悪魔は頑張ってみる
キュベレの町を出て1週間後、俺・マスティフ・カルディルにカルディルの部下の冒険者3人はサビザの町に来ていた。
因みにカルディルの部下3人のうち2人は、サビザからキュベレに王子一行と一緒に移動したときに一緒だったマドリーンとノースと、ニコリルという10代の若者だ。
ここからアウルサの町に向かう訳だが、途中あまり村がないため食料の買い込みなどのために数日滞在することとなった。
「ふむ・・・、探りを入れるのにはちょうどいいですね。」
「んあ?探り?」
マスティフは首を傾げていたが無視した。
宿屋を決めたら夜になっていたので、6人でどこかで夕食を食べようとなり、宿屋近くの食堂に行った。
適当に頼んで飲食していると、色んな会話が聞こえてきた。
「やっぱここのレモンサワーうまいわあ。」
「仕事の後の1杯はたまんねえな!っうい~!」
「うい~ひっくっ!俺はまだ酔ってねえ!」
「はいはい。そう言ってる奴はだいたい酔ってるよ。」
「あー、お前、明後日からテレファに向かうんだろ?」
「そうなんだよ。マジだりぃ。」
お?兵士の服装をしている男たちの会話だ。
俺のほしい情報を話しそうだ。
俺はクロ助に刺身の切り身をやりながら聞き耳をたてた。
「マシリの領主がテレファを攻める応援で行くんだろ?」
「そう。んで、明日首都から騎士兵士が応援で来て、明後日出発なんだよ。2週間後にはテレファにつくんじゃね?そしたらすぐに攻めんだってさ。」
「王家も大変だな。この間キュベレで戦ったばかりなのに、今度はテレファか。」
「んまあ、俺ら王派が集合したら戦力差がでかいから、余裕で勝つと思うぜ。だから適当に戦ってるフリしてサボるつもりだし。」
「バレて怒られても知らないぞ。」
「はっ、大丈夫大丈夫。上司は貴族のご機嫌しか見てねえし、俺たちもはいはい言って言う通りにしてたらいいんだから。だから王派の兵士って楽なんだよなー。」
チャラい兵士だなあ。
まあ、だいたいのことはわかったけど。
ふむ、明日首都からの騎士兵士と合流して、明後日出発と。
・・・なら、妨害活動するなら明日がいいかな?
「うーん。むにゃむにゃ・・・ぐー・・・。」
なんか間抜けな寝息が聞こえる。
横を見ると、なんとマスティフがテーブルに突っ伏して寝ていた。
手には酒の瓶を持っている。
「!?ま、まさか、酒飲ましたんですか?」
「え!?駄目だったのか!?」
カルディルはガバガバ酒をあおりながら聞いてきた。
「マスティフは自覚してないですが、ものすごい酒が弱いですよ。」
「なんだよ~!んじゃあ、ユウジン!1杯付き合え!」
「は!?」
カルディルの部下3人がこちらに「すいません」という目線と頭を下げてきた。
「チッ・・・俺もそんなに強くないので、2杯くらいしか付き合えませんからね。」
「なんか舌打ちがすごく気になるが、まあいいや。さあ飲め飲め!!」
結局、なんだかんだで5~6杯飲まされた。
ちょっとイラついたので、カルディルにマスティフを引きずらせて宿屋に帰った。
翌日、この日は1日中自由時間となったので俺は行動を起こすことにした。
だが、何食わぬ顔で宿屋を出たのに、勘の鋭いアホに勘づかれた。
「どこ行くんだよ、ユウジン。ついていくぞ。」
「え?・・・ついてきてもやることないですよ?」
「いや、なんか面白いものが見れるような気がする。」
面白いもの?妨害活動するだけなんだけどなあ・・・。
「うん・・・まあ、いいですよ。ついてきても。」
「んで、どこ行くんだ?」
「この間、アシュアに話した、大規模な戦いの可能性について話したのを、あなたも聞いていましたよね?アレがどうやら本当になるようです。」
「マシリの領主オスロがテレファの町を攻めるって奴か。んで、サビザの町と首都から応援を呼ぶって言ってた奴だよな?」
「そうです。夕べ食堂で兵士の会話を盗み聞き耳をしたら、今日首都からの騎士兵士がサビザに到着して、明日テレファに向けて出発するそうです。もしこれを行かせたら、テレファが攻め落とされる可能性が高くなります。」
「なるほど。ユウジンは行かせないつもりなのか。」
俺はニヤリと笑ってみせた。
「そうです。サビザの町からテレファに行く道を塞いで、あちらにいるじいさんたちの手助けをします。」
ついてきたマスティフと、サビザの町から出て道なりに西に歩いて数時間。
昼食は俺のアイテムから出して食べて、またしばらく歩いた。
「・・・ふむ、ここ、いい感じですね。ここにしましょう。」
俺が目をつけたのは左右を高くそびえ立つ崖に挟まれた道が200メートルほど続いている所だ。
もし道が塞がれたら迂回に時間がかかりそうだ。
「マスティフ、ちょっとクロ助を抱いて後方に下がってて下さい。危ないかもしれないので。」
「え?お、おう。なにやるんだ?」
「ちょっと・・・頑張ってみます。」
「?」
マスティフは首を傾げながらも俺からクロ助を受け取って後方に下がった。
・・・よし!いっちょやってみるか。
俺は崖に挟まれた道を抜けたすぐのところに移動して、そこで両手を地面についた。そして地面に魔力を通しながらイメージする。
『我が前の大地よ、広く割け、深く刻め、その口を開けよ、クラック×20』
バキバキバキ・・・メキメキメキ・・・!
