39、悪魔は助ける
途中からマスティフ視点になります。
「・・・ホントに大丈夫なんだろうな?」
朝に宿屋のホールに集合した俺たち冒険者は、ギルド職員の案内でエール草原まできた。
そしてぞくぞくと他の宿屋に泊まっていた冒険者やフラヴィーナの冒険者も到着し、適当に展開したり固まって話をしたりしている。
これから魔物の大群と戦うような少しピリッとした雰囲気が漂うなか、マスティフはそう俺に話しかけてきた。
マスティフの顔は気合いの入った真剣な顔をしていた。
これからの戦いで最前線に立たなければならないのだ。
緊張して当たり前だ。
俺はいつもの笑顔を張りつけて、答えた。
「大丈夫ですよ。なんですか?緊張して。」
「いや・・・南側だけなら俺が意地でも何とかするが、本当に西側から来たらと思うと・・・。」
「だから俺の考えに乗ってくれたのでしょう?まあ、任せてください。もし西側から魔物が来たらわかるように仕掛けはしてありますから。」
「それは・・・あれか?」
「ええ、そうです。」
マスティフは周りに注意しながら俺の魔法のことを言わないで聞いてきた。
過去に触れたことのあるところなら俺は罠魔法を張れる。
なので西側の町から少し離れたところの道に魔物が通ったら発動する罠を仕掛けてある。
兵士たちやフレデリックに西側に魔物がいると注意を向けて、尚且つ魔物と戦ってる俺たちにもわかるような魔法をリンクしているから、すぐ気付くはずだ。
「とりあえず戦っていて、反応があったら策の通りでお願いします。反応がなかったら南側に魔物が集中してきたということなんでフレデリックの予定通りに戦いまくりましょう。」
「おう・・・、わかった。つか、俺の勘ではユウジン1人でも大丈夫な気がすんだけどなあ。」
「それでは俺の策に支障が出ます。よろしく頼みますよ。」
「へいへい。」
マスティフはヒスランとカルドの待つ最前線に去っていった。
"黒の流星"に皆期待しているようで、冒険者たちはすれ違うマスティフに眼差しを向けていた。
目立ってるやつも大変だな。
さて、問題があるとすれば俺だ。
目立ちたくないので魔法剣は使えないし、罠魔法は誰がやったかわからないように無詠唱で張らないといけない。
魔法もいちいち唱えないといけないし、魔力の調整しないとローブセットのおかげで威力が1.5倍だからな。
策のこともあるからMPポーションといつかの『魔力のネックレス』も場合によっては使おう。
あれは使うと魔力が半分回復するが、後2回しか使えなかったものだ。
なんかもったいなくて置いてたが、使えるときに使わないとな。
あ、因みにクロ助はここに来る前に"金鶏の夜明け"亭に寄って、店主のティーラさんとララの再会に喜んだついでに預かってもらった。
ララはすぐクロ助と仲良くなっていたし、大丈夫だろう。
そして待つこと数時間。
もうすぐ昼に差し掛かるという頃。
冒険者の誰かが叫んだ。
「き、来たぞ―――――――!!!」
うおおおおっっ!!と周りから気合いの入った雄叫びを冒険者たちは出して、草原の先を目指して走り出した。
俺は密かにアイテムから『不滅の外套』を出して着て、短杖1本を手にとると冒険者たちに紛れて走り出した。
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草原の向こうに魔物の大群が見えた。
最初は黒い点々ぐらいにしか見えなかったのに、それが段々と大きくなり様々な魔物の姿がはっきりとわかるくらいになった。
俺は背中に背負っていた愛用の大剣を手にとり、構える。
「おい、魔物が来たことを後ろのやつらに叫んでくれ。」
俺は近くにいた冒険者にそう言って、走り出した。
後ろの方で「き、来たぞ―――――!!」という声が響いた。
「おらああぁぁっ!」
大剣を振り、魔物たちを次々と凪ぎ払っていく。
俺が一振りするごとにゴブリンの首がいくつも飛び、キラービーの体を数匹まとめて裂いていく。
見たところ、レベルが20代の低レベルの魔物ばかりだ。
俺とはレベル差があるから、俺は一撃で倒せるのだが数が多いと後々しんどくなりそうだな。
倒しながら横を見ると、ヒスランが次々と魔物を槍で突いていた。
流れるように的確にゴブリンの頭を突き、空から迫ってくるロックバードをファイアアローで仕留めていた。
「ヒスラン、大丈夫か!?」
俺が声をかけると余裕で微笑んできた。
「ええ、低レベルのやつらばかりだからなんてことはないわ。」
「カルドはどうだ!?」
俺は少し後方のカルドに声をかけた。
カルドはウォーターアローを後方から放ち、魔物の大群を空から攻めつつ、近づいてきたゴブリンを杖術で殴っていた。
・・・ゴブリン多いな!
