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289、悪魔は城に帰る

前半は主人公視点で後半は三人称視点です。

叫び声を聞いて様子を見に来ると、女性の死体を見つけた。


死体の周囲には誰もいないことから先ほどの叫び声はこの女性のものだろうか。

俺は密かに死体に無詠唱で鑑定魔法をかけつつ周囲にもサーチをかけた。

ここから勢いよく離れていく人物は・・・いた。

が、すぐに大通りに出て人々に紛れてしまった。

サーチから鑑定魔法はかけたからステータスはわかったが、俺が会ったことがない知らない人物のようだ。


「ユ、ユウジン!警備兵を呼んでくるからここにいてくれ!」

ヘルマンは慌ててどこかに行ってしまった。

いやいや、お前は俺の護衛ってことなんだから俺から離れてどうするんだ?

もしまだここに犯人が隠れていたら1人にされた俺が危ないとか思わないか?

・・・まあ、俺は1人にしてもらった方がいいんから呼び止めなかったんだが。


俺はヘルマンに少し呆れながらも女性の死体に近づいた。

女性は仰向けに倒れていて、事切れてすぐのようで瞳孔が開いて苦しみに歪んだ顔だ。

20代前半くらいでベージュの長い髪は乱れて地面に広がり、華やかな肩が出たワンピースは血に染まっている。

胸からはいまだにドクドクと血が流れ、根元まで深々と突き刺さるナイフが致命傷のようだ。

少し服を捲ったり体を傾けたりしたが、それ以外の外傷はないようだ。


「フミュー・・・。」

クロ助は俺の腕の中で死体を眺めて悲しそうな鳴き声をあげた。

死んだ女性を哀れに思っているのか。

だとしたら本当に俺が育てたにしてはちゃんと育ったんだなと見当違いなことを思った。



死体から少し離れたところで待っているとほどなくヘルマンと警備兵2人が駆けつけた。

若い警備兵が死体を軽く検分していて、もう1人のベテランぽい警備兵が俺らから事情を聞いていく。

俺は宰相からなにがあっても身分は隠すように言われていたし、身バレしたら面倒なのもあって設定のまま自分はヘルマンの友人だと伝えた。

ヘルマンは名前と騎士の身分証として団章を見せるとヘルマン・アロンソの名は有名なようでその後に発見した経緯を話しても全く疑うことなく俺たちの話を信用してくれた。

そういえばヘルマンは騎士団の中でも1~2の実力だと言われているから知られていて当然か。

変に怪しまれて俺が勇者だと隠しているのをばらす事態にならなくてよかった。


「それにしても・・・また(・・)、女性か。」

俺たちの話を聞き終えて死体を眺めていたベテランぽい警備兵はぽつりとそう呟いた。

また?

「またとはどういうことですか?」

「ああ、お前さんは観光客だから知らないだろうが、ここ最近若い女性の殺しが続いてるんだよ。いずれの女性も胸を一突きで殺されててこういった細い路地で発見されていて、目撃者がいないんだ。」

「そうなんですか。・・・何人が犠牲になってるんですか?」

「半年前から始まって、この死体で7人目さ。」

半年で7人・・・。それは多いな。

「犯人の目星はついているんですか?」

「今は女性たちの交遊を洗い出してはいるんだが、いずれも飲食店の看板娘や娼婦など、交遊が広い女性が多くて時間がかかってるんだ。もちろん通り魔や物取りの線でも調査中だけどな。」

