293、悪魔は犯人と話す
犯人の女性は突然現れた俺とヘルマンに驚きで固まっていた。
固まっている間にさっさと鑑定魔法をかけたが・・・。
名前はブレンダ。20歳。
商業区にある道具屋の受付嬢をしているごく普通の子でレベル1。
特に適性があるわけでもない。
・・・ふむ。
「・・・あなたたちは誰?」
女性ブレンダは俺とヘルマンを交互に訝しく見ながら聞いてきた。
地味めな見た目だから突然現れた俺たちに恐怖して震えるかなと思ったが、予想に反して警戒しつつ聞いてきくるということはそれなりに度胸はあるようだ。
俺はブレンダの問いににこりと笑って答えることにした。
「俺は特別捜査官です。」
俺の言葉にブレンダとヘルマンが同時にえっ!?という顔をした。
ブレンダは「特別捜査官?なにそれ?」という意味で驚き、ヘルマンは俺が嘘をついたのに驚いたんだろう。
「俺はここの兵士長と仲が良くて、気になる事件は捜査していいと許可をいただいてます。あなたの事件が気になったのでこうして話を聞こうとここに来たんです。話を聞いていいですか?ブレンダさん。」
適当にそれっぽいことを言ってみたがどうだろう。
依然、ヘルマンは驚いた顔をして俺を凝視している。
ヘルマンはほっといて、ブレンダはそれでもちょっと疑っている目で見てくる。
「・・・そんなの聞いたことないわ。」
「それはそうだと思います。俺はちょっと地位のある立場なんで俺が捜査していることは公にしないようにしているんです。」
「地位のある立場・・・貴族様ということなのね?」
「そんな感じの者です。一応証拠として、彼が一緒というのを証拠としましょうか。」
俺はそう言って後ろにいたヘルマンを視線で指した。
ヘルマンは戸惑った顔をしていた。
「彼はかの有名なヘルマン・アロンソですよ。」
「!?・・・ああ!今気がついたけどそうだわ!」
ヘルマンは有名だと聞いていたので知っているか指してみたが、やはり知っていたようだ。
「今は捜査している俺の護衛をしてもらっているんです。」
「ヘルマン様が護衛しているのなら・・・本当なのね。」
ヘルマンがいたことでどうやら俺を信用してくれるようだ。
ヘルマンは俺が仕方なくついて来させたのだが、俺の適当な嘘に役に立ってくれてつれてきてよかった。
「それで・・・私の話を聞きたいとはなにを聞きたいの?」
ようやく話ができるようになって俺はやれやれと思いながら問いかけることにした。
「あなたが最近起こっている若い女性の連続殺人事件の犯人というのは本当ですか?」
「ええ、そうよ。」
「なぜ犯行に及んだんです?」
「警備兵たちにも話したけど、私の彼氏にあの女たちはちょっかいかけてきたの。それで頭にきて殺したのよ。」
「皆細い路地で亡くなっていたようですが、あなたが呼んだんですか?」
「ええ。でも私の名前で呼んだら来ない人もいるかと思ったから彼氏の名前で呼んだのよ。そしたら皆ノコノコやってきたわ。彼に会えるとでも思ってたんでしょうね、皆笑顔で来たわ。その笑顔を苦痛の顔にしてやりたかったから刺したの。」
ブレンダはそう言って嘲笑うように鼻で笑った。
その顔が狂気に見えたのか、ヘルマンは絶句していた。
「なぜ、自供したんです?」
「・・・警備兵がちょくちょく私を訪ねてくるようになったこともあって、どうやら搾られた何人かの1人に私がなっていると思ったから、犯人だとバレるのは時間の問題だと感じたの。それに搾られた何人かの1人に彼も入ってたから彼の元にも警備兵は何回も来たみたいで疲れ果てていたわ。それが可哀相で私のせいで疲れさせて申し訳なくて、なんのために黙ってるのかわからなくなったの。私が黙ってるせいで彼に迷惑がかかるならって思って自供したの。」
「その彼はあなたが犯人と知ってなにか言ってましたか?」
「とても驚いていたわ。私がまさか犯人だなんてまったく思ってなかったみたい。でもそれでも俺は愛してると言ってくれたわ。」
俺はそこまで聞いてふむと考える仕草をした。
「あなたが犯罪者になっても愛していると言うとは、その彼とはとても仲が良かったんですね。彼とはどんな方なんです?」
「彼はルーガスという冒険者よ。貴族様は知らないでしょうけど、彼はランクBで首都ではちょっとした有名人なの。そのせいで女たちが寄ってくるけど、私は彼とは数年前のランクDと頃から付き合ってるわ。」
「へえ、ランクBの冒険者なんですか。数年前からの付き合っているということはそろそろ結婚も視野に入っているのではないですか?」
「ええ。私と彼は同棲もしているし私の方はいつでもするつもりだけど、彼はもう少しでランクAになれそうだからランクAになったら結婚しようって言ってくれてるのよ。彼は強くて頼りになるからすぐにランクAになるってわかっているから待っているの。」
