8、悪魔は知らんぷり
朝。
朝食のタマゴサンドとサラダを食べていると、ララがやって来た。
「おはよう、ユウジン。昨日、あれから大丈夫だった?外に出てない?」
「おはようございます、ララ。昨日は宿屋から出てないので、大丈夫でしたよ。」
俺がそう言って微笑むと、明らかにホッとした表情になった。
「今日は出掛けるの?」
「ええ。せっかく冒険者登録したので依頼をやってみようかと思いまして。」
「だったらこれ、昨日のお詫びに。よかったら食べて。」
ララは小さなトートバッグを差し出してきた。
中を見ると、大きなおにぎりが2つと唐揚げが包みにくるまれて入っていた。
「お弁当作ってくれたんですか、ありがとうございます。美味しそうですね。」
ララはニヘラと笑うと照れたのか走っていってしまった。
ふむ、遠慮なくお昼にいただこう。
ていうか、カレーといいおにぎりといい、神様はこっちの世界にどこまで向こうの食文化持ってきたんだ?
タピオカとかあったら引くかもしれんな。
部屋に戻ってバッグをアイテムに入れた。
アイテムに入れといたら作りたてそのままで保存される。
今から楽しみだなあ。
装備を整えると、宿屋を出て冒険者ギルドに向かった。
今日から隠蔽魔法なしで入れる。
ギルドに入ると、やはり一瞬見られるがすぐに視線が外される。
特に反応している者もいないな。よかった。
俺は掲示板に近づいて、依頼書を眺めた。
俺はランクGだからランクFまで受けられる。
様々な依頼があって、「討伐依頼」「採取依頼」「町中での簡単な依頼」等々あるなか、俺は討伐と採取に目をつけた。
「ファイアラット討伐依頼」と「薬草採取依頼」の2つだ。
町の外のあの森の横にのびる道を進むとエール草原という草原があるらしいのだが、そこに生息しているファイアラットという火ネズミを指定数なしで倒せば討伐証明部位のしっぽ1本×50インで買い取ってくれるらしい。
そして薬草もエール草原に生えているそうだ。
両方、目的地が同じだからちょうどいいと思ったわけだ。
ついでに帰りに罠魔法の蓋の状態を見れるし。
レベルも早い段階で上げれるだけ上げておきたい。
後々楽したいし。
とりあえず今日はレベル6か7が目標にしよう。
カウンターに依頼書を持っていくと、初日に対応してくれた冒険者アイドルっぽい女性だった。
あっと思ってたら、あちらもあらって顔をした。
「こんにちわ。この依頼をやりたいのですが。」
「あ、はい。拝見しますね。カードもお願いします。」
女性はチラッとこっちを見て依頼書と冒険者カードを受け取っていた。
さらさらと何かを書き留めて、カードを返してもらった。
「どちらもユウジンさんのランクで問題ないと思います。あ、あの・・・依頼の話とは関係ないのですが・・・。」
女性は周りを見回してこそっと声を潜めた。
「ユウジンさん、あの後大丈夫でしたか?」
初日のアレのことを言っているのだろう。
まあ、彼女すぐ近くにいたのだから、気になっていただろうなあ。
「え?あの後は特になにもありませんが?」
「ええっ!?そうなんですか?あの後、あの人達あなたのことを探し回っていたみたいだったから、ちょっと心配してたんです。あの人達は"地龍の牙"というパーティで、ここらで有名な荒くれ集団で、新人いびりをするからギルドとしても困ってるんです。」
「そうだったんですか。そういえば、今日はギルドにいないんですね。」
「あ、そういえば・・・。珍しいな。いつもは酒場で飲んでんですけど・・・、お金がなくなって依頼でもしているのかしら?」
女性は小首を傾げていた。
ギルドを出ようと酒場を横切ったら、酒場にいた連中もあいつらの話をしていた。
「あいつらいないなんて本当に珍しいよな。」
「いつもここに入り浸って、新人から金を巻き上げて商人も脅して金を巻き上げてたんだろ?」
「ああ、噂じゃ店の商品に不良品を混ぜてケチつけて口止め料ってことで金をふんだくってたらしいぞ。」
「俺が聞いた話じゃ、飲食店で虫入れて騒いで金もらってたって聞いた。」
「ホントあいつらろくなことしねえよな。あれでランクD冒険者のパーティだなんて信じらんねえよ。」
「このまま消えても誰も悲しまない連中だもんな。いや、消えたら逆に喜ばれるんじゃねえかな?」
なるほど。やっぱりあいつらはクソだったか。
落とし穴に入れて正解だったな。
ま、あんな奴らより依頼だ依頼。
俺は町の外に出て森を通りすぎ、15分ほど歩いてエール草原にたどり着いた。
芝生のようになってるから短い草が生えていて、心地いい風が吹き抜ける広くて見晴らしのいい草原だ。
魔物が出なければ親子でピクニックとかやってそうな人がいそうなくらいだ。
とりあえず、薬草探しつつファイアラット探すか。
しばらく足元を見つつ草原の中心付近に来ると、薬草がちょこちょこ生えていた。
薬草の特徴は依頼書に書いてたからわかるし、一応後で鑑定しとこうかな。
と、ヂュヂュッという鳴き声がしたので、見回してみたら、前方の草むらに火のたてがみの大きめのネズミがいた。
あれがファイアラットか?
鑑定してみるか。
種族:ファイアラット
属性:火
レベル:3
HP:20
MP:10
やっぱりファイアラットだったか。
ファイアラットはヂュヂュッと鳴くと、たてがみの火がこちらに向かってきた。
これがファイアラットの攻撃方法か、と思いながら避けてこっちはファイアラットが苦手そうな水魔法をうった。
するとやはり効いたようで一発でフラフラになった。
ナイフを構えて切りつけるとあっさりと倒れた。
うん?やけにあっさりと倒せたな?
