32、悪魔は剥ぎ取る
首都に帰ってきて、依頼人のところへ向かった。
「おおおおお!!こんなにミスリルを大量に見る日が来るなんてなあ!!」
鍛冶屋の親父は飛び上がって喜んだ。
この親父は錬金術師のモメントの古くからの友人で、モメントから俺がアイテム収納魔法持ちと聞いて、1年前から出していた自分の依頼も受けてくれないかと言ってきたのだ。
見た目は50代の長い黒い口髭で小柄でぽっちゃりしている親父は300歳越えのドワーフで、ゲームやラノベのイメージ通りの職人肌の頑固親父で飲んだくれだった。
「いやあ、礼を言うぞユウジン!これで注文品をやっと造ることができる。」
親父は取引先の武器屋がミスリルの剣20本という注文を急にしてきたそうで、材料のミスリルがなかなか集まらずギルドに依頼を出したそうだ。
なぜ急にミスリルの剣20本なんて武器屋が言ってきたのかというと、どこかの貴族が言ってきたそうだ。
つくづく貴族ははた迷惑な奴等だな。
「喜んでいただけてよかったです。50キロで20本できるんですか?」
「ミスリルの剣つっても、ミスリル以外に色々混ぜて剣になるからだいたい30キロくらいあったら足りるんだが、一応ストックもほしくて50キロにしたんだ。」
ミスリル自体は魔法鉱石なので硬さがそこまでないので、他の硬い鉱石を混ぜて武器防具は造られるそうだ。
ミスリルの比率が他の鉱石より多ければミスリルの剣と銘打てるというわけだ。
「だいぶ苦労したんじゃねえか?グリフォンのいない隙を狙ったんだろ?」
どうやら俺はグリフォンがいない隙に素早くとってきたと思われたようだ。
まあ、そう考えるのが普通だ。
「まあ、確かに大変でした。」
俺は曖昧な答えで返しといた。
「そうだろそうだろ。大変だったろうから、報酬はもちろんギルドで受け取ってもらうが、それとは別になんか打ってやろう。もちろん金はとらねえ。なんかほしいもんはないか?」
「えっ、でもこれからミスリルの剣造らないといけないのではないですか?」
「そんなこと気にするな!恩人の礼が先だ。なにがほしいかさあ、言え!」
えええっ!急に言われても・・・。
ふむ・・・、そうだなあ。
「では自分用にとってきたミスリルで短杖2本とガントレットとグリーブ造ってもらえますか?」
俺がそう言って自分用のミスリルをゴロゴロ出すと、親父は驚いていた。
「おめえ、自分用にとってんのかよ!?なんキロあんだよ!?」
「え?どれくらいあったらいいのかわからなかったので50キロですが?」
「業者か!」
親父が漫才師ばりのツッコミをしてきたが俺は武器防具のことなんてさっぱりなんでしょうがない。
「おめえのアイテム収納魔法の要領どうなってんだよ。」
親父はそう言って頭を抱えていた。
こん中にまだグリフォンの死体やら行き帰りで倒した魔物やら色々まだ入っているのに要領ガラガラなのは言わない方がいいだろうな。
「気を取り直して・・・。ふうむ、だったら30キロ出せるか?特別に高純度のミスリルのものを造ってやろう。」
「高純度にしたらなにか変わるんですか?」
「高純度にした鉱石の特性が強化されるんだ。ミスリルの場合は魔法と相性がいいから、魔法攻撃に耐性が付いたり魔法の威力が上がったりするぞ。」
「へえ、それいいですね。俺は魔法使いなんで助かります。」
俺はミスリル30キロを出して親父に渡した。
親父はさっそく造ってくれるそうで、来週にはできると言ってくれた。
俺は鍛冶屋を出るとギルドに向かい、依頼達成を報告して報酬をもらった。
それからギルドの裏に回って、剥ぎ取り小屋のドアを開けた。
「こんにちは。お邪魔します。」
「おう!来たか、ユウジン。」
剥ぎ取りの職員クレッグはテキパキと剥ぎ取りしながらそう声をかけてきた。
ここには週1ペースで来て、剥ぎ取りをクレッグから教わっている。
