつの相部屋3部屋で、俺は残念ながらマスティフと同室だ。
「実験場の場所というのは、わかってるんですか?」
俺が聞くと、カルディルは首を振った。
「それがわからないんだ。情報源のバージストはグラエム王がアウルサにあると言ったのは確からしいが、連れてってもらったことがないらしい。というか、王は発覚を恐れたか、誰も連れていっていないらしいんだ。」
「でも護衛の騎士とかは一緒ではないんですか?」
「護衛の騎士はさすがに連れていっているらしいが、決まった3人だけで、その3人がまったく口を割らなかったらしい。バージストもそこまで実験に興味があったわけではないからそれ以上は探らなかったらしいけどな。」
なかなか警戒心の強い王さまだな。
「じゃあどうすんだ?聞き込みとかするのか?」
マスティフが聞くとカルディルはうーんと考えながら答えた。
「グラエム王がアウルサの町に来たら立ち寄る飲食店があるからそこにグラエム王が行きそうなところを聞き込みをしようかと思ってるんだ。あと、アウルサにいる貴族でなんか知らないか聞いてみようかなと思ってる。」
「んじゃ、立ち寄る飲食店ってのは俺が聞き込んでこようか?」
「お、そうしてくれるか?貴族は俺が聞いてこよう。顔見知りだから会ってくれると思うからな。」
「では我々はアウルサの町周辺で立ち入り禁止になっているところがあるか町の人に聞き込みをしてみます。」
マスティフは飲食店、カルディルは貴族、部下3人は町で聞き込みをすることになった。
「ユウジンはどうすんだ?」
「そうですねえ。・・・俺も町での聞き込みに参加します。人が多い方がいいでしょう?」
「そうだな。んじゃ、今日はもう夕方だから明日朝から行動開始ということで。マスティフにはグラエム王が立ち寄る飲食店のメモを渡しとくな。」
「おっ、ありがとな。」
それから皆で宿屋を出て、近くの飲食店で夕食を食べることとなった。
お酒も出たが、マスティフは禁止・カルディルは5杯以上禁止にした。
そして翌日、宿屋の朝食を食べた俺たちはアウルサの町に散った。
俺はまず、冒険者ギルドを探して向かった。
冒険者ギルドは町の中心部近くにあって、なかなか古い建物だった。
そこの裏に回って剥ぎ取り小屋に行ってアイテムの中の魔物の死体を売った。
剥ぎ取り小屋の職員はアイテム収納魔法を含めて魔物の死体の量にとてつもなく驚かれた。
珍しい魔物もあった(じいさんらがとってきたグリフォンとか)ようで、総額400万にもなった。
それから冒険者ギルドで聞き込みをした。
冒険者は町の人が立ち入れないところに行くこともあるから、ある程度立ち入り禁止のところを絞れると思ったのだ。
「立ち入り禁止つったら、あそこだな。王家の別宅か、貴族の屋敷ぐらいじゃないか?」
午前中から酒を飲んでいた中年の冒険者は赤ら顔でそう答えた。
この酒代を出すと言ったら教えてくれたのだ。
だいたい5000インくらいらしい。安いもんだ。
「王家の別宅はまあ、わかりますが貴族の屋敷もですか?」
「ここいらは土地が安いからアウルサの町の外に土地を買って屋敷を建てる貴族が多いんだよ。そういった屋敷には用心棒を雇ったりしているから、めちゃくちゃ警備が厳しいんだ。中でも王家の別宅は1番いいところにあるし、騎士兵士の守りが半端ないって噂だぜ。」
「その他に立ち入り禁止のところはないんですか?」
「うーん、危険な魔物がいる海域とか崩落の危険性があるから立ち入り注意の谷とかはあるけどなあ。でもそういったところは自己責任で行っちまう冒険者がいるしなあ。」
なるほど、他に立ち入り禁止はない、と。
だとしたら、王家の別宅か貴族の屋敷のどれかが実験場になっている可能性があるか?
もしそれらが実験場だとしたら、土地代が安いこととアウルサの町に寄らなくても直接実験場に行きやすいから、アウルサに実験場を置いたとも考えられるな。
「ありがとうございました。」
俺は感謝を込めて1万インを渡して冒険者ギルドを出た。
その後、町の様々な人に聞き込みをして、夕方に宿屋に帰った。
すでにマスティフが帰って来ていて、部屋の中で大剣で素振りをしていた。
「ちょっ、マスティフ。素振りするなら外でやってくださいよ。」
「んあ?あ、ユウジン。すまんすまん、暇でつい。」
あんまり悪びれた様子もなく頭を掻いていた。
「飲食店の聞き込みはすんだみたいですね。収穫はありましたか?」
「んー、まあまずまずかなあ。ユウジンもその感じだとまずまずって感じか?」
「そうですね。カルディルたちが情報を掴んでるといいんですがね。」
あ、そうだ。
「そういえば、剥ぎ取り小屋に行って魔物を売ってきたんですが、いりますか?」
「え!?くれんのか!?」
マスティフは俺の魔法を見るようなキラキラした目で見てきた。
え?意外にこいつ、お金好きなのか?
「助かるよ。意外に出ていくからよ。いくらになったんだ?」
「総額400万インになりました。」
「はあ!?」
マスティフはめちゃくちゃ驚いていた。
「な、なんでそんな金額になったんだよ!?」
「グリフォン倒したじゃないですか。それ全部売ったし、他にもじいさんがとってきた魔物で珍しいのがいたみたいですよ。」
結局、狩った人数で割ったりしてマスティフの取り分は50万インとなった。
それでも結構な金額なので、マスティフはホクホクした表情でお金を受け取って荷物に入れていた。
それからしばらくして部下の1人ノースが部屋に来た。
夕べのように近くの飲食店で夕食を食べながら情報交換をしないかとカルディルが提案してきたそうで、俺たちはオーケーして宿屋の入り口で待ち合わせ、夕べとは別の近くの飲食店へ向かった。




