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337、悪魔は戦争に向けて・・・

三人称視点です。

勇者が2回目の襲撃を受けた週の末のこと。


「な、な、なんだと・・・!?」


モンフェーラ王国国王フェリペは宰相バルドロの報告の内容を聞き、なかば茫然とそう呟いた。

バルドロはとても神妙な顔をして頷く。

「そうです陛下。正体不明の魔物も勇者に毒を飲ませて2度襲撃したのもグラスタッズ王国の仕業だったのです。」


バルドロはフェリペにこう報告した。


まず、正体不明の魔物は目的がないように思えたが勇者を見つけると名指しで殺すと言ってきて襲ってきた。

勇者は怨霊だと気づいて神聖魔法で倒していき、倒された地にて後日宰相の手配した調査団が調べたところグラスタッズ王国で作られた魔道具が落ちていた。

正体不明の魔物が倒された地には必ず同一のものが落ちていたので、調査団は恐らくその魔道具を媒介にして正体不明の魔物は姿を現していたのではないか、と予想している。


そして勇者が毒を飲まされた件の犯人はいまだ行方知れずではあるが、勇者の残した食事を調査団が調べたところグラスタッズ王国で採れる毒草が含まれていることがわかった。

しかしながら食事に入れられたのは致死量にもならない少量だったので、勇者が気づかず全部食べてしまっても数日腹痛と下痢で寝込むくらいのものだったそうだ。

勇者は一口だけ食べたため、少しの腹痛ですんだそうで襲撃時は部屋で休んでいた。


続けて勇者が2度襲撃された件はいづれも護衛が気づいて対処したために勇者が危険に晒されることはなかったがどちらも護衛が襲撃者の追跡に失敗。

しかし、襲撃者の持ち物と思われる短剣が見つかってそれはグラスタッズ王国の国章が付いたものだったことからグラスタッズ王国の暗部ではないかと思われる。



この報告を聞いたフェリペはしばらく茫然としていたが、やっと頭が処理できると途端に真っ赤になって激怒した。


「おのれグラスタッズ!よもやそんな姑息なことをしてくるとは!?国交断絶してさぞや困って媚びてくるだろうと思っておったのに!我が国に魔物を寄越してくるだけではなく勇者まで襲うとは!?」

フェリペはそれまで呑気に飲んでいたワインの入ったグラスを床に叩き割って憤慨した。

「勇者が活躍せねば余の威光が強まらんではないか!」

フェリペは勇者のことを一欠片も心配していなかった。

勇者が活躍しなければ自分がますます賢王として崇められないじゃないか、とそれだけを気にしていた。

なので勇者が致死量でなくても毒を飲まされて宿屋に籠られたり襲撃というかたちで邪魔されるのが気に入らなかったのだ。


「一応証拠があることを提示た抗議文をグラスタッズ王国に送りましたがいまだに返答はありません。」

「なんと生意気な!!」

フェリペは怒り狂って震えている。


「国民もグラスタッズ王国についての不信感が強まっていて、グラスタッズ王国をこのままにしていいのかと貴族たちが騒いでいます。・・・陛下、そろそろ決断された方がよろしいかと思いますが。」

バルドロがじっとフェリペを見つめて言うと、フェリペは怒り狂ったままガタンと立ち上がった。

「わかっておる!心優しい余も今回のグラスタッズ王国の所業に堪忍袋の緒が切れたぞ。戦争だ!諸悪なグラスタッズ王国など滅ぼしてくれようぞ!」

「陛下ならば必ず成し遂げられると信じております。」


バルドロはうやうやしく一礼したが、下を向いたその顔はほくそ笑んでいた。







フェリペは戦争についての細かいことはバルドロに任せるとさっさと王女エスメラルダのご機嫌取りに向かい、バルドロは自分の執務室に戻ると補佐全員を呼んで戦争することになった有無を話した。

