307、悪魔は騎士たちを見守り助ける
三人称視点です。
ヘルマンが駆け出すとキュクロプスは咆哮をあげながら巨木でできたこん棒を振り上げた。
「オオオォォォオォォォ!」
ヘルマンめがけて振り下ろされたこん棒を左に移動することでギリギリのところで避ける。
ドゴォンとこん棒が地面を捲り上げるのを無視してヘルマンは左にそれた状態からキュクロプスに近づいて右足の足元まで辿り着くと足首を切りつけた。
「オオォォッ!?」
ザクッと音はしたものの、傷は浅く少し血が滲んだ程度だった。
「チッ」
ヘルマンは舌打ちするとそのタイミングにキュクロプスのこん棒が迫ってきて後方に退くことで避けた。
ヘルマンの持つ剣は団長の紹介で知り合った鍛冶屋で作ってもらった特注品で、ダイヤモンドのように硬い鋼鉄、アダマンタイトでできておりヘルマンが今まで戦った大抵の魔物は簡単と思えるほど切ることができた。
しかし今キュクロプスを切っても浅くしか切れず、1度の戦闘経験からそういえばキュクロプスの肌は硬いんだったなと思い出してヘルマンは改めて気合いを入れ直した。
ぶんぶん振り回してくるこん棒を避け、狙いすまして今度は腕を切ろうとタイミングを見ているとヘルマンを掴もうともう1本の腕も迫ってくる。
ヘルマンはそちらに狙いを移して迫り来る手のひらを力を込めて切った。
手のひらは横に真っ二つになるように切り、力を込めて切ったので半分以上切り裂くことができ傷口からブシャッと赤黒い血が吹き出した。
「オオオォォォ―――――!!」
それでキュクロプスは怒ったようでこん棒を振り回し足をばたつかせてヘルマンを叩き潰すか踏み潰そうとしてきた。
ヘルマンは次々と迫り来るこん棒と足を避けつつ次はこん棒が振り下ろされタイミングで腕を切りつけた。
「ウオオォォッ!?」
腕は半分も斬れなかったが血が吹き出てキュクロプスが痛がり悲鳴をあげている隙に素早く後方に回った。
「はっ!」
そして今度こそ足首に狙いを定め、キュクロプスの右足の足首の腱めがけて切りつけた。
ブチンッ!と音がして腱は切れてキュクロプスは片膝をつき、その隙にもう片足の腱も切る。
「オ゛オ゛ォォオォォォ!?」
キュクロプスは痛みに膝立ちの状態で吠えてこん棒を振り回してくるが、ヘルマンはそれらを避けながら後輩騎士たちに指示を出した。
「魔法でキュクロプスの目を狙え!」
『我が前の敵を燃やせ、ファイア!』
『我が前の敵を切り裂け、ウインドカッター!』
『我が前の敵を撃て、ロックバレット!』
後輩騎士たちはそれぞれ魔法でキュクロプスの目をめがけて魔法を撃ち、そのどれもが気づいていなかったキュクロプスの目に見事に当たった。
「ゥヴオ゛オ゛ォォッ!?」
キュクロプスの顔は焼かれて切り裂かれそこに石がぶつかってきて悲鳴をあげてこん棒を放り投げて顔を両手で覆いうつ伏せで屈んだ。
そうするのを待っていたヘルマンは素早く近づいて、キュクロプスの喉めがけて剣を思いっきり突き立てた。
「はああぁぁっ!!」
「オ゛オ゛オォォォ・・・オ゛ォォォ・・・」
キュクロプスはゴボリと血を吐くとゆっくりと倒れた。
痙攣していたがやがて動かなくなったのを確認してヘルマンは剣を喉から抜いて赤黒く染まった剣を振り、終わったと体の力を抜いた。
だが、まだ終わりではなかった。
「シュウウウウゥゥゥゥゥッ!!」
「っ!?」
そんな鳴き声のようなものが突如上空から聞こえて驚き見上げると、それから落下するようにこちらに魔物が向かってきていた。
「シュウウゥゥゥ!」
魔物は体長2メートルくらいの大蛇に蝙蝠のような羽が生えていて額に赤い石が埋め込まれた姿をしていて、鋭い牙がいくつも生えた口を大きく開いてこちらに迫ってきていた。
ヘルマンは驚きながらも慌てて後方に下がったが、魔物はバサリと羽ばたかせて方向転換して追うように飛んでくる。
「チッ!」
ヘルマンは迫り来る大口に剣を突き立てようとしたが、魔物は察知したようでまたバサリと羽ばたかせあっという間に上空に舞い上がった。
「あれは・・・ヴィーヴルか!」
