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322、悪魔の給仕は暗躍する

三人称視点で主人公出てきません。


「な、なんだと!?グラスタッズが金の輸入を取引停止する言ってきただと!!??」


モンフェーラ王国国王フェリペはその思わぬ知らせを聞いて叫んだ。

「左様でございます。」

国王の執務室に知らせを持ってきた宰相バルドロは頷く。

するとみるみるうちにフェリペの顔が怒りで真っ赤になって飲んでいたグラスをダンとデスクに叩きつけた。

「くそっ!!グラスタッズめ!どれだけ余を馬鹿にしているのだ!?金をふんだくれないとわかると取引停止?このモンフェーラと取引が出来ないとどうなるかわかっているのか!?」

「恐れながら、わかっておられないから暴挙に出たのではないでしょうか。そして他の取引も停止して、近いうちに国交も停止すると言って来ました。これがその書簡でございます。」

バルドロは小脇に抱えていた書類をフェリペに差し出した。


「ま、待て!書簡!?使者は寄越してないのか!?」

「はい。この書簡だけを一方的に送りつけて来られました。」

「ふざけおって!!!!」

フェリペは手に持っていたグラスを床に叩きつけた。

パリーンと割れて中の赤ワインが飛び散り、隅に控えていたメイドがビクッとして慌てて片付けだした。


「使者も寄越さぬ腐った国などこっちから縁を切ってやるわ!今すぐ国交断絶せよ!!」

「な!?国交断絶!?陛下、それはあまりにも極端過ぎるのでは・・・?」

「黙れ!余を愚弄する国などどうなってもよい!いいか、国境の騎士どもに今すぐ国境を隔てる門を閉じさせよ。以降は民の移動も完全に断絶する。」

「も、門を・・・。そ、それでは国の取引だけでなく民の取引も、人々の移動も断絶されるということで?それではあまりに・・・。」

「なんだ?バルドロ、余の決定に不満があるというのか?」

「!?・・・いいえ、いいえ。すべては陛下の思うままに。」

バルドロは慌てて一礼した。


「・・・ですが陛下、そうなるとグラスタッズ国との国交断絶してしまうと経済が・・・少し滞ってしまうように思うのですが・・・。」

「物価が上がり金が回りにくくなって滞るということだろう?余に集まる金が少なくなるのは困るな。・・・よし、税を上げよ。」

「な!?最近上げたばかりではありませんか!?」

「仕方なかろう。国交断絶させたグラスタッズが悪いのだ。恨むならグラスタッズを恨むんだな。」

フェリペはくくくと笑った。

そしてまだ片付けていたメイドの肩を靴先で小突いた。

「おい!いつまで這いつくばっている?早くグラスを持って来い!」

「ひぃっ!は、はい!申し訳ありません!」

メイドは慌てて隅のワゴンに向かうと新しいグラスにワインを入れて持って来た。



「そして陛下、今回はもうひとつ報告がございます。」

「・・・なんだ?」

フェリペはメイドが持って来たワインを引ったくってぐびりと飲んだ。

「実は・・・正体不明の魔物が国内のあちこちで目撃されているようなのです。」

「正体不明の魔物、だと?」

フェリペが怪訝な顔をするとバルドロは頷いた。

「はい。その報告を持って来たのは各地に領を持つ貴族たちでして、領内の町や村、山や川など国内のいたるところで目撃されているようで、目撃者たちから各領主に報告が上がり領主の貴族たちがそれぞれ調査してもわからず私の元に報告が上がって来ているのです。」

「各地の領に現れるとは奇妙だな・・・。その魔物が現れだした時期と特長は?」

「はい。先月辺りから目撃されるようになり、真っ黒な人型の影のような見た目で、体の表面には人間のような顔がいくつもあるようなんです。その顔は時に嘲笑するような悲しむような表情らしいのです。」

「なんと面妖な。・・・そんな魔物聞いたことがない。バルドロは覚えがあるか?」

「いいえ。私も初めて聞きました。報告してきたいずれの貴族たちもその見た目を言ってきまして、目撃場所がバラバラで時間もバラバラですが同時間帯の時もあるので明らかに複数なのはわかっております。」

それを聞いてフェリペは考え込むような仕草をした。


「こんな時にまったくなんなんだ・・・。その魔物による被害はあるのか?」

「今のところ殺された者は出ていませんが、目撃者で危害を加えられ怪我を負った者やすぐに発見されましたが誘拐された者も出ているそうです。その他、建物を壊したり家畜を殺したりという被害は出ています。」

フェリペは思いっきり面倒臭いという顔をした。

「余としては民に被害がでようがどうでもいいが・・・まあ、それなりに対応せんと余の評判に関わるか。とりあえず高位貴族の領には騎士どもを派遣して、その他は余ってる騎士でも適当に派遣しておけ。そこら辺はお前に任せる。・・・ああ、今城でダラダラしている愚図も使ってはどうだ?」

