320、悪魔は魔術士団長の事情を聞く
俺が体調が良くなったということで王城内をうろつくようになって1週間が経った。
俺は2日に1度、魔術士団の塔に行くようになって錬金術などの魔法が使われているところを見学してみたりしている。
魔術士団の塔ばかり行ってはアレかなとたまに騎士団の塔に行ったりしている。
だが騎士団の塔は脳筋が多いようで異様に筋肉率が高いしいつも模擬戦をしていてなんか暑苦しいしなんとなく汗臭い感じがして俺はあんまり行きたくない。
某アホを思い出すし・・・。
因みに今日の護衛はヘルマンが休みのためにエドガーだ。
ヘルマンはどうやら休みの度に別宅で療養しているアネットの元に行っているようで、しかもわざわざ手土産まで持って行くらしい。
そして2人でおしゃべりをして過ごしているそうで、それを別宅にいるメイドやアネットの母親は微笑ましく見ているようだ。
その様子はなぜかヘルマンとアネットに憑いているレギオンが俺に報告してきて、レギオンたちはヘルマンとアネットが早くくっつけと陰でやきもきしているらしい。
いちいち報告しなくていいのにしてくるし、やきもきしたりとレギオンたちが楽しそうでなによりだ。
そんな報告を聞きつつ、俺がこうもちょくちょく魔術士団の塔に行くのには理由がある。
魔法や錬金術や付与魔法に興味があることはあったが、それよりも聞きたい話があったからだ。
だが、ちょっと聞くにはデリケートな話なんだよな・・・。
さて、どう話を持っていくか。
そう思い悩みながら付与魔法を行っている階に行くと。
相変わらず物が乱雑に置かれている部屋をなんとなく覗きながら、鬼気迫る勢いで付与している魔術士たちに引きつつ歩いていると、休憩中の魔術士2人が話し込んでいた。
「そういえばアレどうなった?爆発の効果を付与した魔道具は?」
「アレは確か先月かそれぐらいかになるかな?なんか宰相様がいるからって団長が持ってっちまったぞ。」
「宰相様が?・・・またなにかヤバいことに使うつもりか?爆発の効果だから結構ヤバそうだけど。」
「一応爆発っていっても致命傷になるほどの威力はないんだけど・・・間近で巻き込まれたらかなり重めの火傷を負う可能性はあるからちょっと大丈夫かなとは思ったんだけど、どうしてもって団長に言われたら渡さないわけにはいかないもんな。」
「ルーベンス様が亡くなってしばらく経つけど・・・団長はそれからだもんな。団長としても業務もしなくなってやる気を失くしたみたいに団長室でボーっとしてることが多くなったし。それに今じゃあ・・・宰相様の言いなりだ。」
「ホントだよな。以前の団長と今とじゃ人が変わったように無気力になって。早く元の団長に戻ってくれないかな・・・。」
お!ちょうどよかった。
俺はすかさず2人に近づいた。
「すいません、ルーベンス様というのはどなたか教えてもらっていいですか?」
「「ゆ、勇者様!?」」
2人は俺がいたことにまったく気づいてなくて飛び上がるほど驚いていた。
「すいません、突然話しかけて。ですがちょっと気になったもので・・・。」
俺がわざとらしく謝ると2人は慌てて俺を止めてきた。
「ゆ、勇者様が謝ることなんてなに一つありません!我々が気づいてなかったのが悪いのです!申し訳ありません!!」
2人してペコペコ頭を下げてきて俺は苦笑して止めさせた。
1人が休憩時間が終わったということで去っていき、俺は残った1人に改めて話しかけた。
「それで、ルーベンス様という方のことを教えていただいてよろしいですか?」
「あ、はい。自分でよければ・・・。えと・・・ルーベンス様は魔術士団長のご令息のことでして、3年前に事故で亡くなられた当時の魔術士副団長のことです。」
「魔術士団長に息子さんがいらっしゃったんですね。」
「ルーベンス様は団長のご令息とあって頭脳明晰で魔法の才能が溢れていて、我が国1番のMP量と智力を持つと言われていたほどでした。正義感もあって誰にでも優しく接して下さって人望もあって、魔術士副団長でありながら騎士団とうまく付き合っていて治安強化のために騎士数人と首都の巡回することもやったりしてたんです。」
なるほど、騎士と魔術士がそこまで仲が悪くないのはもしかしたらルーベンスのおかげということか。
「それはきっと素晴らしい方だったんでしょうね。亡くなられたという事故というのは?」
「その・・・、ルーベンス様は正義感から貴族の不正を調べて証拠を揃えたら告発したりしていたんですが、ある貴族がスラムの建物で不正取引で魔道具を売買しているという密告があったということでそれを確かめるためにスラムの建物に騎士数人と協力して突入したんですが・・・、そのスラムの建物がかなり老朽化が進んでいて突入したルーベンス様と騎士たちの重みにたえかねて崩れてしまったんです。すぐに救助を試みられたんですが・・・瓦礫の撤去に手間取って見つけた時には突入したルーベンス様と騎士7名が瓦礫の下敷きになって亡くなっていたそうです。」
「そうなんですか。・・・そんなことがあって魔術士団長は気落ちしてしまったというわけですね?」
