3、悪魔は冒険者登録する
東大陸の東の端の町はフラヴィーナという名前だった。
魔物対策の高い塀で町の中は見えないが、どうやら大きめな町のようだ。
入り口に門番兵が2人立っていた。
「身分証はあるか?」
よかった、言葉がわかる!
たまに言葉がわからない設定のラノベがあるからちょっと心配だったが、多分自動翻訳とかそこら辺を神様がつけてくれてるのだろう。
というか、来た!テンプレ展開!
無くてお金払うことになって、門番が「冒険者になったら身分証出るから冒険者になったらいい」とアドバイスもらう流れ!
「すいません、田舎から出てきたので持ってないです。」
「ないなら申し訳ないが、入るのに500インもらうようになるが、持っているか?」
「あ、はい。」
俺はあらかじめいくらか用意していたお金を渡した。
どうやらこの世界のお金はすべて紙幣のようで、適当に用意していたお金の中に500と書かれた紙幣があったのですぐに渡せた。
この世界の通貨はインというのか。
通貨の感覚も後で確認しとかないとな。
そういうのを神の「世界の歩き方」に書いてそうだな。
「いちいち出入りする度に500イン払うのが面倒なら、冒険者になることを勧めるぞ。冒険者になったら期限なし無料で身分証がもらえるから、冒険者ギルドに行ってみるといい。」
お!やっぱりテンプレ展開通りだ。
ホントに言われるとなんか嬉しいなあ。
「ありがとうございます。冒険者ギルドに行ってみます。建物すぐわかりますか?」
「ああ、町の大通りに沿って奥に行くと盾と剣の絵柄の看板があるから、すぐにわかるよ。」
「ありがとうございます。」
一礼して中に入った。
町はラノベでよくある、ヨーロッパの町並みそのままで、人々がせわしなく行き交っていた。
町の人達の服装も昔のヨーロッパのようで、鎧姿や魔女みたいな格好の人もいて、本当にファンタジーの国に来たんだなと今さら実感して感心してしまった。
ヨーロッパ自体行ったことがなかったから見えるもの全てがゲームやファンタジー映画で見たような町並みが見ていて面白くて、見回しながら目の前の大通りを奥に進んで歩き出した。
大通りの両脇には露店が並び、ものすごく美味しそうな匂いがそこらじゅうから匂ってきて胃を刺激されてしまい、思わず焼き鳥店みたいな露店で焼き鳥を買ってしまった。
ロックバードという魔物の鳥の肉を使っているそうだが、鶏肉よりジューシーで甘辛のタレと絶妙に絡みあっててうまかった。
1本が結構な大きい肉が刺さってて100インだった。
日本の焼き鳥なら200円くらいしそうな大きさだ。
どうやらこの世界の食のレベルは高いのかもしれない。
テンプレ展開の「食と調味料のバリエーションが少ない」の心配はないかもしれないな。
食べ終えてしばらく歩き進めたら、盾と剣の絵柄の看板が見えてきた。
木造の2階立てで、他の建物に比べて大きくて古い印象だ。
さて、入ったらテンプレ展開があるはずだからな。
戦いに発展しないように気を付けないと。
俺はふうっと少し気合いを入れて、冒険者ギルドの大きな両開きのドアを開けた。
中はイメージ通りの、奥にカウンターがあって手前に酒場があるラノベでよくある冒険者ギルドだった。
酒場の丸いテーブル席には冒険者たちが酒を飲んでいて、こちらに視線を向ける者もいるが、すぐさま興味を無くして飲み続ける者がほとんどだった。
うわあ~、奥の方の席にいるよお~。
こっちをニヤニヤしながら見てるグループが。
テンプレ展開なりそうな予感しかないじゃん。
とりあえず、俺は奥のカウンターに行って冒険者登録することにして、奥へと進んだ。
カウンターにはかわいらしい女性が座っていた。
これもテンプレ展開なら、この女性はいわゆる看板娘か、冒険者のアイドルかな?
