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45、悪魔は好かれる

「あ、あの・・・よろしければ、お名前を教えていただけませんでしょうか?」



とんでもない美女がもじもじしながら聞いてきた。


「も、申し訳ありません。本当に、しがないただの冒険者なので姫様のお耳に入れるほどの名でもありません。」

「ですが、助けていただいた方のお名前もわからないとは、それでは感謝もできませんわ。」

「それは先ほど言っていただいたお言葉で十分です。それ以上は身に余るお言葉かと思います。」

「・・・でしたらなにかお礼をさせてくださいませ。」

「いえいえ、お礼がほしくて助けたわけではありません。困ったとき助け合うのは当然のことです。」


俺はルナメイアの積極性を笑顔で避けつつ、近衛騎士に助けてと視線を送った。

近衛騎士長はハッとすると慌てて姫に近づいてきた。

「姫様、この者もこうして言っております。後は我らに任せて首都へ移動しましょう。」


「・・・わかりました。」

ルナメイアは残念そうに了承すると、俺に一礼して馬車に戻っていった。



「いやあ・・・、姫様の近衛騎士になって10年以上だが、あんな姿初めて見たよ。」

俺が立ち上がりクロ助を肩に乗せると近衛騎士長はそう言って頭をポリポリかいて苦笑してきた。

「俺も驚きました。・・・でもまあ、助けられた一時的なものでしょう。」

「まあ、恐らくそうだろうな。そうは言っても助けられたのは事実、本当にお礼はなくていいのか?」

「はい。俺は冒険者やって困らない程度に生活はできてますし。今のところこれ以上は望むものがありませんから。」

「そうか・・・。だが、もしなにか今後、困ったことがあったら城を訪ねてきてくれ。」

「ありがとうございます。」



そうして馬車と近衛騎士たちは首都へ向かって行ってしまった。


ルナメイアが馬車の小窓を開けて俺を見てきていたが、俺は気付かないフリをして頭を下げ見送った。



「・・・さて、俺たちも首都に帰りましょう。なんか精神的に疲れました。」



そうして夕方に首都に帰ることができ、依頼人に宝石を渡してギルドに寄って報酬をもらって宿屋に帰った。



今日は・・・うん。

ものすごい美人だったな。

あんなものすごいのに俺に一時的でも惚れるなんて・・・。

貴族とかにイケメンとかいるだろうからそっちにいきそうなもんなのに、俺に惚れなくても。

っていうか、王族なんだから許嫁いるだろうに。

まあ、人から好意を持たれるのは嫌ではないけど、美人過ぎていまいち信じられないというか・・・。

俺はというと昔から恋愛に興味がないからなあ。

おかげで初恋もしたことがないし。

童貞だし。


童貞にものすごい美人は、逆に現実味を感じないようだ。





翌日、朝から突撃してきたマスティフを魔法でボコボコにして一緒に朝食セットを食っていると、マスティフがそうだ、と話し出した。


「今ちょっとめんどくさそうな依頼を頼まれててさ。ユウジン、協力してくんないかなあ?」

「めんどくさそうな依頼ですか。どんな内容です?」

「3日後に城でパーティーがあってさ、それに"黒の流星"で呼ばれてんだよ。王様主催のパーティーでそこでお褒めの言葉をもらうってことでさ。だけどそのパーティーを中止しろって脅迫文が送られてきたらしいんだよ。」

「へえ、もしかしてその犯人探しが依頼ですか?」

「いんや。犯人探しは兵士や警備兵のお偉方がやってるらしいんだ。俺らはパーティー開催中なにかあったときの参加者の警護をしてほしいんだと。」

なにがあるかわからないのに参加者の警護とは、ざっくりしてるけどヘマしたら責められるな。

そういう意味でめんどくさい依頼か。


「今のところ俺らが知ってるのはそれくらいなんだよ。明後日に冒険者ギルドに行ってギルマスから直接詳細を聞くことになってんだ。なあ、どうだ?やらねえか?」


俺は笑顔で言った。



「お断りします。」



マスティフはえー!と不満顔だ。

「まず、俺がその依頼を受けるメリットがないですね。城のパーティーをランクDの俺が警護というのもおかしな話ですしね。だったら高ランクの冒険者に頼んだ方が警護される側としてもいいでしょう?」

