304、悪魔は討伐訓練をする3
森は小さめの規模で、レベル1~5のスライムかホーンラビット、黒いネズミのブラックラットの3種類が出る森だ。
そんな弱い相手しかいない森に騎士たちをぞろぞろ引き連れていくというのはどうかと思うので大半の騎士たちとレックスは馬車を停めているところに待機してもらって騎士数人とヘルマンとで俺は森に入ることとなった。
騎士数人は万が一レベルの高い魔物が出ないとも限らないということでついてくるらしい。
「今日の森は違いますが、最終日に行く予定の森がレベルの高い魔物が出る森と隣接していまして、万が一レベルの高い魔物が来てしまったらいけないということで今回騎士10人と俺とヘルマンが護衛としてついてくることになったんです。」
とレックスは行きの馬車の中でそんな説明をしてきたが、そのレベルの高い魔物が出る森というのはレベル40の魔物がウヨウヨしているらしい。
そこに隣接している森が最終日に行く予定って・・・なんのフラグだよ。と思ってしまった。
と、そんなことを思いつつ森をなんとなく進んでいると。
プルンと音をさせてスライムが現れた。
「!?勇者様、スライムです。剣を構えてください。」
俺は無言で頷いて腰の剣を抜いた。
剣は討伐訓練ということで騎士と同じものを与えられて腰にさしていた。
ごくごく普通のロングソードだ。
俺としては魔法剣以外での剣は最初の頃の短剣しか使ってなかったから腰にさしているのを抜くのも初めてだし、こうして剣だけで戦うのも初めてだ。
まあ、王城で散々習ったしスキルで上級剣術を持っている上に能力値も高いから多分楽勝で扱えるけどな。
「はっ」
剣を構えて小さく息を吐き、スライムにかけよって切りつける。
スライムはなんの抵抗もなくスパッと切れた。
・・・うーん、鎧のせいで動きづらいからぎこちなくなってしまった。
だがこれも初めての討伐ということでぎこちなく見えてもしょうがないと思ってもらおう。
すると続けてまたスライムが今度は2体草むらから飛び出してきて、俺は続けざまに切りつけて倒した。
「ふぅっ」
剣を振って腰にさすとヘルマンが近づいてきた。
「お疲れ様です。見事な剣さばきでした。」
「そうですか?・・・そう見えたら良かったです。」
護衛の騎士数人も感心するように俺を見てきた。
スライム3体を倒しただけで感心されてもなと俺は苦笑してしまった。
それからはちょくちょく魔物が出たがいずれも弱い魔物ばかりだったので俺が積極的に倒していった。
そうして森に入って休憩を挟みつつ、3時間ほどで15体ほどを倒したところでヘルマンにレベルはいくつになったか聞かれた。
レベル1~5の魔物15体だからと適当に「レベル8になりました。」と言うと騎士たちに「早くもレベル8に!?」と驚かれた。
この森ではレベル5くらいになれればと予定していたらしい。
・・・ま、勇者だからレベルが上がりやすいと勝手に思ってもらえばいいか。
因みに倒した魔物でホーンラビットだけはギルドで売れるということで血抜きして騎士たちが持って帰れるようにしていた。
昼になったので森から出て馬車を部屋変わりにしてサンドイッチを食べた。
このサンドイッチは侯爵の屋敷で用意していてもらっていたもので、パストラミや卵サラダの挟んだボリュームのあって動き回った後にはありがたい。
午後からは森の近くの草原に移動してそこで2時間討伐をして森と同じような魔物を10体ほど倒した。
またヘルマンにレベルを聞かれたのでレベル10になったことにした。
そういえばレベルが5上がればその都度取得スキルが1もらえるから今、俺は取得スキル2ある状態なんだが、スキルに関してはなにも言われてないんだが?
