50、悪魔は振り返る
「・・・なんだ、つまらないですねえ。」
俺は姿は隠蔽魔法で隠したまま、声だけ聞こえるようにしてそう呟いた。
遡ること昨日。
ギルドの会議室で俺は警備兵長にお願いをしていた。
「警備兵の制服を貸していただけませんか?」
「警備兵の制服?なんでそんなもん必要なんだ?」
マスティフは首を傾げて俺に聞いてきた。
「皆さん有名人ですから、自由に歩き回れないでしょう?俺なら会場全体を自由に歩き回れますから、異変を発見しやすいですし、何かありましたらすぐに駆けつけられます。しかしこの格好で歩き回っては逆に俺が不審に見られてしまいますので、警備兵として歩き回ったらいいかと思います。」
「なるほど。確かに私たちに挨拶してくる貴族とかいるでしょうから、おいそれと歩き回れないわね。」
ギルマスのサルフェーニアが頷いて賛同してきた。
「わかった。ではすぐに制服を用意しよう。明日朝には渡せるようにする。」
警備兵長のエジテスも納得したようでそう言ってくれた。
「ありがとうございます。」
俺はいつもの笑顔でお礼を言った。
よし、これで好きに動き回れるぞ。
この制服は皆が思っている以上に活躍することだろう。
それから細かい打ち合わせをして、解散となった。
俺は用事があるとさっさと"黒の流星"と別れると怪しい依頼で行ったスラムの家に向かい、隠蔽魔法で存在を隠蔽して中に忍び込んだ。
なにか打ち合わせでもするかもしれないと来てみたのだが、様子を見ていると昼頃にどんどんと人がやって来て、15人ほどの男女が集まった。
警備兵が増員されたことに伴い、こちらも増やしたようでこの15人の男女はスラムで適当に集めたようだ。
全員に警備兵の制服を渡して爆発の魔石の説明などの打ち合わせをした。
パーティーの終盤にまず会場の出入り口を爆破して会場を封鎖して、警備兵が中に入れないようにし、離れた場所2ヵ所を爆破して警備兵を分散させる。
それを合図に中の「あの方」が例の者を連れ出すので、その間に近衛騎士たちを足止めし、頃合いを見てまた離れた場所2ヵ所を爆破して注意を引く。そして「あの方」が城から例の者を連れ出したら他の警備兵に紛れて城から抜け出す、という流れのようだ。
15人はその後、簡単な配置を決めるとすぐに解散となった。
なるほど。誘拐の流れはわかった。
後はこの通りに行くか、だな。
これを近くで見たくて俺も警備兵の格好をするんだ。
面白いことになってくれよ。
そしてパーティー当日。
俺は警備兵の制服を着て城に来ていた。
クロ助はついてきたそうにしていたが、激しく動き回る可能性もあるのでローズさんに預かってもらうことにした。
ローズさんはものすごく喜んでいた。クロ助は引いていたが。
「あの方」ことロベルド・サイファーはパーティー1時間前にも関わらず、すでに城に来ていたのがサーチでわかったので、部屋の警備兵と変わってもらって警備をするフリをして部屋の中の様子を伺っていた。
・・・へえ、あのタムズという男が脅迫文を送ったのか。
同じ悪魔教信者ねえ。
そしてタムズは今回の誘拐に疑問を持って思い止まるようにということで、脅迫文を送ったというわけか。
・・・は!?誘拐相手は・・・ルナメイアだと!?
最高指導者様というやつの指示?
はあ、なかなかめんどくさいことになりそうな予感だな。
あ、めんどくさいとか思ってたらタムズが紅茶を飲んで倒れた。
例の睡眠薬か?
あ、・・・ロベルドが刺し殺した。
まあ、計画に邪魔だからな。さすがにここで殺すとは思わなかったが。
・・・やばっ、こっち来る!
「タムズ殿が緊張で体調を崩されて横になっている。顔色も悪かったから、そのままにしてやってくれ。」
「わかりました!」
俺は元気よく返事して、なにも気付いてないフリをした。
ロベルドはなにも気付いてないなという、嘲笑うようにニヤニヤした笑顔で会場に向かって行った。
俺は隠蔽魔法でタムズの死体を隠蔽すると、パーティー終盤までの間に歩き回って爆発魔法の籠った魔石を持っている警備兵の配置を確認した。
前日の打ち合わせで誰が持つか誰が割るか担当を決めていたので、俺はそいつらを覚えといたのであっさりと見つけた。
そして会場の出入り口に配置している警備兵の中に魔石を持っている男を見つけて物陰から様子を見ていると、パーティー終盤にそいつは魔石を床に叩きつけて割った。
ドオオォォン!
