42、悪魔は脅す
町に戻ると、ちらほらと冒険者が戻ってきていた。
皆が不思議に思い、戻ってきて休憩していた冒険者の1人に話しかけると、冒険者は不可解な話をした。
「町の西側からなんか爆発音してしばらくして、突然土が盛り上がって土の壁ができたんだよ。」
「土の壁が?」
「高さ3メートルくらいのでっかい壁で、俺ら冒険者と魔物を分断するみたいにできてさ。その壁がず――っと草原を横断するくらい長いやつでさ。」
「ええ!?そんな長いの!?」
「俺たちも驚いて、誰の仕業でどうしようってなってたら、そしたら壁の向こうから爆発音がしだしたんだ。なんだと思って覗いたら、壁に群がっていた魔物たちが壁に触った途端に爆発してやられていっていたんだよ。そしたら魔物がちらほらと引いてって、今は魔物がいなくなっちまったから、一応見張りの冒険者を何人か置いて俺たちが先に戻ってきたんだよ。」
その話を聞いて、マスティフは俺を見てきた。
「ユウジン・・・もしかして、お前が!?」
「さあ?なんのことでしょう?」
俺は微笑んでとぼけたが、マスティフは感づいているようだ。
そう。土の壁と爆発は俺の仕業だ。
俺は魔物との戦闘が開始された直後から、冒険者と魔物を分断するために草原を大きく横切りながら罠魔法でアースウォールを張っていっていたのだ。
俺の罠魔法は上級で見える範囲はどこでも罠が張れるようになってはいたが、視力と直結していてはっきり見えないと張れないようだった。
なので張る位置を決めたらそこがはっきりと見える範囲までは近づかないといけないので、草原を大きく横切ることになってしまい、ついでに危なげな冒険者を助けたりしていたら、マスティフらのところに合流するのに数時間かかってしまったというわけだ。
そして罠魔法に重ねがけで「魔物が壁に触れると爆発する」という発動条件の罠魔法と爆発魔法をリンクした罠を仕掛けたので、それが発動して魔物はやられていったということだ。
これは"黒の流星"がいなくなった戦力を補うのもあったし、"黒の流星"がいないことを感づかれないために気を引くことも考えてのものだった。
まあ、余計な死者を出さないためというのもあったりしたんだけどな。
「そういえばマスティフ、ソレを持ってここに立って下さい。」
俺はマスティフを通りの真ん中に立たせた。
マスティフは俺の指示でオークキングの首を俺の外套を被せて持っていた。
俺はオークキングの首が露になるように外套を剥ぎ取って叫んだ。
「すごいですね!!さすが"黒の流星"です!魔物のボスのオークキングを倒すなんて!!それが首ですか!?皆さん見てください!!恐ろしいですね!!」
近くにいた冒険者や町の人などが次々とマスティフに注目した。
"黒の流星"と"火炎の翼"がぎょっとして俺を見るが、俺は構わず叫び続けた。
「南側の土の壁も爆発も、"黒の流星"のお力なんですか!?さすが"黒の一族"ですね!!彼らは町を救った英雄です!!」
俺の声を聞いて、人々は"黒の流星"に殺到した。
「ほ、ほんとだ!オークキングの首を持ってるぞ!さすが"黒の流星"だ!」
「壁もあんたらなのか!?すごいな!助かったぜ!」
「あんたらは町の英雄だ!」
「ちょっ!?待っ、てめぇ、ユウジン!?」
俺はニコリと笑うと群がる人々を避けてその場を逃げ出した。
マスティフらは押し寄せる人々に対応しなければならず、俺が逃げるのを憎々しく見てきていた。
ふふふ・・・うん?
後ろを見ると、"火炎の翼"も俺の後を追って逃げてきていた。
「あれ、一緒にいなくていいんですか?英雄になれますよ?」
「ユウジンこそ。私は目立ちたくないの。」
「ふふふ、偶然ですね。俺もです。」
宿屋に戻ると、魔物を退けた祝いとして今夜はギルドが大盤振る舞いして飲食店を貸し切っているとの話があった。
クロ助を迎えに行くついでに飲食店に行ってみようと思っていると、"火炎の翼"の2人が部屋を訪ねてきた。
「マスティフが感づいてたけど、冒険者たちが言ってた土の壁ってあなたの仕業なの?」
アシュアは俺の部屋に入ってレフィがドアを閉めた瞬間に聞いてきた。
単刀直入すぎないか?
「いいえ、俺は皆さんと共にいたでしょう?」
俺はいつもの笑顔を張りつけて対応することにした。
「私には、なんかあなたの仕業のような気がしてならないの。ユウジン・・・あなたは何者なの?」
「俺はただの冒険者ですよ?」
「ウソ言わないで!多重魔法に光魔法に火魔法・・・。色んな魔法を使えるし、魔法を使っても全くMP切れになってないなんて!」
「それに戦闘の時といい、身のこなしが異常よ。普通の人より素早い私より素早く動けるでしょう?」
アシュアはともかく、レフィは痛いところをついてくるな。
身のこなしが異常なんて自分ではわからないから気を付けた方がいいか?
