29、悪魔は引かれる
グランツはものすごく驚いた表情で、辺りを見回した。
「だ、誰だ!?どこにいる!?」
「誰にも見えない魔法で姿を隠しているから、あんたには見えないよ。そんなことより、なかなか面白いものを見れたよ。」
グランツは顔を青くして辺りにわめき散らした。
「なんだお前は!?だ、誰か!?侵入者だ!?誰かー!?」
「あー、無駄だよ。声がこの部屋からでないように魔法でやってるから。ほら、だーれも来ないだろう?」
すでに隠蔽魔法をこの部屋にかけてるから声は漏れない。
「そんな魔法聞いたことがないぞ!?なんなんだ!?離せ!私を誰だと思っている!?」
「は?人身売買なんてクソなことをしているグランツ・フェルミとか言うゴミだろ?ゴミはそんなことより、連れてかれた息子を気にした方がよくねえかなあ?」
「ゴ、ゴミだと!?無礼な!だが、そ、そうだ!?こんなことをしている場合ではない!なんでステイツの名が書かれていたのだ!?」
「あの書類、俺がイタズラしたんだわ。」
「は?イタズラ?」
「そ。あんたの息子の名前を書いたら面白そうだなって思って、名前を書き換えたんだよ。そしたら目の前で連れてかれてやんの。あの泣き顔すげえブスで笑えたわ。はははっ」
「・・・・・・な、なに!?」
聞いた途端にグランツは顔を今度は真っ白にした。
「お前が!お前がやったのか!?」
「あのギーヌって奴がビックリして「本当にいいんですか」って聞いてきた時に、それに超笑顔で答えたあんた傑作だったよ。」
グランツは暴れてなんとかロープを解こうとするが、俺ががっちり絞めたし貴族なんで力なんてない。解けるはずがないわな。
グランツは解けないとわかると叫び出した。
「誰か!ステイツを!ステイツを返してもらってこい!おい!!誰か!」
「だから聞こえねえって。・・・つかさあ、さっきギーヌが言ってたじゃねえかよ。間違いじゃないですよねって?それをあんたは了承しちまった。取引は成立しちゃってるのを、無効にできるかな~?俺は貴族の世界なんて知らねえけど、そこんところ厳しいんじゃねえの?」
さっきのギーヌの有無を言わせないような言い方で、やっぱり貴族の世界はめんどくさいんだということがわかった。
だから取引の中止なんて格上が言い出さない限りあり得ないだろう。
「あ・・・そんな・・・。」
グランツはうわ言のように声を漏らしてボロボロと泣き出した。
「ああ・・・ステイツ。我が息子よ・・・。」
「人の子供は散々売っといて、自分の息子は売れねえか。頭悪すぎて逆にかわいそうだわ。」
「う、うるさい!わたしの息子はフェルミ家の嫡男なんだぞ!そこらの子供と一緒にするな!」
「貴族の息子だかなんだか知らねえが、売れたらそこらの子供と変わんねえだろ。それともなにか?貴族の子供は臓器が2つずつでもあんのか?心臓刺しても死なねえのか?血が青いのか?」
「うるさいうるさい!!うぅっ・・・ステイツ・・・。」
グランツは泣き続けている。
さて、そろそろかなあ?