「メリットはまあ、報酬が割高なくらいと貴族や王族にもしかしたら会えるかもしれないってとこかな。パーティーでいちいちランク聞かれることはないから、そこまで気にするやつはいないと思うんだけどなあ。」

「お金は正直そこまで困ってませんし、貴族や王族なんて厄介な人種に会いたくないですね。まあ、1番の理由はめんどくさい依頼だからですかね。俺は箱の依頼をやってる方がよっぽど面白いですけどね。」

「そっか・・・まあ、しゃあねえわな。俺らでやってみるわ。」


マスティフは残念そうに言うと、サラサラっと朝食セットを完食してじゃあな!と言って食堂から出ていった。


「やんないのかい?ユウジン。」

ローズさんが近くのテーブルを拭きながら言ってきた。

「ローズさん、聞いてたんですか?聞いた通り、なんだかめんどくさい依頼でしたからね。わざわざやる理由がないですもん。」

「そうかい?ユウジンはルナメイア様を近くで見たくないのかい?」

急にルナメイアの名が出たので、思わず飲んでいたお茶を吹き出しそうになった。


「ル、ルナメイア様ですか?」

「ユウジン、もしかして知らないのかい?国王様の3番目のお子様で長女なんだけど。確か・・・21か22歳だったかしら、もーーのすごいお美しくて国内外で有名な姫様さ。」

もーーのすごいお美しいのは知ってる、昨日会ったから。

そりゃあのとんでもなさなら国内外で有名だろうな。

というか、3番目で長女ね。

ということはルナメイアの上に2人兄がいるということか。

「いつもはここから西に行ったカサブラの町にいて、なんかの研究をしているらしいけど近いうちにやる国王主催のパーティーに呼ばれたらしくて昨日来たそうよ。さっそくたくさんの貴族が騒いでたみたいだし。」

「貴族が騒いでたというのは?」

「国王の方針で許嫁ってのがないのよ。恋愛したもの同士が結婚するべきだってことで。だから貴族皆にルナメイア様と結婚できるチャンスがあるってことになるでしょ。しかもルナメイア様は未だに独身で恋人も今までいないときたら、あわよくばって貴族が毎日のように口説きに押し掛けたり贈り物をしてくるそうなのよ。それが嫌でルナメイア様はカサブラに行っちゃったのもあるのんだけど、昨日首都に着いたでしょ?だからまた押し掛けたりしてるらしいわ。そういう意味ではルナメイア様がかわいそうなんだけど。」

ふむ、美人もなかなか大変そうだ。

ていうか、許嫁いないのかよ。

王様が適当にでも許嫁決めといたら貴族に押し掛けられることもなかったんじゃないのか?


