306、悪魔は討伐訓練をする5
ちょっとだけ短いです。
前半は主人公視点で、後半からヘルマン視点になります。
討伐訓練最終日。
この日も朝は侯爵兄弟と朝食を一緒した。
オルヴァーは夜中に酔って帰ってきたそうで、二日酔いで顔が死んでいて静かにスープだけを飲んでいてオズキャルは兄の情けない姿にずっとプリプリ怒っていた。
「最終日となる今日は予定通りの森に向かいます。勇者様は予定よりレベルの上がりがいいですのでちょっと物足りないかもしれませんが、よろしくお願いします。」
そんなことを行きの馬車でレックスに言われつつ到着して馬車をおりてさっとサーチをしてみた。
・・・おや?
「勇者様、どうされました?」
サーチの内容に首を傾げたが、端から見たら俺は森を外から一目見て首を傾げているように見えて不思議に見えたようでヘルマンが聞いてきた。
「いや、あー・・・なんでもないです。」
サーチの内容を俺はあえて知らないフリをすることにした。
森には昨日・一昨日と同じで俺とヘルマンと数人の騎士入った。
森の異変に最初に気づいたのはヘルマンだった。
「・・・なんだ?やけに静かだ・・・。」
ヘルマンは独り言を呟くと辺りを警戒しだした。
ヘルマンが呟いた言葉にそういえば本当だなと思った。
一昨日行った森は鳥のさえずりや虫が木の幹を上ったりと小さい生物の気配がないのだ。
「確かに、静かすぎます。」
「どうしましょう?」
後ろを歩いていた騎士たちも気が付いて周りを警戒しながらヘルマンに聞いてきた。
ヘルマンがまとめ役となっているので指示をおいでいるのだ。
「・・・一応警戒した状態で進むぞ。もしレベルの高い魔物を見つけても様子見をする。それからまた状況を見て指示をするが、お前たちのうちの1人はすぐに森の外の仲間に応援と報告に行けるようにはしておけ。」
「「はい!」」
「勇者様はこれまで通りレベルの低い魔物が出たら倒していただいて、レベルの高い魔物が出ましたら私の後方にさがって応援と報告に向かう騎士と一緒に森の外に退避して下さい。勇者様が危険なことになることがないように必ずお守りいたします。そのために我々がいるのですから。」
「・・・わかりました。」
俺は昨日の時点でレベル15ということになっているが、これはやっとゴブリンを相手にできるレベルであるからレベルの高い魔物に対して戦力にならないと他の騎士たちが思っているのは明らかだ。
ヘルマンは本当は俺が強いとわかっているが、他の騎士たちがいるからそういう判断をしたのだろう。
もっとも、ヘルマン自身は俺が強くても弱くても関係なく護衛対象だからという理由で護っているのだろうが。
ヘルマンを先頭に慎重に進むこととなり、しばらく進むと前方からガサガサとか足音が聞こえてきて、ホーンラビットやブラックラットが次々と飛び出してきた。
が、魔物たちは慌てるように俺たちに目もくれず通り過ぎていく。
「な、なんだ!?」
「どうなってるんだ!?」
アワアワする騎士たちは困惑しながらキョロキョロして魔物たちが去っていった後方を見ていた。
「どう見ても逃げてきたように見えませんでしたか?」
「確かにそんな感じに見えました・・・。もう少し進んでみましょう。」
ヘルマンはそう言って歩きだした。
俺たちも黙って続き、レベルの低い魔物が何度も通り過ぎて行くなか先に向かった。
そして。
ズシンズシン・・・
足音が聞こえてきてなにかの鳴き声のようなものが聞こえてきた。
「ウオォォォォオオォォォ・・・!」
「シュウウゥゥゥゥ・・・!」
「シャアアアァァァ・・・!」
最初に聞こえた「ウオォォォォオオォォォ・・・!」という鳴き声のようなものが1番近くで聞こえて、足音も近いような感じがする。
「こ、こんな声の魔物なんてこの森にいないと思います。・・・もしかして、レベルの高い魔物がこの森に入り込んでるってことなんでしょうか・・・?」
騎士が青い顔をしながらヘルマンに聞いてきて、ヘルマンは難しい顔をした。
「おかしい。普段は入り込んでくることなんてほどんどないと聞いていたんだが・・・。」
バキバキバキ・・・メキメキメキ・・・
近くで木々がなぎ倒されるような音が響き、足音が近づいてきた。
「!?まずい!こっちに来るぞ!」
ヘルマンと数人の騎士たちはすぐに剣を抜いて構えた。
「ウオォォォォオオォォォ!!」
ズシンズシンと地面を揺らして現れたのは、巨人だった。
全長4メートルはあろうかという巨体に全身に毛がなく、肌が焦げ茶で汚い腰布を巻いていて顔の中心に大きな一つ目がありその下の大きな口は唸り声のような咆哮をあげ、手に持っていた巨大なこん棒で木をなぎ倒していた。