「・・・ところでもう1つ、イタズラしてさあ。」
俺の言葉にグランツはビクッと体を震わせた。
「過去の人身売買の記録をうっかり警備兵の詰所に届けたんだよねえ。」
グランツは目を見開いて驚いていた。
「な、なに・・・!?」
「もうすぐ着くかな?警備兵。」
すると窓の外が騒がしくなってきた。
グランツは窓の方を見ながらガチガチと歯を鳴らし震え出した。
「ふはっ、これであんたも終わりだね。ちょうどデスクの上に書類全部あるし、サミュエレ家との領収書もあるし。」
「あ・・・うわ・・・ああ・・・。」
グランツは絶望の表情を浮かべた。
「あはははは!いい顔いい顔!その絶望の顔が見たかったんだよ!今日であんたは人生終了!華やかな貴族じゃなくなるね!悔しいね!ゴミにはもったいない暗い独房が待ってるよ。そこであんたは誰にもなにも思われず、なにもできずただ生きるんだ。大事な息子が実験台にされて手足ちぎれても、あんたはなにもできないんだ。悔しいねえ!あはははは!」
「ふぐっ・・・あ、悪魔めっ!!」
「ははっよく言われるよ。・・・でもさあ、そんな悔しい思いをあんただけが味わうのって、不公平じゃないかい?」
「・・・は?」
「どうせならさあ、サミュエレ家も道連れにしたらいいじゃないか。あんただけ捕まっても、サミュエレ家はのうのうと貴族続けるかも知れないんだよ?それって不公平じゃないかなあ?」
「サミュエレ家を・・・道連れに・・・?」
「そうそう。この領収書とあんたの証言があれば、サミュエレ家は捕まると思うんだよねえ。そうすればあんただけ悔しい思いをしなくてすむし、あんたの大事な息子が助かるかも知れないよ?」
ここでドアの外が騒がしくなった。俺は部屋に仕掛けていた隠蔽魔法を解いた。
ちょうどそのタイミングで、警備兵がなだれ込んできた。
「グランツ・フェルミ!人身売買の容疑で詰所まで・・・って、あれ?」
入ってきた警備兵はすでにロープで縛られているグランツにぽかんとした。
それからグランツは詰所に連れていかれ、警備兵たちが書斎を捜査すると、簡単に書類を発見できた。
「これが人身売買の書類か。」
他の警備兵たちとは違い、警備兵の制服にマントを着けた威厳のありそうな雰囲気の男が、書類を確認していた。
30代くらいの長い銀髪で濃い緑の目の強面の男で、警備兵の中でも偉い地位のようで、他の警備兵が敬語で話し存在自体に緊張しているようだった。
因みに俺は警備兵がせわしなく部屋を出入りするもんだから、部屋から出るタイミングを失っていたので部屋の隅で様子見していた。
「ここに着いたらロープで縛られていたと?」
「は、はい!聞いたら終始、「これは悪魔が・・・悪魔が・・・」と訳のわからないことを言っていたそうです。」
「悪魔?・・・意味不明だな。まあ、取り調べたらわかるだろう。書類はこれで全てか?」
「はい!書類は全てデスクの上にありました。普通なら引き出しに隠したりするんですけどねえ。よっぽどグランツは無用心だったのか・・・。」
「まあ、ここにもうなにもないなら引き上げるぞ。取り調べは私がしよう。」
「はい!警備兵長自らやっていただけると勉強になります!」
へえ、あの人は警備兵長か。
まあ、言われてみたらそれっぽいな。
ゾロゾロと警備兵たちは引き上げていき、最後に警備兵長が出ていく時。
警備兵長はこちらを見ながら
「・・・礼を言うぞ、悪魔。」
と言って去っていった。
俺に気付いていた!?
くそっ!鑑定魔法使っとけば誰かわかったのに。
・・・まあ、警備兵長なんて街の人に聞いたらわかるかもしれないな。
とりあえず、あの人には関わらないようにしとこう。
色々見破られそうな気がするし。
そう思ってふとクロ助を見ると、ものすごく引いていた。
「あ?どうした、クロ助?」
「ミ、ミャー・・・。」
あ、そうすれば。
「そういやあ、クロ助の前で素を出すの初めてか。俺は考えてることがうまいこといったら素が出る癖があんだよ。顔に似合わねえし相手を油断させるために普段は敬語なんだ。」
「ミャー・・・。」
「もうちょっとしたら落ち着くから、そうしたら敬語で話せると思うわ。なんだよ、やっぱこのしゃべり方顔に合わねえか。気に入らねえか?」
「ミ、ミャー!」
そんなことないよ!という感じでクロ助は鳴いて頭をスリスリしてきた。
俺は猫に引かれるくらい素が違うようだ。
クロ助が引いたのはしゃべり方もそうですが、普段は穏やかなご主人様が狂ったように笑って責め立てている姿という、ものすごい降り幅のギャップに引いたのです。




