悪魔はいない
アシュア視点です。
私たちはキュベレの町から北西の方向の、首都からは西にあるテレファの町に向けて出発した。
道中は和気あいあいとした空気だったけど、私とレフィはちょっと不安だった。
オーランド王子に使役魔法が解けているのがバレないか、またかけられないかと心配したけど、どうやら大丈夫そう。
というのも、ユウジンが「俺は一瞬かかってもすぐに解けたのに王子は気付いてない様子ですから、かかってるか確かめる方法がないのか、いちいち確かめる必要がないのかもしれません。俺たちはじいさんのついででしょうから。」と言っていた通り、オーランド王子は私たちにそこまで興味を示さず、マリルクロウ様とばかり話をしている。
それでもレフィは一応警戒しているみたいで、ほとんど王子としゃべらないのに今回の道中ではまったくしゃべらなくなった。
私とはしゃべるけど。
ていうか、今更ながらユウジンのアイテム収納魔法のありがたさがよくわかった。
だって、テントやらなにやらの荷物で馬車の中はだいぶ狭いし、道中の食べ物だって質素。
唐揚げとかカレーとか作ってたのが本当に恋しい。
今の主食は固いパンと干し肉。
マリルクロウ様が魔物を狩ってきてくれるけど、塩コショウでステーキにするくらいで他の料理なんて無理だし。
夜は夜で見張りをするのが当たり前になっちゃった。
マリルクロウ様の隠蔽魔法でやればいいのだけど、なんでかマリルクロウ様はできないみたいなことを言ってた。
イメージがうまくできないとか言ってた。
そう考えると、ユウジンはどんな頭してんのって感じ。
私とレフィは当たり前だけど冒険者と見なされているので、当たり前に夜は交代で見張りはするし魔物が馬車を襲ってきたら飛び出して戦う。
盗賊はレフィに任せるけどね。
一応姫だから人殺しは避けてるし、人の死体も気持ちのいいものではないから見ないようにしている。
そうして6日ほど移動して、村に立ち寄った。
村では食料の補給とベッドが恋しくなったから空き家を借りて、そこに1泊させてもらうことにした。
私たちもベッドで寝られるのはとても嬉しかった。
マリルクロウ様のことはこの村でも知られていて、マリルクロウ様は握手攻めにあってた。
因みにオーランド王子は貴族のボンボンで、護衛としてマリルクロウ様や私たちを雇っているという設定。
マリルクロウ様を護衛にする貴族って、本当ならあり得ないんだけど村の人たちはそこまではわからないみたいで皆普通に受け入れていた。
貴族のボンボンとマリルクロウ様のおかげで村の人たちは豪華な夕食までご馳走してくれて、私たちはそれにあやかれてご馳走をたくさん食べることができた。
マリルクロウ様も村長や村のおじさんたちとお酒を飲んで談笑していたし、ボンボンに成りすましている王子もにこやかに村の人たちと話していた。
ホント、この王子が悪魔教幹部だなんて信じられないわ・・・。
その夜。
「・・・アシュア、アシュア。起きてください。」
レフィに揺り起こされて、私は目を覚ました。
部屋は狭いので私とレフィだけで寝て、他の人は他の部屋で寝ている。
私がぼやーっとしながらもレフィに目を向けると、レフィは真剣な顔をしていた。
「・・・すいません、アシュア。どうやら侵入者がいます。」
「んえ?・・・し、侵入者?」
レフィはチラチラと外の方向を見回しながらそんなことを言っている。
ここ、窓もない部屋なのに、なに見てるの?
「ど、どういうこと?レフィ?」
「・・・侵入者は・・・恐らく10人。この建物の外で取り囲んでます。・・・5人が出入り口に集まってます。侵入してきます。」
レフィはそう言って静かに部屋のドアを開けた。
私も隙間から覗いて見たら、出入り口のドアが静かに開いて誰かが入ってくるのが見えた。
全身黒ずくめという、明らかに怪しい格好をしてる。
え、ええっ!?ほ、本当に侵入してきた!
