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311、悪魔は妹を助ける

長くなりました。

『この者たちの内に潜む毒を消し去れ、アンチドーテ×2』

『この者たちの傷を癒せ、ヒール×2』


俺は2人同時に解毒して回復させた。

ヘルマンは飲んで倒れてからすぐに解毒したので体力が失くなることはなく解毒するとすぐに意識を取り戻して立ち上がったが、アネットは解毒しても体力がないのでまだ眠ったままだ。

「妹さんの解毒をして毒で損傷していた臓器も治しました。後は気がついたら胃に優しいものから食べさせて徐々に栄養のあるものを食べさせて体力を回復させて、筋力をつけさせたら大丈夫だと思いますよ。」

俺がいつもの笑顔で話すなか、アニタたちは茫然としている。


そんな中、少し顔色の悪いヘルマンが口を開いた。

「あ、あの・・・勇者様、どういうことなんですか?これが毒というのは、本当なんですか?」

お、あの倒れた中でもヘルマンは俺が毒だと言ったのが聞こえてのか。

「ええ、本当です。現に飲んだあなたが血を吐いて倒れたじゃないですか。」

「勇者様は毒だとわかって私に飲ませたんですか!?」

「これが毒だと分かりやすくするためです。鑑定魔法でそう書かれていたと言っても信じてもらえなさそうでしたから、誰かに飲ませて見せたら分かりやすいかなと思いました。ですが、アニタらご家族に飲ませたところで暗殺者一家なので毒に耐性があるでしょうから効かないと思い、俺も状態異常無効なんで飲んでも効かない。となるとあなたしかいなかったもので飲ませました。」

実は最初にアネットを道端で見た時から毒におかされていることは鑑定魔法でわかっていた。

そのため、今回ここに来る時に毒の証明のために耐性のないヘルマンについてきてもらおうと思っていたから、ヘルマンが同行してきた時にすんなり許可したのだ。


「そんな恐ろしいことを急にやらないで下さい。・・・って、え!?状態異常無効!?」

「まあ、そこはいいじゃないですか。勇者ということで置いといて下さい。すぐに解毒して回復させたのですから文句は受け付けませんよ。これも経験と思って下さい。」

「・・・・・・。」

俺がくくくと笑いながら言うとヘルマンはジト目で見てきて、まだなにか言ってきそうだっかが無視した。


それよりアニタらの今の心情が気になったからだ。

「あ、あああ・・・!わ、私たちは、なんてことを・・・!」

母親は戦慄して泣き出した。

父親は黙って今だに茫然とアネットを見ていて、アニタは土下座をしていた状態から床に力なく座り込み「嘘・・・」と呟きながら泣いていた。


アニタらが取り乱すのも無理はない。

だって大事な娘、妹にずっと薬として毒を飲ませていたのがわかったからだ。

その衝撃は計り知れないだろう。


「そんな・・・だって、この薬を飲ませたら・・・アネットは良くなるって、お医者様が・・・。」

俺はそう泣きながら呟くアニタに話しかけた。

「アニタ、そのお医者様なんですが、誰かの紹介ですか?」

「え、ええ。・・・宰相様の紹介で・・・。」

「・・・確か、薬も宰相が他国から取り寄せているものなんですよね?」

「そ、そうです。とても貴重な薬で、他国でしか流通してないからとわざわざ宰相様が取り寄せて下さって・・・。」


「そんな薬、本当にあるんでしょうか?」

「・・・・・・え?」

ニコッと笑う俺の顔をアニタの他に両親も見てくる。

「他国でしか流通していないという文言も怪しいですし、わざわざ宰相が部下の家族の一個人のために取り寄せているというのもそもそも怪くないですか?それに宰相の紹介されたお医者様はなぜアネットが毒におかされているのをわからなかったのでしょう?普通の医者なら毒くらい気づいておかしくないと思うのです。」

「そ、そういえば・・・。」

「っ!?・・・ちょっと待って下さい。・・・そ、それじゃあ、まさか!?」

「宰相様が!?」

アニタらは俺がなにを言いたいのか察して顔面蒼白にして絶句した。


「宰相は毒と知ってて渡してきていたということではないでしょうか。」

お医者様が宰相の紹介となると、宰相がお医者様に毒だと診断しないように指示することは可能ということで、だからお医者様はアネットが毒におかされているのを気づかないフリをしていたのかもしれない。


