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288、悪魔は城を抜け出す2

ちょっと長いです。

毎回長いです言ってるなあ。

区切りいいところで切るとどうしても長くなるんですよ。

俺はヘルマンに行きたいところの案内を頼んで首都を散策している。


貴族街は俺が万が一にもバレるのを避けるためにささっと通っただけで、工業区に移動した。

工業区は木工業による家具と区内の地下にミスリルの鉱脈があるそうで、そこから掘り出したミスリルの鍛冶と細工が主だっているようだ。

他にも首都の近くに鋼鉄や銀などの鉱山もあってそれで工業区が首都の4分の1を占めているのかと納得した。


「ミスリルの鉱脈が街の地下にあるというのはすごいですね。ミスリルの輸出も盛んなんですか?」

木工業は近くに森がなくても木魔法でなんとでもなるから全世界各地で盛んであるのに対して金属は魔法でなんとかするとなると魔力がアホみたいにいるらしいので鉱山でしか採れないらしい。

多分、高温(熱魔法)とか圧縮(重力魔法)とかいるからそもそもそういう魔法が使える人材が少ないというのもあるだろう。


「前は盛んだったらしいが近年はミスリルがとれなくなってきて輸出量も減ってきているようだな。鍛冶師や細工師も少しずつだが失業したりして減ってきている。」

「そうなんですか。でも確か近くに鉱山があるんですよね。そこの鋼鉄とか銀とかがあるなら失業まではいかないと思うんですが。」

「勇・・・ユウジンはわからないと思うが、ミスリルは魔法と相性がいいし軽いということもあって戦士などの他に魔法使いも好んで身につけるのもあって鉄や鋼鉄などよりはるかに人気なんだ。それ故に高価で輸出量が少しでも少ないと結構金額に影響が出る。」

