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悪魔は隣国に行く

それから交代の時間になりじいさんと入れ代わって見張りをした。



最後の見張りの俺は朝食を作りながら皆が起きてくるのを待って、朝日がのぼったところでアシュアとレフィがモゾモゾとテントから出てきた。



「ふあ~、おはよー。ホントに魔物来なかったみたいねえ。すごく静かだったわ。」

「・・・おはようございます。本当に存在の隠蔽というのが効いたのですね。」

2人は実感したようで、口々にそう言ってきた。

「おはようございます。朝ごはんできてますよ。」

俺はパン屋でまとめ買いをしてアイテムに入れていたロールパンを使った、卵サンドとハムサンドと牛乳を勧めた。

「わー!美味しそう!・・・あれ?マリルクロウ様とマスティフは?まだ寝てるのかしら?」

「じいさんは俺と交代したら寝ないでマスティフを叩き起こして、朝の特訓だって言って近くの山に突撃していきましたよ。」

もちろん俺も誘われたが一応見張りなので断った。

マスティフが死んだような目をしてじいさんに引きずられていったなあ・・・。


「大変ね、マスティフ・・・。」

ものすごく哀れな目をアシュアは山に向けていた。

「あのじいさんの孫に産まれたのが運のつきですね。まあ、そのうち帰ってくるでしょう。朝ごはん食べてましょう。」

「そうね。いっただきまーす。」

「・・・いただきます。」

2人はぱくぱく食べてくれて、美味しいと言ってくれた。


食べ終わってテントを片付け、馬に餌をやって暇なので3人で馬2頭のブラッシングをしてあげていた。

その間、山の方で爆発音が何度も聞こえたような気がしたが、気にしない聞こえない。

探索魔法なんてやるのもめんどくさい。



しばらくしてなにかを引きずって上機嫌なじいさんとフラフラでボロボロなマスティフが山の方向から帰ってきた。


「いい朝じゃのう。おはよう。ちょっと奥の方にうまそうな魔物がいたから獲ってきたぞ。」

爽やかなイケじじいはそうぶっ飛んだことを言って、引きずって来たものを見せてくれた・・・。



ものすごいトゲトゲの4メートルもあるワニだった・・・。



「きゃああっ!?ワ、ワニ!?」

アシュアは驚いてレフィの後ろに隠れ、レフィは呆れた顔でじいさんを見ていた。

俺はでかいワニがいたことに驚いて、それを倒してにこやかに引きずって来るじいさんにちょっと引いた。

「ワニ肉は淡白で美味しいんじゃ。ユウジンアイテムに入れといてくれんか?今晩捌いて唐揚げにしてはどうじゃ?」

そういえばあちらの世界でもワニ肉はうまいと聞いたことがあるな。

ちょっとでかすぎだけど。

「そ、そうですね。ワニ肉は美味しいと聞いたことがありますが、食べたことないので興味あります。一応捌くのは首都で教えてもらったりしていたので、手伝わせて下さい。」

俺はそう言って、さっさとアイテムに入れた。


「いや、さっと頼むじいさんもじいさんだけど、それを普通にアイテム入れるユウジンもどうなってんだよ!?アイテムの容量もどうなってんだよ!?」

ヘトヘトでうなだれていたマスティフはすかさず突っ込んできた。

「容量?あのワニが余裕であと10匹は入りますよ。」

「・・・・・・。」

「さて、皆さん揃いましたし、出発しましょうか。じいさんとマスティフは疲れてるでしょうから、レフィに御者をお願いしてもいいですか?」

「・・・わかりました。」



それから出発し、俺はアイテムに入れていたじいさんとマスティフの分の朝ごはんと飲み物を渡して御者の勉強のために御者席の隣に座った。

レフィはじいさんとマスティフと少し手綱の捌きかたが違っているので色々質問した。

走っている道中はやはりサーチかけておかなければならず、途中で魔物に襲われている馬車を助けたりゴブリンの集団を発見したりと忙しい午前中となったような気がする。


そして昼に休憩がてら昼食をとって、そこからはじいさんに指導役として隣に座ってもらって俺が御者をすることとなった。


う~ん、なかなかやってみるとちょっと面白いな。

手綱捌きは自分でもまだまだだが、なにもない走行中は馬に任せっきりだし、指示したらその通りに動いてくれるのが少し楽しい。