「性格はともかく、あなたのような能力のある人がなぜ表にでないの?目立ちたくないって、一体なにを考えているの?」
「俺は性格上目立ちたくないのです。人に注目されるのは得意ではないので。」
「でも・・・あなたのような才能のある人はもっと評価されるべきよ。あなたの力はもったいないと思う。」
そうは言っても俺はテスターだから能力が高いだけなんだよな。
俺としては俺の目立ちたくない性格は関係なく、テスターは表舞台に立つのはどうなんだろうと思ってる。
だって例えば、この世界の人間じゃないやつが世界一強いとかってなっても「いや、お前この世界の人間じゃねえし」とか思ってしまうからなあ。
この世界の人間で有能なやつが表舞台に立つべきではないかなあ?
まあ、こんなこと言ってもアシュアらはわかんないしな。
かといって、テスターであることも言うつもりもないし。
「俺はもったいないと思ってません。自分の力は自分が好きなように使ってこそ最大に発揮されると考えてますから。」
「えー、でも・・・。」
う~ん、しつこいなあ。
俺は本当に目立つのが嫌なだけなんだけどなあ。
裏で動いて相手の周りを潰していって絶望させたい性格だからなあ。
かといってこんなこと言っても理解されないだろうなあ、姫と護衛には。
しょうがない、脅すか。
「・・・あまりしつこいと、うっかり口を滑らせちゃうかもしれませんよ?」
「え?・・・な、なにが?」
「もうちょっと周りに警戒すべきではないでしょうかねえ?トリズデン王国第二姫様と護衛様?」
アシュアは途端に顔を青くして大きく目を見開き、レフィは驚きつつもアシュアを庇って前に出た。
「大丈夫ですよ、お2人は仲良くしていただいているので危害を加える気はありませんよ。」
ほら、と俺が両手を上げアピールするが2人は警戒したままだ。
「・・・い、いつから!?」
「いつから気付いてたということですか?初めてお会いした時ですね。」
「え!?・・・私たちの顔とか知ってたの!?」
「いいえ。・・・俺は鑑定魔法持ちでしてね。」
俺がニコッと笑ってそう告げるとまた驚いていた。
「か、鑑定魔法持ち!?」
「あなたたちの着ている鎧がぱっと見た感じは普通の鎧に見えて、2人ともとてもいい素材のものを使ってると思いましてね。その割りに「私たちはランクF」と言っていたので、低ランクにしては鎧が釣り合ってないと思いましてそれでお2人に鑑定魔法をかけたんです。・・・まさかお姫様とは思わず、吹き出しそうでしたよ。」
「そ、そこで気が付くなんて・・・。」
「因みに指摘させてもらうと、お2人のテーブルマナーが良すぎて周りにバレないかヒヤヒヤしてましたよ。アシュアは冒険者に馴染んで姫とは思えない言動も増えて、そういう点ではいいと思いますけど。」
「なんか褒められてるけど腑に落ちないような・・・。」
アシュアはものすごい微妙な顔をしていた。
「俺は納得してもらうために今、鑑定魔法持ちと明かしましたが、鑑定魔法は無詠唱でもできます。本人が言わないだけで誰が鑑定魔法持ちかわからないですから、そこは気を付けた方がいいですよ。」
「ま、まさか。鑑定魔法は珍しい魔法なのよ?使える人はそうはいないわよ。」
「それが油断を招きます。ぶっちゃけると、ギルマスのガンカーは鑑定魔法持ちなんで彼には気を付けた方がいいですよ。」
「「ええ!?」」
2人はとても驚いていた。
「まあ、とにかく俺は目立ちたくないのでそっとしといてくれるのが俺にはありがたいです。そっとしといていただけるなら、お2人の正体も誰にも言わないと約束します。」
「わ、わかったわ・・・。」
アシュアはぐぬぬと渋々了解してくれた。
それからなんとなく一緒に貸しきりの飲食店に行くことになり、クロ助を迎えに"金鶏の夜明け"亭に寄った。
「ちょっと寂しいけど・・・、また来てね!クロ助、ユウジン!」
ララがそう明るく見送ってくれた。
「ミャー!」
クロ助もありがとう!っという感じでララに鳴いていた。
それから飲食店に行くと、店内は盛り上がっていて様々な料理がテーブルの上に並べられていて、多くの冒険者が早くも酔っぱらっていた。
「俺たちの勝利にカンパーイ!」
「「「カンパーイ!」」」
「オークキングを倒した"黒の流星"にカンパーイ!」
「「「カンパーイ!」」」
「うまい飯と酒がタダで味わえてカンパーイ!」
「「「カンパーイ!」」」
最後の乾杯が本音じゃないのか?
ていうか、こんな騒いでるところで食べるのかよ・・・。




