67、悪魔は役立つらしい
「罠魔法とは・・・本当に珍しいものをおぬし持っとるのう。」
じいさんは考え深げにそう言ってきた。
「罠魔法ご存じですか?」
「うむ。といっても数十年前に知り合いが使っているのを見たことがあるくらいじゃ。魔法をリンクさせねばならぬし消費魔力がバカでかいからと、知り合いはすぐに使うのをやめていたがの。」
やはり他の魔法よりめんどくさいし消費魔力の問題があるか。
俺は超適性があるからだいぶ少なくてすんでるけど、なかったらどうなっていたかわからないな。
おっと。首をひねっている3人に説明しないと。
「罠魔法は他の魔法とリンクすることで初めて使えます。例えば、地面に罠魔法で火魔法ファイアをリンクして、罠を踏んだら発動するように設定してそれではじめて罠が張れます。それをいちいち考えるのがめんどくさいというのと、消費魔力が罠魔法分とリンクした魔法の半分の分が消費されるから、だったら単純にファイア撃った方が楽となったのでしょう。」
「なるほど~。ユウジンはなんで使ってるの?」
「俺の性格に合ってると思ったからです。それに俺は罠魔法にとんでもなく適性があるようですから、消費魔力は唱えようが無詠唱だろうが罠魔法分は1しか消費しませんからね。」
それを聞いてじいさんがものすごく驚いていた。
「なんと!?1しか消費しないとな!?それはすごい!」
「な!じいさん、ユウジンすごいだろ!?」
なぜマスティフが自慢気なんだ?
「俺の罠魔法は俺の視角内ならどこでも張れますし、過去に触れたところも張れます。それを多重魔法と組み合わせたら、一瞬で視角内全域に罠を張ることが可能ということです。多重魔法は今のところ最高50までできます。これを無詠唱でやれば、俺は攻撃を仕掛けなくても歩かなくても敵は動くだけで勝手にダメージを受けてくれるって最高でしょ?」
俺は本当にそう思って微笑んだんだが、ちょっとみんな引いてた。
「その他は・・・拘束できる拘束魔法に隠蔽できる隠蔽魔法、鑑定魔法とアイテム収納魔法もそのままですね。あと解説が必要なのは探索魔法ですかね。」
「探索魔法?そんな魔法聞いたことないけど。」
「つい最近正式に魔法に採用されたものですからね。冒険者の間では夜間の見張りとかで殺気とか感じ取れる感覚に魔力を繋げて周囲に広げるアレです。」
「あー、アレか。でもアレ出来るのに何年もかかる奴だから、魔法になってくれたら夜間の見張りが助かるな。でもそれ以外は役に立つのか?」
「は?とても役に立つじゃないですか。人探しとか、どこの建物のどこにいるかとか。昼間は今みたいに移動してる時とかに広げながら行ったら、どこにどんな魔物がいるかわかるじゃないですか。」
俺がそう言うと、マスティフはぽかんとした顔をした。
じいさんも目を見張っている。
ん?なんだ?
「え?なんか俺、変なこと言いましたか?皆さんやってることですよね?」
「はああっ!?なに言ってんだよ!?そんなのできるわけねえじゃん!」
「え?できない?では昼間は自分の目で辺りを見ながら移動してるんですか?」
「それが当たり前だよ。それに街の中でソレやること自体、考えたこともなかったし、やったとしても100メートルが限界だし。」
は!?100メートルが限界!?
「え?ホントですか?・・・では東の方向、200メートル先からゴブリンが3匹こちらに向かってきてるのもわからないんですか?」
「はあ!?ゴブリン来てんのか!?200メートル!?」
マスティフは慌てて大剣をとると東に駆け出した。
しばらくしてマスティフが帰ってきた。
「ホントにゴブリン3匹いた。おいおい、こんな使い方思い付かなかったぞ!やっぱすごいなユウジン!」
またまたキラキラした目で見てきた。
俺としてはなんで使ってないのかという意味で呆れた。
「ユウジンは使い方も面白いが、広範囲なのとなんの魔物かとかわかるのがよいのう。最高はどこまでわかるのじゃ?」
「ちょっと頑張ったら5キロはいけますよ。」
「なんと!?5キロ!?」
「もっと意識したら、魔物だけじゃなくて範囲内にいる生物がわかるようになります。・・・ここから北に1キロ行った森の中で鹿が昼寝してますし、南に3キロの山でカブトムシが羽化しそうになってますし・・・、すぐそこにネズミの巣があります。母親と子供3匹がいますよ。」
俺がそう言って近くの原っぱの中を指差すと、アシュアがそこにゆっくりと近づいて覗きこんだ。
「わっ!ホント!ネズミの巣があるし大人のネズミと子供のネズミ3匹いる!すごーい、ユウジン!」
アシュアは感覚と魔力を繋げて広げるということが難しいということをいまいちわかっていないようで、素直にすごいとはしゃいでいた。
難しいのを理解しているマスティフとじいさんはぽかんとして、レフィは固まっている。
「因みに俺よりレベルが高い魔物や人は詳細がわからないですし、それから隠蔽魔法持ちはもやがかかったようになって魔物か人かもわかりません。」
「ほう、ではわしはわからんか。」
