43、悪魔は帰る
貸しきりの飲食店はずっと騒がしく、あまりの騒がしさにさっさと食べると店を出た。
「アシュアはてっきりああいったノリ好きかと思ったのですが、加わらなくてよかったのですか?」
「ちょっと・・・、ユウジンの中の私のイメージってあんななの?・・・私は私発信じゃないとイマイチ乗れないのよ。」
「ほう、なるほど。では振っても乗ってくれないタイプですか。友達います?」
「いーまーす!」
ムキーと怒るアシュアをなだめつつ、歩いていると。
「!?お前っ、また!ユウジン!?」
え!?ガンカー!?
また遭遇かよ!
ていうか、あんた今日見てないがどこにいたんだ?
ガンカーはまた俺を睨みながら近づいてきた。
「お前・・・その2人は連れか?」
まずい!?
ガンカーはいぶかしい目で"火炎の翼"に目を向けていたので2人に慌てて魔法をかけた。
2人はガンカーに見られてぎょっとしていた。
そして俺の「ガンカーは鑑定魔法持ち」という言葉を思い出したようで、顔色を悪くしていた。
だが、ガンカーは2人を見て眉を潜めた。
「うん?見えない?なぜだ?」
「「え?」」
てっきりバレたと思っていた2人はきょとんとした顔をした。
「ガンカー、女性をジロジロ見るのは失礼ではないですか?彼女らは俺の知り合いの冒険者ですよ。」
俺は庇うように2人の前に出ると、ガンカーはジロリと俺に視線を向けた。
「お前の仕業か?」
「なんのことでしょう?」
微笑むと、けっと苦い顔を返された。
「・・・フレデリック様から聞いたぞ。あの方を助けたそうだな?」
「ええ。魔物に襲われていたので回復魔法を使わせていただきました。」
どう聞いたか知らないが、ガンカーはなんだかばつの悪そうな顔をしていた。
「・・・俺はあの方に恩がある。だから助けてくれたのには礼を言う。あの方がお前のことを話すときに異常に恐れていたのには気になったがな。」
ふむ、どうやらフレデリックはガンカーには詳しく話してないようだ。
まあ、プライド高いし、話せないわな。
因みにフレデリックを置いて俺たちは町に戻ったのだが、あの後執事が馬車で迎えに来て屋敷に戻ったらしい。
ガタガタ震えてなにかに怯えてたんだと。
「おかしいですねえ。俺は特になにもしてないのですが?」
わざとらしく首を傾げたのだが、ウソつけ!という"火炎の翼"からの視線を後頭部に感じた。
「あの方は権力欲に取り憑かれてから人が変わったように酒に溺れて下の者に粗暴になった。それが今回のことで前のフレデリック様に戻るかもしれない。・・・お前がそのきっかけを作ったのではと思っている。」
なるほど。フレデリックはもともとあんな性格じゃなかったのか。
まあ、権力と金は人を変えると言うからな。
前のフレデリックの性格なんか知らないが、フラヴィーナに来やすくなるなら歓迎するけどな。
「なんのことかはわかりませんが、これで俺の疑いは晴れたということでよろしいですか?」
「ああ・・・あの方に免じてな。だが、これ以上はおかしな真似をするなよ!」
そう吐き捨てるように言うと、ガンカーはさっさと行ってしまった。
「ねえ、ユウジン。なにやったの?疑いとか言ってたけど。」
「なに、ちょっと疑われるような行動を取ってしまって、人殺しの容疑をかけられてたんです。もちろん冤罪ですよ。俺は例え犯罪者だろうがなんだろうが人殺しはしない主義なんで。」
「う~ん、なんとなく説得力がない気がする。あの性格じゃあ殺っててもおかしくないわよ。」
「!?そんなにアレでしたか?俺としては皆さんの前でしたし、抑えたつもりだったのですが・・・。」
「は!?あれで!?」
アシュアがすごくびっくりした顔をしていた。
え?あれでって?
「そういえばユウジン、ガンカーが私たちを見てきて、なんか変な顔をしていたのはひょっとして・・・。」
珍しくレフィから話しかけてきた。
「そうです。あの時にガンカーは鑑定魔法を使ってました。あ、でも大丈夫ですよ。俺がとっさに見えなくする魔法かけたんで、お2人のステータスは見えなかったはずですから、正体はバレてませんよ。」
「見えなくする魔法?」
「まあ、そんな魔法があると思って下さい。隠蔽魔法といって、鑑定魔法からステータスを隠蔽できる魔法です。」
「へえ・・・!そんな魔法があるんだ。ありがとうユウジン、庇ってくれて。」
アシュアはそう言ってへへっと笑った。
レフィも頭を深々と下げてきて「ありがとうございます」と言ってきた。
あれ?これフラグか?
いや、まあ、考えすぎか。
それにしても・・・。俺が性格悪いのわかったのに普通に接してくるんだな、この2人。
翌日の昼頃になってようやく、追加の応援兵士100人が到着した。
結局魔物は引いて行ったきりで、再び襲ってくるといったこともなかった。
なので応援兵士は西側・南側の冒険者と兵士の遺体の回収をして魔物の死体を何ヵ所かにまとめて土に埋めたり火魔法で焼却したりした。
これはアンデッド化対策だ。
冒険者と兵士の遺体は、冒険者でフラヴィーナの冒険者は身内の元に帰され、首都の冒険者は個人を特定できるような遺品かカードを回収すると土に埋められ、兵士も遺品を回収すると土に埋められていた。
冒険者の死者はそこまで出なかったが怪我をした者は多く、教会が長蛇の列になっていた。
ポーションも持ってなくて回復魔法もできない者は教会に行って回復魔法をかけてもらうんだそうだ。
兵士の死者はそこそこ出てしまい、全ての責任者のフレデリックは終始うなだれていた。
そしてものすごく因みになんだが、ガンカーはあの戦いの時は冒険者ギルドにて、冒険者の救護の指示を職員にだしたり、フレデリックに町の管理の諸々を押し付けられてそっちを処理していたと風の噂で聞いた。
レベル71がもったいない・・・!
そして俺たちはその日の夕方、馬車に乗ってフラヴィーナの町を後にした。
「おい、ユウジン!お前やってくれたな!」
「なんのことです?英雄マスティフ。」
「とぼけやがって!お前元から俺を英雄にするつもりだったな!?」
マスティフがプンスカ怒りながら俺の横に座ってきた。
「策に乗るように言ってきて、ボスを俺に倒させたんだろ!?そうしたら俺の手柄に押し付けやすいからってことで。」
ほう、マスティフのくせにそこに感づいたか。
大正解なのだが、当然俺はシラを切る。
「なにを言ってるんだか。俺にはさっぱりわかりませんが。」
「マスティフ無駄だって。ユウジンにあんたが敵うわけないじゃない?」
「そうだ!ユウジン、聞きたかったことがあったんだ!あの風の壁の構造について・・・。」
近くに座ってアシュアとおしゃべりしていたヒスランがマスティフをたしなめ、カルドがぐっと近寄ってきた。
うん?
"火炎の翼"といい、なんで俺の性格を知っても変わらない態度なんだ?
・・・そういえば、あちらの世界にもいたな。
俺の性格を知っても、普通に接してきたのが・・・。
俺は揺れる馬車の中、友人と呼べる数人の存在と、1人の親友のことを思い出していた。
 




