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悪魔は開戦を見る

「只今、戻りました。」



俺たちは一仕事終えて馬車で4日かけてキュベレの町に帰ってきた。

領主の屋敷で待つ王子とじいさんとアシュアの元に向かうと、3人は屋敷のホールで待ち構えていた。


「皆、おかえり~!」

「帰ったか。皆、怪我などしておらんか?」

「テント襲撃班数人が怪我をしましたが、俺の回復魔法で治しました。」

俺がにこやかに返事するとじいさんはそうかそうかと頷いた。

「それでユウジン、無事食料は全部アイテムに入れることはできたかい?」

「はい王子。調味料も含めて全部盗ってきました。」

「よかった、ありがとう。マスティフたちもご苦労だったね。騎士たちはどうだった?」

「なかなか強かったけど、正直そこまで手こずる感じではなかったぜ。レベルは40前後って感じかな。」

マスティフは頭を掻きながら正直に言った。

「レベル40前後を手こずる感じではなかった、か。さすがマリルクロウ様の孫というかなんというか・・・。」

王子はそう言って苦笑していた。



俺たちは首都からの通信の後、王子の指示で集められた部下たちと俺たちで対策会議を開いた。

騎士1000人に兵士5000人が来ていることがわかり、こちらの戦力は5000人だが半分は武器を持つことがほとんどない庶民や冒険者たちと心もとない戦力だった。

そこでなんらかの作戦が必要となり、若い頃にいくつもの戦争を経験したじいさんの提案により今回の「盗賊に成りすまし食料強奪作戦」が行われたのだ。


俺たちは夜を待って捜索・保護隊の夜営に近づき、テント襲撃班のマスティフ・レフィを含む10人がテントを襲撃。

盗賊が身ぐるみを剥ぐ目的と思わせるために、レフィの暗殺術で音もなく何人か暗殺してもらい、それからわざと派手に暴れてテントに火をつけたりする。

そうして隊が襲撃班に集中している隙に、俺は隠蔽魔法で姿を隠して見張りを拘束魔法でぐるぐる巻きにして食料を根こそぎアイテムに入れていったのだ。

おかげでアイテムの中はみるみる食料だらけになって、容量の7割くらいいっぱいになった。

こんなに詰まっているの見たことないから、アイテムの中身を覗いてつい感心してしまった。



「これで隊は一旦サビザの町に戻らなくてはならなくなって、士気も下がるじゃろう。そしてまたここまで来なければならない疲労と体力もある程度は削れたはず。そう考えると・・・このキュベレの町に6日ほどで来るかのう。」

