323、悪魔の給仕は暗躍する2
前半は三人称視点で、後半は主人公視点です。
「―――・・・というわけで、そのためにもあの愚王にはますます評判を落としてもらって、グラスタッズ国と不仲になってもらわねばならない。」
バルドロからある企みを聞いた影は体に浮かぶ顔をニヤニヤさせた。
「面白い。宰相の企みが成されるのを我も見たいので協力しよう。」
「ああ。お前にはたくさん協力してもらうつもりだ。グラスタッズ国との不仲にお前も一役買ってもらうぞ。」
バルドロは影が協力してくるのが当たり前のこととして、影を試す傍ら実は影をどう有効利用しようか考えていた。
そして妙案が思いつき、それを影にやらせることにした。
「我はどうしたらいい?」
「影には愚王の威厳のためだけに召喚した勇者を利用する手伝いをしてもらう。お前は遠く離れた地にも瞬時に行けることを利用して、このモンフェーラ国内で正体不明の魔物として各地に出没して被害を及ぼすのだ。正体不明の魔物の噂が出回る頃に勇者を討伐の旅に出させる。勇者は今のところまだまだ愚図だが、噂が広がるであろう1ヶ月後にはある程度使えるようにはなっているだろう。お前は勇者の討伐の旅に度々現れて旅を妨害するんだ。そして現れては勇者と戦ってその都度わざとやられたフリをしろ。お前は実体がないそうだから倒されたフリくらいできるだろう?そうして勇者が魔物を倒していっているという噂を広める。」
「ふむ・・・。各地で被害を及ぼすことも勇者の妨害をして倒されるフリをするくらい簡単だ。だが、それとグラスタッズ国の不仲にどう繋がる?」
「噂が広まったところで私が「正体不明の魔物はグラスタッズ国が送り込んでいる魔物だ」という噂を流す。そして愚王にもその噂を話す。それまでに私は愚王にグラスタッズ国の評判を落とす報告をいくつもするから愚王はグラスタッズ国に怒り狂うだろう。」
「なるほど・・・。それは不仲になるだろうな。だが、もし国王が怒り狂い、例えば戦争だと言い出したらどうするのだ?」
「戦争?するに決まっているだろう。」
バルドロはなんともあっさりと言い切った。
「そのために噂を流すのだ。グラスタッズ国の仕業だと噂があればそれだけで国民や貴族はグラスタッズ国に少なからず反感を持つ。そこに愚王が攻め入るぞと騒げば反対する者も少なく戦争へと流れができるだろう。」
そう言うバルドロは戦争をすることになんら抵抗がないようだ。
「グラスタッズ国の国力はこの国と変わらずそこまで戦力があるとは聞かないし、恐らく驚異になるのは勇者くらいだ。その勇者も最近はまったく活躍を聞いていないから衰えている可能性はあるな。それに対してこっちには魔術士どもが開発した魔道具がある。それを量産したら十分な戦力になるだろう。ああ、あの愚図も旗頭にしてもいいしな。だが、私としては勝っても負けてもどっちでも益になるからどうでもいいんだがな。」
「益になるとは?」
「もし勝てば領土を奪い国を広げることができるしモンフェーラ国の威光が各国に知れ渡るだろう。だが、もし負けると・・・愚王に全てを押し付けて公開処刑でもさせてダニエル殿下を国王にして私が国王代理として摂政したらいい。そうなれば私が実質国王だ。」
くくくと笑うバルドロの顔は野心にまみれたものであった。
「ふうむ・・・。我には負けた方が宰相に益があるように聞こえるがな。だが負けた場合、通常ならば愚王だけでなく宰相にも責が来そうなものだが?民たちは宰相を「国王の言いなり」と揶揄しているのだぞ?」
「お前は人間の噂にも興味があるのか?・・・確かに、通常ならば私も愚王と共に責められて処刑なりなんなり責任はとらされるかもしれん。が、それはあくまでも通常ならばの話だ。私はすでにそこに関しては手を打ってあるから、私が責任を負うことにはならないようになっているのだよ。」
バルドロはなにやら含みをもたせたようにニヤリと笑った。
「とにかく、お前はこれからしばらくは各地で適当に暴れ回ってくれ。領主たちがそれぞれ調べて私に報告してくるまでのことを考えると1ヶ月くらいかかるだろう。それから愚王に話して愚図に話してからは、お前は愚図の妨害に注力してくれ。」
「・・・了解した。」
それから影はバルドロの言う通りに各地で出現してわざと人目に触れ、暴れて被害を出したのだ。
そしてその報告がバルドロの目測通り1ヶ月かけてバルドロの元に集まってきて、今日やっとフェリペと勇者に話すことができたという訳である。
バルドロの前に影が現れたのは今まで各地で適当に暴れていたのが、これから勇者の妨害に移行するようにとバルドロが言っていたタイミングだったのでバルドロの前に現れたのだった。