そうしてこの日も野宿となって、夕方に俺とじいさん2人がかりでワニを捌いて唐揚げにした。

さすが4メートルというか、肉だけでもかなりの量となったので半分アイテムに入れといてもう半分を唐揚げにして出した。

ワニは骨は使い道がないが皮は防具になるとのことで皮はアイテムに入れて、骨と内蔵は土に埋めた。




そんな感じで西に進み、途中の二手に別れる道を南に曲がって2日目に、トリズデン王国とヴェネリーグ王国との国境沿いにあるクボーの村にたどり着いた。

このクボーの村を抜けるとヴェネリーグ王国に入国となる。


クボーの村はのんびりした田舎、という感じで人口は50人ほどしかいない小さな村だ。

トリズデンとヴェネリーグを行き来する人が必ず通る村ではあるが、そう多く行き来する人がいないようなので、宿屋が2件と飲食店が数件あるくらいで後は農家のようだ。



俺たちは折角村に立ち寄ったので村で1泊して、翌日何事もなく村を出てヴェネリーグに入国した。



「この道を南に2日ほど行けばマキリの町に着くんじゃ。とりあえずはそこを目指そうかのう。」

馬車を走らせながら御者をしているじいさんは隣で御者を学ぶ俺にそう言ってきた。

「その後はどうされるんですか?」

「町の人に聞き込みをして、内紛の状況を確認するとしようかのう。できれば領主がいたら話を聞きたいんじゃが。」


うーん、領主といったら貴族か。

この世界の貴族は7割りはクソ貴族らしいから、期待はあまりしない方がいいかもな。



道を南に進むんで行くが、妙に魔物が多くなったような気がする。

馬車を襲ってくる魔物はトリズデンでは30分に1回くらいの頻度が、ヴェネリーグでは20分に1回くらいにまで増えた。

しかもサーチに結構な数の魔物の反応がある。


どうしてこんなに多いんだ?

「・・・じいさん、明らかに魔物が多くなってますが、心当たりはありますか?」

「おそらく・・・兵士たちが内紛の鎮圧に向かっておって、魔物退治などやっておらんのではないかのう。兵士たちが月に1回でも町や村の周辺の魔物の駆逐をしておればこうも魔物が増えんじゃろうし・・・。まったく、国民を守るのも兵士の立派な仕事なんじゃがのう。」

じいさんは呆れたようにため息をした。



しばらく道を進んでいると前方から戦闘音が聞こえてきた。


「!?・・・誰か戦っておるようだの。」

「本当ですね。様子を見てみますか。」

じいさんは馬車を慎重に進めるようにして、俺は馬車の中の3人に声をかけた。

馬車の窓から3人が顔を出して皆で様子を見ながら進むと、前方に馬車が見えてきてそれに群がる人たちが見えてきた。

群がる人たちはみな武器を手に持った身なりの良くない男たちばかりで20人ほどいて馬車を取り囲み、そんな男たちを数人の男女が馬車を守る形で武器を振るっていた。


「盗賊が馬車を襲っているということでしょうか?」

「おそらくそうじゃろう。明らかに盗賊の方が多くて守っとるもんは不利じゃ。これは加勢した方がいいのう。」

「おっし!やってやるぜ!」

マスティフは気合いを込めてそう言って大剣を準備しだした。


「じいさん、御者変わります。俺は人殺しはしない主義なので、参加しません。なので直前まで馬車を近づけますので、飛び出して倒して下さい。」

「ん?そうか?人殺しはしない主義とは、変わっとるのう。」

じいさんは首を捻りながらそう言ってきたが、人殺しはダメな世界で24年育ってきたから今さら人殺しできるわけがない。

「あ、私もやめておくわ。」

俺とじいさんのやり取りを聞いてアシュアも言ってきた。

でしょうね。あなたそれでも一応姫だからね。


俺は御者を変わると馬に指示を出し、戦っているすぐそばに馬車を止めた。


「!?な、なんだあ!?」

盗賊たちや馬車を守っている男女がこちらに気が付いて驚いているなか、じいさん・マスティフ・レフィが馬車から飛び出して、次々と盗賊を攻撃しだした。

「チッ!邪魔すんな!」

「ぎゃあああっ!」

「ぐわぁっ!?」

じいさんはなんでもない顔で『黒焔』を振ると盗賊の首や手足がスパスパ切れていき、マスティフは大剣を素早く振るって盗賊の腹を捌いたり吹っ飛ばしたりし、レフィは短剣で的確に急所となる心臓や首を突いて、あっという間に盗賊が次々と倒れていった。


