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301、悪魔は護衛に助言する

「いやあ~、面白いものが見えましたねえ。」


公開処刑が終わると混乱する人々を余所目に俺たちは移動魔法で部屋に帰ってきた。

俺は満足してローブを脱いで部屋で待機していたアニタに渡し、ソファに座ってそう感想を漏らした。

クロ助は部屋に帰ってくるなり俺の腕から飛び降りてぐーんと伸びをして顔を洗い出した。

そんないつも通りな俺とクロ助と違ってその場から動かないのがヘルマンとレックスだ。

2人共、顔は戦慄したようであり俺になにか言いたいような、または色々と聞きたいようなとても複雑な顔をしていた。


ローブを片付けたアニタが音もなく紅茶をだしてくれたのでそれを一口飲んでもまだ突っ立ったままのヘルマンとレックスに話しかけた。

「おや、ヘルマンもレックスもどうしたんです?公開処刑、面白くなかったですか?」

「・・・い、いや、面白いとかそういう問題では・・・。」

「あ、あの!処刑後のことは、やはり勇者様が関わっていたのですか!?」

戸惑うレックスとは別にヘルマンが聞いてきた。

本来ならいちいち答えるのは面倒臭いと思うところだが、上機嫌の今なら答えてもいいと思えるようになっている。

いつまでも複雑な顔でじっと見られるのもそれはそれで面倒だしな。


「そうです。個人的にギロチン刑が見れるということで公開処刑自体に興味があっただけでしたが、ブレンダから話を聞いてルーガスのことが気に入りませんできたからね。ルーガスの話によってはブレンダとルーガスを使ってもっと面白い公開処刑をしてやろうと思っただけですよ。結果、とても面白いものが見れました。他に聞きたいことありますか?」

ニコニコ笑ってそう言うとヘルマンが早速聞いてきた。

「彼女の切り落とされても生きていて首が跳ねてあの男のところに向かったのは勇者様の仕業なんですか?なんらかの魔法なんでしょうか?」

「ええ。ルーガスの本音を知って失望したブレンダに俺は魔法をかけることを提案して了承をしてくれたのでかけました。魔法は罠魔法に死霊魔法をリンクさせたものです。」


俺は事前にブレンダの頭に罠魔法の死霊魔法を張っていた。

そして処刑の時、ブレンダの首が切り落とされたら罠魔法が発動するようにして死霊魔法でブレンダは首だけの状態で生き返ったのだ。

跳ねたりしたのは俺が無詠唱の風魔法をあの場でかけたので首がまるで跳ねるように風でルーガスの元に運んだというわけだ。


「わ、罠魔法に死霊魔法まで!?勇者様はそんな珍しい魔法もできるのですか!?」

「罠魔法は俺の1番得意な魔法なんですよ。あの処刑直後、仕込んでいた罠魔法が発動して首に死霊魔法がかかり風魔法でルーガスの元まで跳んでいくようにしました。そうすることで、まるでルーガスへの怨念で死んでも死にきれずに動いたように演出したのです。そうしたら驚き恐れおののく人々をたくさん見れますからね。あ、因みに首に食らいついたのはブレンダのアドリブです。俺は怒りで頭突きするかまだ残っていた愛情でキスするかどうするかはブレンダに任せてましたから。まさか首に食らいつくとは思いませんでしたね。」

ここまでがブレンダに話して了承を得たことだ。

だからその場で話を聞いていたレックスが「おっそろしい性格」と俺に言ってきたのだ。


「あ、あの透明の女性たちも勇者様が?」

次にレックスが聞いてきたので俺は頷いた。

「ええ。今日早めに起きて殺人事件の現場8ヵ所回って集めておきました。女性たちもさぞや恨んでいると思ってましたから、演出するにはいい演者になると思いましてね。おかげで女性たちの恨みも一緒に晴らさせてあげることができました。」

俺は前に兵士長の部屋で殺人事件の調書を見た時にすべての殺人事件の現場を頭に入れていた。

そして処刑当日の早朝、アニタもまだ部屋に来ていない時間帯に俺は起きて移動魔法で密かに首都に来て現場8ヵ所すべてに立ち寄って死霊魔法で亡霊を呼び出したのだ。

女性たちは話をすると8人ともやはりルーガスを恨んでいるということだったので恨みを晴らさせてあげると言って待機させていて、処刑後に俺の合図で現れてもらったのだ。


女性たちの亡霊はルーガスの体にとり憑いて体の中で暴れまわり、心臓を潰したためルーガスは死んだ。

それを見届けたブレンダを胸の上に着地させて、俺は亡霊たちもルーガスもブレンダもまとめて光魔法で浄化して天へと送った。

隠蔽魔法をかけて浄化したので俺しか見えてなかったが、亡霊たちとブレンダは満足そうな顔でルーガスは苦悶の顔で召されていった。


因みに処刑後のこれらのことは誰にも邪魔されたくなかったので詰めかけた街の人たちや兵士長、警備兵に執行人などあそこにいたすべての人たちの足を拘束魔法と多重魔法を使って動かないようにした。