「あ、いえ。もう数日早くなるかもしれません。」

「うん?ユウジン、それはどうしてじゃ?」

「ちょっとイタズラ(・・・・)をしてきたので。それがうまくいったら彼らはかなり憔悴しているはずですから、こちらは戦いやすいと思いますよ。」

皆、皆目検討もつかないようで首を傾げていたが、俺はそれ以上は言うのは避けてニコニコ笑顔でそう言っといた。



実は馬を逃がしたのは俺が勝手にやったことだ。

なのでじいさんは馬車でサビザの町に一旦帰ってまたこちらに来ることを計算して6日と言ったのだ。

俺の予想では、馬車で4日の道のりを歩いてくるから1週間ちょっとかかるかなとふんで、襲撃から4日経っているので後3~4日でこちらに来ると考えたのだ。


「・・・なあ、ユウジン。こっちに帰って来るときにたくさん魔物を狩りながら帰ろうと言ってたのは、なんか関係があんのか?」

マスティフが訝しげな顔をして聞いてきたので「関係ありますよ。」とだけ言った。


俺たちは馬車に隠蔽魔法をかけてギリギリまで近づいて襲撃して帰って来たのだが、帰って来るときに俺の提案で道中の魔物をサーチして狩りまくりながら帰って来たのだ。

もちろん、これは食料となると魔物を隊に見つけられないようにするためで、倒した魔物はアイテムに入れるか土魔法で埋めるかした。

夜に皆が寝静まったタイミングで俺だけ抜け出して魔物を狩ったりもして、あそこら辺一帯は魔物が激減したところにしてやったのだ。

おかげでアイテムが更に容量が埋まってかつてないほどにいっぱいになっている。

後でキュベレの町の冒険者ギルドの剥ぎ取り小屋に行った方がいいかもな・・・。




「どちらにしても、彼らはあと数日で来てしまうのか。・・・マリルクロウ様、本当に戦いは避けられないでしょうか?」

「おそらく避けられそうもないでしょうのう。相手は確実にキュベレの町を滅ぼすつもりの人数じゃ。どれ程の強さかわからんが、わしも参加することじゃし、王子はどしっと構えておれば大丈夫でしょう。」

少し不安な顔のオーランドをじいさんはいつものにこやかな笑顔で元気付けた。

「ありがとうございます。」

王子はじいさんの頼もしい言葉に頭を下げた。





それから4日後、捜索・保護隊はキュベレの町から見えるところまでやって来た。


「王子!捜索・保護隊が見えました!」

領主の屋敷内の、会議室と化している部屋で話し合っていた王子や俺たちの元に見張りの男が駆け込んできた。

「来たか!?距離はどれくらいだ?」

「町から200メートルのところです。・・・あの、見た限りなんですが、隊の様子がなんだかおかしいようなのですが。」

「おかしい?」

王子は首を傾げ、皆も不思議そうに見張りの男を見ていた。

「はい。とても憔悴しているようでして・・・。それに、馬車の姿がないくて、全員歩いているようんです。兵士ならわかるんですが、騎士や隊長と思われる者も歩いているんです。」

「馬車の姿がない?なにかあったのか?」

「ふむ・・・。ちょっと様子を見てこようかのう。」



王子や俺たち会議室にいた全員でキュベレの町の塀に取り付けた見張り小屋に移動した。


おーおー、ふらふら歩いて来てる。

隊は全員が力なく歩いて来ており、隊長と思われるきらびやかな鎧を着た男が騎士兵士に指示を出すような仕草をすると、兵士が全員が前に出て横に広く並び、騎士がその後ろに隊長を囲む形で並んだ。

だが騎士も兵士もうつむいたり歩くのがやっとの者もいて、なんか何千人もいるのに覇気が全くない。


「ううむ。これは一体どうしたんじゃ?」

さすがのじいさんも困惑していた。

すると隊長と思われる男が町に向けて声を張り上げた。


「グラエム王より派遣された捜索・保護隊である!王子を匿っているのなら、大人しく王子を出してもらおう!応じられないなら攻めいるつもりぞ!」

憔悴しているとはいえ、よくこんなに声が出せるなあ。

ていうか、魔法かなにかで声を大きくしているのか?

拡声器みたいに声が町中に響いてきている。

「この声の大きいのは、なにかの魔法ですか?」

ちょうど隣にいたカルディルに聞いてみた。

「声を広く大きく響かせる風魔法の効果のあるマジックアイテムを使っているんだろう。戦争ではこうやって最初に声を張り上げて士気を上げたりするんだが、あの隊長はそれを真似たんだろう。」

