悪魔は飲ませる
捜索・保護隊との戦いから1週間が経った。
隊長を捕虜として捕らえたことで終わった戦いは、こちらの戦力4000人位を残したのに対し、相手は騎士350人兵士1000人以下とこちらの犠牲は少なくてすんだ。
因みに隊長を捕らえたのはじいさんだ。
生き残った騎士兵士は捕虜として捕らえて怪我の治療と食事を提供すると喜んで食べていた。
彼らの食事は俺のアイテムから出ている元はといえば彼らの食料なので問題はない。
それがきっかけか王子が彼らを集めて説得したのが効いたのか、騎士兵士は次々とこちらの派に加わると言い出して、話し合いの末にこちらの戦力として迎え入れた。
騎士兵士を餓死させた俺は、責められたり変な空気になるのが面倒臭かったので"罪ほろぼし"として負傷した王子の部下たちを救護所で回復魔法で治療しまくった。
おかげで俺は部下たちからはとても感謝され、その状況に王子やじいさんたちは責めるに責めれない空気になって特になにも言われずにすんだ。
隊長のバージスト・ベンヘラーは現外務大臣でヘンリスを殺そうとしてしていた貴族と知った時は驚いた。
バージストは高慢貴族を地で行く性格で牢に入れられても身だしなみときれいかどうかを気にするナルシストで、説得ではほとんど文句しか言わず情報を聞き出そうとしたヘンリスは困り果てていた。
しかし、王子が説得すると驚くほどスラスラ話し出して、情報は聞き出すことはできた。
「王族は代々、使役魔法で特に使役できたもののなかから強力なものを身近に潜ませることができるそうだ。私は使役魔法が使えないから、そんなことができるとは知らなかったよ。」
領主の屋敷の会議室で、俺たちは王子が聞き出した情報を聞いていた。
「グラエム王はまだできていなかったために魔物と人を掛け合わせる実験をしていたらしいんだ。それでできたものを自分が使役して身近に潜ませようとしたらしい。その実験は成功したかわからないが、つい最近、グラエム王はなにかを潜ませているらしい。それがなにかはバージストが聞いても答えないらしい。」
「グラエム王の他の2人の王子は潜ませているの?」
「第一王子ユースギル兄さんは「虫」を使役できるので、アバドンを潜ませているらしい。」
アバドンという名に、皆驚いてじいさんはピクッと反応した。
アバドン?
確か・・・俺のいた世界では"イナゴの王"と言われるキリスト教の堕天使じゃなかったか?
「アバドンというのはどんな奴なんです?」
隣に座っていたマスティフにこそっと聞いてみるとマスティフはえっ!?という顔をしながら教えてくれた。
「ユウジン知らないのか?・・・アバドンはランクSに限りなく近いAの"イナゴの王"と言われている魔物だ。なんかどっかの宗教の堕天使?とか言われてるが、今では魔物と見なされているな。」
どうやら神様はラノベ・ゲームだけでなく神話もこの世界に取り入れているようだ。
まあ、神話を織り混ぜたラノベ・ゲームはあるから必然的に取り入れることになったって感じかな?
そしてこちらの世界に馴染ますために俺のいた世界で堕天使とされているのは魔物にしたということか。
だったらサタンなどの悪魔はどうなっているんだろう?
それこそ、悪魔としてこの世界にいるのか、魔物としてこの世界にいるんだろうか?
「ユースギル王子は確か、グラエム王を支持して首都の王城にいるんですよね?」
俺がオーランドに聞くと、オーランドは頷いた。
「ああ。ユースギル兄さんは父と本当に瓜二つの性格で、父の代理で内紛の鎮圧にあたったりすることもあるそうだ。ユースギル兄さんは偉そうな態度でやりたい放題だと噂を聞くよ。次期国王が確実視されているから、誰も文句を言えないみたいで、兄さんもそれをわかってやってるみたいだけどね。でも俺よりレベルは低いから、正直攻めいってきてもユースギル兄さん自身は相手にならないと思う。」
「第二王子はどうなんじゃ?」
「ヒースティ兄さんは「鳥」を使役できて・・・フェニックスを潜ませているらしい。」
は!?フェニックス!?
俺は驚いて目を見張ったが、なぜか皆は微妙な顔をしていた。
「?・・・マスティフ、フェニックスで驚かないのですか?」
マスティフは、は?という顔をしてきた。
「何言ってんだよ、ユウジン。フェニックスはランクCの鳥だぞ?1羽しかいないものすごい稀少な魔物だけど・・・ただの、火属性の鳥だし。」
はああ!?ランクC!?あり得ないだろ!?余裕でランクSだって!?
だって、フェニックスは俺のいた世界では、不死鳥と言われている火の鳥で、再生能力で死ぬことも殺すこともできない最強の鳥だ。
この世界のフェニックスは違うのか?
・・・いや、アバドンがそのまま魔物になっているくらいだ。
フェニックスもそのままなはず。
だとしたら、この世界の者たちはフェニックスの能力に気付いてないということか?
