333、悪魔は何者かの襲撃にあう
「「毒!!??」」
へルマンとレックスは同時に驚いた。
ついでに俺の足元で刺身にありつこうとしていたクロ助も飛び上がって驚いていた。
「ゆ、勇者様!!??今、毒って言いました!?吐き出して下さい!」
「体は大丈夫ですか!?」
「2人とも落ち着いて下さい。」
2人のオロオロしている姿は実に面白くて俺はつい笑ってしまった。
「俺は状態異常無効ですから毒は効きません。へルマンは前に話したじゃないですか。」
「え、あ・・・そういえばそうでした。」
「ええっ!?勇者様、状態異常無効なんですか!?」
「厳密に言えばこの指輪がそうなんですけどね。」
そう言って指輪をヒラヒラ見せると「え、それって前にMPが全回復した奴ですよね?どんだけな指輪ですか・・・。」とレックスが引いていた。
「勇者様に毒が効かなくてよかった・・・。ですが、問題はパエリアに毒があることです。」
俺は素早く皆の頼んだものを鑑定した。
「それぞれ頼んだ中で俺のパエリアだけに毒が入っているようですね。ということは俺を狙ったということは明らかでしょう。」
「なんてことだ!?・・・レックス、料理人を問いただすぞ。勇者様は効かないとはいえパエリアを食べるのはお止めください。アニタ、ここにいて勇者様を守っていてくれ。」
「わかりました。」
へルマンはレックスと部屋を出ていった。
「まあ、俺としても効かないとしても精神衛生的に食べ続けるのはアレなんで、食べるのは止めておきましょう。」
「ゆ、勇者様・・・。」
呑気なことを言う俺をアニタは伺うように見てきた。
俺はニコニコしてアニタを見返した。
「さすがアニタですね。匂いで毒がわかるとは。パエリアの匂いの中よくわかりましたね。」
「わずかに独特なツンとした匂いがしましたので。それに最近毒のことを学び直していたところでしたからわかったんだと思います。」
「それは妹さんの件ですか?」
「はい。アネットの毒は無臭だったのでわからなかったのが悔しかったもので・・・。」
ふむ、アネットの件でアニタはいつもは普通にしていても、今もなお悔やんでいるのだ。
その悔やみが毒の学びに結びつき、今回すぐに毒の有無を察知できた。
アネットの件でアニタは成長することができたということだ。
「ではアニタ、なんの毒がどれくらいの量入れられたかはわかりますか?」
アニタはパエリアに顔を近づけて匂ったりパエリアの見た目をじーっと見た。
「恐らく・・・毒草の根を粉末にしたものを使っていて、量は・・・それほど多くないのではないかと思います。パエリア全部食べたとしても致死量にも満たないのではないでしょうか。」
正解だ。
俺が鑑定魔法で見た内容と同じで驚いた。
アニタは鑑定魔法が使えないので匂いと見た目でそこまでわかったのだ。
「素晴らしいですね。鑑定魔法と同じです。そして俺が食べた一口分では目眩と吐き気がするくらいでしたでしょう。全部食べたとしても高熱とひどい下痢になるくらいみたいです。」
「それを鑑定魔法で知って状態異常無効だったとしても口にされるのはどうかと思います。」
おや手厳しい。俺は苦笑した。
「すいません。一応一口食べたという事実が必要だったので。」
「え?」
「ただいま戻りました。」
アニタが首を傾げたところでへルマンとレックスが戻ってきた。
2人とも苦い顔をしている。
「料理人を問いただしたところ、昨日から働き出した新人の料理人1人が姿が見えないということで宿屋の者が探し回っているところです。」
「その新人は若い男だそうで、料理経験があるということで下ごしらえをさせていたそうです。他の料理人たちは怪しい感じではなかったのでその新人が怪しいですね。」
「そうですか・・・。まあ、見つかったら宿屋の方が知らせてくれるのでしょう?それを待ちつつ部屋で静かにすることにしましょう。」
その後、気を遣った宿屋の店主が俺たちが頼んでいたものを下げて代わりに近くの飲食店の料理を持ってきてくれた。
俺は体調不良のフリをして店主の対応はアニタにしてもらって、持ってきてくれた料理も3人で食べるように指示した。
そしてアイテムにある食料で適当に腹を満たした。
「勇者様?なんで持ってきてくれた料理は食べずにアイテムのを食べるのですか?やはり状態異常無効とはいえ毒を警戒してのことですか?」
「いえいえ。毒を盛った相手は俺が状態異常無効なんて知らないから毒を盛ったのです。だから俺は毒に当たって体調不良になっていなくてはいけまさん。それなのに持ってきた料理をパクパク食べてたらおかしいでしょう?」
「え?どういうことです?毒を盛った犯人は逃走中なのにそんなのを気にする余裕はないはずでは?」
「盛った犯人は、ね。」
へルマンの問いに俺が返しているとレックスがハッとした。
「え?もしかして・・・仲間がいる?とかですか?」
「さあ?どうでしょう?」
クスクスと笑いながらレックスに答えるとジト目で見られた。
「まあ、いつも通りへルマンとレックスは見張りしていたら問題ありませんから。」
そして夜中。
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・パチッ!
