55、悪魔は相手する
首都スクリュスクのすぐ南にある原っぱ。
なんだかんだで毎朝マスティフに付き合わされて、ここか宿屋の裏庭で模擬戦やってるから新鮮味もなにもないが、本来は人もほとんど来ないところだ。
だからここでギルドの試験が行われるのだろうな。
そして今日から始まる1週間の特訓の舞台に選ばれたわけだ。
"夜の疾風"の4人も少しキョロキョロしていたが、原っぱの真ん中辺りに来るといそいそとゼノアとリタが距離をとって、シャルルとワルツがそれぞれの武器を手に取り出した。
「すいません、リタ。クロ助を預かっていただけますか?」
「はい、いいですよ。うわ~!フワフワで毛並みきれい~!」
クロ助を抱いたリタはそう言ってクロ助の毛並みに夢中になっていた。
クロ助は毛並みを褒められて機嫌良く撫でられていた。
「ちょっとリタ!こっちに集中しなさいよ!」
「ごめんごめん。ついかわいくって。」
シャルルに怒られてもリタはクロ助を撫でていた。
「さて。お2人とも、準備はよろしいですか?」
俺が声をかけるとシャルルとワルツは頷いた。
「ええ、いいわよ。・・・あなたも武器をかまえたら?」
「そうですねえ・・・。俺は・・・。」
ここで俺が魔法剣を使ってもいいけど、そうは言っても俺も勉強中だし、2人に怪我させてしまう可能性があるからなあ。
同じ理由でナイフもダメ。
なら・・・代わりになる木の棒とかどうかな?
俺は周りを見回すと、頼りない細い木の枝が1本近くに落ちていた。
それを拾い上げるとちょっと軽く振ってみた。
・・・うん、まあ、大丈夫だろ。
「俺はこれにします。これをナイフ代わりにしてお2人の攻撃をお受けすることにしましょう。」
俺がそう言うと、シャルルがカチンときたようで、見る間にものすごく機嫌が悪くなった。
「へえ、私らのことマジで舐めてるでしょ・・・!?そんな枝なんて数秒で切れるわよ。」
「数秒ですか。切れたらいいですね。」
俺が呑気に微笑んでそう言うとシャルルは余計に怒りだした。
「行くわよ、ワルツ!しっかり援護してよ!」
「お、おう!」
そしてシャルルは身を屈めて勢いよくこちらに走り寄ってきた。
2本の短剣を逆手に持って腕を大きく振って切りつけてきたが、俺は1歩後ろに引くことで避けた。
避けられると思ってなかったのかシャルルはそこで攻撃が止まり、そこへワルツの魔法が来た。
『我が前の敵を切り裂け、ウインドカッター』
ワルツがそう唱えると杖から勢いよく風の刃が出てきたが、俺のいる位置から少しそれて通り抜けていった。
「・・・ふうむ、なるほど。」
俺は持っていた枝を振り上げる動作をすると、シャルルが短剣をクロスして防御の体制をとったので振り下ろすと見せかけて足をかけた。
「きゃっ!?」
転びそうになったのを立て直してまた切りつけて来たが、先程と同じ大振りだったので避けながら枝でシャルルの手を叩くと驚いてナイフを落とした。
シャルルは慌ててナイフを拾おうとしたので、俺は落ちたナイフを足で踏みつけるとシャルルはものすごく睨んできた。
『わ、我が前の敵を打て、サンダー』
ワルツが援護のつもりで慌てて雷魔法を唱え、杖から雷が出てこちらに向かってきたが、慌てていたためか少し範囲が狂ってしまってシャルルの間近に落ちた。
「ちょっとワルツ!危ないじゃないの!」
「ご、ごめん!」
「近くで戦闘中に目をそらしたら危ないですよ。」
シャルルが振り返ってワルツに怒っている隙に近づいて枝でシャルルのもう一方の手を叩いてナイフを落とさせた。
「あっ!」
「はい、シャルルは死にました。」
シャルルが視線を戻した時には、俺は枝の先をシャルルの喉に突き付けていた。
シャルルは悔しそうに表情を歪め、その場に座り込んだ。
「次はワルツ、いきますよ。」
「わあっ!?」
