悪魔は街に繰り出す
「グラエム王は元悪魔教信者じゃった。」
じいさんのその言葉に皆が驚いた。
俺は知っていたが、皆と一緒に驚いて知らないフリをした。
「そうなの!?・・・あ、でも、確かマリルクロウ様は数年前にグラエム王に会ったことがあるって言ってたわよね?その時はわからなかったの?」
「前に会ったときは鑑定魔法を使わんかったんじゃ。あんまりなにもないのに人のステータスをホイホイ見るのは悪いと思って、何かあるときしか使わんからのう。」
うーんと俺は考えて、じいさんに話しかけた。
「ということは、ルナメイア姫を拐ってこの国に連れてきて、悪魔教のある国に船を出させる手段として、恐らく、悪魔教はグラエム王が元悪魔教信者というのをネタに王を脅すつもりだったと考えられますね。」
一応王城にいたメイドや兵士なども鑑定魔法で見たが、悪魔教信者はいなかった。
どうやら本当に足を洗った元悪魔教信者なのかもしれない。
そしてグラエム王のとぼけた発言から、おそらく城の者はグラエム王が悪魔教信者だったと知らないのだろう。
だとしたら悪魔教信者であったことをバラされたくないだろうから、もしかしたら悪魔教信者が近づいて脅したら聞いていたかもしれないな。
・・・まあ、メイドや兵士たちの中に悪魔教信者はいなかったけど、オーランド王子のスパイはちょこちょこいたけどな。
「わしもそう思う。悪魔教はそれくらいはやるような教団じゃ。じゃが、問題はここからどう悪魔教に辿り着けるかじゃなあ。」
「グラエム王に信者だったことを問いただして、その時の本部とかを聞いたら、もしかしたら手がかりになったかもしれませんが・・・さすがにそれは無理な空気でしたか?」
「悪魔教と言っただけでものすごく険しい顔をしたからのう。問いただしたりなんぞしたら、もしかしたら不敬罪で首をはねられてもおかしくないぞ。」
やはりこの世界にも不敬罪があるのか。
ラノベでこれがあるから面倒なことになったやつあったりしたな。
じいさんはグラエム王の誘いも断ってしまったし、もう会いに行くのは難しくなってしまったから、こうなれば流れ的にも内紛に関わるしかないかもしれない。
国内が落ち着いたらまた会う機会ができるかもしれないからな。
結局いい案は出ることはなく、昼を少し過ぎてしまったが、皆で街に繰り出してどこかで昼食を食べようということになった。
男性陣は飲食店を知らないなか、アシュアとレフィは昨日の自由時間に色々とお店のチェックしてきたようで、その中の飲食店に行くこととなった。
クロ助はまた肩に乗ってきたので隠蔽魔法をかけた。
チェックしてきた飲食店は市場の中にあって、雰囲気は暗い気がした街の様子は市場の活気で明るいものになっていた。
それでも警備兵が常に巡回している姿はあった。
行き交う人を避けながら市場の中ほどにある飲食店にたどり着き、そこで名物という野菜たっぷり天丼を皆で注文して食べた。
クロ助も猫まんまをもらって大満足で帰っていると・・・。
「あ!ユウジン、約束のソフトクリーム!奢って奢って!」
市場のソフトクリーム屋の前で騒がれたので買ったが、なぜ奢らなければいけないのか未だに納得できないんだが・・・。
「ついでじゃから、なんか買っていくかのう。ユウジンのアイテムはまだ全然余裕じゃろう?」
「ええ、まあ、まだ空きが十分ありますので入れていきますよ。」
それからなんだか買い物の時間となって、皆で市場を散策しながら思い思いのものを買っていった。
といっても市場は食品が主にある感じだったので、買ったのは飲み物や軽食ばかりだ。
隠れてアイテムに入れたりしていたら、行き交う人を掻き分けながら1人の男がすーっと気配を消してこちらにまっすぐ来るのがわかった。
なぜその男に気が付いたかというと、スリ・ひったくり対策で皆に内緒でサーチをずっとかけていたからだ。
男はどこにでもいるような顔に、どこにでもいるような服を着た普通の街の人という見た目だが、音もなく近づいて来るので、スリかひったくりかと警戒したが、鑑定魔法をかけてみて思わず首を傾げた。
男はオーランド王子の部下の1人のだったのだ。
男は手にメモのようなものを持っていて、それを素早い動きでマスティフのポケットに入れた。
マスティフはまったく気付いておらず、市場の並べられた商品を覗き込んでいた。
ポケットに入れたのをじっと見ていたら、男は俺の視線に気付いてぎょっとした顔をしてそそくさと去っていった。
男が見えなくなると、俺はマスティフに話しかけた。
「マスティフ、ポケットを探ってみてください。」
「んえ?ポケット?・・・?あれ?なんだこれ?」
マスティフはポケットからメモを出すとそれを読んだ。
「・・・『お伝えしたいことがありますのでこの場所にお越し下さい。』って書いてて、その下になんか住所みたいなのが書いてあるぞ?え?こんなの知らねえぞ。」
アシュアやレフィ、じいさんもそのメモを覗き込んでいる。
「今、男が気配を消して近づいてきて、あなたのポケットに入れていきました。」
「俺のポケットに?なんで?」
「あなたというより、じいさんに伝えたかったのでしょう。・・・その男、鑑定魔法をかけたら、オーランド王子の部下の1人のようでした。」
4人は驚いて俺の顔を見てきた。
「っていうか、ユウジン見てたの!?」
「はい。一応スリやひったくり対策でサーチかけてました。そしたら男が近づいて来ているのに気付いたんで、どういう目的か見てました。」
「スリとかひったくり?ユウジン、心配しすぎじゃねえか?いくら治安があんまりよくないからといって、警備兵がちょくちょく巡回しているのにやらないだろう?」
「え?あれ、気付いてないんですか?」
俺が少し離れた後方を指差すと、そこにはロープでぐるぐる巻きにされた男たち数人が警備兵に連れていかれているところだった。
「え?ロープでぐるぐる巻きって・・・もしかして?」
「さっきからちらほらいますから、皆さんの財布に触ると拘束魔法が発動するように罠魔法はってました。あれ全員我々の財布を狙ってたんですよ。」
俺は市場に移動したときからサーチしながらじいさんと俺以外の鞄に罠魔法をはっていた。
じいさんは気配を察知してスられないようにしていたので必要ないなとはらず、俺はアイテムの中に全部入れてるからスられることはないのではってなかった。
「え、ええー!ユウジンありがとう!全然気付かなかったわ・・・!」
「・・・気を付けます。ありがとうございます。」
「さっすがユウジン!」
本来ならスられまくっていた3人は褒めてきたのでなんだか気恥ずかしかった。
人に感謝されるのは慣れてないんだよ、言われ慣れてないし。
「み、皆さん気を付けて下さい。・・・それはそうと、そのメモはどうしますか?行きますか?」
俺は咳払いをするとメモのことを皆に聞いた。
「これか・・・。確実に王子に関係することだろうな。じいさんどうする?」
「うん?わしは行って話を聞いてみてもいいと思うぞ。グラエム王に関することが聞けるかもしれんしな。」
確かにこれから内紛に関わる流れのようだし、グラエム王側だけでなく王子側の話も聞いておきたい。
「俺も賛成です。」
「私も賛成!」
「・・・私も。」
「俺も。ってーとこで、これから行ってみるか。」
「そうするかのう。」
満場一致でメモに書いてあるところに行ってみることとなった。
一応なにがあるかわからないこともあって全員で行くこととした。
 