「く、くそっ!?ずらかるぞ!!」

「ひぃいいっ!」

盗賊が残り数人になったところで恐れをなした盗賊たちは脇の森林に逃げ出し、あっという間に見えなくなった。

「なんじゃ、逃げ出すとは情けないのう。」

「いや、じいさんを前にしたらみんな逃げ出すって。」

慌てて逃げ出した盗賊たちを見てじいさんが呆れたのを、マスティフが大剣の血を振るいながら突っ込んだ。


「もし、危ないと思って加勢させてもらったりぞ。」

じいさんが刀についた血を降って腰に納めながらにこやかに男女にそう話しかけると、男女は固まっていた。

若い男性と中年の男女2人で、それぞれレザーアーマーを着ていて武器を持ったまま、じいさんを見て驚いていた。


「「「マリルクロウ・ブラック・・・!?」」」


突然の有名人の登場に固まっていたようだ。

「たまたま通りかかって、盗賊に襲われているようだったので、加勢したんじゃが、邪魔したかのう?」

「い、いえ!あ、ありがとうございました!!」

中年の男性がすぐさま気を取り戻してものすごい勢いで頭を下げてきた。

その姿に中年の女性と若い男性が気が付いて2人も頭を下げてきた。


「皆さんお疲れ様でした。はいどうぞ、返り血を拭いて下さい。」

俺は終わったのを見計らって馬車から降りて腰のポーチから出すフリをしてアイテムから布を出して、水魔法で湿らせてじいさんら3人に渡した。

「おお、すまんのう。」

「よかったらあなた方もどうぞ。」

男女にも渡したら戸惑いながらも顔についた血や汚れを拭いていた。

「あれ、よくみたら怪我されてますね、大丈夫ですか?」

返り血かと思ったら男女とも盗賊に切られたようで腕や足に切り傷があった。

「ああ、これくらいの傷はいつものことですから、大丈夫です。それより、布ありがとうございました。」


この男女は話を聞いてみると、ヴェネリーグの冒険者で中年の男女が夫婦で若い男性は息子で、家族でパーティーを組んでいるようだ。

この先のマシリの町に馬車の中の依頼品を運ぶ途中だったそうで、どうやらこの道に待ち伏せていた盗賊に目をつけられ襲われたようだと言っていた。


「あ、あの、マリルクロウ様はなぜここに?それにこの方たちは・・・?」

「これが孫で、その他の有能な若者を鍛えるために旅をしておってのう。それでたまたまヴェネリーグに来たところじゃ。」

じいさんはマスティフを指差してにこやかにそう答えた。


これは事前に話し合って決めたことだ。

「悪魔教の調査です」とも「内紛の状況を見に」とも言ったら警戒されるのは確実なので、「たまたま偶然立ち寄っただけです」アピールのためにそう言うことにしたのだ。


「さて、こやつらの死体をどうするかのう。このままというのはさすがにまずいからのう。」

「道の脇にまとめて土魔法で埋めますか?」

「そうするかのう。」

それからアシュア以外の4人と親子で道の脇に死体を集めて俺の土魔法で埋めて、その間にじいさんは水魔法で道をざっと水洗いした。

アシュアは人の死体を見るのもちょっと苦手のようで馬車から降りてこなかった。


「この国に入って魔物が多い気がしたんじゃが、盗賊も最近多いのかのう?」

「ええ、そうなんです。国の兵士たちは内紛の鎮圧にかかりきりで、魔物退治も盗賊の取り締まりも手が回らないようです。そのせいで国全体の治安も悪くなって、盗賊等の犯罪者が増えてさらに治安が悪くなってと、悪循環になってます・・・。」

中年の男性はそう言ってため息をついた。

どうやら魔物の増加の他に、治安の悪化も進んでいるようだ。


「本当にありがとうございました。」

親子は何度も頭を下げて馬車を走らせてマキリの町へ行った。

「・・・じいさん、マキリの町に行かないんですか?」

なぜか盗賊の逃げていった森林の方を見ながら考え事をしているじいさんに俺は話しかけた。


「その前に寄り道したくなってのう。盗賊が逃げていった森林の奥に、盗賊どものアジトがあるように思ったんじゃが・・・。」

そう言ってじいさんは俺を見てニヤリと笑った。


「ユウジン、逃げていった盗賊が今どこにいるかわかっとりゃせんか?」

マスティフがえっという顔で驚いた顔をして俺を見て来るのを無視して、俺はニコリと笑ってみせた。



「さすがじいさん。盗賊たちは森林の奥に向かって走ってますよ。」





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