ヴィーヴルは優人のいた世界のフランスなどのヨーロッパの民間伝承に出てくる怪物で、翼のある蛇の姿かあるいは人間女性の上半身に蛇の下半身で翼が生えている姿とされている。
この世界のヴィーヴルは前者のようで、蛇の体をくねらせて上空を飛んでいる。
ヘルマンはヴィーヴルとの戦闘経験はなかったが、騎士団の先輩から色んな魔物との戦い方について聞いたことがあり、その中にヴィーヴルとの戦い方について聞いたことがあるのを思い出した。
ヴィーヴルは額に赤い石を着けていて、それを失うと目が見えなくなるという。
ということは、その赤い石を壊せばヴィーヴルは戦闘不能となり倒すことができるということだ。
レベルも確か50いかないのがほとんどだと聞いたから、このヴィーヴルもレベル40代だろう。倒せない相手ではない。
ただ、問題は飛んでいるために赤い石を壊すには上空で飛んでいるところを狙ってファイアアローなどの魔法で赤い石を壊すか、上空から降りてきて襲ってくる時に噛まれる覚悟で引き付け剣で赤い石を叩き割るしかない。
襲ってくるのを狙うにはリスクが高すぎるために、ヘルマンは迷わず魔法で壊すことを選び、後輩騎士たちにも援護してもらおうとしたところで、ふと気がついた。
そういえば・・・
『ウオォォォォオオォォォ・・・!』
『シュウウゥゥゥゥ・・・!』
『シャアアアァァァ・・・!』
キュクロプスと会う前に鳴き声のようなものが聞こえていた。
ウオォォォォオオォォォ・・・!はキュクロプスのもの。
シュウウゥゥゥゥ・・・!は、このヴィーヴルのものとわかった。
では・・・シャアアアァァァ・・・!とは?
ヘルがハッとして後輩騎士たちに視線を移したちょうどその時。
「シャアアアァァァァ!!」
「うぎゃあああぁぁぁ!!」
後輩騎士の1人が、後ろから魔物に襲いかかられていた。
巨大な百足が騎士の肩にかじりつき、騎士は悲鳴をあげた。
「ヒイイィィ!や、やめろ!!」
隣にいた後輩騎士の1人が驚きながらも剣をかじりつく頭を狙って切りかかるが、巨大な百足はかじっていた肩から口を外して避けた。
その隙に肩をかじられた後輩騎士は肩を手でおさえながら真っ青な顔で剣を構えた。
「シャアアアァァァァアアァァ・・・!」
百足はせわしなく無数にある足を動かし威嚇してきた。
「ヒィ!・・・こ、こいつは、ジャイアント・センチピード!?」
ジャイアント・センチピードは優人のいた世界の各地で伝承がある、日本で大百足と呼ばれる怪物で、森やじめじめした場所に潜み毒の顎で襲いかかるという。
大きさは伝承によってまちまちだが、日本の伝説では数十メートル以上あったものもいる。
この世界でのジャイアント・センチピードは全長5メートルくらいで体の太さは80センチもある魔物になっていた。
「チッ!まずい・・・!」
ヘルマンは思わずそう呟いた。
ジャイアント・センチピードはレベル50後半くらいと言われていて、キュクロプスよりもレベルが高い。
とても後輩騎士たちが相手できる魔物ではないのだ。
しかも後輩騎士の1人が噛まれた。
これはとてもまずい。
「・・・う゛っ!?ぐ、ぐうぅぅっ・・・!」
肩をかじられた後輩騎士の顔色が見る間に悪くなっていってゴボッと血を吐いて体を痙攣させて倒れた。
「お、おい!?大丈夫か!?」
「毒だ!毒でやられたんだ!」
後輩騎士1人がが慌てて起こして後方に移動させて、もう1人が剣をジャイアント・センチピードに向けてこれ以上近づいて来ないように警戒する。
ヘルマンは後輩騎士たちに近づこうと足を向けた。
が、それはヴィーヴルによって阻まれた。
「シュウウウウゥゥゥゥゥ!」
「!?」
また上空から襲いかかってきて、避けてこちらから攻撃しようとすると上空に舞い上がられる。
「くっ、お前の相手をしている場合ではないのに・・・!」
ヘルマンは苛立ちながら上空のヴィーヴルを睨み付ける。
そうしている間にも、かじられた後輩騎士の顔色はどんどん悪くなっていく。
このままでは後輩騎士が・・・。
どうすればいいんだ!?
