表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
297/350

290、悪魔は再び抜け出す

王城を抜け出して1週間後。


俺は再び王城を抜け出して首都に来た。


前回は殺人事件に遭遇したのでまた抜け出したいと言っても難色を示されるかなと思ってダメ元で言ってみたのだが、意外にもあっさりと許可されたようだ。

殺人事件に遭遇したのは予期せぬことだったし、その時に正体をバラさず、また他でも全くバレない素振りだったので大丈夫だろうと思ったのだろう。


護衛としてヘルマンがついてくるのとなにがあっても勇者であることを明かさないことは引き続き守ることを条件に、また首都に来たわけだ。

といっても前回と違って今回は実は目的はない。

首都に1度行っただけでまたずっと勉強などの毎日はつまらない。

クロ助だってまた行きたそうにしていたしな。


今回も俺は目立たない地味な茶色のローブを着て、ヘルマンはラフな格好だ。

王城から抜け出すと俺は思い出したようにヘルマンに話しかけた。

「ヘルマン、また前回と同じように名前で呼んで砕けた言葉遣いでお願いしますね。」

「あ、ああ。・・・わかった。」

前回と同じくヘルマンはぎこちなく頷いた。


今回は貴族街を回ってみた。

貴族街は街のあちこちに巡回の騎士がいて、きれいな馬車の往来が他より多くて道にほとんどゴミが落ちてない。

サーチでなんとなく見ながら歩いてみたが、広い敷地やでかい門の屋敷になればなるほど高位貴族のようだ。

巡回している騎士とすれ違うくらいで誰に話しかけられることもなく回れた。

まあ、貴族がそこら辺の道をほっつき歩くということなんてないから会うことなんてないんだけどな。

でも馬車から話しかけられたら面倒だし身バレの危険があるから前回は避けたんだが、別に前回も回ってもよかったかもな。


それから工業区のいくつかの工房をのぞいてみた。

といっても俺は細かい技術なんてわかるわけがないので本当に見学しただけだ。

でも鍛冶はトリズデンの首都で見たことあるが、技術はあまり変わらないように見えた。


その後は商業区に移動して前回回らなかった店に行ってみたりした。

昼になったのでまたヘルマンオススメの店をリクエストして、ヘルマンは静かなところにある飲食店を案内してくれた。

そこで俺は明太子、ヘルマンはボロネーゼのパスタを食べてクロ助は蒸したササミを出してもらった。


食べ終わってさてどこに行こうかとなんとなくブラブラしながら商業区の中を散策していると・・・。



「あ!あの!」


そんな声が後ろからして振り向くと、そこにはこちらに近づいてくる少女の姿があった。

あの少女は・・・。

俺がチラッとヘルマンを見ると、ヘルマンもわかったようであっという顔をしていた。

少女は近づいてくると俺の前でなくヘルマンの前で立ち止まった。

「この間はありがとうございました!」

少女はにこやかに微笑むとヘルマンに一礼してきた。

「君はこの間の・・・。体調は大丈夫なのか?」

「はい、今日も体調良くて。でもこの間のことがあるから今日は母と一緒なんです。」


「ちょっとアネット!」

少女の後ろから中年女性がそう言って慌ててやって来た。

「いきなり駆け出したからビックリするじゃない!」

「ごめんなさいお母さん。この間話した、騎士様を見つけたから。」

少女の母は少女の言葉にえっという顔をしてヘルマンの顔を見てまたえっという顔をした。


「あら!もしかしてヘルマン様ではないですか?」

「俺を知ってるんですか?」

「私は王城で働いてますから。それに騎士団を知ってるならヘルマン様の名を知らないものはいませんよ。それにしても、娘を助けて下さったのはヘルマン様だったんですね。その節はありがとうございました。」

母は丁寧に一礼してきてヘルマンは慌てて頭を上げてくれるように言った。

「俺は当然のことをしたまでです。」


「それにしても、ヘルマン様があの時通りかかってくださらなかったらどうなっていたことか。本当に助かりました。そういえば・・・ヘルマン様は確か勇者様の護衛をされているのではなかったですか?あの時も今日もお休みなんですか?」

「え、ええ、そうです。休みで・・・友人が観光で来てるんで案内をしてるんです。」

ヘルマンはちょっとどもりながらもそう返した。

ヘルマンは王城で働いているから知っていると思ったようで特に疑問に思ってなかったようだが、王城の侍女でヘルマンが勇者の護衛であることを知っている者は少ない。

母はアニタと同様に諜報・暗殺をしているから知っているのだろう。


ヘルマンの友人ということで母子から一瞬視線が俺に来たが、俺はいつもの笑顔で会釈するだけにした。

少女は特に反応はなかったが、母は一瞬驚いた顔をしたからもしかしたら俺が勇者だとバレたかな。


お礼をさせてくれという母子とお礼なんていらないというヘルマンの間でしばらく押し問答があったが、どうしてもという母子にヘルマンが折れる形でお礼を受けとることとなった。

