44、悪魔は展開に戸惑う
フラヴィーナの町から首都スクリュクスに戻って1週間が経った。
フラヴィーナを襲った魔物の大群が200体でボスがオークキングだったことや、そのオークキングを"黒の流星"が倒して町を救ったということはあっという間に国中に広まったそうで、もともと有名だった"黒の流星"はさらに有名となった。
そして近く城に呼ばれて王様からお褒めの言葉をもらうんだとか。
めんどくさいとマスティフはぼやいていた。
アシュアとレフィはフラヴィーナに行くことを城に黙ってフラヴィーナに行ったということで、首都に戻った途端に警備兵がすっ飛んできて、城に帰らないといけなくなったらしい。
アシュアは「絶対また冒険者するんだから!」とすぐ宿屋に帰ってくるつもりでわーわー言いながらレフィに連れていかれていた。
俺以外バレてないのに、そんなに騒ぎながら帰ったらバレるんじゃないのか?
そうしてアシュアが城から帰ってこず、マスティフが毎日のように朝っぱらから突撃してくる日々を送り、俺は俺で箱の依頼を自由気ままにやりながらこの1週間を過ごした。
因みに魔物の大群との戦いので、俺はレベル3つ上がってレベル53になった。
名前:ユウジン・アクライ(阿久来優人)
種族:人間(魔法使い)
年齢:24
レベル:53
HP:1720→1820
MP:2990→3190(×2)
攻撃力:388→416
防御力:466→495
智力:624→655
速力:522→552
精神力:266→288
運:186→196
超適性:罠魔法
戦闘スキル:上級短剣術・中級剣術・双剣術
魔法スキル:上級罠魔法・上級鑑定魔法・アイテム収納魔法・中級火魔法・中級水魔法・中級風魔法・上級土魔法・初級雷魔法・中級光魔法・拘束魔法・隠蔽魔法・剣魔法・中級多重魔法
取得可能スキル:2
"黒の流星"も"火炎の翼"も全員レベルが上がったようだ。
鑑定魔法で見てないけど。
そして今日は「彼女への婚約指輪用の宝石を採ってくる依頼」で首都から南西のところにある鉱山に行っていた帰りだ。
日帰りで行ける距離だったので夕方には首都に着けるかな、というところで歩を進めていた。
「クロ助、猫とはいえ運動不足ではないですか?少しは歩きますか?」
「フミャー」
やだーという感じで鳴いて首を振った。
「ですが宿屋の部屋の中しか歩き回らないのはどうなんですか?このままでは太ってしまいますよ?」
「ミ、ミャー・・・。」
そ、それもやだ・・・という感じで鳴くとうなだれた。
そして俺が肩から下ろして地面に着地させると、渋々歩き出した。
「とりあえずこの先の丘まででいいですから、それまで頑張って下さい。」
「ミャー」
いきなり長い距離を歩かせるわけにはいけないしと、5分ほど歩いた先の丘を目標にした。
そしてもうすぐ丘に到着するというとき、どこからか音が響いてきた。
「ん?これは・・・戦闘音?」
周りを見回すが見える範囲には誰もいないし、生き物の姿すらない。
だが、確かに金属のぶつかる音やなにかの叫び声がする。
サーチをかけると、はっきりした。
この先の道で馬車が魔物に襲われている・・・!?
馬車の周りを護衛と思われる騎士が5人に、魔物は10体。
魔物はゴブリン7体にオーク3体で、すでに兵士のうち何人も怪我をしていて、結構な不利な状況だ。
助けるか?
「クロ助、肩に乗って下さい。この先で馬車が魔物に襲われています。」
クロ助を抱え上げるとさっと肩に乗った。
「ミャー!」
助けよう!という感じで鳴いて俺の肩を前足でテシテシ叩いてきた。
「え、助けた方がいいですか?そうですか・・・。」
別に俺は助けてもいいんだけど、なんか嫌な予感がするんだよなあ・・・。
なんか忘れてるような・・・?