カルドはけろっとしてヒスラン同様微笑んできた。
「俺も余裕ですよ。数が多いのがめんどくさいですけどね。」
他の冒険者にも目を向けて見るが、俺たちほどではないが武器を振るい戦っていた。
「まだまだ魔物らはくるんだ!弱いからって油断するなよ!」
「ええ!」
「ああ!」
それから数時間、戦い続けているが、やはり大群とあってまったく途切れない。
「はあっ・・・いい加減、疲れてきたなっと!」
俺は魔物の首をはねながら周りを見回した。
・・・だいぶ疲れた冒険者が出てきたようで、うっかり傷を負う者が増えてきたな。
かくいう俺もうっかり切り傷は作ったし、ヒスランも足に攻撃を受けた。
カルドはMPポーション飲んでたし、ちょっと息もあがっている。
返り血で鎧や顔は汚れてるし、血の匂いが立ち込めてちょっと気持ち悪い。
この状況が数時間続くようならヤバイかもしれないな・・・。
「・・・なんだ、ちょっと傷受けてるじゃないですか。」
そんな声をしてひょっこりユウジンがやって来た。
「ユ、ユウジン!お前は大丈夫か!?」
ユウジンは息も切らさずいつもの穏やかな笑顔でそこら辺の道を歩いてくるように近づいてきた。
戦う前には着ていなかったはずの外套を着ていて、返り血などでまったく汚れていなかった。
『我が周りに風の壁を作れ、ウインドウォール』
ユウジンがそう唱えるとユウジンを中心に直径3メートルほどの円柱形の風の壁ができた。
風の壁の内側には俺ら"黒の流星"と冒険者たちだけ残され、魔物は外に吹き飛んでいた。
ユウジンは内側にいる人間7人を見回し、続けて呪文を唱えた。
『傷付いているものを癒せ、ヒール×7』
すると7人が淡い光に包まれ、回復した。
「!?か、回復した!?」
「え!?あ、すげえ!あんた、ありがとよ!」
冒険者たちは次々とユウジンにお礼を言っていた。
「ユ、ユウジン!お前風魔法に光魔法もできるのかよ!」
すげえ!どんだけ魔法できんだよ!
ユウジンは俺の絶賛の言葉にうげって顔をした。
最近その顔多いな、なんでだ?
「・・・疲れたのではないですか?しばらく壁は消えませんから少し休憩するといいでしょう。俺はその間外にいますので。」
ユウジンはそう言ってさっさと壁をすり抜けて外に出てってしまった。
「ええ!?あ、あいつ大丈夫か!?・・・あ?いや、たぶん大丈夫か。」
そういやあ俺より強いんだからたぶん大丈夫だな。
でも心配だからちょっとしたら外に行こう。
俺はふうっとため息をつくと地面に座り込んで休憩をすることにした。
「うん?・・・どうした?ヒスラン?カルド?」
気が付くと、ヒスランとカルドがぽかんとしていた。
「ちょっ・・・ちょっと!ユウジン何者なのよ!?」
「は、はあ?」
「魔法の多重使用なんて初めて見たわ!ユウジン私より年下なのにあんな魔法使えるなんてあり得ないわ!」
「こんな風の壁、見たことないよ!人間だけ残して魔物を吹き飛ばして入れないようにするなんて!よっぽどしっかりしたイメージと魔力を込めないとできないし、やってあんなに平気なんてあり得ないって!」
2人はものすごい勢いで話してきて、ちょっと引いてしまった。
カルドは同じ魔法使いだからか目がキラキラしている。
そうしてしばらく休憩している間、ちょこちゃこ疲れたような冒険者が何人も放り込まれてきた。
どうやら疲れた冒険者をユウジンがここに放り込んでいるようだ。
そしてたびたび外からものすごい戦闘音が聞こえてきた。
たぶん・・・いや、絶対ユウジンだな、この音。
休憩もできたし、戦闘音が気になったので大剣を構えて外に出ると・・・。
『我が前の敵を射て、ファイアアロー×10』
ドガガガガ・・・!!!