あそこにいたのはたった100人前後で一気に拘束魔法をかけるなんて俺にはわけないことだった。

街の人たちは動けなくなってますますブレンダの怨念だと思ったことだろうな。


「な、なぜそんなことを?勇者様なら、もしかしたら公開処刑をなんとかできたかもしれませんよ!?」

そう言ってヘルマンが詰め寄ってきたが、まあもしかしたらというレベルでだが勇者という立場と俺の魔法を使ったら公開処刑は免れたかもしれない。

死霊魔法で集めた妨害たちを証人にしてあの場で告発すれば中断という形でブレンダはあの場で死ぬことはなかったかもしれない。

だが俺はそれをしなかった。


「前にも言いましたが、俺にはそれをする必要性もメリットもありません。これ以上目立ちたくありませんし。ですが、あのまま公開処刑が行われるのはブレンダの死が無駄になると思って、逆に公開処刑を利用して処刑後のことを演出することにしました。そうすることでよりルーガスは悪に見えましたし処刑されるよりはるかに苦しんで死にました。そしてブレンダの死が無駄にならなかったのがよかったです。」

「彼女の死が無駄になる・・・とは?」

「ブレンダの処刑があのまま終わったとして、それを見て誰かのなにかに影響があると思いましたか?ルーガスは死んでくれて助かるようなことやしばらくしたらまた女性に手を出すことを言って、反省も自責の念も持っていなかった。あの場にいた人たちは処刑を見てあれこれ噂して、1ヶ月位したら忘れて次の噂をしているでしょうね。所詮は他人事ですし。ほら、ブレンダはただ処刑されるだけで、誰の心にも残らない。それこそ無駄死になんですよ。俺はそれが嫌なんです。せっかくの命が無駄になるなんて。」


例え処刑が中断して真犯人がルーガスだと明らかになったとすると、そうすれば今度はルーガスが公開処刑されていたかもしれない。

それで処刑されて終わりでいいのだろうか、と俺は思った。

反省も自責の念も持っていないルーガスが捕まって公開処刑されたところでそこで反省も自責の念も持つとは思えなかった。

それよりももっと苦しんで苦しんで後悔させて殺された女性たちの手で殺してあげた方がルーガスにピッタリな死に方だと思った。

もしかしたら素晴らしい絶望を生み出してくれたかもしれない命が無駄になってしまうのは俺にとってはとんでもなくもったいないように思えて、ルーガスを群衆の前で殺すことで人々の心にこの公開処刑を刻み付けることで無駄にならないようにした。


俺の言葉に3人はそれぞれなにか考えるように黙った。



・・・ああ、でもブレンダの処刑に影響を与えられた人がいたな。


「へルマンはどう思いました?今回の1件は。」

「・・・わ、私は。」

ヘルマンは苦い顔をして俯いた。

真面目で正義感のあるヘルマンは今回、公開処刑当日まで奔走していた。

だがそれが報われることなく処刑は実行されるばかりかとんでもない結末を迎えたのだ。

中止にできなかった悔しさやブレンダを死なせてしまった後悔、思いとは裏腹に受け入れてもらえなかった現実に苦い顔をしたんだろうな。


「真面目で正義感のあるあなたには苦いことが多かったでしょうが、これが現実であり前にも話しましたが必ずしも真実がまかり通っているわけではないことを実感できたでしょう?」

人間社会なんてそんなものなのをヘルマンは今さらそれを感じられた1件だっただろう。

知って彼はどう思っただろうか。

・・・真面目だからしっかり考えそうだな。


「あなたは騎士団という狭い社会の中で生きてきて、他を知らなさすぎる。だから騎士団長の命令もなにも思わず従うのでしょう。」

「それは・・・団長は尊敬する人で、間違ったことはされない騎士道に溢れた人ですから、その団長の命令ならば従うのが当たり前で・・・。」

「疑問があっても「団長の言っていることだからそういうものか」と自分で納得して従っているだけでしょう?俺の護衛がまさにそうではないですか。ヘルマンは勇者召喚に疑問を持たなかったのですか?」

ヘルマンはギクッとしたような顔をして慌てて無表情にした。

「そ、それは確かに思うところはありましたが・・・。」

「どうせ「陛下や宰相様はなにか考えがあるのだろう」とか思ったんじゃないですか?」

図星だったようでまたギクッとした顔をした。


「どうしてブレンダの時のようにおかしいって言わないんですか?勇者に事実と違うことを教えて、どうして騎士団長や魔術士団長までそれに関わっているのかって聞かないんですか?人命がかかってないからですか?立場が上の人たちに刃向かいたくないからですか?」

「・・・。」

「あなたの正義はしょせん、縦社会と騎士道だけの世界で作り上げられたものじゃないですか。それに当てはめられて責められても片腹痛いと言いますか。世界はもっと広い。あなたは色々な考えを学ぶべきだと思いますよ。」


それからはすっかり黙って俯いてしまったヘルマンが部屋の隅で護衛して、レックスはなにかを考えながら帰っていき、アニタは公開処刑を見ていないのでなにがあったか知らないので少しやつれつつ世話は相変わらず完璧にしていた。



うーん、今日は本当に面白かったしルーガスのあの苦しい顔は最高だった。すっきりして寝れそうだ。どっかの護衛は眠れないかもしれないけどな。


・・・そういえば、数日後に討伐訓練があるな。

俺のレベリングのため首都近くの領地で弱い魔物と戦うというものだが、面倒臭いなあ・・・。


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