283、悪魔は情報を得る
前回に引き続きちょっと長いです。
最初三人称視点で、途中から主人公視点になります。
「―――――・・・なに?グラスタッズ国が金の輸出額の値上げを言ってきただと?」
モンフェーラ王城の国王の執務室。
きらびやかな調度品が並び、上質なワインを傾けながら気怠げに書類にサインをしていた国王フェリペはデスクの前に立つ宰相バルドロに問いかけた。
「はい。グラスタッズ国の使者が言うには今までの1.5倍にするそうです。」
グラスタッズ国は西大陸の西側にありモンフェーラ王国の斜め下、西南方向にある国である。
「1.5倍だと!?グラスタッズ国の癖に生意気な。長年同じ額で応じていたではないか。」
「恐らくですが・・・フリワナ国のことがあるのかもしれません。」
フリワナ国は西大陸の中央に位置してモンフェーラ王国の真下、南方向にある西大陸で1番小国である。
そしてグラスタッズ国とフリワナ国は隣接した国同士である。
「あぁ?あの小国がなにかあるのか?」
「フリワナ国は最近なにかあったのかグラスタッズ国への食物の輸出額を大幅に上げたそうです。それのしわ寄せが金の輸出額の値上げに影響が出たのかもしれません。」
「なぜ食物の輸出額を上げたのかはわからんのか?」
「一応探りを入れてみたのですが、それがわからずで・・・。」
その返答を聞いたフェリペはぐいっとワインを飲むとギロリとバルドロを睨んだ。
「宰相の癖にそんなこともわからんのか。お前を宰相にしてやったのに情けないぞバルドロ。」
「申し訳ありません。」
バルドロは無表情で頭を下げた。
が、頭を下げたバルドロにまったく視線を向けることなくフェリペは問うた。
「1.5倍など馬鹿な話があるか。突っぱねろ。今まで通りの値で取引してやると言っておけ。」
「・・・陛下、お言葉ですが。使者は「1.5倍にする」と決定事項として言ってきまして、グラスタッズ国はすでにそのつもりで動いているそうなのです。」
「な、なに!?」
ガタッと豪華なイスから立ち上がったフェリペは驚いてバルドロを見た後、みるみる顔を赤くして怒りだした。
「どういうことだ!?グラスタッズどもはこのモンフェーラ王国の国王たる余を馬鹿にしているのか!?決定事項だと!?余が了承してないのに決定もなにもないだろう!!」
「そうです。陛下をあまりにも軽んじた言動に私も唖然としてしまいました。ですが使者はすでに決定事項というばかりで・・・。いかがいたしましょう?」
フェリペは少し考えるとバルドロに聞いてきた。
「・・・そのグラスタッズ国の使者はまだこの国内にいるのか?」
「ええ、おりますが・・・。」
「ではその使者の首をはねよ。」
「!!??」
バルドロはぎょっとしてフェリペを見た。
「物言わぬ使者に土産を持たせて国に帰してやれ。土産は最近魔術士が作り上げた魔道具でいいだろう。」
フェリペはそう言ってニヤリと笑った。
魔道具がなんなのか察したようなバルドロは少し慌てた。
「あ、あの魔道具をですか?それはあまりに・・・。」
「なに、設定時間が来れば爆発魔法が起動する魔道具だが、範囲を狭くしたらよい。それを使者の体内に設置してグラスタッズ国の城に着く時間に設定すれば、城内に使者が飛び散るくらいで怪我人は出んだろう。余を軽んじたらどうなるか見せしめにはいいだろう?」
フェリペがそう言ってクックッと笑いながらワインを飲むとバルドロは無表情のまま「・・・かしこまりました」と頭を下げた。
「そういえば・・・1週間経ったが、アレはどうなっている?」
1週間、というワードから恐らくアレとは優人のことであろう。
バルドロはフェリペがろくに見ずにサインした書類をチェックしつつ、苦い顔をした。
「・・・アレには一応団長らをつけて午前中は勉強、午後からは実技をさせております。・・・が、いずれも思わしくないようです。」
「思わしくないとは?」
「召喚されて来た時がレベル1で能力も一般的とは予想外でしたが、指導してレベルを上げたらどうにかなると思ってそのために団長らをつけました。・・・ですが、補佐と団長らからの報告ではやっとこの世界の国の名を全部覚えたくらいで、似たような質問をしてきたり我が国の歴史を話しても呆けるばかりで理解力もいまいちだそうです。そして実技は剣を持たせても腰が引けて人形に傷をつけるのもためらっているほどで、魔法はまだ魔力があまりわかってないようで体内にある魔力を操るところで躓いているそうです。」
バルドロの報告を聞いたフェリペはバルドロ同様苦い顔をした。
「なんだそれは、要は愚図ではないか。せっかく召喚してやったというのに・・・。なんのために召喚したかわからんな。」
「おっしゃる通りです。ですが陛下のかねてからの指示通り、アレには我々の作った歴史を教え込ませております。今のところは疑う余地もなく懸命に覚えようとしているようです。」
「アレにはぜひ我々の思いを叶えてもらわなければならないからな。モンフェーラ王国が偉大な国であると各国に知らしめなければならない。そのための勇者召喚だったのだからな。」
フェリペは苦い顔をしながらまたワインをぐいっと飲んだ。
そして乱暴にデスクにグラスを置いた。
「まったく!余にここまでさせるとは、どいつもこいつもモンフェーラ王国を・・・余を軽んじおって。南の獣人領など捨て置けばよいものを領に隣接する三国が夢中になるなど愚かでしかないわ。」