「そういえば・・・妹さんは1度病気を治してもらったことがあったはずですよね?」

「え?あ、はい。宰相様がその時に今もお世話になっているお医者様を紹介して下さって、そのお医者様が治して下さったのですが、完治の難しい病気で毎日薬で抑え込む必要があるとおっしゃってて・・・。・・・まさか!?」

「恐らく病気はお医者様がその時ちゃんと治したのでしょう。ですが、完治の難しい病気ということにして、毒を飲ませるように仕向けたんでしょう。水で薄めて少しずつ毒が蓄積されるようにしたら病気で少しずつ弱っていくように見せれますからね。」

「なんということを・・・!なんで、アネットがそんなことされなければならないんですか!?」

それは当然の疑問だ。

宰相が少女のアネットに恨みがあるとは考えずらいからな。


「これはあくまでも俺の推測ですが・・・あなた方に忠誠を誓わすためではないでしょうか。」

「ちゅ、忠誠を・・・?」

「権力者は自分を絶対に裏切らない忠実な部下を欲しがるものです。あなた方一家は代々宰相の家系に仕えてきた暗殺者一家ですが、宰相は有能であろうあなた方が絶対に裏切らない確証がほしかったのではないでしょうか。ではどうやって自分に忠実にさせるか。簡単なのは恩を売ることです。」

「「「!?」」」


ここまで話すとアニタらも話を聞いていたヘルマンも察して戦慄した。


つまり、宰相は一家が裏切らないために病気のアネットに目をつけた。

だが医者を紹介して治しただけでは足りないと思って毒を薬と言って少しずつ飲ませることにした。

薬は無償提供するつもりだったがあまりにやり過ぎと思ったか、一家がお金を出すと言ってきたことからか、薬を買うやり取りになった。

この時に宰相は一家がギリギリ払える金額を提示することで薬の希少性を出したりして恩を売ったのだ。

一家は宰相がそこまでしてくれたと恩を感じて忠誠を誓う。

宰相は一家の恩人になることで裏切らない有能な部下を手に入れてなおかつ毒を渡すだけで金も入ってくる。

一家は鑑定魔法を持っていないので毒と見破られる可能性は少ないし、もし一家の誰かが間違って飲んだところで一家はアネット以外毒に耐性があるので症状が出ることもないと思われるのでそれでバレることもない。

毒が効くのがアネットだけだっただからこそ、一家に毒を薬として渡していたのだ。


これは俺の推測として一家とヘルマンに話したが、本当は宰相と初めて会った時に鑑定魔法をかけていて後でウィキを見て知ったもので、つまりは真実だ。


「い、いやいや、そんな・・・宰相様が、そんなこと・・・されるわけが・・・。」

父親は信じられないように呟いた。

まあ、恩ある人を疑うなんて簡単にはできないだろう。


俺は持っていた空の小瓶に蓋をして父親に差し出した。

「信じられないというならこの小瓶をあなたのお友達(・・・)に見せたらわかると思いますよ。こういうのを得意な方がいるでしょう?」

この一家は諜報と暗殺が主だが、暗殺者の中には毒を作ったりと毒や薬に詳しい者もいるだろう。

父親は思い当たった者がいるのかハッとして考えるような顔をしながら小瓶を受け取っていた。


「あなた方は諜報が得意ですから、宰相とそのお医者様を密かに調べればはっきりするはずです。」

例えば、宰相が他国からなにか取り寄せているか調べればいいし、お医者様の出自とかを調べたらなにかわかるはずだ。

今までは忠誠を誓う相手だからと信頼して調べもしてなかったのだろう。


「わ、わかりました・・・。調べてみます。」

父親が頷いて、続けて母親もアニタも頷いた。





それから2日後。


アニタに「話があるのでまた家に来ていただけますか?」と夕食後に言われたのでアニタの家に行くことになり、またアニタに偽装工作をしてもらって移動魔法でヘルマンと共にアニタの家に向かった。