ラミロになにか言われるかと思っていたがなにも言われてないのでヘルマンに聞いてみたら「できれば光魔法と剣術を取っていただければ後は勇者様の好きなスキルを取得していいようです。」と言われた。
じゃあと俺は初級光魔法と初級剣術を取ったことにした。
因みに初級短剣術と初級火魔法は召喚当初から持ってることにしている。
「予定より早くレベルが上がってますし、今日のところはこれで討伐は終わりましょう。」
レックスがヘルマンと話し合ってそう言ってきて俺は屋敷に帰ることとなった。
屋敷に帰る馬車の中から町を見てみたが、なかなか栄えているのか商店などが賑わっている。
屋敷と討伐ばかりではなんだから町を見て歩く時間もちょっとはほしいかも。
特にクロ助は部屋にいるだけなのはつまらないだろうしな。
屋敷に帰って来ると侯爵兄弟に出迎えられた。
「勇者様、討伐はいかがでしたか?」
オズキャルはキラキラした目で聞いてきたので俺は素直に答えた。
「予定よりレベルが上がってとても順調に終わりました。」
「それはすごいですね!さすが勇者様!」
「・・・勇者様、レベルはいくつになられたんですか?」
オルヴァーが気になったようで聞いてきた。
「レベル10になりました。」
「そう、ですか。・・・レベル10ならまだゴブリンの方が強いんですね。」
オルヴァーはまた鼻で笑ってそう言い放った。
「に、兄さん!!」
「スカルフィ侯爵!!」
驚いて叫んだオズキャルと怒ったヘルマンの声が重なった。
「兄さん!またなんでそんなことを言うんだよ!?」
「スカルフィ侯爵!一度ならず二度も勇者様に対しての失礼な言動、どういうおつもりですか!?」
慌ててオズキャルはオルヴァーの肩を掴んで怒り、ヘルマンはとんでもなく低い声でずいっとオルヴァーに近付いた。
「え・・・、わ、私はその、事実を言ったまでで。」
「勇者様とゴブリンを比べるなんてことが失礼なんだよ!?夕べあれほど言ったのになんでわかってくれてないんだよ!?」
「は?夕べのことは夕べのことじゃないか。あの時は猫のことを言ったらいけないと言ったから今は言わなかったじゃないか。」
「だーかーら!失礼な言動になるんだって何度言ったらわかるんだよ!?」
オズキャルはオルヴァーの肩から手を離すと俺に近付いてきて頭を下げてきた。
「兄が重ね重ね申し訳ありません!再度よく言い聞かせておきますので、どうかお許しください!!」
何度もペコペコ頭を下げてくるオズキャルに俺は苦笑した。
「許すもなにも、俺はまったく気にしてませんよ。ヘルマン、落ち着いて下がってください。」
「・・・・・・はい。」
ヘルマンはオルヴァーを睨み付けて深呼吸をすると俺に返事をして俺の後ろに下がった。
「確かに俺はまだレベル10と弱い方ですから、ゴブリンにも殺されて当然な状態です。ですが明日・明後日でもっとレベルを上げてゴブリンより強くなるつもりですから、楽しみにしていてくださいね、スカルフィ侯爵。」
オルヴァーにキリッとした表情で微笑むとオルヴァーはなにも言わずに一礼した。
こうしてとんでもない空気の中、部屋へと帰ってきた。
「・・・。」
部屋のドアを開けたら・・・クロ助を撫でまくるメイド3人とご機嫌のクロ助がいた。
「「「!?・・・ゆ、勇者様!!??」」」
顔が溶けそうなほど蕩けていたメイドたちは俺の姿を見ると飛び上がるほど驚き、慌ててクロ助を撫でていたのを止めてそそくさと部屋から出ていった。
「・・・なんですかね、今のは。」
レックスもヘルマンも唖然としてメイドたちの後ろ姿を見ていて、レックスがぽつりと呟いた。
「ミャー!」
俺たちが唖然としているのを気づかずに、おかえりー!という感じでクロ助は俺の胸に飛び込んできた。
「今のメイドたちはなんだったんですか?」
「ミャーミャー」
暇してたら遊んでくれたんだよ、という感じで鳴いた。
「ふうん、どうやらクロ助が暇していたらメイドたちが相手をして遊んでくれていたようです。後でお礼を言わないといけませんね。」
今日の討伐訓練に出る前に屋敷の部屋に置いて行くにあたって、一応メイドには言っといた方がいいかなと言って訓練に向かったんだが、まさか相手をしてくれていたとはな。
「楽しかったですか?」
「ミャー!」
楽しかった!という感じで元気いっぱいに言ってきて「よかったですね」と頭を撫でた。
「え、ちょ、ちょっと待ってください。勇者様、猫の言葉がわかるんですか?」
レックスが信じられないという感じで聞いてきた。
「え?なんとなくな感じでわかりませんか?」
「いやいやいやいや!わかりませんって!」
ええ?・・・おかしいな?