「ええ、もやがかかってますし俺よりレベルが高いですから。でもそれくらいで、結構役に立つでしょう?」
すると皆が呆れて見てきた。
「いや、むしろユウジン自身が役に立ちすぎよ。」
「え?俺がですか?」
皆が使い方を工夫すればこれくらいできると思うんだがなあ。
「そうそう!だからよ!やっぱ俺とパーティー組もうぜ!」
「嫌です。」
なにがやっぱだ。俺は1人がいいんだよ。
それからは馬車の移動中は必然的に頼りにされて、俺はサーチを気にしながら御者を学ばなくてはならなくなって、非常にやりにくかった。
戦うのはめんどくさかったので、馬車の中にいる誰かに向かわせて、それでもめんどくさかったら視角に入るまでほっといて罠魔法で倒した。
そして夕方になり、夜間の移動は危険ということで、道の脇の開けたところに馬車を停めて今日はここで野宿をするようだ。
「あ、テントは知り合いの冒険者が数回ですが使ったやつをもらったのがありますよ。」
"金の栄光"が使っていたテントをそんままアイテムに入れっぱなしだったので、ちょうど男女別にテントあるなと出した。
そしてアシュアとレフィの女テントとじいさんと孫の男テントという配置になり、俺はクロ助と自分用のテントに泊まることとなった。
馬2頭は馬車から離してやるとすぐ近くの木の下に向かったので、そこが気に入ったのかと餌の藁と水を置いといたらハミハミ食べていた。
「食料も結構買ってありますし、今晩はなんか作りましょうか?」
「え!?ユウジン、料理出来るの!?」
「ええ。一応一通りは出来ますし、首都では調理の依頼もやったりしてましたからね。味は普通ですけど。」
そして俺は皆に薪になりそうな木を拾ってきてもらい焚き火を用意してもらい、焚き火と火魔法で調整しながらさっと野菜炒めを作った。
アイテムの中にある味噌汁とご飯を付けて皆に食べさせたらとても好評だった。
そりゃそうだ。アイテム収納魔法がない限りちゃんとした飯を野宿で食べるのは難しいからな。
食後。
「さて、夜の見張りはどうする?2人ずつの3交代制にするか?」
「それでいいんじゃない?」
「は?え?・・・隠蔽魔法があるから、見張りいらないじゃないですか。」
俺の一言にまた皆がぽかんとした。
「え?ユウジン、どういうことだ?」
「だから、隠蔽魔法で存在を隠蔽したら魔物から認識されませんから、見張りいなくても襲われることないじゃないですか。」
「「「「・・・・・・は?」」」」
珍しくレフィまでもが声をあげていた。
え?うん?
「え?・・・もしかして皆さん、特にじいさんも、隠蔽魔法はステータスの隠蔽にしか使ってないんですか?」
「うむ。・・・普通そうじゃないのか?」
はあ!?マジか!?
こんな有能な魔法なのに!?
「隠蔽魔法はステータスの隠蔽だけの魔法じゃありませんよ。色々隠すことが出来る優秀な魔法です。今言った存在の隠蔽で、身を隠すことが出来ますし。」
そう言って俺は自分に隠蔽魔法を無詠唱でかけた。
「!?あれ!?ユウジンが消えた!?」
アシュアが驚いて声をあげたところで隠蔽魔法を解除した。
「部屋全体に音の隠蔽ということでかければ、話が部屋の外に漏れることはないですし、その他視覚の隠蔽で敵の視力を奪ったり出来ます。」
「なるほど。そんな使い方があったとは驚きじゃ。」
じいさんは感心して何度も頷いた。
「例えばじいさんが顔バレが面倒と思う場面があったりしたら、顔にだけ隠蔽魔法を掛けたら誰だか認識できないようになりますからいいですしね。」
「ほう!それはいいことを聞いた。」
やっぱりじいさんは面倒と思う場面があるようだ。
有名人はいつもニコニコしてなきゃいけないだろうし、大変なんだな。
「でも本当にその、存在の隠蔽で魔物に襲われないの?」
「俺は1人で野宿のときは必ず使ってます。魔物も無意識に避けるみたいで近づいても来ないですよ。まあ、知らなかったのなら信じられないでしょう。試しに存在の隠蔽をかけた状態で、今夜は交代で見張りをしてみますか?」
皆ちょっと半信半疑なようなので今夜だけ見張りの提案をしたら、皆それでいいと頷いた。
なので女子2人→マスティフ→じいさん→俺の順番に1時間半ずつの交代となった。
「あ、ではそれぞれの起きる時間に微弱の雷魔法が流れるように枕に罠魔法かけときましょうか。俺がマスティフに叩き起こされる前までこれで起きてましたから、痛くはないですよ。」
「え!?そんな使い方をしてるの!?」
「斬新な罠魔法の使い方じゃのう・・・。」
じいさんはちょっと呆れていた。
「つか、ユウジン有能過ぎだよ!やっぱパーティー組んでくれよ!」
「嫌です。」
なにどさくさに紛れて誘ってくるんだよ。
そして全部のテントや馬車や馬を一緒くたに隠蔽魔法を張って、寝る前にテント内でちょっと操剣の練習をして寝た。
突然のお披露目会は、ただ単に主人公の有能っぷりにみんながぽかんとしているのを作者が書きたかっただけです。
はよヴェネリーグ行けや。