ど、どうしよう!?
「・・・アシュア。排除していいでしょうか?」
レフィは小声で聞いてきた。
「む、村の人だったらどうするの?」
「・・・いくら村の人でも夜中に侵入するマネはしないと思います。」
ま、まあ、それはそうね。
「わ、わかったわ。あ、でも殺さないで。どこの侵入者か確かめないと。」
「・・・わかりました。」
レフィはナイフを取り出すと、部屋から飛び出した。
「!?」
でも、レフィの出番はもう終わっていた。
侵入者たちは部屋を進みある地点にきたとき、先頭の黒ずくめの体がバラバラになった。
私は慌てて目を背けたけど、ギャーとかワーとか叫び声が聞こえてきた。
「ふうん。その程度で侵入してくるとはのう。」
悲鳴とか聞こえるなかで、そんな声だけはハッキリと聞こえた。
どうやらマリルクロウ様が殺しているみたい。
まあ、レフィが気付くくらいだからランクSのマリルクロウ様が気付かないわけないか。
後でレフィから聞いたんだけど、マリルクロウ様はこの時欠伸しながら片手で『黒焔』を振って侵入者を次々とバラバラにしていったそう。
その動きにまったく隙がなくてレフィが助太刀する余裕すらなかったみたい。
そしてマリルクロウ様は外に出て外で待機していた侵入者も皆殺してしまったそう。
私は人の死体が苦手だからそのまま部屋から出ないことにして、レフィが戻ってくるのを待って眠った。
朝、恐る恐る部屋から出たら、所々に血痕はあったけど死体はどこかに片付けられていた。
朝食後、私たちは部屋に戻って話した。
「レフィはどうして侵入者がわかったの?窓もない部屋だし、侵入者は音もしてなかったのに。」
「・・・実は、冒険者が見張りの時に殺気を感知する奴。あれを密かに訓練して、できるようになったんです。」
「ええっ!?知らなかったー!すごいじゃない!探索魔法に最近なったって奴よね?」
「・・・はい。探索魔法ならスキルポイントを使って取得しないといけないのですが、殺気を感知する奴だけなら訓練したらできるようになると聞きまして。ユウジンやマスティフがやってるのを見たりして、この国に入ったくらいからずっと訓練してました。わかるようになったのは最近ですけど。」
さすが私の護衛で暗殺者!
多分暗殺者として気配を探ったり消したりするから、そういう感覚はイメージしやすかったのかも。
ホント、頼りになるわ!
「そういや、せっかくの侵入者、全員殺しちゃったからどこの差し金かわかんなくなっちゃったね。」
「・・・多分ですけど、状況的にもグラエム王派ではないでしょうか?」
「そうなの?ってことは王子狙い?どうしてここにいるのがわかったのかしら?」
「・・・そこまではわかりませんが、夕べちょっと、気になることがありました・・・。」
え?なにかあったのかしら?
「・・・全員殺し終わってから、オーランド王子が部屋から出てきたんです。」
オーランド王子が?
レフィは心なしか、顔色が悪い。
「・・・オーランド王子が、ニヤニヤしながらバラバラになった侵入者の体を踏んでたんです。特に、頭をグリグリと・・・。」
それを想像しただけでゾッとした。
や、やっぱり、悪魔教幹部だわ・・・!
ユウジンばりに闇があるんじゃないのかしら?
皆で何食わぬ顔で村を出てテレファの町へ出発した。
怖いのはあのバラバラ死体を片付けたのは村の人で、当たり前のような顔で片付けて当たり前のように見送ってくれたこと。
・・・恐らくもう村の人に使役魔法を使っているということじゃないのかしら?
ホント、怖いわー。
でも何でもない顔しとかないと。
バレたら大変だものね。
また馬車に襲ってくる魔物を倒したり、質素な食事にげんなりしながら8日ほどかけてテレファの町にたどり着いた。