俺の目の前の大地が轟音と共に割れて、幅100メートルほどの大きな地割れを起こした。
ちょっと下を覗いてみたが、底がギリギリ見えたので100メートルくらいだろうか。
まあ、これくらいでいいか。
底に、ある罠魔法を複数はってそれからそびえ立つ崖に挟まれた道に戻って、左右の崖に魔力を流し込みながらイメージした。
『我が前の大地よ、地を砕き、流れ出よ、行く手を塞げ、ランドスライド×30』
ドドドドド・・・ドシャアアァァッ!
唱えて急いでマスティフとクロ助のいる後方へ下がると、左右の崖が勢いよく崩れて200メートルの道全部を塞いだ。
土魔法で出した土も上乗せされたようで、ものすごい高さの土砂の山になってしまったが・・・まあいいだろう。
「ふう、よし。これで完了です。」
よしよしと出来栄えに納得してマスティフとクロ助を見てみると、マスティフとクロ助はぽかんとしていた。
「ちょ、ちょ、ユウジン!?なにしたんだ!?」
「言ったでしょう?道を塞ぐと。これでサビザの町から出る騎士兵士は土砂の除去作業に追われて予定通りテレファの町には行けなくなります。」
「それで土砂崩れか?あの、最初の地割れは?」
「土砂崩れをやっと除去できたところに大規模な地割れを目の前にしたら、どうなります?」
「めっちゃくちゃ精神的にクるな。・・・そうか!だから地割れを見えなくするためにも、土砂崩れか。」
「そういうことです。」
俺がニヤリと笑うとマスティフは「ホント、性格悪いよな。」と言ってきた。
「でも、この道は商人たちとかも通るんだぞ。その人らも困るだろ?」
「騎士兵士がいる間は申し訳ないですが通れないです。ですが、騎士兵士が撤退したら通れるようになるように、罠魔法をはっときました。」
「罠魔法を?」
「俺の予想では、土砂崩れの除去作業が終わる頃にはテレファの戦いには間に合わないとなるでしょう。それで地割れを発見したらそれを理由にサビザに引き返すと思います。なので土砂崩れにはなにもしてませんが、地割れの底には罠魔法で土魔法を複数はっときました。騎士兵士が引き返した翌日に発動するようにしたので、それが発動したら土で埋まって通れるようになるはずです。」
マスティフは納得したようで、感心した目で俺を見てきた。
「それにしてもすごいな!あの土魔法、2つとも上級だろ?上級を多重って、すごすぎだろ!」
「ええ。ちょっと頑張って上級土魔法を20回と30回とやりましたから、結構MP使いました。」
MP節約のために詠唱したのだが、さすが上級。
クラックが20回多重したので1000消費し、罠魔法の土魔法の多重で500消費して、ランドスライドが30回多重したので1200消費した。
合計2700だ。
普通の魔法使いなら即倒れるくらいのとんでもない消費魔力量だが、ミスリルセットと指輪のおかげで2700でも全MPの5分の1くらいの消費ですんでいる。
「いやいや。ユウジンおかしい。あれだけ使ったら魔力切れで気絶しててもおかしくないって。ホントどうなってんの?」
「装備のおかげです。さ、サビザの町に帰りましょう。帰りつくのが夜になってもいいんですか?」
「おっと、そういやそうだな。」
俺は数時間かけてまたサビザの町に帰った。
夕方に帰りつくことができて、宿屋に着くとカルディルに「どこ行ってたんだ?」と聞かれたが適当に「散歩してきました。」と言っといた。
そして翌日、食料などを買い込んで俺たちはサビザの町を出て、アウルサの町に向かった。