そしてそれぞれの補佐に指示を出して騎士団や魔術士団に知らせるよう向かわせ、ラミロには現在勇者が城に戻ってきているので戦争に参加させるよう指示した。

勇者は強力な戦力でもあるので今回の旗頭役にしたかったのだ。


そうして補佐たち全員が慌ただしく執務室を出ていって、バルドロ1人が残ったところにどこからともなく3人の黒ずくめの男たちが現れた。


「お前たち、ご苦労だったな。」

黒ずくめの男たちはバルドロの前に跪いた。

「ん?4人だったはずだが・・・1人はどうした?」

バルドロがそう聞くと黒ずくめの男たちはわずかに固まった。

「も、申し訳ありません。1人は撒いている最中に、その、足に、け、怪我をしてしまいまして、休ませております。」

男の1人がどもりながら言うとバルドロは特に気にした様子もなくそうかとだけ返事をした。


「勇者どもに捕まってなければいい。ちゃんと撒けて短剣も置いてきたようだしな。」


実はこの4人は勇者を狙って宿屋を2度襲撃した侵入者たちであり、正体はバルドロが密かに持つ暗部の暗殺者たちだった。

この暗殺者たちはバルドロが今回勇者が襲撃されるということを演出をするために勇者を襲うようにと指示した者たちだったのだ。

暗殺者たちはわざと護衛に察知されやすく侵入して、1回目はなにも残さず撤退し2回目はわざと逃げる途中でバルドロに指示された短剣を置いて逃げたのだ。

そのグラスタッズ王国の国章の付いた短剣は勇者がラミロに報告した際に証拠として提出され、今はバルドロが持っていることになっている。


「毒もちゃんと飲ませたようだな。」

「はい。」

別の男が返事をして頭を下げた。

勇者の料理に毒を入れた料理人の男は実はこの暗殺者の4人の男の1人で、実際に勇者が毒に当たったことでグラスタッズ王国の仕業に演出するためにバルドロの指示通りに致死量にもならない少量の毒を料理に入れて行方をくらませたのだ。


「見事に私の指示通りやってくれた。これからも頼むぞ。」

「「「ありがとうございます。」」」

3人の男たちは頭を下げるとどこかへ消えていった。



バルドロは1人残った執務室で小さく息を吐いた。

先ほどフェリペに説明した報告にあった調査団など実は存在しない。

正体不明の魔物は適当な場所に現れて暴れて勇者を見つけたらそれっぽいセリフを言って倒されるフリをするようにバルドロが指示しているからグラスタッズ王国で作られた魔道具など見つかるはずがない。

そもそも魔物を魔道具を媒介にして現れるようにする魔道具などこの世にないし、グラスタッズ王国で作られたものだとしてもグラスタッズ王国が使っている証拠にはならないのにフェリペは頭に血が昇って細かいところは考えられなかったのだろう。

むしろ考えられなくなるように、怒り狂うようにわざと畳み掛けてバルドロは報告したのだが。


「くくく、これでやっと戦争になる。グラスタッズ王国にも嫌がらせをしているし、あっちもその気になってくれているだろうな。」


バルドロは少し前から密かにグラスタッズ王国へフェリペの指示だと装って嫌がらせをしていた。

グラスタッズ王国の使者を殺して体内に爆発する魔道具を仕込んで国王の名で送り返したのを皮切りに、国境の防衛訓練の流れ弾と称してグラスタッズ王国側に火の球を放って山火事を起こさせたり、捕らえた国内の盗賊たち数十人をグラスタッズ王国側にわざと逃がしたりなどなどして、グラスタッズ王国側からの抗議文が来てももちろんフェリペに見せることなく破棄していた。


これに怒ったグラスタッズ王国が貿易停止を言ってきたのを利用してフェリペに国交断絶させて、グラスタッズ王国に非があるような書き方をした抗議文も送った。

因みに正体不明の魔物や勇者の毒や襲撃に関する抗議文も送っていて、グラスタッズ王国側としては意味のわからない内容に返事を寄越してくるわけもなく、バルドロはわかっていて送って返事がないことをフェリペに報告したのだ。


「もうすぐだ・・・!もうすぐ、私がこの国の頂点に立つ日が来る。愚王に全ての罪を擦り付けて処刑して私がダニエル殿下の宰相となれば実質私がこの国の頂点!さらにアレ(・・)がうまいこといけば私の野望が叶うのだ・・・!」


バルドロは1人自分の野望がもうすぐ叶うと信じて疑わず笑った。








翌日、城に戻ってきていてのんびりしていた勇者はラミロの話を聞いて「わかりました」と戦争参加を了承した。

あっさりと了承したことについて勇者は「毒を飲まされて2回も襲撃されてなんの恨みがあるのかと思ってたところでしたから。」と愚図の勇者にしては憤っていた様子だったという。

バルドロはそんな性格だったか?とは少し思ったものの、旗頭になってくれるのならいいかと勇者の戦争参加にホッとした。

旅になかなか出なかったりとまたごねられたらたまらないと思っていたのだ。



それからは勇者の旅は中止となり、国全体が戦争に向けての準備が着々と進んでいった。




なんか報告についての説明やバルドロの仕業だという説明でごちゃごちゃしちゃってすいません。

ようはバルドロがフェリペに戦争するぞ!と言わせるために(後に負けた時に責任を負わせるため)あることないこと織り混ぜて言ってグラスタッズ王国を使ってフェリペを煽ったんです。




そして戦争参加をあっさり了承した主人公。

対グラスタッズ王国なのでもちろん敵は人間。

主人公はついに自らの手で人を殺すのか?

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