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318、悪魔は魔術士団を訪ねる

ちょっと短いです。

隠蔽魔法を解いてからもダニエルとしばらくなんでもない話をして、ダニエルが勉強の時間となったということで俺は中庭から王城に戻った。

ダニエルは話が楽しかったようで名残惜しそうに見送ってくれた。


「さて、次はどこに行きましょうかねえ・・・。」

俺はキョロキョロと見回して、そういえば騎士団の塔と魔術士団の塔が左右にあったなと思った。

騎士団の塔は城を抜け出す時に2~3回通らせてもらった時にそれとなく中を見たが、魔術士団の塔はまったく行ったことがない。

そもそも魔術士というのがどんなものかも見てみたいし、ちょっと行ってみようかな。

「エドガーは魔術士団の塔は行ったことがありますか?」

「え?あ、いいえ。行ったことありません。騎士団の塔とは真反対の位置に建っているので用事がないと行かないもので。」

「真反対の位置に建っているのは理由があるのですか?例えば・・・あまり関係が良くないとか。」

結構ラノベでは対立していることがあるんだが。

「私は最近騎士になったので細かくはわかりませんが、特に関係は良いとも悪いともないみたいですよ。ただ、あまり会わない位置にお互いあるだけで、団員同士会えば挨拶とか会話は普通にするみたいです。」

ふうん、無駄で面倒臭いだけの対立はなしか。

それはよかった。

「じゃあ、その魔術士団の塔に行ってみましょうか。勉強と訓練がなくなってから魔術士団長にお会いしていませんし魔術士というのに興味がありますし、塔が騎士団のも違うのか見てみたいですし。」


そして俺たちは魔術士団の塔へと向かった。



魔術士団の塔の1階出入り口に着くと、塔の出入り口に建っていた門番と思われる魔術士がぎょっとしてきた。

「え!?え!?も、もしかして勇者様ではありませんか!?」

長いローブをはためかせて慌てて近づいてきた魔術士に俺はなにをそんなに驚いているのかと不思議に思いながらも頷いてみせた。

「ええ、そうです。」

「どうしてこちらに?いえ、その前に、体調が優れないとお噂を聞いたのですが、大丈夫なのですか!?」

「体調は良くなって、今日は王城を散策してたんです。魔術士団長はお元気かと思ったのと俺のいた世界にはない魔法に興味があって、魔術士というのもどういったものか知りたいなと思ってきたのですが・・・突然来たのはやはり迷惑でしたか?また日を改めて来ましょうか?」

ちょっと申し訳なさそうに言ってみたら魔術士はまたもや慌てて首をブンブン振った。

「め、滅相もない!勇者様に興味を持っていただけて大変光栄です!!少々お待ちいたたけますか!?すぐに案内を呼んできますので!!」

魔術士は言うが早いかものすごいスピードで塔の中に入っていった。

え、おいおい、塔の出入り口となかなか目立つところで待ってていいのか?

っていうか、門番の役目のお前がいなくなってセキュリティ大丈夫か!?


・・・と思ってたら本当にすぐに戻ってきた。


長いローブを着た女性が後ろについてきていた。

あれが言っていた案内だろうか。


「お初にお目にかかります。私は魔術士団の副団長をしておりますテレーシア・エクホルムと申します。」

いかにも仕事ができそうな若い女性で眼鏡をかけている。

確か、モイセンスが俺に勉強と魔法を教えられるほど暇なのは副団長のおかげと前に聞いたことがあったが、その副団長というのがどうやらこのテレーシアのことだったということか。

「突然来て申し訳ありません。ユウジンといいます。」

「魔術士団に興味を持っていただくだけでなくこうして足を運んでいただけたことにとても光栄に思ってます。今日はモイセンス団長もいますので、団長の部屋にご案内しながら塔内をご案内させていただけたらと思っております。」

テレーシアは無表情で言ってきて、とても光栄に思るように見えないが・・・まあ、突然来たこっちが悪いので案内してくれるだけありがたいと思おう。


それから塔内を案内してくれた。

個室がいくつもある階でなにかの魔法を使って実験している魔術士が何人もいたり、大きな部屋がある階では複数の魔術士が集まって錬金術の実験結果について話し合っていた。

どの部屋、どの階を案内している時もテレーシアは常に無表情で、ちょくちょく部下の魔術士がテレーシアの元に来てなにか指示をしたりしている時も無表情だった。

もしかしてテレーシアは無表情が標準装備タイプかな。


中はどんな感じかと実際見てはいるが、俺は錬金術についてさっぱりなので置かれている器具がなにに使われているのかは詳しいことはわからない。

ラノベは作品によって錬金術は様々だったし、レシピだって違っていたり作品独自のものが材料だったりするので参考にならないだろうな。

そう考えると、トリズデン王国に錬金術師のモメントという友人がいるのでモメントを判断材料に考えると・・・店の奥にある器具とほとんど同じものが並んでいるように見えるから、もしかしたら東西の大陸で錬金術の技術はそこまで差はないのかもしれないな。