まあ、いいやと気を取り直すと戦っているところへ走っていき、腰にさしていた短杖1本を手に取った。
『我が前の敵を切り裂け、ウインドカッター』
こちらに背を向けていたゴブリンを風の刃で切り裂き、ゴブリン2体がバラバラになった。
「な、なんだ!?」
騎士は突然のことに動揺してそう叫んでいた。
「不利なようですので、救援させていただきました。」
俺が近づきながらそう言うと、騎士は俺を少し警戒しながら「すまない、助かる」と返事した。
騎士の着ている鎧はものすごいいい素材のもので、真っ白な全身鎧だ。
その騎士が守っている馬車は城に金の装飾が信じられないくらい施されているが、どこか品のあるデザインだ。
・・・なんだかめんどくさい気がする。
多重魔法や罠魔法も使わず、普通の魔法使いのフリをするか。
俺はウインドカッターとファイアだけで攻撃することにして、オーク1体ゴブリン2体を倒し、騎士たちも力を合わせて残りの魔物を倒した。
倒し終わったタイミングをみて、騎士たちに近づいた。
「怪我をしていますね。失礼します。」
俺は腕から血を流している騎士に回復魔法を唱えた。
『我が前にいる者の傷を癒せ、ヒール』
「おお!治った!ありがとうな!」
治った騎士はとても喜びお礼を言ってきて、それを見た他の騎士たちも俺も俺もと寄ってきたので回復魔法をかけて治してあげた。
「援護だけでなく回復までしてもらって礼を言う。我らは王族近衛騎士で、王族を首都まで護衛していた途中だったのだ。」
その時、馬車の小窓がカタンと開いた。
「近衛騎士長。」
中から女性の声で、俺と話していた近衛騎士を呼んだ。
え、あんた近衛騎士長だったのか。
近衛騎士長は小窓に近づくとなにやら会話をして、騎士長はまたこちらに近づいてきた。
「姫様がお礼を直接言いたいそうだ。」
姫様?
王族・・・姫様・・・。
ま、まさか・・・アシュア?
ものすごく動揺しつつ、王族と対面するなら跪かないといけないと確かラノベとかで見たことあったので、いつかのマンガで見た片膝をついて胸に手をあて頭を下げるポーズをした。
クロ助は俺が片膝をついたら空気を呼んで(?)ぴょんと地面に下りてお座りした。
バタンとドアが開く音がして、誰かが降りてきたヒールのような高い音がした。
「・・・面をおあげください。」
そんな女性の声がしたので恐る恐る顔を上げると、目の前には見たこともないほどのとんでもない美女がいた。
20代前半くらいで白に近い金髪がとても長く赤い目で、ヨーロッパ貴族が着てそうなイメージそのままのフリルだらけの超豪華な白と緑のドレス着た姿だ。
「私たちを助けて騎士たちを癒して下さったこと、ありがとうございます。私はトリズデン王国第一姫のルナメイア・シリス・トリズデンと申します。」
第一姫!?
アシュアの姉か!?
アシュアは天真爛漫系の美少女だが、ルナメイアは清楚な感じと儚い感じをあわせ持つ雰囲気でどことなく似てるが、ルナメイアの方が圧倒的美人だ。
おっといけない、返事をしなくては。
「お礼の言葉を言って下さるとは思わず、うれしく思います。姫様や騎士の方々が無事で何よりです。俺は名乗るほどの者でもない、しがないただの冒険者です。」
いつもの得意の笑顔で微笑んだ。
名前を名乗らなかったのはめんどくさくなるのを避けるためだ。
ポッ
ルナメイアは俺の微笑んだ顔を見た途端に、顔を赤らめた。
え?は?
う、ウソだろう・・・?
そこで俺は、あることを思い出した。
ラノベのテンプレ展開で、「道で襲われている馬車を見つけて助けると馬車の中には姫か貴族の娘が乗っていて、惚れられる」があったことを・・・!
なにか忘れていると思ったら、これか!?
目の前では、超美女が熱っぽい視線を送ってきている。
その姿に近衛騎士たちも驚いて口をあんぐり開けている。
ど、どうしたらいいんだ!?
 