「予定通り、これから旅に出るであろう勇者の妨害に移行するが、問題はないか?」
影の体に浮かぶ顔はいやにニヤニヤしながらそう問うてきた。
「ああ、今のところ問題はないはずだ。・・・いや、あの愚図が旅に出るかいささか引っ掛かりはするがな。」
勇者は今のところ補佐ラミロが毎朝促しているにも関わらずまったく聞く耳持たないとの報告があがっている。
あの愚図で気の弱そうな優男が聞く耳持たないというのは少しおかしいなとバルドロは思ったが、覚醒?とかいうので急に強くなって調子に乗っているのだろうと放っている。
今回の正体不明の魔物を魔族として話すことで旅に出てくれたらいいが・・・それでも渋るようならなにかしら脅してでも旅に出さないとバルドロの企みが台無しになる可能性もあるのだ。
「我の勘では・・・きっと旅に出ると思うぞ。」
魔物にも勘があるのか?と思いつつバルドロは聞き流した。
「くくく・・・勇者と戦えるとは実に楽しみだ。」
影はそう言い残して部屋の隅の影に消えていった。
「・・・わかりました。旅に出ましょう。」
俺が微笑んでそう言うと、ラミロはぱあっと顔を明るくした。
「ほ、本当ですか!?やっと!やっと・・・旅に出ていただけるんですね!!」
ラミロは泣くんじゃないかというほど感極まって無意味に俺の手を取りブンブンと握手をしてきた。
・・・うん、そんなにラミロは俺が旅に出なくて悩んでいたんだろうか。
「ただし、条件があります。」
浮かれたラミロに俺がそう言うとラミロはえ!?という顔をして固まった。
「この部屋が気に入ったこともあるしちょくちょく城に帰ってきたいので、俺が旅に出てもこの部屋は勇者の部屋として確保しといてください。それから旅に出るのは準備も必要ですから3日後に旅立たせてください。」
「え・・・?あ、その2つなら大丈夫です!私が責任をもってこの部屋は確保しますし、準備にも協力します!3日後なら宰相様も了承して下さると思います。」
「そうですか。よかったです。」
それから軽く旅に行くメンバーなどの話をして、ラミロは慌ただしく部屋から出ていった。
「・・・旅に出られるのですか。」
ラミロが出ていったら紅茶を片付けていたアニタがそう言ってきた。
「勇者様はてっきり・・・このまま城に滞在なさるのかと思っておりました。」
「体調不良ということになっているはずの勇者が最近は城内をウロウロしてるんです。滞在理由が苦しくなってる頃ですし、ずっと城にいるのもつまらないですからね。」
つまらないというのは俺が暇をもて余しているという意味と、このまま俺がここにいたらバルドロの思惑通りにならないからという意味がある。
「あの・・・先ほど準備があるので3日後とおっしゃってましたが、準備は私がやりまし、1日もかかりませんが・・・。」
アニタがおずおずと言ってきたので俺は微笑んだ。
「旅の準備はアニタにお任せするつもりです。俺がやるのは別の準備です。」
「別の準備・・・ですか?」
アニタは訳がわからないという感じで首を傾げ、部屋の隅で護衛をしているヘルマンも首を傾げていた。
「とりあえず、明日動いとこうかなと。あ、明日は確かヘルマンは休みでエドガーが護衛ですよね?」
「は、はい。そうです。」
「ヘルマンはまた別宅に行く予定ですか?」
俺がニヨニヨしながら聞くとヘルマンはばつが悪そうな顔をした。
「い、一応・・・病人ですから心配しているだけで・・・。」
なんかゴニョゴニョ言っている。
別宅で療養中のアニタの妹アネットはあれから食欲もだいぶ出てきたがまだ半人前くらいしか食べられないそうだ。
体力面は歩けるほどにまで回復したが、筋力が低下しているのでまだしばらくは部屋の中で歩いたり軽い筋トレをしていくことになるらしい。
ヘルマンは今も自分の休みの度に見舞いに行っているというのはレギオンの勝手な報告で知っている。
「俺が旅に出るとなると護衛のあなたがついてくることになるのは明らかですから、しばらく会えなくなるとか寂しくなるとか話しといた方がいいですよ。」
「そ、そんな話しません。」
俺は気を遣って言ったのだが、ヘルマンは動揺しながらも拒否してきた。
「なんだ、つまらないですねえ。」
「ミャー!」
そうだそうだとソファでくつろいでいたクロ助が俺に賛同してきた。
「ふふふ、これから忙しくなるので告白するなら今のうちにしたいたほうがいいですよ。」
「し、しません!・・・って、忙しくなるのですか?」
「ええ。俺の予想が当たれば・・・来月辺りに戦争が始まりますよ。」
俺の予想に2人がぎょっとした。