・・・面白い。会ってみたいな。
「ヒースティ王子は現在どこにいるんですか?」
「ヒースティ兄さん?多分首都から東の方にある海辺の町のアウルサに王族の別宅があるから、そこにいるんじゃないかな?平和主義で内紛に興味がないみたいで、その別宅に籠ってると聞いたことがある。」
アウルサの町か。ふむ。
「情報は以上だよ。・・・今、気になることがあるとすると、父の部下と俺の部下では明らかな戦力差があることと、父の実験のことかな。」
「そうじゃのう。特にグラエム王の人と魔物を掛け合わせる実験がどこまで進んだか、じゃな。そんな恐ろしい実験なんぞ進んでほしくはないがのう。」
「そこで、俺に考えがあるので聞いてほしい。」
王子は会議室のテーブルに地図を広げた。
「まず、戦力差は西側の町の領主たちを説得しようかと思う。首都から西の、マシリの町は領主がグラエム王派だけど、更に西のテレファの町の領主は多くの兵士を持っているのにも関わらず、まだグラエム王派かどうかハッキリと決めあぐねているようなんだ。そこで、テレファの町に向かって俺が説得にあたろうと思っている。それで是非、マリルクロウ様にも同行して一緒に説得していただけないかと思ってます。」
「ほう、わしが行って役に立つかのう?」
「英雄マリルクロウ様が説得していただければ心強いです。」
「わかった。ではわしが同行しよう。」
オーランド王子は嬉しそうにニコリと笑った。
「そして、俺とマリルクロウ様が西に説得に向かう間に、同時に実験場に潜入して、実験の内容を調べて場合によっては実験場の破壊をしてもらいたい。これは・・・マスティフとカルディルに頼めないかと思う。」
「え、俺とカルディル?」
「マスティフは実力はあるし判断力も高い。カルディルも実力もあるし地理に詳しい。どうだろう?」
「実験場はどこにあるんだ?」
「我々の調べで首都の東の港町のアウルサの近くにあると言われている。」
!?・・・アウルサ、か。
俺はさっと手を上げた。
「オーランド王子、俺もマスティフらと同行してもいいでしょうか?」
「えっ?」
王子はちょっと驚いて、マスティフとカルディルはええっ!?という顔をしてきた。
俺が同行すると思ってもみなかったようだ。
「俺も実験というのが気になります。実験場を調べるなら人手は必要でしょう?」
「うん、まあ、そうだな。ではユウジンはマスティフたちと同行してくれ。」
「ありがとうございます。」
俺はニコリと微笑んで頭を下げた。
「・・・おい、ユウジン。どういうつもりだ?」
マスティフが小声でこそっと聞いてきた。
「実験というのも気になりますが、ちょっとアウルサに行きたくなりまして。」
「アウルサに?」
マスティフの疑問に「まあ、行ったら説明します。」とだけ言っといた。
その後、ヘンリス・アシュア・レフィは王子と同行することとなった。
アシュア・レフィはこのままキュベレの町にいてもつまらないという単純な理由からだ。
会議での話し合いが終わった後、俺はマスティフ・アシュア・レフィを自分の部屋に呼び出した。
「お疲れ様です。これ差し入れです。」
4人掛けのテーブルに座ってもらい、青い小瓶を1人1つずつアイテムから出すと、3人は明らかに怪しい目で小瓶を受け取った。
因みにクロ助はベッドでお昼寝中だ。
「え、なにこれ?怪しい薬ではないでしょうね?」
「毒か?」
「なんであなた方に毒を飲ませないといけないんですか?体調を整えるものですよ。」
そう言って大丈夫だという証拠に俺も自分用の小瓶をアイテムから出すと蓋を開けて中身を飲んで見せた。
「ほら、大丈夫ですよ。」
にこやかにそう言うと、3人はそれでも微妙な顔をしながらも中身を見たりしていた。
「ああ、そうだ。飲む前に、皆さんは王子の味方になったこと、どう思ってますか?」
「どう思ってるか?そりゃ、味方になって当然と思ってるわよ。」
「うん。王子もいいやつだし、派の先頭に立って戦ってもいいくらいだな。」
「・・・私もそう思います。彼は王になってもおかしくない人です。」
3人はなんでもないようにそう答えた。
皆がそこまで王子を支持するほど、俺たちは王子のことはあまり知らないのに3人とも信頼しきっている。
そこまで王子の言葉や人柄に影響力があるようにも見えないし。うん、おかしいな。
「そうですか。あ、すいません、どうぞ。飲んでください。」
3人は躊躇しながらも中身を飲んだ。
「・・・ぷはーっ。・・・あれ?なんか頭がスッキリするな。」
「私も。」
「・・・私もです。」
3人とも頭がスッキリしたようだ。
「そうでしょう。体調を整えるものですからね。・・・さて、もう一度聞いていいですか?王子の味方になったこと、どう思ってます?」
「どうって・・・。あれ?なんで俺たち、味方に加わったんだ?」
「え?だってそれは・・・あれ?そもそも私たちって、悪魔教を調べに来たのよね?」
「・・・?」
3人は先程とはうって変わって疑問が頭に浮かんで首を傾げた。
その様子を見て、俺はニコリと笑った。
「皆さん、これはトリズデンの錬金術のお店で買った万能薬です。皆さんが使役されていたのをこの薬で治したんです。」
えっ!?と3人は驚いて俺を見てきた。
「オーランド王子が使役魔法を使えないと言うのは嘘です。彼のステータスを見てわかりました。
・・・彼は使役魔法で、人間を使役しているのです。」
名前:オーランド・ガレス・ヴェネリーグ
種族:人間(ヴェネリーグ王国第三王子・悪魔教幹部"セカンド")
年齢:25
レベル:40
HP:1260
MP:380
攻撃力:278
防御力:240
智力:148
速力:256
精神力:202
運:95
戦闘スキル:中級槍術
魔法スキル:初級火魔法・初級闇魔法・隠蔽魔法・中級強化魔法・使役魔法(人間)
しかも、悪魔教の幹部だった。