急に名前を呼ばれたワルツは驚いて声をあげたがすぐに杖を構え、魔法を唱えてきた。
『我が前の敵を射て、ウインドカッター』
風の刃が飛んできたが、やはり標準が定まってないようで、方向がずれている。
俺は軽く避けながらワルツに近づいて枝で攻撃してみた。
ワルツは「わああっ」と言いながらも杖で防いでこちらに振りかぶってきた。
それを避けて頭をポコンと枝で叩いたら転んでしりもちをついた。
「はい、これでワルツも死にました。」
俺はワルツの額に枝の先を突き付けて言った。
ワルツは悔しげに俯いた。
終わったから枝をぽいっと放ると、邪魔になるかと静かに見ていたゼノアとリタがおおっ!と歓声をあげて拍手してきた。
「シャルルは反応速度が素早くてよかったです。攻撃・防御共に反応が早かった。ですが、最初の攻撃で大振り過ぎだし、避けられたからといって攻撃を止めたら相手に攻撃のチャンスをあげているのであそこは攻撃を止めないか、後退して様子を見るかですね。後、煽られても簡単に怒らないように冷静になりましょうね。」
「えっ!?さ、最初のはもしかして・・・わざと!?」
「もちろんです。勝ち気な性格は負けず嫌いにも繋がりますから、あなたの頑張りや努力にいい影響が出るでしょうけど、相手からすれば煽れば倒しやすいとバレやすいです。頭に来ても冷静になるように気を付けましょう。」
「うぅっ・・・。」
過去にそういう目にあったことがあるのか、シャルルはばつの悪い顔をしていた。
「ワルツはシャルルの援護を良くできていましたし、杖術はよかったですが、慌てて標準が定まってないので目標をどこにするかまでイメージできてないのではないですか?落ち着いてしっかりどこにどういう感じで当てたいかイメージをしっかりさせるようにしたらいいと思います。」
「は、はい・・・。」
ワルツは申し訳なさそうにうなだれた。
「あ、それとシャルル、あの雷は危なかったですがちゃんとワルツは援護できていたので後でお礼を言ってくださいね。同じ仲間でも「ありがとう」とか「ごめんなさい」とかそういうのは大事だと思いますよ。」
「も、もちろん言うつもりよ!」
また勝ち気が出てるなあ。
「すごかったです!ユウジンさん!」
「さすがです!」
ゼノアとリタがすっ飛んできて俺を称賛してきた。
「シャルルもワルツもわかったでしょ?ユウジンさんが強いって。」
「た、たまたま負けだだけよ。魔法使いだと聞いてたから魔法が来るかと思ってたら違ってて驚いただけよ。」
「またそんな強がり言って・・・。でも本当、魔法を使わなかったんですね、ユウジンさん。」
リタは俺にクロ助を渡しながらそう言ってきた。
「ありがとうございます。・・・魔法をつかうともっと早く終わっちゃうんで今回は使わなかっただけですよ。」
俺はクロ助を肩に乗せながら言うと、シャルルがキッと見てきた。
「・・・そんなこと言って、本当はたいした魔法使えないんじゃないの?はんっ」
なぜこの子はこうも勝ち気な発言ばかりなんだろう?
「ははっ、そんなことないですよ。ほらっ」
突然、シャルルとワルツの足元からロープが出てきてひとりでにぐるぐる巻きにして2人は地面に転んだ。
「きゃあっ!?」
「わっ!?なに!?」
転んだところになにもない空中から鉄の剣が2本出てきて、2人の首のすぐ横の地面にストンと刺さった。
シャルルとワルツの足元に罠魔法で拘束魔法をリンクさせたのをはって発動させて、ぐるぐる巻きにして転ばしたら続けて罠魔法でアイテム収納魔法の中の鉄の剣をリンクさせて首の近くに落ちるように調整して発動させたのだ。
これらはすべていつものように、なんの魔法かわからせないようにするために無詠唱でやった。
「ね?早く終わるでしょう?」
俺がにこやかに言うと全員ぽかんとした表情で俺を見てきた。
あれ?ちょっと刺激が強すぎたかなあ?
 




