30、悪魔は知らぬ
今回は途中から視点と場所が変わります。
「ねー、知ってる?」
和食の朝食セットを食べながらアシュアは俺に言ってきた。
というか、3日目にしてすでに相席が普通になったんだが。
ローズさんも当たり前のように俺の座ってる席に案内してくるし、2人も挨拶しながら当たり前のように座ってるし。
仲良くなってて、これはまずくないか?
フラグなら折るんだが?
「人身売買してた貴族が捕まったんだって!」
俺は朝からその話題かよ、と思ったがグッと堪えた。
「そ、そうなんですか?人身売買とは最低なことをする貴族がいたんですねえ。」
「なんか田舎の子を拐って貴族に売ってたんだって!最低よ!」
アシュアはプンスカ怒りながら朝食の味噌汁をかきこんでいた。
「アシュア・・・、きれいに食べないと。」
「この方が美味しいからいいじゃない。レフィもかきこんだら?」
「無理。」
言っていることはレフィが正解だと思うな。
なんだかだんだん姫に見えなくなってきてるんだが大丈夫なんだろうか。
ていうか、この2人いつまでいるんだ?
城になんで帰らないんだ?
「んでね、その捕まった貴族の証言と証拠で、取引していた上位貴族も捕まることになったんだって。」
グランツはどうやらサミュエレ家のことをしゃべったようだな。
サミュエレ家がこれで捕まれば、子供たちも保護されてステイツも保護されるだろうね。
まあ、ステイツがどうなろうがどうでもいいが、拐われた子供たちが保護されて元の家に返されたら俺としては満足だ。
将来いい絶望を見せてくれるかもしれないのに、そう易々と殺されては困るからね。
「ふーん、そうですか。ところでお2人は今日は討伐依頼を受けるんですか?」
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トリズデン王国警備兵長エジテス・カリスティは警備兵の詰所の最上階にある、警備兵長室のデスクの椅子にどかりと座り込み、書類をパラパラとめくる。
強面と言われる顔はますます眉を潜め、ううむと考え込む。
「兵長、どうされましたか?」
デスクの向かいに姿勢よく立っていた部下は書類を読んだ途端に難しい顔をした上司に問いかけた。
「例の捕まえた貴族の証言をまとめた書類ですよね。兵長ご自身で取り調べはされたという・・・。」
「ああ・・・、いささか信じられるような内容ではなかったが。」
グランツ・フェルミは素直に証言したのだが、その内容はなんとも不思議なものだった。
悪魔に書類をイタズラされ、自分の息子を目の前で売るように仕向けられた。
縛られていたのは悪魔が雷をうってきてそしたらなぜか体が動かなくなり、その間にどこからかロープが出てきてひとりでに縛ってきた。
詰所に書類を届けたのも悪魔のイタズラだ。
悪魔は自分を追い詰め、絶望の表情をすると狂ったように笑い出した。
「後、悪魔は姿を隠す魔法を使っていて声だけ聞こえてきたとか、助けを呼んでも魔法で声を部屋から漏らさないようにされたとか言ってましたね。・・・ちょっと、信じられないんですが。」
「ああ・・・、そんな魔法聞いたことがない。」
「ですが詰所に書類を届けたというのは、不思議なんですが突然、天井からヒラヒラ落ちてきたんです。俺はその場にいたのですが、窓もない部屋だったのに、本当にどこからか落ちてきたかわからないんです。そんな魔法も考えられないし・・・。」
「ふむ・・・。あながちでたらめを言ってるわけではないということか?・・・悪魔に付いてはどう思う?」
「悪魔ですか?・・・正直なことをいったら、あの貴族ラリってるのかなって感じですね。悪魔なんてこの世にいませんし。小悪魔という意味のインプって魔物ならいますけど、インプは頭が悪いですし。」
ふむ・・・とまたエジテスは考え込んだ。
実はカリスティ家は暗殺など裏家業を代々していた家柄のため、恐ろしく感覚が鋭い。
エジテスはあの時、あの書斎になにかがいたのをなんとなく感じ取っていたのだ。
そしてそのなにかは恐ろしい狂気を持っていると。
「・・・まあ、何はともあれ、グランツが人身売買したのは事実だ。後はサミュエレ家か。」
そう言ってエジテスは別の書類をめくった。
そこにはサミュエレ家に関するグランツの証言や、グランツの屋敷にあった領収書などがかかれてあった。
「あそこはたしか伯爵か。証拠のサインにグランツの証言があれば、なんとか捕まえることは可能だろうな。」
「サミュエレ家は魔法開発で有名でしたからね。なんかショックです。そんな実験台を使って今まで魔法開発してたかと思うと。」
「本当だな。サミュエレ家の魔法開発で文化が発展したとまで言われていたんだが・・・。こうなっては犯罪者として捕まえなければなるまい。明後日にも、サミュエレ家に突入するか?」
「そうですね。子供たちのこともありますし、早く助けないと。」
「・・・ところで話は変わるが・・・。」
エジテスは声を少し潜めて話を変えた。
「姫様は例の宿屋にいるか?」
「はい。アシュリート様は宿屋にいて、昼間はレフィシア様と冒険者として魔物を討伐しておいでです。」
それを聞いてエジテスは頭を抱えた。
「どこの世界に魔物を討伐する姫がいる?急に「城の暮らしは暇だ」とか言って冒険者になりすまして宿屋に泊まりだすなんて、なにを考えてるんだか・・・。」
「まあ、大丈夫なんじゃないですか?エジテス様の妹でアシュリート様の護衛のレフィシア様がついてますから、大概の魔物は相手になりませんし。」
「・・・確かに妹のレフィシアは暗殺を生業にしていた先祖の血を濃く受け継いで、それもあって姫様の護衛になったんだが、こんなことのために護衛にしたんじゃないのに・・・。」
普段の強面が台無しなくらい落ち込むエジテスに部下は苦笑した。
「ちゃんと警備兵たちも監視しているだろうな?なにかあったら国の一大事だからな。変な男とか近寄ってきてないか?」
「変な男と言えば・・・。」
「なに!?いるのか!?」
「むしろアシュリート様たちから近寄ってる感じですが、宿屋の食堂でいつも相席してる男はいますよ。」
「どんな奴だ!?」
「どこをどう見ても虫も殺せないようないい人そうな穏やかーな笑顔の男で、肩に黒猫を乗せてるんです。最近どっかから着たみたいで、アシュリート様たちと同じ宿屋に泊まってるみたいです。でも、その朝しか話さないみたいで、その男もアシュリート様たちもいつも別行動とってますし。」
「大丈夫なんだろうな?その男。一応調べておいてくれ。」
「わかりました。後はそんなとこですかね。」
「そうか・・・ご苦労。」
それから数日後、サミュエレ家の当主は捕まり、サミュエレ家の屋敷の地下からは魔法の実験場が発見され、たくさんの人骨が見つかった。
そして奥には牢屋が並んでいて、中には少年少女の姿があり、ステイツ・フェルミの姿もあったという。
ステイツは保護されたその後、フェルミ家の取り潰しに伴い母親と共に首都から追い出され、どこかに去って行ったという。
ステイツは心を病み、うわ言を言っていたという。
「悪魔が・・・。悪魔が、言ったんだ。・・・お前は父親にいらないから売られたって。僕はゴミだから・・・。僕はいらないゴミだって・・・ははははははははは」