魔石は割れたが、爆発音だけが辺りに響いた。
「は!?」
魔石を割った男が呆気にとられていると魔石の欠片が散らばる床からロープが飛び出してきて、男の体をぐるぐるひとりでに巻いた。
「な、なんだ!?」
男はパニックになって暴れるがロープはまったく外れない。
そうこうしているうちに音を聞き付けた他の警備兵がやって来た。
「なんだなんだ!?どうしたんだ!?」
「なんだ今の爆発音は!?」
「その男が会場を爆破しようとしていたぞ!」
俺が大声でそう言ってやると、警備兵たちは慌てて男を掴んで問い詰めていた。
「おい!お前、本当か!?」
「ああ、いや、俺は・・・その・・・。」
「おい、こんなやつ警備兵にいたか?怪しいな・・・。」
ドオオォォン!
ドオオォォン!
どこか離れた場所で爆発音が響いた。
「な、なんだ!?あっちもか!?」
警備兵は慌ただしく数人が走って行って、残った数人がロープでぐるぐる巻きの男をどこかに連れていった。
あの魔石に仕込んでおいた俺の罠魔法はちゃんと発動したようだ。
あの魔石に、俺は2つの罠魔法を付けておいたのだ。
1つは爆発した瞬間に音以外を隠蔽する隠蔽魔法と、割った者をロープで捕まえる拘束魔法を付けておいたのだ。
音は中のロベルドに計画を進めてもらうために爆発したと認識させるためと、音で本物の警備兵を呼び寄せるためだ。
さて、こちらもこちらで動いとくか。
俺はあらかじめ把握していた会場の別の出入り口から会場に入ると、ギルマスのサルフェーニアとエジテスのもとに向かった。
2人が会場内のどこにいるかはサーチでわかっていたのでさっさと見つけ出すと、俺の顔を隠蔽魔法で認識できないようにした。
「警備兵長!」
「む?警備兵か。今の爆発音はなんだ?」
「おそらくイタズラではないかと。爆発音を出していた不審な者は現在数名発見され、拘束しています。それから、2階の部屋に貴族の死体を発見しました。」
「イタズラか。犯人が確保されているならよかった。貴族の死体というのは?」
「どうやら殺されたようで、刺された傷があります。それでちょっと、おかしなところがありますので、部屋に来ていただけないかと。」
「おかしなところ?・・・わかった。案内してくれ。」
「私も気になるから、一緒に行くわ。」
「はい!ありがとうございます。こちらです。」
どうやら2人は普通の警備兵と思っていて、俺とは気付いてないようだ。
2人は俺の案内で2階の部屋に向かった。
案内したのは、タムズの死体がある部屋だ。
「こちらです。」
中に入った俺はタムズの死体にかけていた隠蔽魔法を解いて、2人に見せた。
2人はふむふむと死体を覗きこんで検分し始めたので、静かに俺は部屋のドアに手をかけて素早く部屋から出て、拘束魔法で部屋全体を拘束した。
申し訳ないが、有能な2人にロベルドの邪魔はされたくないんでね。
俺の楽しみが減っちゃうからな。
ていうか、こんな有能な2人がいることにロベルドが気付いてないってどうなのよ?
この2人なら、すぐに計画に気付く可能性があるぞ。
2人はすぐに部屋が閉まっていることに気が付いて、ドアを叩いたり魔法で部屋を壊そうとしているようだったが、すぐには解かれないはずだ。
まあ、でも急いだ方がいいか。
ドオオォォン!
ドオオォォン!
お、これで5つの魔石はなくなった。
さてさて、ロベルドとルナメイアは・・・。
サーチするとすぐ近くの部屋にいることがわかった。
今回はサーチが大活躍だな。
急ぎ足で向かい、部屋の中の様子を伺うとロベルドがなんとかルナメイアを城から連れ出そうとしているようだった。
・・・が、なんだその説得。
「危険です!」しか言ってないし。
それじゃあルナメイアも不審がるぞ。
あー、やっぱり疑われた。
このままじゃあ、面白いことにならないじゃないか。
・・・しょうがない。俺が出るか。
俺は改めて顔に隠蔽魔法がかかっているのを確かめると、ドアをノックして勢いよく入った。
そしてロベルドの話に合わせてルナメイアに近衛騎士長の伝言という風にして話した。
そのおかげでルナメイアは信じて、ロベルドは俺が部下が雇った味方だと思ってくれた。
そして城から出ることになり、俺は一応2人についていくことにした。
ハッキリ言ってロベルドが甘いところもあるからだ。
現にルナメイアをそのまま城から連れ出そうとしたので、俺は慌てて『不滅の外套』を出して適当なことを言ってルナメイアに被らせた。
ロベルドはさすがだという目で見てきたが、こいつ頭悪いなあ。
城から出て馬車に乗ったルナメイアは睡眠薬入りの水を飲んで倒れた。
ロベルドはご苦労だったと言ってきて、後は適当に解散してくれと言ってきた。
残念だが、おそらくあんたの部下は今頃皆捕まってるかもな。
俺は適当に相づちして、ロベルドが御者席に座っているうちに隠蔽魔法を使って存在を隠蔽して馬車に乗り込んだ。
そしてロベルドが屋敷に着いて小屋にルナメイアを運び込んで、通信魔法で話してる間ずっと近くで聞いていたというわけだ。
だが、俺は正直がっかりした。
だって・・・悪魔を見れると思っていたのに・・・!




