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悪魔は強奪する

隊長視点です。

「ぎゃああああっ!!て、敵襲!敵襲だああっ!!」



その声に私は飛び起きた。


ガウンを着た姿のままで慌てて外に出ると、兵士がテントを立てている方で叫び声や火の手が上がっていた。

「おい!?何があった!?」

近くを走り抜けようとしていた騎士に声をかけると、騎士は私の存在に気付いて立ち止まって敬礼のポーズをとった。

「兵士のテントが何者かの襲撃を受けたもようです!テントが燃えてすでに数十人が死亡、又は怪我をしているとのことです!」

なに!?数十人がすでに死んでいるか怪我!?

敵襲という叫び声からまだ数分も経っていないというのに!?

「すぐに消火と襲撃者の排除、怪我人の治療をしろ!」

「は!失礼します!」

騎士はそう言って走っていった。


なんなんだ、襲撃者とは!?

魔物か?魔物ならば見張りの者が気付きそうなものだが・・・。


とりあえず私は自分のテントに一旦戻って着替えて鎧を着けて再び外に出た。

「バージスト様!」

と、ここでやっと副隊長が私のところに来た。

「副隊長!遅いぞ!なにをしていた!?」

「申し訳ありません。情報収集をしておりました。」

メイヴィスはいつものように頭を下げてきた。

「で、襲撃者の情報は!?さっさといえ!」

「襲撃者は10人ほどの盗賊のようでして、テントに忍び込んでは兵士を殺して身ぐるみを剥ごうとしていたようです。それが見つかって、戦闘になり誰かの火魔法でテントに火がついたもようです。」

「それで、排除できたのか?」

「それが数人手強い者がいるそうで、未だに排除できておりません。」



ドゴォォォン!!



今まさに戦っているであろうところから轟音が響いた。

そして兵士と思われる者たち数人が吹っ飛んでいるのが少し離れたここからでも見えた。


「な、なにをしている!?は、早く排除しろ!!」

メイヴィスは一礼すると轟音が響いたところに向かって走っていった。

ふ、ふん。盗賊ならば私が出るまでもないだろう。

騎士どもも向かったようだし、いくら盗賊でも騎士には勝てまい。

私はテントの中で待つとするか。




それから数十分もかかって、騒動は鎮まった。

盗賊は全員捕まることも死者を出すこともなく逃げたようで、こちらは兵士20人が死に兵士15人が怪我をしたという。

なんたる結果だ。

私は副隊長含め排除に向かった騎士ら数十人を呼んで怒鳴り散らした。

「お前らそれでも騎士か!?なぜ盗賊の1人も殺せない!?」

「申し訳ありません。」

メイヴィスはまた頭を下げてきた。

因みにいけすかない妹は回復魔法が使えるということで、怪我人の治療にあたっているそうだ。

「お前は頭を下げるだけしか能がないのか!?騎士とは盗賊よりも弱いのか!?」

「いえ、今回襲撃してきた盗賊はいやに統率がとれていましたし、盗賊とは思えぬほど強かったようです。特に大剣を持った男と暗殺術に長けたナイフを持った女が特別な訓練を受けたような動きだったそうです。」

「そんな言い訳、誰が聞くんだ!?」



「し、失礼します!!た、大変です!!」



私が怒っている最中、慌てた様子で騎士が走ってきた。


「何者かによって馬車の馬の手綱が切られ、馬が逃げ出しました!」

「な、なに!?馬の世話をしていた兵士はどうした!?」

「そ、それが、ロープで鼻から下を全身ぐるぐる巻きにされてまして・・・。事情を聞こうにも、そのロープが解けなくて・・・。」



「失礼します!!た、た、大変です!!」



別の方向から騎士が走ってきた。


「食料を保管していたテントが・・・もぬけの殻です!」

「な、なに!?テントには見張りがいたはずだが!?」

「それが、ロープで鼻から下を全身ぐるぐる巻きに・・・。」

「は!?」


私は立て続けに起きたことに耳を疑い目を剥いた。

騎士たちも驚いていて、あのいけすかないメイヴィスでさえ目を見開いている。



「これは・・・しまった!やられました!」

メイヴィスは悔しそうな表情でそう言ってきた。

「おそらく、テントを襲撃したのは囮です。狙いは食料と馬だったのです。食料がなければ大きな打撃になりますし、士気にも影響します。馬がなければ馬車は動かせられませんから、進むスピードは落ちます。食料がない状態でスピードが落ちるというのはかなり厳しいです。」