ヘルマンが苦境にたたされていると、思わぬ救世主が現れた。
『この者の内に潜む毒を消し去れ、アンチドーテ』
いつの間にか後輩騎士の近くにいて、毒を治す。
「とりあえず、解毒だけしました。この戦闘が終わったら後で光魔法で回復をかけますが、一応見といて下さいね。」
いつもはふわふわな髪をかきあげてキリッとさせた表情の優人がそこにはいた。
「皆さんが戦っている間に隠れて守られているだけなんてできません。これでも勇者ですから、任せてください。」
「ゆ、勇者様!?」
ヘルマンは戸惑うように見るが、優人はそんなヘルマンを無視した。
「俺も戦いたいと思ったら力が湧いてきました。そのおかげで魔法も使えるようになりました。」
優人はそう言ってジャイアント・センチピードを指差して唱えた。
『我が天上に降り注ぐ光よ、集いて、裁く槍となり、前の者を打て、シャイニングスピア!』
優人の頭上には3メートルもの大きな光る槍が出現して、ものすごい勢いでジャイアント・センチピードの顔めがけて飛んでいく。
「ジャアァァァ!?」
ズバアアアァァァンッ!!
ジャイアント・センチピードの戸惑うような声は口からシャイニングスピアが貫くことで遮られた。
「ジャア゛・・・ア゛ァ・・・」
ジャイアント・センチピードはその一撃で緑の血をゴボゴボ吐いて倒れた。
優人は続けて上空を飛ぶヴィーヴルを指差して唱えた。
『我が前の敵を射て、ファイアアロー×10』
優人の周りから次々と火の矢が飛んでいき、ヴィーヴルの体に次々と刺さっていく。
「シュウ゛ウ゛ゥゥゥ!?」
そしてそのうちの1本が赤い石に当たるとなぜか爆発した。
ドオオォン!と小規模ながら爆発した威力で赤い石は砕け散った。
「シュウ゛・・・!?ウウ゛ゥゥゥ・・・!?」
途端にヴィーヴルは地上に落ちてきて、地面を這い出す。
優人は素早く近づいて腰にさしていた剣を抜くとバタバタしている羽を根元から切った。
「はっ!」
そして頭に剣を突き刺すと、「ジュ、ジュ!?」と醜い声をあげて体をバタつかせたが、すぐに動かなくなった。
動かなくなったのを見計らって剣を抜いて振って腰にさすと、ぽかんと見つめるヘルマンらに口元だけ笑ってみせた。
「どうやら勇者の力が覚醒したみたいです。」
因みにヴィーヴルは翼がある蛇ということで分類は「ドラゴン系」になるそうで、それの繋がりでワイバーン(翼があるドラゴンで後ろ足はあるけど前足はない)に似てることもあって同種にされて英語でワイバーン、フランス語でヴィーヴルというようになったようです。
ですが、この小説ではワイバーンとヴィーヴルは別種とさせていただきます。
ワイバーンが出てくる予定は今のところあるのかわからないけど。