元々クロ助は言葉を理解しているし、俺も最初からなんとなくわかっててそれがこの世界では普通だと思ってたんだがなあ?
これはもしかして、神様が言っていた「繋がっている」というのに関係があるのか?
いや、でも神様と会う夢にクロ助が出てくる前からなんとなくわかっていたし、それによく考えたらマスティフとも会話が成立しててむしろマスティフは会話で負けてたよな?
ということは・・・クロ助が特別なのか?よくわからん。
そんなことがありつつ、部屋に入って動きにくい鎧を脱いだら体が本当に軽くなって俺はソファに座ってホッと息をついた。
すると俺の前にスッと紅茶が出された。
今回淹れたのはヘルマンのようだ。
ヘルマンは今だにムッとしていて、そのせいか出された紅茶は明らかに濃い色をしていた。
・・・うん、濃いし苦い。
飲めなくはないので飲むけど。
「今日の討伐訓練はいかがでしたか?」
レックスが俺の脱いだ鎧を片付けながらそう聞いてきた。
「慣れない鎧に森や草原を歩き回って戦いで動き回って疲れました。」
「だと思いました。鎧は我々騎士も成り立ての者は必ず最初は重くて動きづらいとなるものなんですよ。でもこればっかりは慣れるしかありませんよ。」
本来魔法使いである俺は慣れたくはないんだがなあ・・・。
あ、そうだ。馬車の中で考えていたことを提案してみよう。
「そういえば、明日の訓練についてなんですが、明日は午後から町の散策にしませんか?訓練の予定だったと思いますが、予定よりも早くレベルが上がっていて明日の午前中も早くレベルが上がりますから午後から散策にしても問題はないと思うんですが。」
「え、散策ですか?」
レックスは戸惑ったようにヘルマンを見た。
ヘルマンは眉を潜めてきた。
「勇者様、「明日の午前中も早くレベルが上がりますから」って、なぜ断言されるんですか?」
「俺のレベルは誰にも見えませんから俺が申告するようになってますよね。」
それだけ言うとヘルマンは察した。
「え?・・・待ってください。もしかして勇者様の言っていたレベルは本当は違うんですか!?」
「ええ、違いますよ。」
俺がいつもの笑顔でにこやかに言うとヘルマンは固まった。
「ほ、本当はいくつなんですか!?」
「クロ助、明日は町に行きたいですよねー?」
「ミャー!」
「ほら、クロ助も行きたいと言っていますよ。」
「いや、全然わかりませんし話の剃らし方があからさま過ぎます。」
レックスに呆れたように言われてしまった。
「心配しなくても低いということはないですから。」
それだけ言うとヘルマンはそれ以上言ってくることはなかった。
どうこう言ったところで俺が本当のことを素直に言うとは思えないと判断したんだろう。
それから侯爵兄弟に夕食に誘われて食堂で話している間にヘルマンとレックスは話し合ったようで明日は午後から町の散策ということになった。