なるほど、どうやらプロレスのマイクパフォーマンス的なものを、こちらの世界の戦争では拡声器のようなマジックアイテムを使って行われているようだ。

そしてあの隊長は今回それを真似たと。

んまあ、戦争と言えば戦争だしね。


王子は想定していたようで、近くの部下に領主を呼ばせに走らせた。

しばらくして、領主が慌てた様子でやって来た。

キュベレの町の領主は30代と若く、しっかりした真面目な子爵だ。

俺たちがキュベレの町に来たときも、急だったと言うのに領主の屋敷の近くの宿屋を押さえてくれたできる人だ。

グラエム王も将来有望と思っていたようで、数年前に王からの指名でキュベレの町の領主になったのだという。


領主は王子とこそこそ話すと、ポケットからペンほどの小さな杖のようなものを取り出した。

先に緑の魔石がついていて、領主はそれをマイクのように持つと塀の上の隊から見えるところに移動して隊に向かってしゃべりだした。


「私はキュベレの町の領主である。」

その声は隊にまで届く大きな声になり、町中にも響いている。

どうやらあの小さな杖のようなものが拡声器のようなマジックアイテムのようだ。

「申し入れはお断りさせていただく。」

そう言って領主は部下に合図を送ると、部下はさっさと塀に移動して「開門!」と叫んだ。

するとキュベレの町の唯一の出入り口である塀の扉が開かれ、待機していた部下5000人がぞろぞろと塀の外へ出て、隊に対をなすように横に広がって並んだ。

いつ来るかわかっていた王子は、領主に言ってキュベレの町の住民たちに屋内に避難するように数日前からおふれを出し、部下をいつでも出陣できるように塀の中に待機させていたのだ。



「ふざけおって!!」

隊長のそんな怒号が飛んできた。

「王子を匿うだけでなく、更には夜間に盗賊に成りすまして隊の食料だけでなく馬まで逃がしおって!しかも我らの要請に応じないとは!?」

馬が逃げたのを知った皆はえっ!?と驚きの表情をして、じいさん・マスティフ・アシュア・レフィが俺を見てきた。

俺は知らんぷりをして明後日の方を向いた。

「・・・なるほど。馬が逃げたことにより馬車が使えず、どうやらここまで歩いてきたから、あんなに憔悴しているということか。」

王子はぽつりと呟いた言葉を聞いて、マスティフはハッとした。

「も、もしかして!?魔物を狩りながら帰ってきたのは・・・道中の魔物も食料にできないようにするためか!?」

俺は向けられた視線にニコリと笑うだけで答えた。


「ここまで1週間、ろくに食べずに歩いてきたのなら、かなりの餓死者が出ているぞ。そんな憔悴している相手と戦えと言うのか?」

王子は苦しげな表情で俺を見てきた。

え?なんか勘違いしてません?

「すいません、ちょっとしたイタズラのつもりだったんですけどねえ。王が派遣した隊でしたら、通信魔法で救援を呼ぶとかなんらかの解決策くらい持ってるかと思ってたんですけど。・・・でもねえ、王子。これは戦争なんですよね?」

俺は微笑んだまま、首を傾げた。

「戦争なんて最低です。手段を選ばず相手と殺し合いをして決着をつけるんですから。そんな最低な戦い自ら身を置く彼らに、情けが必要ですか?それこそ、彼らは戦いの意思を示しているのに、戦ってあげないのは果たして優しいと言えるでしょうか?」

「だが、これはいくらなんでも・・・。」

王子はうつむいてしまった。

皆も表情を強ばらせて黙っている。



すると、隊長がまた叫んできた。

「我々はヴェネリーグの誇り高き騎士兵士である!どのような状況にも国王の命を遂行する!皆のもの!武器を構え、突撃せよ!!」

その号令に隊の騎士兵士は次々と剣や槍を構え、雄叫びをあげながら向かってきた。

「!?領主!」

王子が領主に呼び掛けると。領主は叫んだ。

「我らも応戦するぞ!皆のもの!迎え撃て!!」

こちらの部下たちも剣や槍、斧なども構えて兵士に向かっていった。

両者がぶつかってあっという間に戦闘音が響き渡った。


「王子。やり方にはちょっと問題はあるが、ユウジンの言うことには一理ある。戦争に情けは無用じゃ。相手のプライドを傷つけることになるぞ。戦いは始まってしまったものは止められん。だが、早く終わらせることはできる。どれ、わしも戦うとするかのう。マスティフ、行くぞ。」

じいさんは王子の肩をポンと叩くと塀から降りていった。

「はいはーい。」

マスティフはやれやれとじいさんについていった。

「私は無理だからレフィ、行って戦って。」

「・・・わかりました。」

アシュアに言われてレフィもマスティフに続いた。


「アシュア、ちょっと俺の手伝いしてもらえませんか?」

俺が声をかけるとアシュアはえっ!?と嫌そうな顔をした。

「ユウジン、なにやるの?人殺すんだったら嫌よ。」

「俺は人殺しはしない主義だって言ってるじゃないですか。・・・罪ほろぼしをするだけですよ。」

「は?罪ほろぼし?」


アシュアは訳がわからず首を傾げていた。



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