両親もいて、アネットは俺が解毒した翌日には意識を取り戻して食欲も出てきて少しずつ食べてベッドの上で寝ながらだが体を動かせるようになったそうだ。

それでも体力がまだまだないので疲れて今は眠っているらしい。


「あの・・・勇者さまの憶測が、本当だとわかりました。」

リビングに通されてイスに促されるままに座ると向かいに座った父親が真剣な顔をしてそう切り出してきた。

ヘルマンは俺の護衛ということで俺の後ろに立っていて、クロ助はリビングを探索中だ。

「私の友人(・・)で、こういった薬に精通している者に小瓶を見せたところ・・・自分が作った毒を入れていた小瓶だと言ってきたのです。」

父親の友人(・・)は宰相の部下で、最近定期的に毒を作れと言われて作っていたそうだ。

それをなにに使うつもりなのかは聞いたことはなかったが、毒を作るのはこれまで何度もあったので「宰相様の邪魔をする者を殺すのかな」くらいに思って渡していたそうだ。

そして一応、中身が毒であるのがわかるために錬金術の薬の瓶のマネをして友人オリジナルの小瓶に毒を入れていたそうで、そのオリジナルの小瓶に間違いないそうだ。


「そして宰相様の取引記録を調べたんですが、個人的なのももちろん公的な取引で他国とのやり取り自体がありませんでした。なので他国から薬を取り寄せているというのが嘘だとわかりました。」

続けて父親の隣に座っていた母親が真剣な顔をして言ってきた。

「そしてお医者様を調べたら・・・お医者様はかなり賭け事が好きなようで借金をたくさんしていたそうですが、宰相様に肩代わりしてもらったようでそれもあっていいなりだそうなんです。」

「そうですか。・・・やはり俺の憶測が間違ってなかったですね。」


「くそっ!信じていたのに・・・!宰相様にアネットを助けてもらった時は本当にありがたくて、こんな一部下の家族のことまで気にかけて下さる素晴らしい心優しい人だと思ってお仕えできることに喜びを感じていたというのに・・・。」

父親は俯き悔しそうに吐露した。

「そうよね・・・。昔から仕えていた家だったから義務のようにお仕えしていたけど、アネットを助けて下さってからは心から忠誠を誓おうと夫とアニタと話し合ったりしたのに・・・全て宰相様の思惑だっただなんて・・・。」

母親は涙ぐみ、ハンカチで目元を拭った。


悔しさ、気づけなかった自分たちの不甲斐なさに怒りが静かに込み上げて来たようで、一家は黙って俯いた。


「・・・私たち家族はもう宰相様を信じることはできません。アネットを殺そうとした宰相様とお医者様を・・・許すことができない。」

父親は絞り出すように呟いた。

「ですが、宰相様をすぐ暗殺しては国に混乱が起きるかもしれませんからできませんし、暗殺者である私たち家族は宰相様の元から去ることもできません。」

色んな諜報に色んな暗殺をやって来たこの一家を宰相が手放さないのは明らかだ。

だからこそ、離れていかないように恩を売ったのだろう。

それが離れていくとなると一家全員が闇に葬られる可能性がかなり高い。

それゆえに父親は去ることができないと言ったのだ。


「いや、去ることはないと思います。」

「「「え?」」」

一家は俺の言ったことに目を丸くした。

「宰相はあなた方が気づいてないと今も思っているのでしたら、むしろ利用すべきではないでしょうか。」


そして俺はあること(・・・・)を話した。


一家は終始驚き唖然としていたが、俺の話を聞くうちに真剣な顔をしてきた。


「・・・なるほど、そういうことなんですね。」

「宰相の元に居続けることはあなた方家族とってあまり気分のいいものではないでしょう。ですが、宰相があなた方を信頼しているからこそできることがあると俺は思ってます。・・・ああ、これは提案であってあなた方が本当に無理なら去っていってもいいと思います。その際の手助けもできますから移動魔法で今すぐ東大陸に逃がせますよ。」

「ひ、東大陸?移動魔法?はは・・・、勇者様ご冗談がうまいですね。」

父親は信じられなかったようで愛想笑いをされてしまった。

だが移動魔法を体験済みのアニタとヘルマンはまさかという顔をして俺を見てきていた。


「・・・いえ、このまま去ることができるとしても、逃げるようでますます悔しいと思えてきますから・・・このまま宰相様の元に留まることにします。どうぞ、なにかありましたら私ら家族の力を使ってください。」

父親はそう言って頭を下げてきた。

母親もアニタも同意見のようで頭を下げてきた。


「ありがとうございます。」

俺は一家の頭を上げさせた。


「つきましては、早速やることがあります。」

俺はニコッと微笑んだ。



「妹さんには死んでもらいましょう。」





気になるところで終わって申し訳ないですが、これが今年最後の投稿となります。

来年も皆さんが楽しく読んでいただけるものを書いていけたらなと思っておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。

よいお年を!

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