「ですがその獣人領から獣人を捕らえて奴隷にすることで三国とも急成長してきております。特に勇者を生み出したグラスタッズ国の発展ぶりは目を見張るものがあります。」
「バルドロ、その紛い物の勇者を口にするでない。我が国が勇者召喚したアレこそが勇者なのだ。」
「・・・失礼いたしました。」
フェリペはワインを傾けながら、バルドロは書類をまとめながらしばらく無言だった。
その無言を破ったのはフェリペだった。
「・・・1ヶ月後に勇者の披露をする。」
「!?・・・い、1ヶ月後で!?」
「勇者召喚はどこで漏れるかわからんからな。恐らくもう耳にしている貴族どもがいるだろう。だったらさっさと召喚成功の宣言と披露をやらねばせっつかれるのも癪だ。」
「ですが・・・1ヶ月でアレはとても。」
「アレがいくら愚図でもなにもしゃべらせなければよい。なに、立っていることくらいはできよう。あの貧弱そうな風貌も髪を整え表情をなんとかすればどうとでもなる。」
フェリペは嘲笑うように笑うと立ち上がった。
「もうよいだろう。バルドロ、下がれ。」
「・・・は、では失礼いたします。」
バルドロは書類を手に頭を下げると執務室から退室した。
「・・・・・・ということだ、我らが主。」
俺の召喚獣の悪霊レギオンはフェリペとバルドロのやり取りを語った。
ベッドに腰かけ足を組んで頬杖をついてレギオンからの報告を聞いていた俺は内容につい呆れて遠い目をしてしまった。
「それにしても、さすが我らが主だ。我らを情報収集に使うとは。」
俺の呆れまくった心境など意に介さないようにレギオンはマイペースに俺を称えてきた。
「普通は5万の悪霊の軍を得たのなら国に攻めいったり悪の組織などを企むものだ。」
「なんですかその普通。俺は世間的にはただの冒険者なんですからあなた方を使うとしたらこういった日陰の方法くらいしかありませんよ。今回はちょうど情報収集に使えて助かりました。」
そう、俺は勇者召喚などを探るためにレギオンを使うことにした。
俺は勇者召喚された勇者であるので俺が直接探るというのは1日3回15分しかない。
それ以外はアニタとヘルマンという監視がついているので不審な行動は取れないからだ。
だが、いざ1日3回15分とったところでろくになにもできないのは明らかだった。
部屋にいることが条件のために部屋の出入り口にヘルマンが立っていてまず部屋から出入りできないし、窓はギリギリ人が通れないほどしか開かない。
ではどうしようと考えて、俺自身ではなく誰かに探らせることを考えレギオンを思いついた。
レギオンは悪霊なのだから壁をすり抜けられるし姿を見えなくすることなんて余裕でできる。
しかもレギオンは5万の軍であるので色んな所へ情報収集に散らばることができる。
因みに一瞬オベロンも考えたが、面白そうだと嬉々として協力しそうな気がしたがイタズラ好きのことだからなにをするのかわからないので今回は頼らないことにした。
そして1人になったタイミングですぐさまレギオンを召喚して王城内外の情報収集を命じた。
レギオンは俺が勇者召喚されたなど今の状況をどうやってか見ていたそうで召喚するとすぐさま心得たというように嬉々として協力してきた。
なんだかレギオンも面白がっている・・・。
こっちは勇者なんて面倒なことを押し付けられて愚図のフリをしていて疲れているというのに・・・。
そうして張り切って情報収集してきたレギオンが夜、寝室に報告に来たというわけだ。
「それで、勇者召喚をした理由ですが・・・。俺としてはいくつか考えていましたが、下らないもののひとつが当たってしまって、なんというか・・・とても残念です。」
まず会話にあった三国。
これはグラスタッズ国・フリワナ国・アルバニカ王国の3つの国のことだ。
この西大陸は菱形の形をしていて、最も北にここモンフェーラ王国があり左(西大陸の西)からグラスタッズ国、真ん中(西大陸の中央)にフリワナ国、右(西大陸の東)にアルバニカ王国があり、西大陸の最も南に獣人領がある。
フェリペとバルドロとの会話で「獣人を奴隷にしてから国が発展してきた」というのにモンフェーラ王国が当たらないようなことを言っていたことから獣人領に関してモンフェーラ王国が出遅れているのが憶測できる。
それは国の位置関係からも予想できて、モンフェーラ王国以外の三国は獣人領が隣接していて、奴隷によって発展してきたことを聞きつけたモンフェーラ王国がもし獣人領に介入するとすれば、どうしても三国のどれかの国を通らないといけなくなる。
どの国を通るとしてもモンフェーラ王国は獣人領について出遅れることになる。
それをフェリペはよしとするだろうか。
明らかに無駄にプライドが高そうだし、余計に獣人領について突っぱねそうだ。
そうしてより三国から出遅れフェリペは我慢ならなかったのではないだろうか。
そこまで考えてフェリペとバルドロの勇者に関する会話ではっきりした。
「・・・実に下らない。勇者を召喚した国という見栄のためだけに勇者召喚をしたなんて。」
下らなすぎて思わずくくくっ、と嘲笑ってしまった。
「勇者召喚でなにを召喚したか、思い知らせてあげますよ。」
「やはり我らが主は実に恐ろしくて素晴らしい。」
レギオンは体の表面にニタニタ笑う顔を浮かべてまた俺を称えてきた。
・・・やっぱりこいつ面白がってるな。