火の矢がものすごい勢いで敵の集団に打ち込まれ、魔物はギャーギャー言いながら焼かれて次々と倒れていった。
・・・やっぱり大丈夫だった。
よく見たらあいつは周りに魔法がバレるのが嫌だから、罠魔法と魔法剣と無詠唱を使ってないようだ。
使ったら1人で200体倒せてたな、たぶん。
ユウジンは目立つことをとにかく嫌って、使える魔法も秘密にしてるしほとんど人前で使わないようだ。
俺がまだ知らないのもまだある気がするんだよな。
でも強さに溺れてないし、強さをちゃんと理解していると思う。
だから、まだまだ親父みたいに強くなりたい俺にはうらやましいけど見習いたい存在だ。
年下なのにちゃんとしてるしな!
俺はユウジンの魔法の届かないところの魔物を倒すことにして、次々と凪ぎ払っていった。
すると、なぜか後方からなにかが飛んできた。
「!?なんだ!?」
俺はとっさに大剣の腹で防いだ。
ドオォォンッ!!
バキィィッッ!!
なにかは爆発物で、大剣に当たると爆発して大剣の刃が砕けた。
「な!?あああっ!?け、剣が・・・!?」
大剣は刃の中心に大きな穴が開いてボロボロと破片が地面に落ちた。
冒険者になった時に親父が買ってくれた、剣なのに・・・。
これで親父より強くなると誓ったのに・・・!
爆発物が投げられた方を見ると、1人の冒険者と思われるボロボロの鎧を着た見たこともない男がニタニタ笑ってこちらを見て、さっとどこかに去っていってしまった。
「待て!この野郎!!」
俺は怒りで叫び後を追ったが、姿はどこにもなかった。
「ちくしょう・・・!なんだ、あの野郎!?・・・もしかして!?」
もしかして・・・これもフレデリックの仕業か!?
ふと、すぐそばまで魔物が迫ってきていた。
「!?おらっ!」
ボロボロの大剣で凪ぎ払うと、魔物は吹っ飛んでいったが大剣はバキッと音がして半分に折れてしまった。
親父にもらった剣を失ったのは痛いが、今はそれよりなんでもいい!
武器ないか!?
倒れている魔物や冒険者の周りを見回すが、目につく武器はことごとく折れたものばかり。
くそっ!マジでどうする?
「・・・マスティフ!!」
ユウジンがこちらに叫んでいた。
え!?なんだ!?と思っていると、俺の目の前に迫ってきていた魔物の頭上から突如、黒い大剣が降ってきた。
黒い大剣は重力に従って勢いがついて魔物の頭を易々と貫通した。
「な、なんだ!?」
長さ2メートルくらいの刃が黒くて装飾などはないが、雰囲気がただの大剣ではない感じがする。
「それを貸します!」
ユウジンがそう言ってきたので、ユウジンの物だと気付いたが、こんなものユウジン持ってたか?どうやって出したんだ?
「それはマジックアイテムの『力の大剣』です。その名の通り力が増す効果のある大剣ですが、俺は大剣を扱う予定はないのであなたに貸しましょう。」
「・・・へへっ!恩に着るぜ!」
ユウジンに礼を言って、大剣を手に持ち抜いてみたが・・・。
すごく手に馴染む!なんだこれ!?
片手で持ち上げてみると、大剣なので重いのは当たり前なのだが扱いやすい重さだ。
試しに何回か素振りをして、魔物と戦ってみるが・・・ものすごい使いやすい!!
なんだこれ!?これがマジックアイテムの効果なんだろうか?
初めてマジックアイテム持ったからわからないな。
何はともあれで、俺は大剣にテンションが上がって次々と敵を凪ぎ払っていった。
気合いを入れて切るとマジックアイテムの効果なのか確かに力が増して、ゴブリンを盾ごと切るなんてこともできるようになった。
それからしばらく戦っているとヒスランとカルドも出てきて戦い、1時間ほど経った頃。
ドカアアァァンンッッ!!
突如として町の西側から爆発音が上がり、煙があがった。