そう言われたら、この女性の死体も華やかなワンピースを着ているからもしかしたらどこかの看板娘なのかもしれない。



俺たちはヘルマンの身元がはっきりしているおかげですぐに警備兵から解放されて、また路地をぬって密かに王城に帰ってきた。


「おかえりなさいませ、勇者様。」

部屋に帰ってくるとアニタが一礼して迎えてくれた。

「ふう、色々あって疲れました。でも首都は色んなものが見れてとてもよかったです。ヘルマン、付き合ってくれてありがとうございました。」

「いや、・・・あっ!・・・いいえ、滅相もありません。ユウ・・・勇者様が無事帰ることができて安心いたしました。」

ヘルマンは慌てて言葉をなおしていた。

砕けた言葉遣いでも別にいいんだが・・・ヘルマンは本当に真面目だなあ。


寝室で着替えて部屋に戻るとヘルマンは鎧姿に着替えるために退室していて代わりに王城を日頃巡回している騎士がいた。

そして俺が帰ってきたのを聞きつけたと思われる補佐ラミロがソファに座っていた。

「おかえりなさいませ。どこを回られたか聞いてよろしいですか?」

ニコニコしながら言ってきたので俺は包み隠さず全部話した。

貴族街は避けたが工業区に商業区、住宅街を回ったこと。

商業区で大衆食堂で昼食をとってヘルマンの知り合いにあったり、住宅街で体調不良の少女を見つけてヘルマンが抱えて家に送ったこと。

そして帰りに殺人事件に遭遇したことをだ。

ラミロは殺人事件に遭遇するとは!?ととても驚いていた。


「せっかくの散策でしたのに・・・。大丈夫ですか?勇者様のいた世界ではとても治安がよろしいようでしたし、人の死体を見ることはなかったのではないですか?」

俺自身は全く気にならないのだが・・・そういえばパレードするとなったら気が重くなってなにも手につかなくなると繊細アピールしたんだったな。

「なるべく見ないようにしましたので大丈夫ですよ。」

でもちょっとはショック受けてますという風に弱々しく苦笑して見せたらラミロは気を遣ってきて、今日はもう早めに夕食を食べて寝た方がいいと言ってきた。

俺は1人になる時間が長くなるならありがたいとそうすることにして、この日は早くに夕食を食べて寝室に向かった。









「ただいま。」


アニタが玄関扉を開けながらそう言うと、明るい声が返ってきた。

「おかえりなさいお姉ちゃん。」

「アネット、寝てなくて大丈夫なの?」

玄関を開けてすぐにあるダイニングのキッチンの前に立つアネットと呼ばれた妹はアニタににこやかに微笑んだ。

「ちょっと寝たら良くなったから大丈夫。スープもうすぐできるよ。」

「そう、よかった。お母さんとお父さんはまだ帰ってきてないの?」

「お母さんはさっき帰ってきて沐浴してる。お父さんは料理の仕込みがまだかかるから遅くなるってお母さんに言ってたみたい。」


しばらくして母親の沐浴が終わって、父親はまだ帰って来そうにないために母子で夕食を食べることになった。


「「「いただきます!」」」

母親とアニタの前にはアネット特製の具沢山トマトスープとローストチキンとパンが並び、アネットは病気であまり食べられないのでトマトスープと果物だけだ。


「アニタ、仕事はどう?勇者様のお世話は慣れた?」

母親がそう聞くとアニタはスープを飲みながら頷いた。

「勇者様は特になにも言ってくるわけでもワガママを言うわけでもないから苦ではないわ。逆に毎日淡々としててなにかないかと思うくらいよ。」

「あら!贅沢な悩みねー。あなた王女様付きになったことがないからそんなことが言えるのよ。」

「え、お母さんはあるの?」

「何年か前に、急に辞めてく人が多いからどうしても1日だけ人手が足りないってことで入ったことがあるわよ。けど、まあ・・・すごかったわ。詳しくは言えないけど。」

「そうなんだ・・・。」

母親が遠い目をして言うのでアニタは苦笑してそれ以上は詮索しなかった。


「ね、お姉ちゃん、勇者様ってどんな人?」

アネットはそんなことより、という感じで興味津々に身を乗り出して聞いてきた。

アネットは病気で出歩くことはあまりないため、色んなことに興味をひかれるようだ。

「イメージとは違うわよ。すごく柔和で体も細いわ。」

「そうなんだ。容姿はどんな感じなの?」

「茶色のふわふわの髪に茶色の目で・・・勇者様なのか信じられないほどの笑顔が柔らかい方よ。」

本当のところはどうかわからないけど、という一言は飲み込んだ。


「茶色のふわふわの髪に茶色の目で、笑顔が柔らかい・・・?あれ?そういう人、どこかで見たような・・・?」

アネットはなんか思い当たるような気がなぜかして、しきりに首を傾げてブツブツ呟いていた。

そんなアネットの様子にどうしたんだろう?とアニタは首を傾げながらも気にしないことにした。


「そういえばアネット、今日昼間はあなた1人で留守番してたんでしょう?誰か来た?」

母親がそう聞くとアネットは考えるのをやめてふるふると首を振った。

「誰も来なかったわ。あのね、今日、体調よかったし1人で散歩してみたの。」

「えっ!?1人で散歩!?あなた大丈夫だったの!?」

「結構歩けて4件先まで行けたんだけど、帰ってくる時に具合悪くなっちゃってうずくまってたの。そうしたら声をかけてくれた人がいてね。」

「えぇ!?声をかけられたの!?変な人だったんじゃないんでしょうね!?」

「それがすっごいいい人でね。男の人2人だったんだけど、そのうちの1人の人が声をかけてくれた人で、心配してくれて家の前まで抱えてくれたの。すごく筋肉ついててかっこよかったのよ!」

アネットはキラキラした目で言ってきたが、母親とアニタはヒヤヒヤものだ。

もし、その2人が悪い奴らだったなら誘拐されてたかもしれなかったからだ。

アネットは病気でほとんど家の外に出たことがなかったこともあってそういう危機管理がなく、両親やアニタがいくら危ないとか悪い奴がいるとか散々言ってもいまいち身に起きると思っていない節があるのだ。


「あなた・・・今回は親切な方だったからよかったものの!知らない人に話しかけられても無視しなさいと言ってるでしょう!?」

「私だっていい人くらい見たらわかるわ。その人だって、騎士だって言ってたもの。」

「口だけでしょ?団章見せてもらったの?」

「え、・・・見せてもらっては・・・ない。けど!絶対にいい人だもの!」

母親とアニタは呆れながらも、それでもその騎士と名乗る人たちのおかげでアネットが家に着いたのだと思うとそれ以上責められないなと思った。


「その人にまた会えないかなあ・・・。お礼を言いたいな・・・。」


アネットは期待に微笑みながらそう呟いた。


少女の正体がわかりましたね。

世間は狭いという奴です。

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