「!?」
いつものように寝ていると、いつも枕に仕掛けている罠魔法の雷魔法が発動して目が覚めた。
今夜は「宿屋の関係者や宿泊客以外の者が宿屋に侵入したら発動する」ように仕掛けていた。
つまり、宿屋に何者かが侵入したということだ。
「フミュ?」
俺の首元でいつものように丸くなって寝ていたクロ助も俺が起きた気配で目が覚めたようで寝惚け眼で小さく鳴いた。
「寝てて大丈夫ですよ。」
俺はクロ助の頭を撫でるとしばらくサーチを宿屋全体にかけて様子を見た。
・・・ふむ、侵入者は4人のようだ。
しばらくして、廊下が騒がしくなってガキンッガキンッという戦闘音が聞こえてきた。
侵入者たちとヘルマンが対峙しているのがサーチでわかった。
すぐにレックスも起きたようで参戦して、アニタは起きたが部屋から様子を伺っているようで部屋の中から動く様子がない。
俺も廊下に出ることなくサーチで様子を見ているとバリーンッ!とガラスが割れる音がした。
どうやら侵入者たちは廊下の窓を壊してそこから逃げたようだ。
ヘルマンが同じ窓から追っていって、レックスは安否確認で俺の部屋の前に慌ててやって来た。
トントントン!と勢いよくドアを叩かれて俺は起き上がって用心でいつも張っている結界魔法を解いてドアに近づいて開けた。
「レックス?どうかしました?」
「勇者様!今何者かが宿屋に侵入してきました。退くことはできましたが、勇者様はなにか異変はありませんでしたか?」
俺はさも侵入者に気づかなかったように驚いてみせた。
「何者かが侵入?すいません、寝てたので気づきませんでした。俺は今まで普段通り寝ていてなんの異変もありませんでした。クロ助も今ベッドで寝ています。」
「そうですか・・・。勇者様の身になにもなくてよかったです。」
レックスは次にアニタの部屋を訪ねて、アニタも異変はなく廊下での戦闘音で起きたが部屋から様子を見る限り2人なら大丈夫そうだと思って部屋から出なかったと話していた。
しばらく部屋で待っていると、侵入者を追っていったヘルマンが1人で戻ってきた。
その顔は悔しそうにしていて途中で撒かれてしまったそうだ。
「侵入者は4人でいずれもただの物取りの侵入者とは思えない空気を出していまして、統率もとれていて身のこなしも相当な腕前に思いました。侵入者4人はいずれも黒ずくめの格好で顔も隠されていて、体格から全員男性なのはわかったのですが声をほとんど発っさなかったもので何者かまったくわかりません。その上見失ってしまって申し訳ありません・・・。」
「いえ、4人もの人数を退かしたのですからすごいと思います。おかげで怪我人も出ませんでしたから。」
ヘルマンとレックスはちょっと擦り傷があったが、それは宿屋の廊下という慣れない狭い空間で戦ったため壁などにどうしてもぶつかってしまってできた傷だ。
その傷も俺が瞬時に治したが。
「侵入者は一体何者でしょう?明らかに物取りではなかったので、目的は・・・勇者様の可能性があります。」
明らかに侵入者たちは宿屋に侵入して俺の部屋に向かって来ていた。
だから俺の部屋の手前の部屋で見張っていたヘルマンが察知して戦うことになったのだ。
物取りなら俺の部屋ではなく宿屋の店主の部屋や事務所を狙うはずだからな。
「その可能性は高いでしょうね。ですが俺が狙われたとして、誰が俺を狙うんでしょうか?皆さん心当たりはありますか?」
ヘルマン、レックス、アニタの3人とも首を傾げた。
俺は現在勇者として旅して魔物を倒している状況だ。