魔物によって剥ぎ取りが細かく違うしコツもあるからなかなか難しいが、クレッグのおかげでだいぶ上達した・・・と思う。
「・・・よっと、これでよし。待たせたな、今日も剥ぎ取り練習していくか?」
「はい、お願いします。あの、魔物なんですが・・・。」
「あ?どうした?」
「ちょっと、というか多分レアだと思うんで、できれば内緒で買い取ってほしいんですが。」
「内緒で買い取りぃ?」
「できれば誰が持ってきたか、内緒にしていただけないかと。」
「はあ?変な奴だなあ。・・・まあ、できなくはないがなあ。そんなにレアか?」
「だと思うんですが。グリフォンです。」
「・・・・・・は?」
「グリフォンです。」
クレッグは見たことないほど目を見開いて固まった。
「クレッグ?あー、やっぱりレアでしたか。」
あ、帰ってきた。
「・・・い、いやいやいや!バカなことを言うな!ユウジン、おめえさんランク下位だろう!?なんでそんな奴が倒せるんだよ!?嘘つくんじゃねえ!」
「嘘じゃないですよ。ほら。」
俺がアイテムからグリフォンの首を出したらまた驚いていた。
それからグリフォンの体も出したらひとしきり驚いて、今度は頭を抱えていた。
今日は鍛冶屋の親父といいクレッグといい、おじさんが頭を抱える日なようだ。
「あ、あり得ねえ・・・。グリフォンを1人で倒すなんて聞いたことねえぞ。本当は冒険者ランクBパーティがどうにかできる魔物だぞ?わかってんのか?おめえさん。」
「あ、後、買い取り用と剥ぎ取り練習用の魔物が10体ずつあります。」
「おめえさんのアイテムどうなってんだよ!?」
ひとしきりツッコミをもらって、その他の買い取り用の魔物も出して、査定してもらった。
「グリフォンの肉なんざ、王様に献上されるくらい超高級肉だ。しかも普通はもも肉とむね肉が流通してるくらいだが、今回は全部あるからな。そうだなあ・・・グリフォンだけで肉が100万、羽が50万、目玉と爪が100万、その他の皮や臓器や骨が50万だから・・・300万インだな。」
「さ、300まん!?」
今度は俺が驚く番となった。
驚いた俺を見てクレッグは呆れたようにため息をついた。
「あのなあ・・・、それぐらいとんでもねえことなんだぞ?」
どうやら俺はまたやらかしたようだ。
因みにその他の魔物は1万くらいで買い取りとなった。
それからは個人練習していた魔物の剥ぎ取り肉を見てもらってアドバイスをもらったり、練習用の魔物で実際に剥ぎ取りしたり、グリフォンの剥ぎ取りを見学したりと夜まで剥ぎ取りを勉強した。
練習していい感じにできた肉があったので、宿屋に帰った時に宿屋の店主に差し入れとしてあげた。
いつもミルクをサービスしてくれているのでお礼をしたいと考えていたのだ。
店主は思わぬ差し入れに喜んでくれた。
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「・・・・・・うん?」
「どうされました?ギルマス。」
「今日の剥ぎ取り報告書・・・。これはどういうことかしら?」
「え?どれどれ・・・・・・は?グ、グリフォン!?」
「あり得ない・・・。グリフォンが討伐されたら街の大門を開けなければならないほどの騒ぎになるはず。そんなことなかっわよね?」
「もう何年もグリフォンが討伐されたなんて聞いたことないですよ!しかもこれ・・・肉だけじゃなく臓器や骨、目や爪・・・全部揃ってるじゃないですか!」
「一体どこのパーティが討伐したのかしら?・・・うん?冒険者の申し出により秘密?」
「ええ!?グリフォン討伐なんて自慢できるくらいのすごい栄誉ですよ!それを秘密なんて・・・!?」
「よっぽど目立ちたくないのか、あるいは後ろめたいことがあるとか?」
「後ろめたいことだったら犯罪者の可能性もあります。調べて見ましょうか?」
「・・・そうねぇ、頼むわ。」