「ね?興味わかないかい?」

「うう~ん、俺はもともと恋愛に興味がないですからねえ。普通の依頼をやってた方が楽しいです。」

俺が苦笑いしてそう言うと、なんだそうかい、とつまんなそうにローズさんが言っていた。





だが俺は3日後、そのパーティーに行くことになることをもちろんこのときは知らなかった。





********




スクリュスクの城のある一室。



豪華な調度品や家具がセンスよく並べられた部屋の中は、しんと静まりかえっていた。

大きな窓辺に備え付けられているイスに座って、ルナメイアは静かに紅茶を飲み、窓の外にうつる木々や遠くに見える山や空を眺め、物思いにふけっていた。

物思いにふけるその姿ですら1枚の絵画のように美しく、部屋のドアの前で控えるメイドですら見惚れるほどだった。



コンコン、とドアをノックする音が響き近衛騎士長が入ってきた。



「失礼します。姫様、本日も朝から面会希望の貴族が来ておりますが、いかがなさいますか?」

ルナメイアは眉を潜め、ゆっくりと首を振った。

「全員お断りしてください。」

「わかりました。また、ものすごい量の贈り物も来ておりますが・・・。」

「それらの贈り物もいつものように全員に送り返して下さい。」

「承知いたしました。」

近衛騎士長はそう言って一礼して部屋から出ていった。


それからすぐに、またドアがノックされ、今度はメイドが入ってきた。


「失礼します。姫様、妹君のアシュリート様がお会いしたいそうです。」

するとルナメイアは微笑んで「通して下さい。」と言った。


メイドの案内で、アシュリートが部屋に入ると、ルナメイアは立ち上がった。

「お姉様!」

アシュリートは赤いきれいなドレスを気にすることなくルナメイアに走り寄り、2人はひしっと抱き合った。


「アシュリート・・・お久しぶりですね。元気でしたか?」

「うん!元気だったわ!お姉様も元気だった?」

「ええ、元気よ。・・・レフィリアも久しぶりですね。」

アシュリートの後に部屋に入ってきたレフィリアに、ルナメイアは微笑んで声をかけた。

レフィリアは近衛騎士のような白の全身鎧をカチャカチャいわせて一礼して、「お久しぶりでございます。」と返事した。



「聞いたわよ、アシュリート。あなた身分を隠して冒険者になっているそうね。」

イスに座って早々、ルナメイアはそう切り出した。

アシュリートはイスに座りながらテヘへと笑った。

因みにレフィリアはアシュリートの後ろに立って控えている。


「実はそうなの。私はお城でじっとしてるのが性に合わなくて、身分を完璧に隠すことを条件にお父様に許可をもらったの。」

「危なそうなのによくお父様がお許しになったわね・・・。」

「ずっとダメって言われてたからそのうっぷんを部屋で暴れて発散させてたからね。メイドたちからお父様に惨状が伝わったらしいわよ?」

姫の部屋とは思えないほどの惨状だったとメイドは語ったそうだ。

それをあっけらかんと言う妹にルナメイアは呆れて苦笑した。


「町はすっっごい面白いわよ。美味しいものもたくさんあるし、いい人もいっぱいだし。」

「でもそれがどうして今城にいるのですか?」

「緊急の依頼でフラヴィーナに魔物の大群が来るってやつを受けて城に黙ってフラヴィーナに行ったのがバレちゃって。それで今は大人しくしといて冒険者になる機会をうかがってるところ。」

「ま、魔物の大群!?だ、大丈夫でしたの?怪我はしませんでしたか?」

「あ、うん。これでも強いんだよ私たち。いっぱい魔物倒せたし、友達の本性知ったし行ってよかったよ。」

「え?友達の本性?」

「あ、いや、こっちのこと。」

アシュリートは慌てて手を振ってなんでもないアピールをした。

そして話を変えようと、別の話をすることにした。


「そ、そうだ!聞いたよお姉様!首都に来る途中で魔物に襲われたって!?大丈夫だった!?」

アシュリートは心配そうにルナメイアを見てきた。

「襲われましたが、大丈夫でしたわ。・・・通りすがりのある方に、助けていただきましたから。」

ルナメイアは冒険者が颯爽と現れたのを思い出して、ポッと頬を染めた。


いつも穏やかで微笑むことはあっても頬を染めることなど見たこともなかったアシュリートは目を見開いて驚いた。

「え、ええ!?・・・お、お姉様、も、もしかして・・・。」

「昨日からずっとその方のことを考えてしまいますの。・・・その方をお慕いしているようです。」

「わあー!お姉様が恋なんて!ね、ね!その方って、どんな人?」

「お名前は教えて下さいませんでしたけど、自分はしがないただの冒険者とおっしゃっていました。」

「へえ!冒険者なんだ!知ってる人かも!?」

「笑顔のとても素敵な方で、風魔法で魔物を倒して近衛騎士を回復魔法で治す優しい方で。」

「笑顔で風魔法と回復魔法ねえ、ふむふむ。」

「とても殺生ができるようなお顔立ちではない殿方で。」

「・・・・・・え?」

「肩に黒猫を乗せてましたわ。」

「・・・・・・。」



ルナメイアは冒険者の姿をまた思い出し、頬を染めてもじもじし。

アシュリートはぽかんとしたまま固まり。

いつも無表情のレフィリアですら目を見開いて固まっていた。



「ああ・・・、またお会いしたいですわ・・・。」

「・・・・・・。」



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