40、悪魔は向かう
フレデリック視点でお送りします。
ドカアアァァンンッッ!!
突如として町の西側からそんな爆発音が響き、煙があがった。
あまりの爆発音の大きさに、私は紅茶をこぼしてしまった。
「な、なんだ一体!?」
フラヴィーナの町で1番大きな私の屋敷の屋上テラスから南側を眺め、かすかに聞こえる戦闘音を聞きながら、私は紅茶を嗜んでいた。
突然の爆発音に護衛もメイドも混乱して辺りを見回して、西側からあがる煙に固まっている。
「た、大変です!フレデリック様!!」
兵士が転がるように屋上にやってきた。
「ま、町の西側から魔物の大群が攻めてきてます!!」
「なんだと!?」
南側はなく・・・西側だと!?
「西側を攻めてきている魔物は数十体と思われ、町を守っていた兵士30人のうち15人が西側で現在戦っています!フレデリック様、ど、どういたしましょう!?」
数十体を15人ではさすがに無理がある。
下手に兵士を減らしてみろ、国になにを言われるかわかったもんじゃない。
「ぼ、冒険者どもはなんとかならんか!?」
「冒険者たちは現在80人で200体近くの魔物と戦ってる最中ですので無理でしょう。」
「ちっ、使えない冒険者どもめ!」
私はゆっくりと腰を上げた。
「私が直々に行こうではないか。」
「フ、フレデリック様直々に・・・ですか!?」
なぜか兵士は微妙な顔をしていた。
なんだその顔は?
私はこれでもレベル35なのだぞ!
若いときには魔物を狩ったりしていたしな。
魔物くらいどうとでもなるわ!
西側に向かいながら、私はすかさず指示した。
「もう後5人、兵士を西側に回して塀の上から弓矢で攻撃させろ。魔法が使えるものは魔法で遠距離からも攻撃するんだ。」
「で、ですが、それでは守りの兵士が10人しかいなくなります。」
「他にいないのだからしょうがないだろう?まあ、私が向かうまでの辛抱よ。」
ふふん、私が行けば勝ちが決まったようなものだ。
兵士と共に戦う姿を人々に見せつけてやってもいいな。
そうすればフラヴィーナの者たちは私をますます尊敬するだろう。
このフレデリック・ヒューイがこの町を守っていただいてると感謝するだろう。
そして町人どもは尊敬の証としてたくさんの税を払ってくれるから、私の金は尽きない。
私がいる限り、この町は栄えて続けるんだ。
「フレデリック様。」
屋敷を出て馬車に乗り込もうとすると、執事のザールがやって来た。
「ザールか。マスティフはどうだ?」
「わたくしめが渡した『腐食の粉』を使っていないようでした。なので万が一と金で雇った冒険者に爆発物を渡しておりましたのを向かわせ、それをくらって剣は壊れたそうでございます。」
「ふは!そうかそうか!いい気味だ!ご苦労様ザール。私はこれから西側にちょっと行ってくるから、屋敷にいて祝杯の準備をしろ。」
「は、お気を付け下さいませ。」
ザールは頭を深々と下げて私を見送った。
町の西側の外に出ると、兵士と魔物が戦っているのが見えた。
どうしてこっちに魔物がいるんだ?
・・・まさか、南側の魔物は囮で・・・?
