悪魔は話を聞く
「これはこれははじめまして!私はこの町の領主をしておりますオスロ・キューシャと申します。」
勢いよく部屋のドアが開けられ、そう言いながら貴族の男性がツカツカとこちらに歩み寄ってきた。
40代くらいの短めの黒髪に茶色の目で、白い豪華な服を着た真面目そうな面長のおじさんはじいさんとガッチリと握手を交わした。
「はじめまして、マリルクロウ・ブラックじゃ。招いていただいてうれしい限りじゃ。」
そして孫のマスティフ、弟子の俺たちを紹介してオスロはじいさんの向かいのソファに座った。
「いやあ、マリルクロウ様の武勇伝を聞いて育った身として、本当にお会いできて感激です。」
「ほっほっ、わしなんて、たいしたことはしておりませんぞ。」
「ご謙遜を。悪魔教の消滅からアイスドラゴンを単身で討伐されたことも有名ですが、私はマリルクロウ様が10才のときにトレントの群生地に突撃していった話が好きでして。」
じいさん10才でなにしてんの!?
「ほっほっほっ、そんなこともありましたなあ。」
ありましたですむのか!?
俺は心の中でツッコんだが、アシュアとレフィとマスティフはなんでもない顔をしていたので、どうやら有名な話のようだ。
改めて、とんでもないじいさんだな・・・。
「そんなマリルクロウ様が旅をされているのに驚きました。"黒の一族"の当主の座を息子様に譲られてからはゆったりと自身のお屋敷で過ごされていると噂を聞いたもので・・・。」
「なに、日がな1日読書などをして過ごしておりましたが、どうも飽きてしまいましての。そんなときにこの孫の指導をすることになりまして、ついでにと旅をしながら有能な者をスカウトして育てることにしましての。それで1週間前にトリズデン王国からこの国に着たところじゃ。」
じいさんはニコニコしながら紅茶を飲んだ。
オスロはちょっと躊躇しながらじいさんに国のことを聞いてきた。
「マリルクロウ様は・・・この国の噂をもう耳にされましたか?」
「この国の噂とは・・・内紛のことかのう?」
オスロはこくりと頷いた。
「そうです。・・・今この国は、大きくグラエム王派かオーランド王子派かで割れています。お2人は元々仲がよろしくなかったのですが、国の方針に対する考え方の違いから対立が激しくなってしまい、ついに王子が反旗を翻るということになったので私たち領主も困っております。」
オスロはため息混じりに困った顔をしてそう言った。
「魔物も増えておるようじゃし、治安も悪くなっているようじゃのう?」
「そうなんです。魔物は兵士が討伐にあたりたいのですが、タイミングを見計らったように王子の支持者が王の支持をしている貴族邸などを襲撃したりしているようなんです。王子の支持者は暴徒化してまして、王派の領主の町を襲って町人が何人も犠牲になったりと。酷いものでは強盗・強姦の被害にあったところもあるそうです。治安が悪いのも、王子の支持者が引き起こしているからもあるのです。」
王子の支持者と言って色々と暴れてるのもいるだろうが、なかなか悪い状況のようだ。
だが、マシリはそこまでな感じもするんだが?
夜道で追い剥ぎには会ったがそれぐらいで、店も普通に営業していたし、住民も暗い感じではあったが普通に生活しているようだし。
ていうか、王子の支持者の悪い評判だけ言っていないか?王派はどうなんだ?
「なかなか大変じゃのう。王の支持者はどうなんじゃ?」
じいさんはどうやら俺と同じことを思ったようで、ちょうど俺の聞きたかったことを聞いてくれた。
「王の支持者は大人しいものですよ。グラエム王は私たち貴族にも兵士たちにも優しいですし、暴徒の犠牲にならないよう国民のことを心配しています。そんな王を支えられて嬉しい限りです。」
なーるほど。
どうやらオスロは王派なようだ。
だから王子の支持者を悪く言ってたのか。
「それはそうと・・・実はですね。」
オスロはおずおずと言ってきた。
「実は、グラエム王にマリルクロウ様がこのマシリに滞在していることや、魔物を討伐したり人助けをしていることを報告させていただいたんです。そしたら、グラエム王が是非ともお会いしたいと言ってきまして。」
じいさんはそれを聞いてニヤリと笑った。
思惑通りにいってグラエム王と会えることになったのだ。
だがそれにしても、国に着て1週間しか経ってないのに、早くないか?
「私の部下に通信魔法が使える者がおりまして。あの、皆様を迎えた執事なのですが。その者に王城に通信させましたら、向こうの通信魔法が使える者が連絡してきたのです。」
あの執事、通信魔法が使えるのか。さすが執事。
そしてどうやら話を聞いて推測すると、通信魔法は伝えることはできても受けることはできないようだ。
送信はできるが受信はできないってことか。
だから送信先にも通信魔法がいて初めて返事がもらえるということなら、役に立つのか?
まあ、情報伝達の速さなら、使者を行かすとか鳥を飛ばすとかより断然速いか。
「確かグラエム王には何年か前に1度会ったことがあるのう。またぜひ会いに行こうかのう。」
じいさんがそうニコニコ笑って返事をすると、オスロはものすごい笑顔になった。
「そうですか!ありがとうございます!早速執事に通信させます。」
その後雑談して、夜になったので夕食をご馳走になった。
急に呼ばれて行ったのにも関わらず、夕食にはフォアグラがのった分厚いステーキが出た。
フォアグラなんてあちらの世界でも食べたことないのに、この世界に来て初めて食べたが、脂がいい感じにのっててうまかった。
隠れてクロ助にも前菜で出た刺身をあげた。
夕食後、グラエム王と会う日程など決まったら執事に通信がくるそうで、宿屋に伝えに来てくれようにしてもらい、少し豪勢な馬車で宿屋まで送ってもらった。
宿屋のじいさんとマスティフの部屋に皆でそのまま移動し、部屋に入るとクロ助がヤレヤレという感じで影から出てきて伸びをした。
「なんか、露骨に王派って感じで話全然入ってこなかったわ。」
アシュアとレフィと俺は近くにあった4人掛けのテーブルのイスにそれぞれ座り、じいさんとマスティフはそれぞれのベッドに腰掛けた。
「だな。あんなに露骨なら、王子の支持者が本当に襲ってるのか怪しく思っちまうよな。」
「まあ、俺らは修行で来てることになってますからね。情報が入ってないとみて、自分達の都合のいい情報しか話さないようにしてるでしょうね。」
「その事じゃが・・・。」
じいさんはちょっと考えながら口を開いた。
「グラエム王の口が軽くなるように、わしらは聞いた情報を鵜呑みにしたフリをして会うことにするぞ。気分よくして、色々と話を聞き出すことができるかもしれん。」
「・・・そうですね。まあ、俺やアシュアやレフィは王城に入れても王と会えるかどうかもわかりませんから、じいさんとマスティフにおだててもらうことになりますね。・・・じいさん、頑張って下さい。」
「え、なんで俺抜かしてんの?」
「そうじゃのう、頑張るとするか。」
「え、無視!?」
その翌日、執事が宿屋にやって来て、「首都に到着次第、王城に来てもらって大丈夫」とのことだった。
ということで、食料など追加でいくつか買って宿屋を引き払い、その日のうちに首都に向かうことにした。