・・・と思ってよく考えたら、ポイント振り分けてから初めての戦いだったから、あっさりと倒せたんだ。
チートのおかげでステータスだけなら多分ベテラン冒険者並のはず。
そりゃあっさりのはずだよ。
だったらもうちょっと強そうな討伐依頼受けてもよかったかもしれないな。
ちょっと後悔・・・。
それでも薬草とりながらファイアラットを倒していき、討伐証明部位のしっぽを切り取っては薬草と一緒にアイテムに放り込みをくり返した。
ファイアラットの他に森にもいたキャタピラーのレベル4がいたり、ソーンフライという、でかくて牙の生えたトンボがいたりして倒したが、それらの討伐証明部位はどこかわからなかったし、剥ぎ取りをお願いしても人気なさそうな魔物ばかりだったので、ファイアラットは討伐証明部位だけとって土魔法で埋めて、その他の魔物はそのままにしてある程度倒したら集めて土魔法で埋めた。
・・・そういやあ、こうして倒してったら、ラノベのテンプレ展開の1つ思い出すなあ。
主人公が冒険者成り立てで冒険者の常識がなくて、最初の討伐依頼でアホみたいに大量に狩ってギルドを驚かせてランクが2つと上がる展開。
または、最初の討伐依頼でギルドの不備でランクBレベルのボスと戦って倒してギルドを驚かせてランクが2つ上がる展開もあったな。
・・・いやいやいや。やらないよ?
神様に体験してみて、と言われただけだからテンプレ展開をやるの必須じゃないし。
何より目立ちたくないからね。
なので薬草は10本とって止めたし、ファイアラットのしっぽも10本でとるのやめて倒すだけにしてるから。
お金がほしいから本当はしっぽ集めたいが、やっぱり目立ちたくない。
多分目立ったらテンプレ展開的に、めんどくさい依頼受けるに決まってる。
それか貴族に目をつけられるか。
わー、考えただけでめんどくさい。
とか思いつつ、ひたすらに草原の魔物を倒して気が付いたら太陽が真上の位置にあった。
草原の小高い丘の上に腰かけるのにちょうどいい岩があったので、そこでララのくれた弁当を食べた。
飲み物は水魔法で水を出したらいいが、こういう時は番茶な気分だなあ。
どっかで飲み物売ってないかな?
さて、もう依頼分は集まってるしちょっと飽きてきたし、ここらで切り上げて町に帰ろうかな。
ステータスを見てみたら、レベルが7になっていた。
なのでポイントを振り分けて取得可能スキルから1つ選んだ。
名前:ユウジン・アクライ(阿久来優人)
種族:人間(魔法使い)
年齢:24
レベル:7
HP:150→300
MP:260→410
攻撃力:30→50
防御力:33→62
智力:50→86
速力:41→72
精神力:30→48
運:15→34
超適性:罠魔法
戦闘スキル:初級短剣術
魔法スキル:初級罠魔法・(取得)中級鑑定魔法・アイテム収納魔法・初級火魔法・初級水魔法・初級土魔法・隠蔽魔法
鑑定魔法を中級に上げた。
これにより鑑定魔法を使ったら能力まで見られるようになったはずだ。
レベル7になったから今俺の強さはどれくらいなのかさっぱりだから、それが知りたくてとった。
そういやあ、あの森に寄って蓋のチェックするついでに、あいつらに鑑定魔法かけてステータス見てみよう。
ランクDってことだから、レベルや能力の目安にできるかもしれない。
森に行き、落とし穴の周辺は昨日と同じで静かだった。
よしよし、どうやら誰も来てないようだな。
落とし穴の蓋の状態をそれぞれ見ると、3つともちょっと発動が薄れている感じがした。
ふむ、このままだと夜には効果が切れるかもしれないな。
ということは、罠魔法の発動効果はだいたい24時間と考えていいかもしれない。
それぞれの中を覗いて見ようと、3人入っている穴の蓋を解除すると、途端に香った匂いに顔をしかめた。
「うーわ、くっさ。ゲホゲホッ」
思わず咳き込んだら、それで俺に気付いた奴が叫んできた。
「てめえ!!さっさとここから出せ!!」
俺は無視して鑑定魔法を3人に使ってさっさと蓋をし直した。
臭かったからね、早く蓋したかったんで。
何の臭さかは・・・トイレ的なものだ、後はご想像にお任せします。
今度の蓋は外からの音も遮音してみた。
2人入っている穴も解除したらやはり匂ってきて、2人はなんかさっきの奴と同じようなことを言っていたのですぐ蓋した。
こちらも外からの音も遮音した。
最後に1人入っている穴を解除したら、匂いは1人なんでちょっとだけましだった。
中の1人は痩せた男でこちらを睨むだけだった。
やっぱり1人だとキツいだろうな。
他の穴の奴らに比べて憔悴している感じだし、壁が血まみれで指は血だらけだった。
俺は面白いことを思い付いて、微笑んだ。
「すいません。食料持ってきたんですが、他の方達が全部寄越せって全部食べられちゃいました。」
「・・・あ?なん、だと・・・?」
「あなたにもって俺言ったんですが、皆どうでもいいって言って。すいません、今晩また持ってきたときは渡せると思います。」
そう言うと俺は蓋をした。
こいつの蓋にも外からの音を遮音するだけじゃなく、遮光して中を真っ暗にしてやった。
これでますます心にクるだろうな。
さて、また夜に来てあの1人に囁いてあげようかな。