いや、まさかな。魔物どもにそんな知恵などないはずだ。
とにかくあの魔物どもは私に勇姿を見せつける機会を与えてくれたのだ。
後のことは倒してから考えよう。
私は腰にさしていた剣を手に取ると構えた。
この剣は装飾が美しく、それが気に入って最近買ったものだが、少しは切れるだろう。
魔物なんかの汚い血がつくのが哀れだが、後でしっかり手入れさせよう。
「さあ!行くぞ!魔物どもめ!」
私はそう宣言して、兵士と魔物が攻めぎあっているところへ突っ込んでいった。
護衛の2人が慌てて後ろからついてきていた。
私は手前にいたゴブリンに颯爽と切りかかった。
パキィッ
装飾がきれいな剣はゴブリンの頭に当たった瞬間に真っ二つに折れた。
「な、な、なに~~!?」
ゴブリンはギィーと鳴いて怒ると私の腹を殴ってきた。
「ふごぅっ!?・・・こ、この無礼者!!」
怒ってゴブリンの顎を蹴りあげてゴブリンを転ばした。
「ご、護衛!このゴブリンをなんとかしろ!」
「は、はい!」
護衛は慌ててゴブリンに剣を向けて切りつけ、ゴブリンは頭を裂かれて「ギィー」と叫んで倒れていった。
「よ、よし!よくやった!その調子で私を守るんだ。私はその間に武器を探す。」
護衛2人は戸惑いながらも剣を振るい魔物を倒していき、私は近くに転がっている兵士や魔物の死体から使えそうな武器を探した。
「お、おお!あったぞ!ふははは、これでやっと活躍できるぞ!」
兵士の死体から鉄の剣を見つけたが、死体が邪魔だったので足で蹴って剣を取ると、今度こそと笑い再び魔物に向かってかけていった。
魔物を4~5匹倒したところで息があがってきた。
おかしいな、昔は10匹倒せたのにな。
ここ最近はずっと酒しか飲んでないからな、もうしんどい。
それでもしばらく息を切らしながら戦っていると、近くで叫び声があがった。
「ぐああぁっっ!?」
護衛の内の1人が魔物の放った風魔法に腹を裂かれ、叫び声をあげていた。
びちゃっと地面に血が散って、ぐううと護衛がヨロヨロと後ずさるとビックスパイダーの糸に絡まり動けなくなり、首にビックスパイダーが食いついて護衛は断末魔の叫び声をあげて事切れた。
もう1人の護衛がその様子を見て顔を青くして固まっていると、死角からポイズンスネークが飛びかかってきて、背中に噛みついた。
「ひいいぃっ!?毒が!?毒が!?」
地面に転がって蛇を振り払おうとするが、蛇は足に巻きつき離れない。
そうしている内に毒が回り、護衛はごふっと血を吐きビクビク痙攣しだした。
そこをこん棒を持ったゴブリンに頭を割られ事切れた。
「くそっ!なにこんな雑魚どもに殺られてるんだ!なんのための護衛だ!役立たずめ!」
私は怒りながら迫り来る魔物を凪ぎ払うが、切っても切っても魔物は襲ってくる。
気が付くと、戦っている兵士もどんどん魔物に殺されて、逃げ出す者も出てきた。
国からわざわざ借りたのに逃げ出すとは!
「くそっ!どいつもこいつも役に立たない!私の役に立つ者はいないのか!?・・・うん?」
ふと、周りを見ると・・・誰もいなかった。
な、なんでだ!?
様々な魔物が私の四方を取り囲み、唸り声をあげている。
「ひ、ひいっ!?く、来るなっ!」
「ギィー」「グルルル」「シュー」
魔物たちはにじり寄って来るのを、私は剣を振り回して後方に走り出した。
嫌だ嫌だ嫌だ!!
こんなとこで死にたくない!
私はこんなとこで・・・魔物なんかに殺されたくない!!
「うがっ!?・・・ぐうっ!」
走っている途中でなにかの魔物に腕を噛まれて足をとられたが、剣を振り回して噛みついた魔物を切り裂き、急いで立ち上がって走り出した。
自慢の鎧も汚れて所々ヒビも入っているが、そんなことは気にせず噛まれた腕をかばいながら走った。
腕からはだらだらと血が流れ、ズキズキ痛んだ。
「ぎゃあっ!?」
ポイズンスネークに後ろから足を噛まれ、私は倒れ込んだ。
「ひいっ!この!この!!」
剣で頭を突き刺し、慌てて歯を抜いて蛇の死体を放り投げた。
ど、ど、毒!?毒が!
毒消しは、・・・や、屋敷だ!?
だ、ダメだ!ま、間に合わない!!
すると、体中の血が沸くような感覚がしてきて、ドクドクと異常なくらいに動悸が激しくなった。
いやだいやだいやだいやだ!!
死にたくない!死にたくない!
誰か!誰か!誰か!
助けてくれ!!!
『我が前の敵を射て、ファイアアロー×20』