「はい・・・。その時は本当に我々魔術士団の面々も騎士団までも心配するほど団長は深く塞ぎ込んでました。邸宅から外に出てこない日が続いて、やっと塔に来たかと思ったらものすごくやつれて食事も飲み物も取ろうとしないし、どこか一点を見つめたまま数時間動かなかったり・・・。当時はいつ団長がルーベンス様の後を追ってもおかしくないと皆が思ってました。」
自慢の息子が突然亡くなったのならそうなってもおかしくないだろう。
「なるほど・・・、それを聞くと今はだいぶ回復してきたということですね。ですが今も団長の仕事はできない状態ではあるという感じでしょうか。」
「勇者様の勉強と訓練を団長がやると聞いて我々魔術士は団長にできるか心配だったんですが、団長は勇者様に会う度ににこやかになっていってホッとしたんです。」
ふうん、そうだったのか。
俺としては会った時から穏やかに笑っていた印象しかないんだがな。
俺は勉強はただ聞いて質問されてもわざと間違えたりしたり本を読むのでさえどたどしくしたし、魔法の訓練の時は魔力がわからないということにして魔力を感じるところから習ったからかなり面倒臭いと内心思われてもおかしくなかったが、どうやら魔術士団長にはそれが良く映ったということか。
「・・・それで、肝心の不正取引の方はどうだったんです?」
「え、あ・・・それが、瓦礫を調べたらごく普通の空き家で、不正取引自体どうやらガセだったらしいです。それを密告した人も結局わからずじまいで、不幸な事故ということでルーベンス様たちは荼毘に付されたんです。」
「密告した人がわからずじまいというのは・・・なんともきな臭い感じがしますね・・・。」
ううむと俺が考え込むような仕草をすると、魔術士はうんうんと頷いてきた。
「そうなんです。事故となりましたが、あまりにもルーベンス様が不憫で、それもあって噂が流れてきまして。」
「噂?」
「あっ!」
魔術士はハッとして自分で口を塞いで慌てだした。
「えと、な、な、なんでもないです!」
「いやいやいや、なんでもなくないですよね。なぜそうも慌ててるんですか?噂というのがなにかまずいのですか?」
「え、あの・・・その・・・。」
魔術士は目が泳いでうつむいてしまった。
「ここまで聞いたら気になってしまいますので教えて下さい。俺が興味を引かれて聞きたいだけですので誰かに言うこともしませんし、誰から聞いたかも絶対に言いません。」
魔術士はしばらく視線を色んなところに飛ばしながら考えて、「じゃあ・・・こっちに来てください。」と近くの空き部屋の隅に移動した。
「勇者様にこんな話をするのは本当は駄目なのかもしれませんが・・・。」
魔術士は周りをキョロキョロして声を潜めて話し出した。
「ルーベンス様が死んだのは宰相様が関係しているのではないかという噂があるんです。」
「え?そうなんですか?」
俺はわざとらしく驚いてみせた。
「あくまでも噂ですが、ルーベンス様は前々から宰相様のなにかを探ってらしたそうなんです。それで宰相様に目をつけられて色んな嫌がらせをしてきていたんです。それでもルーベンス様は手を引かなかったから宰相様が密告して老朽化した建物におびき寄せたんじゃないかと囁かれているんです。」
「その嫌がらせというのは?」
「ルーベンス様が得意な魔道具開発の予算を急に減らしたり、難しい注文をしてきたりしてました。この嫌がらせは噂じゃなくて本当にあって、我々魔術士たちは連日泊まり込みで開発しないといけないほどで、ルーベンス様が我々に面倒をかけるねと謝ってくれました。」
「そうですか・・・。宰相がそんなことを・・・。」
俺は考え込む仕草をしてうつむいた。
魔術士と俺の後方にいて一緒に話を聞いていた護衛のエドガーには俺がショックを受けているように見えるだろう。
「ゆ、勇者様!この際だから言わせて下さい。宰相様には色々な黒い噂がついてます。部下に暗殺者がいて邪魔者は消されるなんて噂もあるくらいなんです。勇者様もいいように騙されて利用されているかもしれません!お気を付けて下さい!」
魔術士は真剣な顔をして言ってきて、俺は口元だけ緩めた笑顔で応じた。
「俺の心配をして下さってありがとうございます。そうですね・・・宰相には気を付けるとします。」
部下に暗殺者がいるのは本当だしな。
「・・・そこでなにを話しているのです?」
「!?ふ、副団長!?」
ふいに後ろから声をかけられて振り返るとテレーシアがいつもの無表情で立っていた。
テレーシアの姿を見て魔術士は飛び上がって驚いた。
「なんだか・・・宰相とか気を付けるとか聞こえたのですが?なんの話をしていたんです?」
なんとなく無表情の中に怪訝な感じがした。
「な!ななななな!なんでもないです!!では私はこれで!!」
魔術士は顔を真っ青にしてものすごいスピードで去っていった。
「「「・・・。」」」
視線が交差する3人。
「・・・副団長室でお話をお聞かせ願いますか?」
俺とエドガーは逃げられないようだ。