「なに!?では、サビザの町に戻って食料と馬を確保しなおさなければいけないということか!?」

「問題なのは・・・ここは馬車で3日の距離です。歩いてサビザに戻るとなると、6日はかかります。人間は飲まず食わずは3日が限界と言われています。」

「では、キュベレに向かうのか?キュベレはここから馬車で4日と、サビザの町以上に距離があるのだぞ!?」

「・・・サビザに向かうかキュベレに向かうかにしても、道中で魔物を狩ってそれで凌ぐしかないかと。水魔法や火魔法を使えるものがいますのでなんとかなるとは思いますが・・・。」

私は魔物を狩って食べるというのに抵抗がある。

醜いからだ。

私はそれを思い苦い顔をしたが、他にないのならしょうがない。

まったく、とんだ時に盗賊が来たものだ。



「・・・それで、バージスト様。サビザかキュベレ、どちらに向かいましょうか?」

俺はうーんと考え込んだ。

この状態で向かっていいものか?

しかし、1度サビザに戻って食料と馬を確保してまたキュベレに向かうとなると、確実に士気は下がっているだろう。

しかもサビザですでに食料の買い占めをして出発したから戻ったとしても食料が満足に確保できるかどうか微妙だしな。

「自分は、皆の士気もまだありますし、このままキュベレに進んでもよいかと思っております。幸い魔物は多いですし、なんとかキュベレに着くくらいは凌げると思っております。」

気に入らないが、メイヴィスの意見に賛成だ。

食料の問題もあるが、馬はまあ、歩くぐらいなら大丈夫だろう。

騎士どももそれくらいの体力はあるだろう。


「・・・うむ、そうだな。このままキュベレに向かいながら魔物を狩って進むことにしよう。」

まあ、しょうがない。

キュベレに着いたらうんと美味いものを食べたいものだ。


それからしばらくして、ロープで全身ぐるぐる巻きになっていた見張りのロープが解けたので話を聞いたが、突然ロープがひとりでに巻き付いてきたとか、賊の姿ばかりか周りに誰もいないのに馬の手綱がひとりでに切れたとか、食料のテントも誰も出入りしていなかったのに空になったとか、よくわからんことを言っていた。

そんなことがあるわけないだろう!?

どうせ責められるのを避けるために奇っ怪なことを言っているのだろう。

罰として私直々に処分(・・)してやった。




それから私たちはキュベレに向けて歩き進んだ。

歩いて数時間で私の足は疲れて棒のようになってしまったので怒鳴り散らして、騎士の背中におんぶする形で進むことになった。

こんなに長時間歩くというのにさすがに兵士も慣れてないので数時間に1度に休憩をとるので更に進むスピードは落ちている。

騎士どもは兵士より重い鎧を着ているし、こんなに歩くことがないので足取りは更に重く、夕方には疲れはてて倒れる者も出た。



こうなると、魔物を狩って飢えを凌ぐしか希望はなくなるのだ。

それなのに不思議なことだが、この日から魔物がほとんどでなかった。




それまで10分に1度は出ていた魔物が、数時間に1度にまで減って、しかも食肉として流通していない魔物がほとんどだった。

それでも毒でない魔物を狩っては捌いて、火魔法で焼いて皆で少しずつ食べた。

味なんて美味いわけないし醜いしで、私には大変苦痛なものだったが空腹には勝てず、生肉の状態でさえも口にした。最悪だ。



「・・・明らかにおかしいですね。」

メイヴィスは疲れた表情でそう言った。

「なんのことだ、メイヴィス。」

私が聞くと、メイヴィスは悔しげに答えた。

「魔物とほとんど遭遇しないタイミングがおかしいです。・・・もしかしたら王子派の作戦ではないでしょうか?」

「は?どういうことだ?」

「奴等が盗賊になりすましてテントを襲撃して馬を逃がして食料を奪う。そうすれば魔物を狩って食べるしかないとふんで、ここら一帯の魔物で食べられているものを倒していった可能性は考えられませんか?」

・・・な、なんだと!?

「もしや・・・我々の数を減らすためか!?」

「餓死者を出してキュベレに攻めてくる数を減らすのがおそらく目的でしょう。しかも生きていたとしても、こちらは空腹と疲労で満足に戦える状態ではありません。」

その言葉に私は絶句した。




王子派の思惑通り、歩き始めて数日で怪我をしていた騎士が衰弱死したのをきっかけのように、疲労と飢えで歩けなくなった者が続出し兵士を中心に道に倒れる者や座り込む者がいた。

しかし誰もどうすることできず、置き去りにするしかなく騎士兵士の数はみるみる減っていった。



そうしてキュベレの町が見えてくる頃には、騎士600人兵士3000人までに減っていた。



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