悪魔は部下と会う
メモに書かれてあった住所はスラム街近くの古い宿屋の住所だった。
じいさんを先頭に中に入ると、暗めのホールの奥の受付に座っていたヨボヨボの老人店主がヨロヨロと近づいてきた。
「おお・・・!マリルクロウ様!ほ、本物じゃあ!」
「突然すまんのう、店主。実はこのメモをもらって来たんじゃ。」
じいさんがメモを店主に見せるとうんうんと頷いて、奥の階段を指差した。
「2階に上がって1番奥の部屋に行ってくだされ。そこであなた方を待っとる人がおります。」
老人店主は握手してもらってニコニコしながら受付に戻って、俺たちは2階に上がった。
古い宿屋らしくものすごくたゆんでギシギシいう廊下を進んで、1番奥の部屋のドアをじいさんがノックすると中から「どうぞ。」という男の声がした。
開けると複数人が泊まれるような大きめな部屋になっていて、ベッドが等間隔に4つ並べられていて6人掛けのテーブルとイスもあり、部屋の中には男たち3人がベッドに座ったり窓辺にもたれたりしていた。
身なりの整った若い男にレザーアーマーを着た中年の男と、マスティフのポケットにメモを入れた男の3人がいた。
男たちはこちらを見てサッと次々と立ち上がった。
「うわっ、ほ、本物だ・・・!」
「本当に、き、来てくれた!」
じいさんを見て感動しているなか、若い男がこちらに歩み寄ってきた。
「わざわざ来て頂いて本当にありがとうございます。よかったらイスにどうぞ、座って下さい。」
俺たちは促されるまま、イスに座った。
身なりの整った若い男はじいさんの近くのベッドにこちらを向いて腰掛けた。
「メモを入れる失礼をお許し下さい。そうしないと兵士や警備兵に見つかる可能性があったからです。・・・私はオーランド王子の部下でこの街に潜入している者たちの統括をしています、グロス・フロモンドと申します。」
20代後半ぐらいで焦げ茶の少し長めの髪に青い目の真面目そうな印象の若者で、名字があることから貴族のようだ。
「私自身はこの街で大臣の下で働くフリをしながら、この街に潜入している者たちの情報をまとめて王子に伝えています。」
グラックは後の2人の紹介もしてくれた。
2人はいずれも王子の部下で、冒険者としてこの街に潜伏している元兵士とスリの得意な元犯罪者なのだそうだ。
俺たちもそれぞれ自己紹介した。
「皆さんのことはこの街に来られた時にわかりました。また、王城に行ってグラエム王と会われたのもわかってます。」
「え!?どうやってわかったんですか?特に王城なんて兵士や警備兵がいっぱいいたのに・・・。」
アシュアは驚いて聞くと、グロスはにこやかな答えた。
「門番の警備兵の中に我々のスパイがいるんです。それに街中もそうですが、城にもメイドや兵士の中にスパイがいますからわかるんです。」
確かにちらほらいたなあ。
「マリルクロウ様がこの街に来たことなど王子に報告しましたところ、王子は皆さんに会いたいと言っておられます。・・・グラエム王に味方になるように言われたかもしれませんが、ぜひ王子にも会って頂きたいのです。」
「・・・王子はなぜわしらに会いたいと言ってきたんじゃ?」
「マリルクロウ様に、我々の味方になってほしくてのことと思います。グラエム王の味方になることは危険です。どうか、王子に会って頂けませんか?」
「グラエム王の味方になることが危険とは?」
「お会いしたのならわかると思いますが、グラエム王は短気で好戦的な性格のため、反対する者や邪魔な者はすぐに排除しようとします。王になる前の親族の謎の事故死や王になってからの大臣の相次ぐ事故死も、グラエム王の邪魔になった者は死んでいます。おそらくなんらかの方法でグラエム王が死に追いやったとしか考えられません。なので、味方であってもなにかあると殺される可能性があるので、皆はグラエム王を刺激しないように過剰に褒め称えたりしているのです。」
確かにスラムにいた元大臣の証言もあるから、その可能性はあるし、過剰に褒め称えたりというのはマシリの領主のオスロで覚えがあるな。
「ふうむ、そうじゃのう・・・。グラエム王の話だけ聞いてオーランド王子と話を聞かんというのもいかんじゃろう。1度会ってもいいかもしれん。本当はヴェネリーグ内のことに部外者が首を突っ込むことはせんほうがええとは思うが・・・。」
「ありがとうございます!王子もとても喜ぶと思います。」
グロスは明るい笑顔を見せてそう言った。
あとの2人もよかったとホッとしているようだった。
「参考までに、オーランド王子はどんな人物なんじゃ?」
「王子はとても明るくて誰にでも優しい人です。正義感が強い方で頭もよくて決断力もあって頼りになります。マリルクロウ様もお会いしたら王子の人柄の良さに必ず驚かれると思いますよ。」
「そうかそうか。それは楽しみじゃのう。」
オスロがグラエム王を過剰に褒め称えるようになってないといいけどな。
それはそうと、王子はどこにいるんだ?
「すいません、オーランド王子は現在、どちらにいらっしゃるんですか?」
「王子は行方不明ということにして、ヴェネリーグ南方のキュベレという町に潜伏しています。ここから馬車で2週間ほど南に行ったところにある町です。」
「2週間?・・・では、連絡はどうやってとっていたんですか?もしかして通信魔法を使って?」
「あ、はい。私が通信魔法が使えますので、連絡させて頂きました。」
「・・・あ、ていうことは、俺たちはそのキュベレの町に向かうことになるということですか?」
マスティフは少し考えてそうグロスに聞いた。
「それについてですが、キュベレのもっと手前のサビザの町に王子は行く予定だそうで、よかったらそこで会ってみてはどうでしょうか?サビザの町はここから馬車で1週間南に行ったところにある町で、ちょうどこことキュベレの町の中間にある町なんです。」
「なるほど。では明日にでもそのサビザの町に向かうとするかのう。」
「ありがとうございます。王子にはそのように通信しておきます。」
グロスはそう言って深々と頭を下げてきた。
そうして俺たちは古い宿屋を後にした。
「明日出発かあ~。今のうちに食料とか買い物しとかないで大丈夫?ユウジン。」
そう言われて俺はアイテムを覗いた。
「えーと・・・まあ、買わなくても大丈夫ですね。まだ数ヶ月分はありますから。」
「そういえば市場でちょこちょこ買ったりしたんだったわ。買わなくていいんだったらもう準備万端ね。・・・あ!しばらくここに来れないなら、今のうちに行きたいと思っていたお店に行っとかなくちゃ!」
そう言うとアシュアは慌ててレフィを引っ張って去っていった。
「ほっほっ、元気じゃのう。どれ、もうなにも準備せんでええなら、模擬戦でもしようかのう。」
じいさんはニコニコ笑顔でそう言って俺とマスティフの肩をむんずと掴んできた。
は!?
「じ、じいさん!?勘弁してくれよ~!」
「ちょっとじいさん!?マスティフだけでいいでしょう!?」
「確か街の外に広いひらけた場所があったのう。そこでするかのう。」
じいさんは俺たちの言葉を無視して肩を掴んだまま俺たちを引きずって街の出入り口に向かって歩きだした。
その後、数時間。
夜まで模擬戦に付き合わされた・・・!
じいさん曰く、「座って話すことしかしてないから体がなまってのう。」だと。
知るかっ!