異世界から召喚された存在なので誰とも繋がりがほぼなければ遺恨ももちろんないのだから恨まれ狙われるのはないはずなのだ。
それでも万が一のことがあったり王国側からの面子の問題で護衛がいるのだけれど。
まあ、今回はその万が一が起きたわけだ。
「貴族たちは勇者様と懇意にしたい者と付かず離れず様子見の者とに別れていますから正直悪印象を持っているとは思えません。」
ヘルマンが考えながら言った言葉に俺は賛同して頷いた。
勇者様と懇意にしたい者はお披露目で娘をあからさまに紹介してきたりしてきた奴らだ。
付かず離れず様子見の者は勇者の召喚に疑問を持っていて表面上好意的に見えて王国に対しても付かず離れずで今後の成り行きなりを見守っている奴らだ。
恐らくこのリアクアの町の領主がそんな感じで、協力を求めたら応じれるなら応じるが基本的に向こうからこちらに干渉してこないって感じなのだろう。
そういう奴らは様子見をしているだけなので俺に対して良いとも悪いとも思ってないように思う。
「かといって庶民は勇者様の存在に好意的に思えますよ。先週魔物を倒して正体不明の魔物を倒した噂はすでに広まっているようで、正体不明の魔物を早いとこ倒してくれたらなって噂してるみたいですから。」
「レックス、その情報どこから聞いたんです?」
「昨日宿屋に戻ってきてからちょっと夕食まで時間があったじゃないですか。その間に散策してたら噂してるのを聞きました。」
そういえば・・・夕方に「ちょっと夜中飲む酒を買いに行ってきていいですか?」とレックスが言ってきて、ヘルマンが「真面目に護衛しろ!」と怒るのをいなしながら慌てて出かけてたな。
「ふうん、もうそんな噂になってるんですね。・・・まあ、それは置いといて、貴族でも庶民でもないということですね。」
「残るは・・・王族でしょうか?ですが、勇者様を召喚したのは陛下や宰相ですし王子殿下は勇者様と友人関係ですし、王女殿下はそこまでされるほど知り合ってませんし。」
まあ、俺自身は国王フェリペと宰相バルドロに思うところはあるが、それは隠して今のところ宰相の言う通りに旅してる。
「となると・・・この国の者たちではない、ということでしょうか?」
「他国・・・となると・・・え?もしかして?」
レックスは思い当たったようで苦い顔をした。
「いや・・・でも、アレは・・・。だが、状況から見て・・・。」
レックスはなにやらブツブツと考え込んでいる。
「レックス?どうした?」
ヘルマンが声をかけるとレックスはハッとして首を振った。
「いやいや、なんでもない。多分、俺の思い違いだ。・・・まあ、こうして話していてもわからんものはわからんのだから、とりあえず明日城に帰ったら報告して団長に相談してからだ。」
「ああ・・・そうだな。明日勇者様の移動魔法で城に帰るのだから毒の件も含めて報告しないとな。」
そうしてヘルマンとレックスは念のために夜通し起きて部屋で見張ることになり、俺とアニタはそれぞれ部屋に戻った。
「フミュ~?」
丸くなって寝ていたクロ助が俺がベッドに腰かけると寝惚け眼でこっちを見て鳴いた。
そしてベッドのサイドテーブルに置かれていた水差しを持ち上げてコップに水を入れてうやうやしくレギオンが渡してきた。
「侵入者は次に来る時、きっと分かりやすいヒントを残していくでしょうね。」
レギオンにそう声をかけると複数の顔がニヤリと笑った。
主人公は本当はどこまでわかっているか?
後にわかります。
 