勇者様と言いかけたな?・・・まあ、いいけど。

ヘルマンの言うことから考えると、地下のミスリルの鉱脈にかなり頼った鍛冶師や細工師が多かったんだろう。

人気で高く売れるならそうなってもおかしくないわな。

鉱脈が心細くなってそのツケが回ってきたということだろう。


その次に俺たちは商業区に移動した。

ちょうど昼ということもあって飲食店でなにか食べようとなって俺はヘルマンのオススメの店に案内をお願いして、ヘルマンは大衆食堂のようなところに案内してくれた。

「この店は個室がなく騒がしいが、女将もいい人でメニューも多く味も美味しい。」

確かに食堂内は色んな客がいて騒がしかった。

鍛冶仕事をしていたと思われるドワーフが昼間から酒を飲んでいたり、街の人たちがいたり冒険者パーティーと思われる男女がいくつもいたり。


「意外ですね。ヘルマンは騎士で貴族ですからこういったところとはあまり縁がないイメージでしたが。」

「騎士にも平民がいてそういった者たちに教えられて一緒に来たりするからな。それに俺は貴族といっても三男だからな。」

貴族は長男が後継、次男が長男のスペアとなっていて三男は婿になるか騎士になるかしか道がない。

騎士になってそれなりに活躍したら爵位が与えられることもあるらしいが、そうでなかったら平民の騎士と変わらない。

ヘルマンはどうやら貴族のくだらないプライドは持ってなくて平民の騎士とも仲良くやっているようだ。


「いらっしゃい!あら、ヘルマンさんじゃないか!」

食堂に入ると女将さんと思われる恰幅のいい中年女性がニカッと笑ってヘルマンに話しかけてきた。

「空いてるか?」

「奥の席が空いてるよ。おや、見ない顔だねえ。」

「え!?・・・お、俺の友人で、首都に、か、観光できたから案内してるんだ。」

「そうなのかい。」

ヘルマンは嘘をつくのに慣れてないようでたどたどしく俺を説明していた。


女将さんの言っていた奥の席に座って、俺は特にオススメというしょうが焼き定食を頼んでヘルマンは焼き肉定食を頼んでクロ助に刺身を頼んだ。


「おう、ヘルマンじゃないか。」

食べていると食堂に入ってきた男性グループの1人がヘルマンの知り合いだったようで話しかけてきた。

「!?よ、よう!」

「今日は騎士休みなのか?なにやってんだ?」

「や、休みだ。今日は、俺の友人と、観光の案内をしているんだ。」

「そうなんだ。ヘルマンって友達いたんだな。」

「い、いるぞ。」

ヘルマンはあわあわしながらも答えて知り合いの男性は特に不審に思わずに話し続けていた。


「どうも、ユウジンといいます。初めて首都に来たのでヘルマンに案内をお願いして回ってるんです。」

ヘルマンの動揺ぶりに助け船を出してやった。

いつもの柔和な顔で自己紹介すると知り合いはニカッと笑ってきた。

「首都は初めてか。だったらオススメはこの近くにある花街だな!」

「!?」

俺は「え、この近くにあるのか」くらいしか思わなかったがヘルマンは明らかに動揺して絶句していた。

「あんたそういうの縁がなさそうだからこの機会に女を知ったらいい!もしかしたらのめり込むかもな、ははは!」

知り合いはそう言って空いた離れた席に去っていった。


「す、す、すまん!」

ヘルマンは真っ青になって頭を下げてきたので俺は苦笑した。

「俺はまったく気にしてませんから。自分でも縁がなさそうとは思ってますし。」

「・・・。」

そこで黙るとは、さてはヘルマンも思っていたな?