「いらっしゃいませ。何かご依頼ですか?」
「すいません、冒険者登録をしたいのですが。」
それを聞くと受付の女性は紙とペンを差し出してきた。
「それではこちらの必要事項の記入をお願いします。代筆は必要ですか?」
「いえ、大丈夫です。」
町を歩いてて、看板などで文字は確認済みだ。
どうやら文字も自動翻訳されてて読めるから、自然と書けるはずだ。
名前と年齢と職業、得意武器と得意魔法を書く欄があったので、名前は下の名前だけユウジンと書いた。
名字があるのは王族・貴族だけ、とかいうラノベ多いし。
年齢はそのまま24歳と書いて、職業は適当に魔法使いと書いた。
得意武器はナイフを持ってたのでナイフと書き、得意魔法はとりあえず火魔法と書いた。
紙とペンを女性に渡すと女性はそれを見ながら冒険者カードに記入し始めたので、今のうちに片足で床をトントンと叩く動作をしながら小声で罠魔法を使った。
『この床の上に足を踏み入れる者に罠をはれ、トラップ、リンク:ファイア』
俺の予想通り、俺の足が触れた床に罠が設置できた。
触れた所に罠がはれるってやっぱりこういうことも出来るのか。
なかなか面白い魔法だな。
最初に設置した所の周りにも同じ条件でいくつか設置しといた。
「はい、こちらが冒険者カードになります、ユウさん。」
「あ、どうもありがとうございます。」
「それからこちらの冊子に冒険者の基礎知識や禁止事項など詳しく書いてますので読んで下さいね。」
女性の差し出してきたカードと薄い冊子をもらった。
その時、背後から声をかけられた。
「冒険者デビューおめでとさん、兄ちゃん」
振り返ると、酒場の奥でニヤニヤこちらを見ていたグループの1人の、いかにもガラが悪そうな男が立っていた。
「兄ちゃんは見たところ、平和ボケした田舎者にしか見えないが、職業はなんだい?」
見事なテンプレ展開だな。ここでものすごく馬鹿にしてくるのも予想通り。
「俺は一応、魔法使いです。」
そう答えると、男がわははは!と笑いだした。
酒場の奥に座っている男のグループもクスクス笑ってる。
「こりゃ傑作だ!魔法使いならローブに杖はどうしたんだ?まさか魔法使いのくせに持ってないのか!?」
「・・・これから買いに行くところですが?」
「だったら俺たちがいい店知ってるから買ってきてやるよ。」
「いえ、自分で探しますから。先輩方の手をわずらわせる訳には。」
「いいから金出しな。買ってきてやるって。」
「・・・そう言って、金ふんだくろうって魂胆が見え見えですよ、先輩。」
「ああ!?んだとてめえ!?」
男はイラっとしたみたいで、こちらに歩み寄ってきた。
そして俺に掴みかかろうという距離まで来たとき。
ボッ
男の足元に火が着いた。
「!?な、なんだあ!?」
男が戸惑ってる間に火は男のズボンに燃え移った。
「あちちちち!」
男が驚いてズボンの火をはたきながら横に移動する。
ボッ
そこでも火が着いた。
「な!?熱い熱い!?うわあああ!!」
スボンが少し燃えたくらいなのだが、男は驚いてその場に転げ回った。
ボボボッ
次々と火が着いて、男は一瞬にして火だるまになった。
「うぎゃああああ!!」
ギルドにいた全員、何が起きたのか全くわからないようで呆然としていたが、男の叫び声で我に帰り皆が消火にあたった。
俺はその隙にそそくさと冒険者ギルドを出た。
まさかあの男が罠を全部発動するとは思わなかったな。
今回の罠魔法をはった利点は、誰が火魔法を使ったかわからないようになっていたのだが、俺の近くではったのは失敗したな。
火が出た位置と状況的に、明らかに俺が何かしたと思われてもおかしくないことになってしまった。
俺としては服にボヤ程度の火が着いて騒いでる男にグループの奴らがかけよってグループみんなボヤになって大騒ぎしたその隙に、逃げるつもりだったのに。
なんであそこで転げ回るかな?
みんな火がついたら面白そうでよかったのに。
どっちにしても、しばらくは冒険者ギルドに行きずらくなってしまったなあ。
まあ、いいか。
もともと身分証のためにとったんだし。
依頼とかやってみたいけど、そのうちで。
そんなことより、泊まる宿屋探さないと。
俺はしばらく町の中を散策し、外観が清潔そうな宿屋を見つけてそこにしばらく連泊することにした。