「それは・・・勇者のことで?ですが、アレに話したところでごねそうで・・・。それこそ、魔族が出なければ使えないと思われますが・・・。」

「おお、それだ。愚図には魔族が出たとか言えばいいであろう?魔族のことを団長どもがキチンと教え込んでおるなら向かうはずだ。」

「魔物を・・・魔族だと、でございますか。確かに人型の特長でなんとかできるかもしれませんが・・・。か、かしこまりました。すぐにアレに言ってみます。」


「報告は以上か?」

フェリペはワインを飲みきってイスから立ち上がった。

「それにしてもグラスタッズは余の気に入らなんことしかせんな。おかげで苛立ちが拭えん。おい、気晴らしをする。」

急に声をかけら隅に立っていたメイドがビクッとして首を傾げた。

「き、気晴らし、でございますか?」

「なんだ、余の世話をしているならそれくらい察せ。やはり女は疎くて愚かだな。寝室へついてこいと言っているのだ。」

その意味を察したメイドはガタガタ震えだして顔を真っ青にした。

が、相手は国王陛下。

メイドは泣きそうなぎこちない笑顔で一礼した。

「陛下の気晴らしになるよう精一杯勤めさせていただきます・・・。」








フェリペが震えるメイドを引きずるようにつれて寝室に向かうのを、バルドロは一礼して見送った。

去った後に上げた顔は嘲笑うような表情で、バルドロも執務室から出ると自身の執務室へ向かった。


執務室へ向かったバルドロは補佐の2人とラミロを呼び出した。

補佐の1人には高位貴族の領に騎士を派遣する手配を命じ、もう1人には来月から増税するにあたっての様々な手配を命じ、2人が執務室を出ていくのを見ながらラミロには勇者に改めて討伐の旅に出るように促すことと、正体不明の魔物を魔族っぽく話すことを指示した。

ラミロはすぐに応じて執務室から出ていった。


「・・・はあ。」

誰もいなくなった執務室でバルドロがデスクのイスにどかりと座り込み、ため息を吐いた。

これからグラスタッズ国に向けてフェリペの名において国交断絶が決定されたことを伝える書状をしたためねばならないし、国境の騎士たちに国交断絶のことと門を閉じることを命じる手紙も送らなければならない。


だが、バルドロが吐いたため息はどうしてこうなったと頭を抱えてのため息ではなく面倒で吐いたものであった。





「・・・国王はどうだった?宰相。」



その声が執務室に響き、執務室の隅の影がずるりと動いた。

影は人型となり、影の体の表面にはニタニタした顔が浮かんでは消えている。

「・・・ああ、お前か。陛下はうまい具合に怒って国交断絶を指示してきた。」

「適度に煽ってグラスタッズとの間に軋轢を生ませられたか。さすが宰相だ。」

影は感心するように頷いていた。



この人型の影は今から1ヶ月ほど前に行われた勇者のお披露目のさらに1週間前にバルドロの前に突如として姿を現した。

その夜バルドロは1人邸宅で執務を行っていた時で、執務室の隅の影が不自然に揺れてその魔物はずるりと現れたのだ。

バルドロはすぐさま護身用に立て掛けていた剣を取り構えて応援を呼び、ウインドカッターを放ったが魔物の体の表面に現れたニタニタ笑う顔がグワンッと異常なほど大口を開けて風の刃を飲み込んでしまった。

そしてなぜか応援は来ず、なにが起こっているんだ?とバルドロは混乱するなか、魔物の体に浮かんだ顔がしゃべりだした。


「落ち着け宰相。我は危害を加えるつもりはない。」


バルドロは今まで人間の言葉を話す魔物など見たことがなかったので驚愕した。

だが魔物は部屋の隅でじっとして動かなかったことや対話できることもあり、バルドロはすぐに冷静になって警戒しながらも魔物と対話した。


そして話していくなか、そもそも魔物がなぜバルドロの前に姿を現したのはバルドロに興味を持って接触してきたと言ってきた。


「我は人間たちが絶望する(のを我らが主が喜んでいる)姿が好きだ。我はもっと見たいから影から色んな人間たちを見ていてお前に協力したらもっと見れると思った。だからお前に協力しよう。」


絶望を見たいという魔物になんとも悪趣味だと思ったが、協力するというなら利用してやろうと考えた。

だが、いくら協力すると言ってきても魔物だ。

バルドロは試すつもりでいくつか無理難題を課した。

指名したある貴族の収支記録を盗んでこいとか、遠く離れた領地にしか生えない植物を採ってこいなどいくつか課して、魔物が言う通りに動くか試した。

もし魔物が言う通りにしなくても影響がないものばかりだったのだが、魔物は数分で収支記録を盗んできて植物を土がついたまま持ってきて、その他の無理難題も容易にこなしてみせた。


バルドロはすぐにこなした魔物の手腕に舌を巻いたが、気に入って協力を受け入れた。

だがそれでもバルドロは用心して契約魔法が付与された羊皮紙に書くことを提案した。

契約魔法が付与された羊皮紙に書かれた内容は契約魔法で守られるのでどちらかが死なない限り永遠に有効となる。

バルドロは自分を裏切らず、不利益になるような行動は取らないことを書いて魔物は了承してバルドロと魔物が羊皮紙に魔力を注ぐことで契約が成された。


自分を裏切らず手足となる魔物を得たバルドロは魔物を影と呼ぶことにして、自らのある企みを話した。




話が長くなってしまったので次回も宰相と怨霊の会話です。


そしてまた遅れると思います。すいません。

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