といっても、偶然会ったからお礼を用意しているわけではないので後日少女とヘルマンが会うこととなった。

少女は働いているわけではないので会うのはいつでもいいということで、ヘルマンの休みに合わせて会うようだ。

ただ、少女はいつ体調不良になるかわからないので外で会うのではなく家で会うらしい。


そういうことを話し合って別れ際に少女アネットと自己紹介をして母と去っていった。


「かわいらしい方と会う約束を取り付けられてよかったですね。」

俺がからかってそう言うとヘルマンは「そ、そういうのじゃ・・・。」と焦っていた。



そんなことがありつつ、商店をいくつか見ていると・・・。


「おい、聞いたか!また若い女性の死体が見つかったってよ。」

「え!?またかよ・・・!?」

近くで立ち話をする男性2人の声が聞こえてきて、その内容になんとなく耳を傾けた。

若い女性の死体、といえば・・・俺らが先週遭遇した殺人現場が思い出された。

「今度は住宅街の細い路地裏だと。」

「先週だってあったのに・・・これで8人目か。なんで若い女性ばかりなんだろうな・・・。」

「殺しをやる奴の気持ちなんてわかんねえが、女性たちは怖えだろうな。」

「そうなんだ。俺の娘はまだ子供だが、もしかしたら標的にされるかもしれんだろ?それで怖がってて嫁も家から出さないようにしてんだよ。」

「噂じゃあ警備兵は今まで犠牲になった女性の周辺に聞き込みをしまくって何人か怪しい人物を絞ったらしい。でもいまだに捕まえてないってことは、特定できてないってことだよな。」

「早く捕まえてほしいよな。」


ふむ、犯人は絞り込めているが特定はできていないのか。


「ユウジン?」

そんな会話を聞いていたかわからないが、俺がしばらく立ち止まって考え込む仕草をしていたらヘルマンが不思議に思ったようで声をかけてきた。

「すいません。ちょっと考え事をしていました。商業区は色んな店を回れて満足しましたので、ちょっとだけ住宅街を回ってから帰ることにしますか?」

「わかりました。」

ヘルマンは俺の提案になにも思ってないようですぐに頷いた。


住宅街は少しだけ人が集まっていた路地があったのでそこが現場だとわかった。

サーチで見てみると本当に人通りがなさそうな細い路地裏で、死体は回収された後のようだがまだ警備兵が何人もいて周辺を調べているようだ。


「殺されたのは娼婦のようよ。」

「娼婦はいつもなら商業区の花街にいるはずじゃないのさ?なんで住宅街のあんな細い路地裏に?」

「さあ、逢い引きとかしてたんじゃないの?」

「もしくは不倫?」

「娼婦ならお金さえもらえれば誰とでも寝る人たちだから案外あるかもしれないわね。でもそれで殺されたのならたまったもんじゃないわね。」

近所の奥様方がひそひそ話をするのを耳に入れてその場を後にした。


住宅街ではそれ以外になにもなく、スラム街はまたヘルマンに止められて行けなかった。



こうして2回目の抜け出しは終わった。




その日の深夜。

寝室全体にかけていた結界に反応があって俺は目が覚めた。

サーチで見てみるとアニタが寝室の前にいて、必死に結界越しのドアを叩いていた。


・・・タイミング的に、今日商業区で母子に会ったから妹がヘルマンに助けられたことや俺がいたことが母から聞いてすっ飛んできたのだろう。


俺はやれやれと起き上がると寝ぼけ眼のクロ助に寝るように言って寝室のドアの前に立った。

そして結界魔法を解いてドアを開けた。


「こんな夜分にどうしたんですか?」

俺はわざととぼけた問いを言ってみた。

アニタは全身黒ずくめで顔だけ出していて、その表情は切羽詰まったものだった。

「ど、ど、どうして・・・妹に!な、なんで、会われたのですか!?」

やはり母から聞いたようだ。

そして混乱するままにここに来て、心の整理がつかないまま口にしているのだろう。


「・・・まあ、落ち着いて下さい。その様子では急いできたのでしょう。ちょっと座ってお茶でも飲んで下さい。」

寝室のテーブル席をすすめるとアニタはしばらく考えてこくんと頷いた。



レギオン(給仕したい・・・。)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