先ほどの嘲笑とはうって変わって優しい笑顔で語ってくる。
「・・・そうですか。・・・!」
話を次に移そうとしたが、ここで巡回の兵士が留置所に入ってこようとしているのがサーチでわかった。
隠蔽魔法で俺とヘルマンが見えないのだが、ブレンダは見えているのだからこのまま話すのはまずい。
俺を特別捜査官、ヘルマンを護衛とせっかく信じさせたのに巡回の兵士が貴族と騎士の俺たちを素通りするはブレンダにとっては不自然にうつるが姿を現すわけにはいかない。
「聞きたかったことが聞けてよかったです。ブレンダさん、お話ありがとうございました。」
「え、もういいの?」
「はい。あ、俺のことは一応秘密でお願いしますね。」
「わかったわ。貴族様がそう言うなら。」
俺は後ろで事のなり行きを戸惑いながら見ていたヘルマンにチラッと視線を向けると留置所の出口に向けて歩きだした。
ヘルマンは俺の視線に察してついてきた。
途中で巡回の兵士とすれ違ったがもちろん兵士は俺たちに気づくことがなかった。
階段上がって振り返ると訝しげな表情のヘルマンがいた。
「ふふ、色々と訳がわからないという顔ですね。」
そりゃあヘルマンにしたら俺と王城を出てからずっと訳が分からない展開が続いていて訝しげな顔になるのは当たり前だ。
というか、よくさっきブレンダと話している時に横やりなど入れてこなかったもんだと思っている。
入れてこられたら面倒だったから入れてこなくてこっちとしては大変話が進みやすかったがな。
「・・・ユウジンはなにを考えている?」
「今回の殺人事件の犯人が女性と聞いて疑問を持ったので、話を聞きたくて王城を抜け出したいとラミロに願い出ました。そして探索魔法で留置所の位置を見つけて無詠唱の隠蔽魔法で存在と声を隠蔽してここに侵入してきました。」
「探索魔法に隠蔽魔法・・・!?そ、それより侵入なんて・・・。」
ヘルマンは真面目な性格だから侵入というのに抵抗感を感じたようだ。
「勇者である俺が会いたいと言ったところで会えるものではないでしょう?だったら密かに会いに行くしかありませんからね。」
ヘルマンは俺の返答を聞いて複雑な顔をして押し黙った。
俺の言うように勇者が犯人に会いたいと言ったところで会えるわけがないので納得したが、そうだとしても兵士の集まる建物に堂々と侵入するのはいかがなものかという思いがあってなんとも言えないのだろう。
「侵入してブレンダさんに会ってすぐに無詠唱で鑑定魔法をかけて名前と職業とレベルなどを見て、話を聞きたくてこっちをある程度信用したもらうためにも特別捜査官という適当なことを言いました。あなたの名も勝手に借りました。本当に助かりましたよ。」
「鑑定魔法まで・・・。」
ヘルマンが唖然としているところで、俺はヘルマンに聞いてみた。
「ヘルマン、犯人は本当にブレンダさんだと思いますか?」
「・・・本人が自供したし動機も理解し難いがあるし、そうじゃないのか?ユウジンは彼女が犯人ではないと言いたいのか?」
「ブレンダさんは犯人ではありませんね。」
俺がいつもの笑顔でさらりと断言すると、ヘルマンは驚いた顔をした。
「犯人じゃない?なぜ、そう思ったんだ?」
「ブレンダさんに鑑定魔法をかけたら普通の商店の受付嬢で、レベル1の適性も持たないごくごく普通の女性なんです。」
「はあ。」
「ごくごく普通の非力な女性が、被害者の心臓めがけて一突きで深く刺せると思いますか?」
ヘルマンはハッとして俺を見てきた。
そう。殺された女性はいずれもナイフで心臓を一突きで刺されて殺されていた。
非力な女性が被害者を刺そうとする場合、どうしても浅く刺さってしまって結果的に何回も刺してやっと殺せるのだ。
「それに、戦闘未経験の非力な女性が動いている人間の心臓を一突きて刺せる正確性があると思いますか?」
「あ!た、確かに・・・。」
俺は王城でヘルマンから犯人は女性と聞いて、犯人が女性ではないと知っているから王城から抜け出してわざわざここにブレンダが何者か、本当にブレンダの意思で自供したのか確かめに来たのだ。
「で、では、彼女はなぜ自供したんだ?」
「まあ、考えられるのは・・・犯人を庇っているパターンでしょうね。犯人は戦闘経験者で非力ではない者ということになります。戦闘経験者というのは兵士や騎士とか冒険者も盗賊を相手にすることがありますね。そして非力ではない者、女性の対極にある者といえば男性。」
そこで俺はフフフと笑った。
「冒険者の男性で、ブレンダさんが庇いそうな人で思い浮かぶ人がいませんか?」