「キュ、キュクロプスだ!」
騎士の誰かがそう叫んだ。
キュクロプスはサイクロプスともいい、ギリシャ神話の怪物だ。
キュクロプスには2種類いて、最高神ゼウスの部下となり優れた鍛冶技術でゼウスの雷霆やポセイドンの三叉槍などの武器を作り上げたものと、一族で島に住み荒々しい性格で人を食べていたものがいたとしているが、どうやらこの世界のキュクロプスは後者のキュクロプスを魔物として存在させているようだ。
「オオォォォォ!」
キュクロプスはこちらに気づいて咆哮をあげた。
どうやら攻撃する気満々のようだ。
種族:キュクロプス
属性:土
レベル:50
HP:2000
MP:150
攻撃力:355
防御力:268
智力:153
速力:134
精神力:150
運:102
戦闘スキル:上級こん棒術・初級体術
魔法スキル:初級火魔法・中級土魔法・初級闇魔法
騎士たちのレベルは40くらいでキュクロプスを複数人で相手をしたら倒せるだろうという感じだ。
だがまあ、ヘルマンがいるから大丈夫だろう。
ヘルマンはキュクロプスよりレベルが高いからな。
名前:ヘルマン・アロンソ
種族:人間(戦士・モンフェーラ王国騎士団員・勇者の護衛)
年齢:29
レベル:57
HP:2280
MP:100
攻撃力:490
防御力:372
智力:105
速力:128
精神力:159
運:86
戦闘スキル:中級短剣術・上級剣術・初級こん棒術・上級体術
魔法スキル:初級火魔法・初級光魔法
だがいくらレベルがキュクロプスより高いといっても7しか差がないし巨体相手に大丈夫か?
「1人、森の外へ応援と報告に迎え!俺がキュクロプスを相手にするからサポートを頼むぞ!勇者様も森の外へ向かってください!」
ヘルマンがすぐさま指示して1人騎士が森の外へ向けて走っていった。
「俺は後方でさがって身を隠しています。」
「ゆ、勇者様!?」
「なにもできないのはわかっていますから戦いたいというわけではありません。あなた方が邪魔にならない後ろの木の陰に隠れてあなた方の戦いを見させてください。」
俺がなにを考えているのかわからずヘルマンは訝しんで見てきたが、キリッとさせた表情でなにも言わず見つめると「・・・わかりました。」と了承してきた。
「ただし、危ないと思ったらすぐに退避して下さい。」
「はい。」
俺は近くの太い木の陰に向かい、幹に隠れてヘルマンたちの様子を眺めることにした。
「ヘ、ヘルマンさん。大丈夫ですか・・・?」
太い木に向かう勇者様を見つめてため息を吐くと、後輩の騎士たちが心配そうに声をかけてきた。
ついため息を吐いてしまったが、後輩が心配するほど顔に出ていたか。
勇者様は本当にわからない人だ。
キュクロプスに会うまではもし強い魔物が出たら森の外へ向かうように言ったら「わかりました」と言っていたのに、キュクロプスを前にして森の外へと向かわず隠れて見ていると言ってくるとは・・・。
なにを考えているのだろう。
今回もなにか考えがあるのだろうか?
殺人事件で勇者様が只者ではないのがわかり、俺なんかより賢くなにより恐ろしい性格をしているのがわかった。
思ってもみない魔法をなんでもないように使っているし、強いだろう。
レベル低い魔物と戦っている姿は驚くほど戦い慣れていたからだ。
レベルも本当は違うようだし、もしかしたら・・・いや、確実に俺より強いだろう。
俺より賢くて強くてなにを考えているのかわからない者を止められるほど俺は要領良くない。
恐ろしい性格をしているが・・・多分隠れて見ているだけだから大丈夫だろう。
そんなことよりも目の前のキュクロプスに集中しなくては。
俺は気を引き締めて後輩の騎士たちに向き直った。
「すまん、大丈夫だ。お前たちは俺のサポートをしながら勇者様に危険がないか見ててくれ。俺はひとまずキュクロプスを倒すことに尽力する。」
後輩の騎士たちは3人。
いずれもレベル40代前半でキュクロプスとまともに戦わせても相手にならないかもしれないから、俺が主に戦い後輩の騎士たちは後方から魔法で攻撃するなどサポートすることを指示した。
キュクロプスはレベル50前後といわれていて俺は57だし、キュクロプスとの戦闘経験もある。
俺はひとつ深呼吸をして、キュクロプスを見据えた。
「ウオォォオオォォォ!!」
キュクロプスは俺と目が合うとかかってこいと言わんばかりに咆哮した。
俺は手に持っていた剣を構えた。
「行くぞ!」
俺は誰に言うでもなくそう宣言して走り出した。