これはあくまでも素人の俺から見たらだがな。

ついでだからちょっと聞いてみよう。

俺はテレーシアに声をかけた。


「俺のいた世界では、錬金術といえば賢者の石と思うほどなんですが、賢者の石はあるのですか?」

「賢者の石、ですか・・・。賢者の石は伝説上の存在でして、いまだ誰も造ったものもいませんしレシピもわかっていません。」

「そうですか。では、ホムンクルスはどうです?ホムンクルスも有名なんですが。」

「ホムンクルスは一応レシピはありますが、入手困難な材料があるために今のところ成功にはいたっていません。」

モメントの依頼でホムンクルスの材料を集められたのは俺のアイテム収納魔法のおかげだったからな。

アイテム収納魔法持ち自体が珍しいからなかなか材料を取ってくることができずにモメントは10年依頼を受けてくれる者を待つことになったくらいだし。


「・・・もし、材料が揃ったら造ってみたいですか?」

「それは魔術士団総出でやることになるでしょうね。それほど大きな錬金はなかなかやれませんから。」

「うん?大きな錬金?」

「はい。階1つまるまるは使ってやることになると思います。人員もそれなりにいると思いますし。」

あれ?そんな大きな錬金じゃないと思うんだが・・・。

だってモメントは1人でそこまで大きくない部屋でやっていたぞ?


「例えばですが・・・ここの個室くらいの部屋で1人で造るとかはどうです?」

「え・・・。個室で1人で、ですか?」

テレーシアは顎に手を当てて考え込んだ。

「とても難しいと思います。ホムンクルスの元となる液を造ったりするのに数日かかりますし、液自体が恐らく個室くらいの量になると思われるのでかき混ぜるのに人手もいりますし。」

ええ・・・?モメントはすぐに液を造っていたし、量もそんな量じゃなかったぞ?

もしかしてこれが東西の大陸での錬金技術の差か?

いや、魔術士という存在を考えるとこの国だけが遅れている可能性は高いがな。


「そ、そうですか、わかりました。」

それから移動すると今度は魔道具を造る者たちの部屋に来た。


錬金術のような分かりやすい器具があるわけでもなく、ただ魔石や武器防具など物が散乱している感じで、魔術士たちが武器防具に向かってぶつぶつと魔法をかけているのを何回も見かけた。

「付与魔法でこれらの武器防具に様々な魔法を付与して魔道具にしています。」

俺は付与魔法を持っているし、エルフ領でかけたからこれなら俺にもわかる。

俺は近くのテーブルの上にあったもののいくつか適当に鑑定魔法をかけてみた。



『光のナイフ』

刀身が光るナイフ。

暗闇で料理する人にオススメ。



『追い風の靴』

風魔法が付与されて歩くスピードがわずかに上がる。

負けず嫌いの人にオススメ。



『飲んべえの帽子』

状態異常回復効果がわずかにある帽子で特に酔いに効きやすい。

二日酔いしたくない人にオススメ。



・・・・・・なんだこれ。


思わず無表情になりそうになったが、付与魔法をかけている魔術士たちは皆真剣にやっているようにしか見えないので、これも真剣にやった結果なんだろう。

どう見てもふざけているようにしか見えないが。


「くっ・・・!」

付与魔法をかけていた魔術士の1人が苦しそうにうめいてばたりと倒れた。

魔術士が慌てて倒れた魔術士を引きずってどこかに運んでいったが、他の魔術士はまったく動じずに付与魔法をかけ続けている。

もしかして倒れるのは日常なんだろうか。

「付与魔法はかなり魔力を使うので、日にああして倒れる魔術士がいます。私もここで働きだした最初は驚き慌てて運んだりしていましたが、今ではすっかり日常になってしまいました。」

テレーシアはそう無表情で言ってきた。

付与魔法が使えるとかなり大変なんだな・・・。


因みに倒れた魔術士が付与したものはというと・・・。



『水濡れの剣』

刀身が水魔法で常に濡れている剣で、戦っても血が洗い流されるので清潔。

潔癖症の人にオススメ。



・・・これで造るのに倒れるまで魔力を注ぐなんて、なんだか魔術士が哀れに思えてきた。



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