まあ、縁がなさそうというかないから当たってるんだがな。


そんな微妙な空気になりつつ昼食を食べた俺たちは食堂を出て商業区のお店を色々と見て回った。


「ふうん・・・。」

他の国の店に比べると全体的に少し値段が高い感じだな。

食べ物系は種類が少ない気もするが数はあるという感じだ。

種類が少ないというのは国の気候の関係もあるし一概には言えないが、農業がそこまで進んでないんだろうか。

魚も一応あるが断トツで高い。

首都は海が遠い内陸の地にあるから輸送コストがあるとはいえ、魔法があるからそこまで高くなることはないはずなんだがな・・・。


商業区に冒険者ギルドがあったが万が一にでも冒険者やってることがヘルマンにバレないために一応避けた。


続いて住宅街に向かった。

商人の家など金持ちの家はきれいなレンガ造りの家だったが、ほとんどは昔からあるような一軒家が多くて寂れたアパートもいくつもあった。

そして俺が気になったのは首都の規模にしては広いスラム街だった。

事前にサーチで見ただけでも住宅街の4分の1もあるのだ。

「10年くらい前まではここまでスラムも大きくなかったが、失業者が増えてスラムが大きくなっていったんだ。」

「なにか政府は対策はとってるんですか?」

「いや、なにも。定期的にスラムの状況を見に来るようにはなってるらしいがいまだになにも対策をとってないようだ。」

なんだそりゃ・・・呆れた。

まだまだ失業者は増える可能性があるのに今の時点でも対策していないとは・・・。


この国が他の国より出遅れていると思われててもおかしくないわな。


スラム街はさすがにヘルマンに止められて入ることはできず、残念に思いながら住宅街を歩いていると・・・。


道の端でうずくまっている少女がいた。

10代後半くらいの成人したてっぽい若い少女で、シンプルなワンピースを着ているので近所の住民と思われる。

少女は壁に手をついてしゃがみこんでいる。

気になって通りすがりに顔を見てみると、明らかに体調不良なようで真っ青だ。


「・・・ヘルマン。」

チラッとヘルマンに視線を送るとヘルマンも気になっていたようで少女の方を見ながら頷いた。

そしてヘルマンは少女に近づいて話しかけた。


「お嬢さん、大丈夫か?」

「っ!?」

少女は話しかけられると思ってなかったようで驚いた顔でヘルマンを見てきた。

それでも顔色は悪く息もあがっていて苦しそうに胸に手を置いたりしている。

そしてよくよく見ると少女はかなり痩せている。

華奢というレベルではなく誰が見ても病的なほどだ。

この苦しみ具合から言葉を発するのも苦しいかもしれない。

俺はそう判断して無詠唱で罠魔法で回復魔法を張ってすぐに発動させた。

ただ、急に全快したら明らかに不自然でおかしいとなるので魔力を抑えて会話ができて少しの歩行が可能なほど少しだけ回復するようにした。


「・・・っ、はっ・・・はっ・・・。す、すいません。」

少女は深呼吸をして話しかけてきたヘルマンに弱々しく謝ってきた。

「だ、大丈夫です。私、病気で体が弱くて、すぐに具合が悪くなるものですから・・・。」

「それはいけない。家はこの近く?」

「は、はい。2件先の、青い屋根の一軒家です。」

「よかったら家まで俺が運ぼう。俺は騎士だから信用してくれ。」

「え、えっ!?騎士様の手をわずらわせるわけには・・・。」

「気にするな。」

ヘルマンはそう言って少女を軽々とお姫様だっこした。

ヘルマンが騎士のため力があったというのもあるが、少女が痩せていて軽いのもあって抱えたヘルマンは平然としている。

「ええっ!?あ、す、すいません・・・。」

対して軽々と抱えられた少女は恐縮したように縮こまって謝っていた。


「ユウジン、すまんが寄り道させてくれ。」

「もちろん大丈夫ですよ。」

ヘルマンが少し申し訳なさそうに言ってきたのだ俺はいつもの笑顔で微笑んだ。


2件先ということであっという間に少女の家だという青い屋根の一軒家に着いた。

家族は仕事に出ていて不在だそうで、1人で留守番をしていたが体調が良かったので散歩に出てその帰りに具合が悪くなってあそこで1人でしゃがんでいたそうだ。

玄関先でいいと少女が言うのでヘルマンが降ろすと弱々しくでも立ち上がってこちらに頭を下げてきた。

「ここまでわざわざありがとうございました。あの、なにかお礼をしたいのですが・・・あいにくうちにはなにもなくて・・・。」

「気にするな。俺が勝手にやったことだから。それよりもお大事に。」

何度も頭を下げる少女に見送られて俺たちは住宅街を後にした。



「すまん、ユウジン。これからどうする?本当はそろそろ城に戻った方がいいと思うが・・・。」

王城を抜け出したのが昼前で、今は太陽の位置からして午後2時くらいか。

まあ、3時間ほど自由にさせてもらったってことか。

「そうですね・・・。」

俺は考え込むような仕草をした。

「初回で3時間はかなり自由にさせてもらったって思っていいでしょう。・・・偶然とはいえ知り合いたかっ(・・・・・・・)た人にも会え(・・・・・・)ました(・・・)し、かなり上出来でした。」

「ユ、ユウジン・・・?」

俺の言っていることがわからないヘルマンは戸惑いながら首を傾げていた。


「ふふ、なんでもないです。帰りましょうか。散策はできましたから。」

「は、はあ。」



俺たちは王城に向けて歩きだした。

とはいえ、なるべく出入りする姿を見られるのを警戒したヘルマンが東西南北に伸びている大通りの中でもあまり人気のない王城の裏側から出入りするようにしたい、ということでヘルマンについて行っている。

細い路地をいくつか抜けた先にその裏側に出る道があるようだ。

「今通っているのはいわゆる抜け道で、俺たち騎士が万が一の時に王族を逃がすために教えられる道でもあるんだ。」

「へえ、そうなんですか。」

そんな会話をしつつ進んでいると・・・。


「きゃあああああ!!」


甲高い女性の叫び声がすぐ近くからした。

ヘルマンはすぐさま俺を庇うように叫び声の方向を見て警戒して、俺はすぐさまサーチをかけた。


・・・ん!?これは・・・。


「今の叫び声はなんでしょうか?」

「・・・。」

戸惑ったフリをしてヘルマンに話しかけたが、ヘルマンは警戒しているので返事はなかった。

が、しばらくしてなにも起きないのでヘルマンは周りを見回して少し警戒を解いた。

「叫び声が気になります。ちょっと・・・確かめてみますか?」

「・・・そうだな。」

ヘルマンも気になっているようでそう応じてきて、声のした方向に進んでみた。

その方向には暗く細い路地があって、奥の方から叫び声がしたが見えない。


ゆっくり警戒しながら細い路地を進み、しばらく歩いたところでそれは見えてきた。


「!?」

ヘルマンは見えたそれに驚いて立ち止まった。



細い路地の地面に、胸をナイフで刺されて死んでいる女性の姿があった。




誰と知り合いたかったのか、なぜ知り合いたかったのかはのちにわかります。

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